DOUBLE DRAGON LEGEND

第八十七話 隙をつけ


戦場の頭上で輝いた光は、MSの闘争心を狂わせるものであった。
直前まで味方だった者達が今は戦いあう様を、トレイダーはMSの背に乗り海の上から見守った。
「おぉ、すごい、すごいぞ!これで新旧の十二真獣、どちらが強いのか今こそ、はっきりするというわけじゃな」
双眼鏡を目に押し当て、R博士が子供のように歓声をあげる足下では疑問があがる。
「何故、このような物の製造方法をケンモチ博士は石版に書き記したのでしょう?」
二人を乗せた、黒光りした巨大鯨のMSはダミアンだ。
「これを書いたのは剣持博士ではないよ、著名が違う」と答えたのは、トレイダー。
手に持っているのは石版。かつて葵野やトレジャーハンターが探し求めた、過去の遺産だ。
これらを書き残したのは大昔の研究所。
MS奇病研究の末、十二真獣を生み出した研究機関だ。
剣持博士率いる『ディクション』は、人間の脳に含まれる記憶因子を印と名付けた。
人工で印を創り出し、人工生命体へ組み込む手術に成功した。
生物の脳に埋め込まれた印が、どのような働きをもたらすのか。
奇病の原因を精神的なものであると仮定した上での実験であった。
幾度に渡る生命体を使った実験の末に、彼らは、一つの結論に達した。
やはり人の心こそが、奇病を発動させる原因だと。
心に刻まれた『変身願望』――とでもいうのだろうか?――強い記憶が肉体の変化を引き起こす。
だが、彼らの時代は学者の発表を許さない情勢に追い込まれていた。
そこで彼らは、石版という形で後世に自分の研究を伝えることにした。
実験に使った十二真獣――
長年に渡る共同生活で、我が子と呼んでも差し支えない子供達を世に送り出すと共に。
「著名者は御厨健吾、剣持博士の下で働いていた男だよ。ビーンズ・バッハと共に独自の美学を貫いていたようだね」
「独自の?」
ダミアンが、シューと髭の間から息を漏らす。
「そうだ。美羽を両性器具に仕立て上げたのも、彼らが男と女、両方の能力を併せ持つ浪漫に惹かれたからだろうね。そして御厨は十二真獣を戦争の道具として投下したかったと、この石版にも書いている」
「危険じゃな、学者にあるまじき発想だ」
R博士が、ふんと語気を荒げる。
自分棚上げの発言にはトレイダーも苦笑したが、あえて突っ込まず、戦場へ目をやった。
「牛の印が皆を正気に戻らせるのが先か、全滅が先か……運命の女神は、どちらへ微笑むのだろうね」


