EXORCIST AGE

ティーガかわいいよティーガ(*´Д`)/ヽァ/ヽァ

昼飯時の社内――

「わっ、何コレ、可愛い!」
「でしょ〜?可愛いよねぇ」
などと男三人が集まって、一心に何かを覗き込んでいる。
手にしているのは写真?となれば、売れっ子アイドルのエッチな水着姿か、それとも……?
お茶くみ要員の女性社員ミズノは、こっそり足音をしのばせて彼らに近づく。
そして、ひょいっと覗き込んだ彼女は彼ら同様、黄色い奇声をあげることになった。
「何これ!可愛い、もっと見せてっ」
「わぁ!」
「ビックリしたーっ!……何だ、ミズノか。脅かすなよっ」
寄り集まっていたのはGENを中心に、SALAMIとスズリの男性社員三名。
彼らが熱心に覗き込んでいたのは、幼い少年の写っている写真であった。
少年、いや、幼児と言い換えてもいい幼さだ。
パッツンパッツンの黒い髪の毛に、大きく開いた両目は、ややつり上がった猫目。
「これ、ティーガ?何この写真、どうしたの?誰が撮ったの?」
次々と放たれるミズノの質問に。
「社長の秘蔵コレクションだよ。コピーしてもらったんだ」
と、答えたのはGEN。
「え〜っ!いいなぁ〜。でも、タダでってワケないわよね?」
ミズノの問いに、GENも頷く。
「後輩指導の前駄賃として貰ったんだ。いいだろ〜」
ティーガとは、THE・EMPERORに入社したばかりの新入社員である。
最年少にして未成年。
さらに社内の研究施設産まれとあっては、皆に注目されないわけがない。
GENはティーガの先輩として、彼の社員教育を社長直々に任された。
引き受ける代わり社長の秘蔵写真を沢山コピーしてもらったんだと自慢するGENを、ミズノは羨望の眼差しで見つめた。
「いいなぁ、社長の秘蔵コレクション。これの他にも沢山あったんだろ?」
同じく羨ましそうにスズリが問うのへは、曖昧に首を振ってGENが答える。
「いやぁ、さすがに全部は見せてくんなかったけど、メモリーだけでも五十個並んでいたからね」
「ごっ、五十個!いつか見せてくんないかなー、社長〜。子供って五歳までが一番可愛いんだよねー」
いい歳した若い男が三人揃って、まるで女子供のようにキャイキャイはしゃいでいる。
今、この場にバニラやZENONがいないのは幸いだった。
「二歳児だった頃や産まれたばかりの写真は?ないの?」
しっかり二、三枚抱え込んだ状態でミズノが問えば、GENは「ふっふっふっ」と笑みを浮かべて懐から数枚取り出す。
床に座って指をしゃぶっている幼児ティーガ。
「やーん、可愛い!」
机とよだれかけ、ほっぺたと周囲一面にヨーグルトをまき散らして、お食事中のティーガ。
「ほっぺ舐めてやりてぇぇぇっ」
ベビーベッドの上で仰向けになり、おむつを交換中のティーガ。
「はっはーっ、ちっちぇなぁ、何もかも!」
並べられた三枚の写真を見て集まった面々が口々に騒ぎ立てるのを、GENは満足そうに見守ると。
「この中でも一番俺がベストだと思ったのはー……やっぱ、これかな」
トドメとばかりに、さらにもう一枚。
懐から取り出し、ビシッ!と見せつけるように写真を立てる。
途端に、三人の口からは黄色い歓声がハモッて飛び出した。
「きゃあぁぁーっ!」
写真には、お乳を飲む幼児ティーガが写っている。
抱いているのは、乳母さんだろうか。
誰かの胸元に、すっぽりと収まって、一心不乱にお乳を飲んでいる。
「やーっ、可愛い!動画で見たいっ!」
キラキラと輝いた瞳で歓喜にうちふるえるミズノ。
「そうだよ、動画!動画ないの?社長の秘蔵コレクションにっ」
勢い余って掴みかかってきたSALAMIの腕から、するりと抜け出すと、GENは肩をすくめた。
「だから、全部は見せてもらえなかったんだって。見せてもらえたのは写真の、ほんの一部だけさ」
「なぁ、これくれ!もとい、コピーさせてくれっ!」と、今度はスズリに掴みかかられる。
「オッケー、コピーぐらいなら何枚でもさせてやるよ」
気前よくGENが頷いた時。

