EXORCIST AGE

蝉が鳴いている

庭の木で、蝉が大合唱を始めた季節。
母に呼ばれた戸隠 あゆみは「は〜い」と大きく返事をして、階段を駆け下りる。
今日から新しい家族が一人増える。
父からは、そう聞かされていた。
だから猫や犬でも飼うのかな、と軽く考えていたのだけれど。
一階の和居間で祖母と一緒に待っていたのは、小さな男の子だった。
まだ小学校へあがったばかりで幼い顔立ちだ。
今年、七つになったばかりだという。
「お名前は?」
母に尋ねられ、少年が小さく答える。
「げんじ。にむら、げんじ」
仁村は母の旧姓である。
今の母は後妻だ。あゆみが小学三年になった頃、父と再婚した。
その母が小さく微笑む。
「よく出来ました。でも、今日からは戸隠 源次ね。ようこそ戸隠のおうちへ、源次ちゃん」
義母が何故、実の息子と別れて暮らしていたのか、あゆみは知らない。
戸隠の家へ嫁入りする時、父と何か、そういった約束をかわしていたのだろう。
息子をつれてきてはいけない、といった。
というより義母に息子がいたなど初耳であった。今日、初めて知った。
「ほら、あゆみちゃんもご挨拶して」
母に促され、あゆみは少年の側に膝をついた。
「よろしくね?」
おそるおそる頷き、源次が顔をあげる。
小さな手を握ってやり、再度あゆみは言い直した。
「あゆみです。今日から、あなたのおねえちゃんになります。よろしくね」
小さな手は少し汗ばんでいて、でも柔らかくて。
あゆみの胸に、この新しくできた弟を守ってやりたい衝動が沸き上がる。
もごもごと口を動かし、少年が呟く。
あまりにも声は小さすぎて、あゆみの耳に届かなかった。

久しく家を空けていた母が突然便りをよこしたのは、源次が七つの時。
自分の元へ引っ越してこいという手紙だった。
また母と一緒に暮らせるのは嬉しかった。
父が死に、母は家を出た。
何故、母は何も言わずに、自分を置いて家を出ていったのだろう。
捨てられた、とも考えた。
しかし、そうではないのかもしれない。
こうして、ちゃんと新しい父親の元へ自分を呼び寄せてくれたのだから。
祖母は一緒に暮らさず、田舎へ戻るという。
新しい家族の元では、気兼ねしてしまうのだそうだ。
もっとも、一番最初に対面した時は源次も帰りたくなった。
新しい家には母と父だけではなく、その連れ子、あゆみもいたせいだ。
だが、七つの子どもが一人で逃げ帰るわけにもゆかず。
源次は戸隠と姓を変え、家族の一員に収まった。


あゆみを”姉”ではなく”女”だと意識するようになったのは、源次が中学へ通うようになった頃だったろうか。
偶然風呂場で鉢合わせたのが、そのきっかけであった。
誰も入っていないと思ったのに扉を開けた先の洗面所には裸の姉がいて、裸だと思った瞬間、源次は恥ずかしくなって逃げ出した。
姉は、叫んだりしなかった。
きっと驚きすぎて、叫ぶのも忘れてしまったんだろう。
自分の部屋へ飛び込んで、源次は後ろ手にドアを閉める。
ベッドに寝転がっても、まだ心臓は激しく高鳴っていた。
目を瞑っても、瞼には姉の姿が焼きついている。
暗闇に浮かび上がる彼女は、ほっそりとしていながら胸は大きく、尻は撫でたくなるほど美しい湾曲を描いていた。
股間を覆った黒い茂みを思い浮かべた時、源次は下半身に熱く、たぎるものを感じ、そろそろと己の股間へ手を伸ばす。
勃っていた。
ズボンの上から、それを握る。
軽く掴んだだけでも、堅さを増した。
あぁ、俺は今、姉さんで抜いているんだな。
快感の中、夢うつつに源次は考えた。
妄想の中では、あゆみが自ら胸を寄せて、源次のモノを挟み込む。
柔らかい胸で竿を扱く傍ら、先端に舌を這わせ、巧みに源次の性感帯をついてくる。
妄想上の姉は普段よりも淫らで源次を興奮させ、先走りがズボンを湿らせる。
「……ぅっ、くっ」
小さく呻いて、だが源次の手は止まらず、ズボンから自分のモノを引っ張り出すと、更に激しく上下にさする。