戦場の最前線、錯乱した味方と対峙した面々は劣勢に陥っていた。
リオやアモスの体には無数の傷が刻まれ、次々と同志が地に倒れてゆく。
「くそっ、ちょこまかと!」
特に難敵なのは、やはりというか戌の印、司の動きに皆、翻弄されている。
ただ強いだけではない。強い上に、素早いのだ。
あちらを攻撃していたと思えば、次の瞬間には後ろからガブリとやられる。
追い回され逃げ場も塞がれ、一カ所に固まりたくないのに、一同は中央に集められてしまう。
為す術もなく四方八方から攻撃を受け続けては、いかな手練れでも全滅を待つしかない。
「アモスは戌の印に集中するんだ!他の相手は仲間に任せろッ」
言っている側から首筋を小さな何かにガブリとやられ、「ぐあッ!」と悲鳴をあげて仲間が倒れ込む。
食らいついているのは蛇MS、巳の印だ。
ただちに近くの者が飛びかかり、叩き潰される前に蛇は自ら地上へ飛び降りて後退する。
「大丈夫か!?」と仲間に問われ、噛みつかれた者は脂汗を流しながら応えた。
「へ、平気だ……致命傷じゃない」
致命傷でなくても、このまま血を流れるままにしておけば、じわじわと死を待つだけになる。
こんな時こそ、神龍がいれば。
役立たずの顔を思い浮かべ、リオは小さく舌打ちする。
葵野力也は、何故変身できないのだろう。
幼なじみの坂井は、十二真獣としての自覚がない頃からMSへ変身できたというのに。
闘志がないからだと指摘する者もいる。龍の印ではない疑惑も、常に彼にはつきまとっている。
しかしアリアが彼を龍の印だと認めた以上、その疑惑だけは認めたくないリオであった。
葵野の幼なじみは今、正気を失い味方を襲っている。
正気に戻せるのはアモスだけだが、彼は戌の印の相手で手一杯だ。
手が欲しい。戦える戦力が。
坂井を一時の間だけでも押さえつけられる猛者は、いないのか。
「うおりゃあぁぁぁぁ!!!」
爆進してくる地響きに皆が振り向けば、土煙をあげて猛獣がこちらへ向かってくる。
背に乗っているのは小さな兎のタンタン。そして、もう一人は何と葵野ではないか。
あの役立たずが、一体何を血迷ったのか前衛へあがろうとしている。
タンタンも然り、いくら人手が欲しくても戦力外はお断りだ。
「みんなー、どいてどいて!小龍様のお通りよ!!」
けたたましく騒いでいるが、何がお通りだ。
変身できない葵野が前に出たからといって、何になる?
「リオ、余所見しないで下さいっ」
耳元で怒鳴る甲高い声に、リオはハッとなる。
突っ込んできた猪の牙を、寸での処でかわすと体勢を立て直した。
美羽や司と比べれば該の攻撃は、やや単調だ。
攻撃してくる方向さえ判っていれば、大体は避けられる。
その分、当たれば重傷を免れない。下手すれば一撃即死なんてのも、充分あり得る。
幸か不幸か今のところ亥の印が攻撃を仕掛ける対象はリオだけで、牙の一撃による死者は出ていない。
「該さん!該さん、目を覚まして下さい!」
アリアの呼びかけにも、猪は目を血走らせて荒い息を吐き出す。
やはり正気を呼び戻せるのは牛の印、アモスの能力を以て他にない。
「牽制と挑発だけでいいッ、正気に戻すのは戌の印を優先だ!」
叫び、漆黒の馬が戦場を駆け抜ける。
向かう先には黒と黄色の縞模様、荒れ狂う坂井がいた。
「シェイミー、俺達の相手は坂井だ。傷つけず、こちらもやられないよう適度に時間稼ぎをするぞ」
ゼノの背に乗る小兎は頷き、坂井へ群がる仲間へ呼びかける。
「皆、下がって!坂井の相手はボク達がするっ」
そして後方を振り返り、復活したウィンキーへも指示を飛ばした。
「ウィンキーは、残党をお願い!」