「――おやおや。誰の声かと思えば、お前らかい?キャアキャア騒いで、うるさいったらないね」

食事を終えて戻ってきたのか、バニラが顔を出した。
五十年近くTHE・EMPERORに勤めているというバニラは、誰にとっても大先輩だ。
腕の立つ悪魔祓いではあるのだが、馴れ合いを嫌う彼女の性格か常に厳しくおっかないもんだから。
たちまち四人のテンションは、しゅーんと盛り下がり、大人しくなる。
ここにいる、どの顔も皆、一度はバニラに絞られたクチだ。
そのバニラ、机に並べられた写真を一瞥するとGENへ尋ねた。
「ずいぶんと懐かしい写真じゃないか。社長から貰ったのかい?」
「は、はい」
答えるGENを押しのけて「懐かしいって?バニラさんも見たことがあるんですか」と尋ねたのはスズリ。
スズリをジロリと睨み「あたしが何年ここにいると思っているんだ?」とバニラは吐き捨てた。
「ご、五十年です、ハイ」
萎縮して答えるスズリなど、もう眼下にも留めずに。
バニラは写真を一枚手にとって、しみじみと眺める。
「この子が産まれる前から、研究施設には顔を出していたんだ。忘れるもんかよ、祀の事だってな」
残った写真をコソコソとしまいながら、GENが尋ねた。
「津山 祀って、母体の提供者でしたっけ。今はどこで何を?いや、護之宮の若旦那が家に戻っているのは知ってますけど」
「若旦那じゃないよ、情報が古いねGEN。あいつは十年前に家を継いでいる。立派な旦那さ」
GENの言葉を訂正してから、バニラは答えた。
「祀は死んだよ。ティーガを産むと、すぐにね。体調の悪化が原因だ」
「えっ……」
「……そうだったんですか」
バニラが重々しく頷く。
「あいつは親の顔など全く知らない。あたしらが、研究に関わった全員が、あいつを育てたんだ。けどね、そのことを社内でくちにするんじゃないよ。くだらない噂が流れる原因になるからね」
心得ていますと口々に答える後輩を眺め、ようやくバニラの顔にも僅かな笑みが浮かんだ。
「GEN、あんたには知っといて欲しかったんだ。ティーガの生い立ちをね」
それから、とミズノ、スズリ、SALAMIをも見渡して付け足した。
「この写真を見て騒いでたってことは、あんたらも子供が好きなんだろ?」
おずおずと頷く様は視界にも入れず、話を締める。
「なら子供を悲しませるような真似だけは、するんじゃないよ。余計な詮索は、あいつを困惑させ悲しませる。……わかったか?」
「は、はいッ!」
直立不動で即答する後輩四人を置き去りに、バニラは満足そうに去っていった。
「…………あーっ、びっくりしたぁ。突然戻ってくるんだもんなー、バニラさんっ!」
完全に背中が見えなくなってから、さらに五分ほど待って。
ようやく、スズリが大きな溜息と共に吐き出した。
「にしても、可愛いよなぁ〜」
バニラも手に取った例の一枚を手に、SALAMIがうっとりと呟く。
「悲しませるな、なんて注意されなくても誰もしねーっての、そんなこと」
「だよね〜」と、ミズノも不満にクチを尖らせる。
「わたし達、そんなに信用ないのかしら?」
全部の写真をまとめて懐に突っ込んだGENが、肩をすくめた。
「まぁ、俺達が興味津々だったのは事実だからな。調子に乗ってアレコレ詮索するなって言いたかったんだろう、バニラさんは」
THE・EMPERORの研究施設は存在こそ知られているが、ほとんどの社員が立ち入り禁止となっている。
入れるのは重役か役員、社長、或いは長年勤めたベテラン社員ぐらいなもの。
よほどの重要機密が隠されているのだろう、というのは新入社員でも判る範囲内だ。
「GENも入ったことないの?うちの研究施設」
ミズノに問われ、GENは頷いた。
「俺は引き抜きで来たからね。まだ信用といえるほどの信用を得ているとは思えないよ」
「えっ、引き抜きだったんだ!」と驚くスズリはGENより入社歴が短く、今年で二年目になる。
入社歴六年のSALAMIが頷いた。
「入ったことのある社員なんて、バニラさんとゾラさんぐらいじゃねーの?」
「げっ、五十年勤めないと駄目ってか。信用の壁、あっつー!」
のけぞるスズリ。GENは笑って、席を立つ。
「さて、昼休みも、そろそろ終わりだ。ちょっと依頼に行ってくる」
「あ、いってらっしゃーい。ティーガもつれていくの?」
「うん」
などといった他愛ない会話を残して、GENは会社を後にした。

END