外気に触れても萎えることなく、天井に向いてそびえ立った男根を夢中で扱いた。
「あっ……あっ、あ、はぁっ、あゆ、み……ッ」
名前を呼んだ。
普段なら絶対に「姉さん」としか呼ばない。
本人の前で呼び捨てにするのは、躊躇われた。
「あゆみ、あゆみっ」
呻くように名前を連呼し、妄想の中で彼女を自分の上に跨らせる。
――来て。
あゆみの唇が、そう動いたように思えた。
「あっ、あ、ゆ、み」
手の動きが早まり、視界が白く染まる。絶頂は間近だ。
いく寸前、視界の隅で黒いものが動いたような気もしたが、勢いは止められなかった。
白濁としたものが布団を濡らし、源次の手や体にも飛沫を飛ばす。
荒い呼吸で胸を上下させながら、源次は身を起こし、ティッシュの箱を探す。
そして、ようやく我が身に降りかかった次なる悲劇に気がついた。

「源ちゃん……」

戸口に見えた黒い影は、気のせいなんかじゃなかった。
姉だ。あゆみが部屋に入ってきて、しかも自分を凝視しているではないか。
「えっ、ね、姉さん!いつの間に」
ティッシュを探すのも忘れて、源次は慌てふためく。
彼女の視線を辿り、自分の股間に一点集中していると判った途端、かぁっと顔面に血が上るのを感じた。
「お、俺、そのっ」
「源ちゃん、あ、あの、ごめんね。扉越しに声が聞こえたから、夢でうなされているのかなって、思って……」
源次の赤面につられたか、あゆみも、しどろもどろに言い訳を始める。
お風呂をあがって部屋に戻る途中、源次の声が扉越しに聞こえた。
自分を呼んでいるようにも思えたので様子を見ようと入ってみたら、ちょうど源次が射精した瞬間だった。
「み、見るつもりはなかったんだけど、そのっ!あ、あの、つい見入っちゃったというか」
結果的に見ていたのなら、同じ事だ。
あゆみもそれに気づいたのか、言い訳は次第に小さくなり、部屋には静寂が訪れる。
「ご……ごめん」
やがて源次のくちからは、そんな謝罪が漏れて出る。
「えっ?ご、ごめんって何が?」と首を傾げるあゆみの視線から逃れるように壁側を向いて寝転ぶと、源次は続けて謝った。
「き……気持ち悪いよね。姉さんの名前を呼びながらオナニーしている弟なんて」
「えっ……」
「俺、さっき姉さん見てから、ヘンなんだ。姉さんの裸、思い浮かべて興奮してた。いつもは、こんなことしないのに」
話しているうちに、源次の双眸には涙が浮かぶ。
戸籍上では姉だけど、あゆみは本当の姉じゃない。
血のつながりがない。
彼女は母の再婚相手の連れ子だった。
血は繋がっていないのだから、法的に考えれば彼女に欲情したっていいはずだ。
だが、あゆみの心情を思うと、こんな感情を抱いている自分が恥ずかしい。
あゆみは自分を弟だと思っているはずだ。
血が繋がっていなくても、本当の弟のように可愛がってくれる。
今も昔も全く変わらない愛情で接してくれる姉を、自分は裏切ってしまったのだ。
「ごめんね。気持ち悪い弟で、ホントごめん」
しばらく黙っていた姉が、口を開く。
「気持ち悪くなんか、ないよ」
今度は源次が「えっ?」となる番で、身を起こした彼の側へ、あゆみが近づいてくる。
「私だって、源ちゃんのアレ……を見た時、ドキドキしたもの。源ちゃん……おっきくなったよね」
姉の言うアレがナニか判った途端、源次はまたまた恥ずかしくなり、壁側へ向き直ろうとしたのだが。
あゆみに体を押さえつけられ、さらには出しっぱなしのアレをぎゅっと握られて、心臓が飛びださんばかりに驚いた。
「ねっ、姉さんっ!?」
「源ちゃんも、そう思っていたんだね、私のこと……私もずっと、源ちゃんのこと、そういう風に見ていたよ」
「……も、って?」
姉が触れている――そう考えるだけで、股間が熱くたぎってくる。先ほど出したばかりなのに。
姉の指が竿ではなく玉に触れた瞬間、ビクリと源次は仰け反って彼女の背中へ腕を回した。
「ね、姉さん……ッ」
「私も、ずっと源ちゃんのこと……好きだよ。弟じゃなくて、男の子として」
耳元で囁いている姉は、夢か真か?