皆が、それぞれの持ち場へ走るのを、デキシンズとレイも、ただぼんやり眺めていたわけではない。
伝説の三人が味方に襲いかかってきたのを見ると、すぐに狂乱の場からは後退して、輪の中を逃れていた。
「どうする……?」と姿を消したままのカメレオンに問われ、岩場に隠れたフェレットが応える。
「聞いただろう、牛の印が戌の印を正気に戻すと。我々は、それを手助けしよう」
「でも、どうやって?俺達の実力じゃ、到底かないっこないぞ」
「何も戦って倒すだけが手助けになるとは限るまい」
ふんと小さく鼻を鳴らし、レイは飛び回る白いMSを遠目に見やる。
「デキシンズ、お前は他の奴らと違って特殊能力を多々持つではないか。姿を消す能力は、気取られず近づくには好都合だと思うが」
「俺のは、本当に姿を消しているわけじゃないよ」と自信なさげな呟きが返ってくる。
「風景と体の色を同化させているだけだ。それに、戌の印は気配を読むのが上手だよ」
「光に操られていても、か?今の彼は正気を失っている、気配を読めるほどの冷静さが残っているとは思えん」
それぞれの印は、手当たり次第にMSを襲っている。
はっきり特定の誰かを狙っていると判るのは亥の印ぐらいなものだ。
それも彼の意志で行っているものかどうか。
「なるほど……それで背後に回って押さえつけるとして、俺が一秒でも保てば御の字だね」
自嘲するカメレオンを横目で睨み、レイが言う。
「怪力でもない者が馬鹿正直に押さえつけて、動きを止められるものか。お前なりのやり方で止めてみせろ」
「それは、囮になれって事かい?」
先ほど、葵野とタンタンを乗せた猛獣が戦場へ突進していくのを見た。
何をする気か知らないが、いや、何かするとしたら囮になるぐらいしか手はないのではないか。
何にしても、味方の邪魔になりそうな予感しかしない。
「お前には、お前にしかできない卑猥な行動があったと思ったがな。操られていたとしても、肉体の感覚まで鈍くなるわけではあるまい」
そう締めくくると、小さなフェレットは岩場の隙間でヒゲを揺らす。
やっと彼女が何を言いたいのかが判り、デキシンズの喉が、ぐびりと音を立てた。
「よ、よぉし……一生に一度、いや二度ぐらいは張り切ってみようかな」
「二度?」とレイに聞き返され、デキシンズは舌を器用に丸めた。
「そう、二度目だよ。一度目は君と廃墟に忍び込んで戦った時さ。今度は人生最後の戦いになるかもしれないけどね」
「そうならないよう、何としてでも成功させろ」
言葉は素っ気なかったが、黒い瞳がこちらをジッと見つめている。
真面目に心配してくれているんだと思うと、デキシンズの心には勇気がわいた。
「あぁ、必ずやってみせる。でも勝利の鍵を握るのは、俺じゃなくてアモスだがね」
言い残し、デキシンズの気配が遠ざかっていく。岩場に隠れたまま、レイはそれを見送った。

光は強いMSだけを狂わせた。
己が狂っていないことに、友喜は些かの疑問を持たないでもなかった。
操られたのは司、美羽、該、坂井の四人だ。ウィンキーやゼノも正気を保っている。
「あの光は囮……なの?」
皆と一カ所に集められながら、飛びかかってくる戌の印や巳の印の攻撃を腕で弾いて受け流す。
「……それとも……」
いくら考えたところで答えは出ない。考えるのは後だ。
アモスは司を正気に戻すといって走っていった。
気絶から立ち直ったウィンキーは他の仲間と共に、トレイダーの作ったMSと戦っている。
リオとアリアの相手は該、ゼノとシェイミーは坂井を受け持った。
ならば、自分は――
友喜は真上から戦場を見下ろす。美羽は、巳の印は何処だ。
あの小さな蛇と戦うには、MSのままでは却って不利だ。
伝説のMSとはいえ、生き物は生き物。武力で対抗するだけが、戦闘ではない。
上空へ舞い上がり、友喜は一旦戦線を離脱する。
人の姿へ戻るには、ここでは危ない。皆、気が立っている。味方に踏み潰されないとも限らない。