否、紛れもなく現実のあゆみと抱き合っている。
「い、いつから?」
快感に震える声で尋ねると、姉は少し思い出す素振りを見せてから囁いた。
「えっとね……源ちゃん、前に扉を少し開けたままオシッコしていたでしょ。あの時ね、見ちゃったの」
とんと記憶にないが、姉が言うからには、あったのだろう。
扉をきちんと閉めないで、用を足してしまった事が。
「見ちゃったって、何を?」
「だから……源ちゃんの、コレ」
きゅっと手の中のモノを握られて、反射的に「うっ」と呻いた源次は、さらに力を込めて姉を抱き寄せる。
腕の中で姉の告白を聞いた。
「その日の晩ね、夢を見たよ。源ちゃんに抱かれている夢だった。気持ち悪いよね、弟とエッチする夢を見る姉なんて」
「き、気持ち悪くない!気持ち悪いのは、俺だけだよ」
「どうして?私が源ちゃんを好きなのが気持ち悪くないなら、源ちゃんが私を好きなのも気持ち悪くないはずでしょ」
じっと瞳を覗き込まれて、源次は言葉を失った。
姉に見つめられると、いつもこうだ。
何も言い返せなくなってしまう。
それに、姉の言い分は正論だ。
二人とも男女として意識しているのならば、どちらも気持ち悪くなどない。
「ね――しちゃう?」
あゆみに小さく囁きかけられ、源次は、しばし硬直する。
ややあって『しちゃう』の意味を理解した時には、思わず彼女の正気を疑った。
「すっ、するって!だって俺達、姉弟だぞ!?姉弟なのに、するって!」
「でも、血は繋がっていない。でしょ?」
「だ、だけど、そんなトコ、母さんや父さんに見られたらっ!!」
泡食って姉から身を離し、源次はベッドを降りようとする。
だが、あゆみはそれを許さなかった。
股間のモノをぎゅっと握りしめられ、「はぅっ!」と情けない声と共に源次はベッドで丸くなる。
「源ちゃんは、嫌なの?」
「だ、だって……」
「あぁ、そう。じゃあ、私のことは好きじゃないんだ。さっき……していたのだって、ただ女の人の裸だからってだけで、なにも私じゃなくても良かったのね」
そう言って、あゆみは目を伏せる。
今にも俯いて泣き出すんじゃないかと、源次は気が気じゃなくなり慌てて言い返した。
「ち、違うッ!他の、女の子の裸でやったことはないし、姉さんだって嫌いじゃない!」
すると姉は、ひょいっと顔をあげて微笑んだ。
「あら、そう。なら最初から素直に、そう言えばいいのよ」
満面の笑顔だ。騙された。
「明日ね」と、ふてくされる源次の耳に、あゆみが囁く。
「お父さんもお母さんも会合で遅くなるんだって。……どうする?明日、しちゃう?」
「だ、だからぁ」と再びゴネ始めた源次へ、これ見よがしな溜息をつくと姉は言った。
「明日以外、チャンスはあげない。源ちゃんが嫌だっていうなら、この話はオシマイにするわ」
その言い方が意外やきつく、源次は不安になる。
「お、オシマイ……って?」
おどおど尋ねる弟へ、あゆみはキッパリ言いはなった。
「二人ともお互いの気持ちを封印して、それぞれ新しい恋人を見つけるの。源ちゃんとは、これからも良き姉弟でいましょうね」
「いっ、嫌だ!」
考えるよりも前に叫んでいた。
あまりの激しさに驚く姉などお構いなしに、源次は何度も首を振る。
「嫌だ、そんなのヤダッ!俺、俺、姉さんが好きで、好きでたまらなくって、もう姉さんを姉さんとして見るなんて、絶対無理だ!!」
「源ちゃん……」
叫んでいるうちに源次の瞳には涙があふれ、頬を伝ってベッドまでもを濡らしてゆく。
もしかしたら自分は、風呂場で裸を見る前から姉さんの事を姉だと見ていなかったのかもしれない。
だって、あゆみが別の男とイチャイチャする。
それを考えようとしただけで、頭の中が真っ白になったのだから。
考えたくない。嫌な妄想など、源次は頭の隅へ追いやった。
「俺、姉さんが好きだよ……好きなんだ。誰にも渡したくない」
「源ちゃん、そこまで私のこと……」
「明日、やろう。姉さん、それで……いいよね?」
この人を他の人に渡すぐらいなら、明日、姉弟の楔を切ってしまおう。
「うん」
姉の手が背中に回されるのを、源次は感じる。
社会人の姉は、中学生になったばかりの自分よりも小柄で華奢だった。


庭で蝉が鳴いている。
今日ほど両親が出かけるまでの時間を、もどかしいと感じた日は、なかった。
姉が階段を登ってくる。
源次は進んでドアを開けて、彼女を招き入れた。
「母さん達、もう出かけた?」
「うん。遅くなるから、夕飯は冷蔵庫にあるものをチンして食べて。だって」
「今日、本当に遅くなるんだよね?」と源次が念を押せば、姉には笑われた。
「そうよ。だから、誘ったんじゃない」
「う、うん。うん」
今、この家にいるのは自分と姉の二人っきり。
これまでも二人っきりになる機会は何度かあった。
けど、その時は特に、どうとも思わなかった。
今は違う。
そわそわして、落ち着かない。
「源ちゃん、貧乏揺すりしないの。それより先にシャワー浴びてきて」
またまた姉には笑われて、心ここにあらずだった源次も、はっと我に返る。
「えっ?あっ、うん、判った。あ、姉さんは?」
勢いよくベッドを飛び降りると、姉に尋ねた。
「私は、さっき浴びたから……」
道理で髪の毛が濡れているわけだ。
仄かにボディソープの香りも漂う。
「ほら、犬みたいに匂い嗅いでないで。早く浴びてきなさい」
姉が笑う。源次は大人しく頷いた。
「うん。ぱっと行ってパッと戻ってくるから、ちょっと待ってて!」
パッと行ってパッと戻って、その間、約五分か三分ぐらい。
見事に鴉の行水だ。
要は匂わなければいいんだ、匂わなければ。
ざっと洗った髪をバスタオルで拭きながら、源次は近頃伸びてきた髭も軽く剃る。
まだ中学生なのに髭を剃らなきゃいけないなんて、我ながら無駄な発育の良さには溜息が出る。
どうせ育つなら、姉さんみたいに色気のある方向へ育てば良かったのに。
例えばアソコが大きくなる、とかさぁ……
ふと思い立ち、自分の股間へジッと目を向けていた源次だが。
「や〜めよっ」と独りごち、持っていた髭剃り用カミソリを洗面台に置いて手早く着替えた。

部屋に戻るとカーテンが全て閉められており、ベッドの上では姉がタオルケットにくるまっていた。
いくら扇風機を回しているとはいえ、今は夏休み真っ盛り。
暑くないの?と源次が問うと、姉は小さく囁いてよこした。
「もう、裸だから」
「えっ、もう?」
源次としては脱がすシーンからやりたかったのに、これは拍子抜けだ。
おまけに「ほら、源ちゃんも早く脱いで」と姉には急かされるしで、ロマンティックの欠片もない。
大抵はじめての時は女性のほうが、ムードを重視したりするもんじゃないのか?
それとも、やるだけやったら、さっさとオシマイにしたいんだろうか。
姉は本当は自分の事など好きじゃなくて、単に欲求不満の解消相手として源次を選んだだけなのか。
一度考え出したら止まらなくなり、嫌な妄想に源次は悲しくなる。
だが、そんなナイーブな弟の憂鬱など、どこ吹く風で。
あゆみは、てきぱきと源次を脱がし始めた。
「時間が勿体ないでしょ。服脱ぐだけで時間をかけていたら」
「でも、今日は二人とも帰りが遅いって」
ぶつぶつぼやくと、姉には軽く睨まれた。
「するだけで全部時間を使っちゃうつもり?した後だって二人の時間、いっぱい欲しいでしょ」
「した後って……?したら、終わりじゃないの?」と自分で言ってから、あぁ、と源次は気がついた。
するだけがメインのように考えていたのは、自分のほうだった。
姉は、した後も二人だけの時間を楽しみたいのだ。
二人っきりでカレーをチンしたり、夕飯を一緒に食べたり。
今までずっとやってきた事だが、今日からは違う。意識の問題だ。
カレーを食べるついでに、姉の唇についたカレーも舐め取ってやろう。
そして、うっかりズボンに零しちゃったカレーを姉が――
「源ちゃん、気が早い」
クスクスと笑われて我に返った源次は姉の見ているモノが何なのか判った途端、猛烈に恥ずかしくなる。
「ちょっと、そんなにガン見しないでよ、恥ずかしいよ」
両手で隠そうとしても、すぐどかされてしまう。
変な妄想に浸っている間に、源次は素っ裸に剥かれていた。
「何を恥ずかしがっているのよ、私の裸は思いっきり見たくせに」
「そ、それは……」
俯いた拍子にタオルケットの隙間を覗き見る形になり、源次はゴクリと唾を飲み込む。
体温が一度、あがったような気がした。
「ね、立ったままだと、しんどいでしょ。横になろう?」
促されるまま、姉と向かい合わせに寝転んだ。
タオルケットがはだけて、豊かな胸がこぼれ落ちる。
そっと手を伸ばし、触れてみる。
柔らかいだけではなく、弾力もあった。
乳首を摘むと、あゆみが小さく声を漏らす。
源次は慌てて手を引っ込め、そっと様子を伺った。
「ごめん。痛かった……?」
「うぅん、違うの。ただ、ちょっと敏感になっているから、触る時は優しく……ね?」
「ごめん」と、もう一度謝ると。
源次は脳裏で優しさをイメージしながら、ゆっくりした動作で姉を抱き寄せる。
堅くなったモノを姉の腹に押し当ててみると、あゆみも意識したのか、ぎゅっと源次の腰へ手を回して耳元で囁いてきた。
「源ちゃん、もう、ビンビンだね」
「姉さんだって……か、感じているんじゃないの……?」
片手でまさぐってみると、姉の秘部はじっとりと濡れている。
この濡れ方は、シャワーを浴びたってだけじゃない。
指の間で滑る汁の感触もある。
恥ずかしい言葉にどもりながら、じっと源次が彼女を見つめると。
それまで平然としていた、あゆみの顔にも変化が訪れた。
「げ、源ちゃんのが、すごいからだよ……」
かぁっと頬を上気させ、上目遣いに見つめてくる。
可愛い――と意識した瞬間、源次もぼぉっと頬を紅潮させ、夢見心地で姉に尋ねた。
「すごいって、どういう風に?」
「だ、だから……おっきくなったなぁって、もぅっ、何度も言わせないでよ!」
軽く肩をひっぱたかれたが、全然痛くない。
それよりも恥じらう姉など斬新すぎて、源次は、もっと彼女をからかってやりたくなった。
「姉さんは、昔から大きかったよね」
「えっ?なにが……?」
「何って……そう、例えば、お尻とか」
「お……お尻ィ!?」
姉の声がひっくり返ったのは、恐らく予想外の答えだったのだろう。
たちまち、あゆみが「お尻が大きくて悪かったわねぇっ」と頬を膨らませるもんだから。
源次は笑いながら、彼女のお尻を撫でてやった。
すべすべしていて気持ちいい。
大きいだけじゃない、形も手触りも最高だ。
「ひゃんっ!」
悲鳴をあげて、姉が文字通り飛び上がる。
さっき散々触られたお返しとばかりに、源次は姉の尻を撫で回しながら言ってやる。
「あはは、なんて声出しているんだよ、姉さん」
すっかり余裕が戻ってきた。
ここからは、ずっと自分のターンだ。
「だ、だってぇ、いきなり撫でるなんて、源ちゃん卑怯」
「姉さんだって俺のを、いきなり触ってきたじゃないか。おあいこだよ」
尻の割れ目に指を這わせると、「や、ぁっ」と甘く喘いで、あゆみが身をよじる。
濡れた陰毛が源次の勃起した先端を撫でて、源次も荒い息を姉の耳元に吹きかけた。
「姉さん……俺、もう、我慢できない……」
指は尻の穴に届いていて、姉が動くたびに奥へ入り込みそうになる。
尻もいいが、初めては前がいい。
もう片方の手で陰毛をかき分け、勃起した己のモノを割れ目に差し込むと、ぬるりとした汁がまとわりつく。
あゆみが潤んだ瞳で見上げてきた。
「私も、そう言おうと思ってた。源ちゃん……でも、やり方、判る……?」
「わ、判るよ。昨日、徹夜で勉強した」
昨夜、姉に誘われてから寝るまでの間。
普段は滅多に復習すらしない教科書の山をひっくり返し保健体育を取り出すと、これまた普段は授業中でも滅多に見せない熱心さで、性教育の項目を何度も何度も読み返した。
「徹夜だなんて、源ちゃんらしいね」
くすくす笑う姉につられて源次も少し笑ったが、不意に真面目な顔に戻ると彼女の上へのしかかる。
「そろそろ……いい?」
低く尋ねると、あゆみは戸惑いの色を浮かべたが、すぐにコクリと頷いた。
「う……ん」
「ちから、抜いててね。ゆっくり挿れるから、痛くない……はずだよ」
指で軽く触れただけでも、蜜が溢れ出す。
ここまで濡れているのなら、これ以上ほぐしてやる必要もあるまい。
「ねぇ……早く、して。私、もう、これ以上待たされたら」
催促の途中で腰を深く突き入れられ、あゆみは「ヒッ」と小さく叫ぶと、夢中で弟の体にしがみつく。
「あ、あ、あ……ッ」
異物が、ゆっくりと体の中に侵入してくる。
入る瞬間に感じた鋭い痛みは既になくなり、替わりにきたのは肉と肉の擦れ合う感触。
「ぃ、あ、あ、くぅっ」
「ね……ねぇさん、ごめん。ゆっくりって言ったけど、い、勢いがついちゃって」
源次の息が頬にかかる。
汗が頬を伝って、あゆみの体に落ちてきた。
「も、もう駄目、挿れたばっかりだけど、俺、もうイキそう」
歯を食いしばり、必死の形相で腰を動かそうとしているようだが、体が脳の伝達についていけず。
ぶるぶると震えるばかりで、腰を動かす処ではない。
源次は泣きそうな顔で、あゆみを見た。
「いいよ……イッても。だって、私も」
「ぅ、あっ」
あゆみの返事を聞き終える前に、源次は射精した。
一気に放った爽快感と一緒に、彼の意識も遠のいていった――


「ごめん、ホントなんていうか……一人でイッちゃうとか、俺って最低だな」
「そんなに、しょげないで。大丈夫よ、こういうのはね、二人とも気持ちよくなればいいんだから」
――数十分後。
意識を取り戻した源次の最初の一言は、ごめんの一点張りだった。
「気持ち、よかった?」
「うん」と頷く姉は、する前と同じ微笑みを浮かべている。
「源ちゃんは初めてだもんね。早漏でも仕方ないよ」
「うっ」
傷ついた表情で源次が姉を見ると、彼女はぺろりと舌を出した。
「今のは本に書いてあった受け売り。私も、あの後すぐ気絶しちゃったし」
「姉さんも?」
「うぅん、気絶……っていうのとは、ちょっと違うかな?すごく気持ちよくて……源ちゃんの言葉を借りるなら、イッちゃった」
「そ……そうなんだ」
恥じらう姉は、お世辞や慰めで嘘をついているようにも見えない。
ドキドキと高鳴る胸を押さえながら、源次は尋ねた。
「ねぇ……姉さんも、初めて、だったの?」
ずっと気になっていたのだ。ああいう事をしちゃう前から。
「慣れているように見えた?」
逆に聞き返され、慌てて答える。
「いや、ち、違っ!ただ、姉さん美人だし、もしかしたらカレシがいたんじゃないかって」
「初めて、だよ。カレシも、いませんでした」
「ほ、本当に?」
再び泣きそうになった弟の頭を優しく撫でて、あゆみは頷いた。
「男の人を好きになったのも、源ちゃんが初めてなんだからね」
「えっ」
ぽかんとする源次の唇へ素早く自分の唇を重ねると、あゆみは源次を抱き寄せ小さく囁いた。
「初恋もキスもセックスも、源ちゃんが初めての相手だよ。だから源ちゃんも、私以外を好きにならないでね。約束だよ……」
約束する。
くちには出さなかったけれど、源次は己の心に誓った。
一生、あゆみ以外の女性を愛さない。
いや――愛せないであろう、自分には。

END