味方をよけ、敵をよけ、姿を隠したデキシンズは司のいる前線まで近づいた。
司は、こちらに向かってはこない。手当たり次第、近くにいる奴から襲っている。
レイは、お前ならではの奇襲があると言ってくれた。
しかし、こうも人が多くては迂闊に近づけやしないじゃないか。
いや、焦りは禁物だ。すぐには近づけそうになくても少しずつ距離を縮めれば、いずれ隙も生まれよう。
吹き飛ばされる者、叩きのめされて地に転がる者を、ひょいっと次々よけて徐々に接近していく。
正面に陣取ったアモスが司へ向けて叫ぶ。
「戌の印、俺の目を見ろ!」
返ってくるのは獣の唸りばかりで、司はアモスなど眼中にないかのように別の者ばかり襲っている。
「くそっ……!誰か、一瞬でいい!頼む、あいつの動きを止めてくれ!!」
周りの数人が「判った!」と答えて白犬へ向かっていくが、彼らには無理だろうとデキシンズは思った。
予想通り、片っ端から返り討ちに遭っている。
どだい、正面から突撃して どうにか出来る相手ではないのだ。
アモス自身で立ち向かう方が、まだマシだろう。
もっとも、彼が戦ってしまっては正気に戻せる者もいなくなってしまう。
デキシンズは、さらに司との間合いを詰める。味方とぶつからないように前進するのは大変だ。
司が後ろを向いた瞬間が勝負だ。デキシンズは息を潜め、そのチャンスを待ち続ける。

「くっ」と短い呻きを漏らし、リオの足がもつれる。
猪の突き上げを避け損ねたのだ。
幸い牙が突き刺さりはしなかったものの、攻撃を受けた部分は、ごっそり毛を削がれて地肌が見える。
「リオ、しっかりして下さい!」
背にまたがったアリアの声援を耳に、リオは該と真っ向から睨み合う。
今は操られている分、該の実力は普段より衰えている――
そう思っての囮だったが、己の体力の限界が近づきつつあるようだ。
「私も降りて戦います」とアリアが言うのへは頑なに拒否すると、リオは気力を入れ直す。
彼女には未の印の能力を使う場面が、必ずやってくる。
それまでは無事でいてもらわないと駄目だ。
それに、能力以前に好きな女を守れないで、どうする。弱者は戦場に出るべきではない。
弱者といえば、先ほど戦場を爆走していった二人組。
アモスの元へ向かったようだが、どうなっただろうか。
邪魔になっていないとよいのだが……

地響きを立てて、葵野とタンタンを乗せた猛獣が一直線に走っていく。
前方にあるものは例え味方だろうとお構いなしに跳ねとばし、ひたすらアモスのいる前線を目指した。
「タッ、タタタ、タンタン、ォウエッ」
酷い揺れと砂埃で、可哀想に葵野はグロッキーだ。
それでも振り落とされまいと、必死で手綱にしがみついている。
タンタンが振り返る。
「ちょっとぉ、ここで吐かないでよ?汚いわねぇ、小龍様!」
ゲロ酔いな葵野と比べてタンタンは平気な様子で猛獣の頭の上に、ちょこんと腰を降ろしている。
気持ち悪くないの?と聞きたかった葵野だが、駄目だ、一言でも言葉を発すれば吐いてしまいそうだ。
「あ、いた!あれってアモスよね、多分」
タンタンが前方を指さすので見てみれば、茶毛の牛が白い犬と戦っている。
二人の周りには他のMSも集まっており、大混戦と化しているようだ。
「何よ、これ!近づけないじゃないっ」
目の前の兎はヒステリーを起こしているが、葵野は正直なところホッとした。
タンタンに否応なく連れてこられて前線まで登り詰めたのはいいが、自分に何が出来るのか判らない。
いや、出来ることなどないだろう。狂ったメンツを治せるのはアモスだけだ。
これ以上近づいたら、図体のでかい猛獣は標的にされる事間違いない。
坂井は――ここからだと、よく見える。
ゼノとシェイミーが囮になって、彼の攻撃を一手に引きつけていた。
鋭い爪と牙。
あれを食らったら ひとたまりもないだろうが、ゼノは最小限の無駄のない動きで完全に見切っている。
戦い慣れているMSの動きだ。さすがはキャラバンで長い間放浪していただけはある。
該の相手をしているのはリオとアリアだが、こちらは劣勢だ。
無理もない、リオは元々戦士じゃないのだし。
美羽は何処だ?砂埃に目をこらして、葵野はあっとなる。
一人、少女が混戦の真っ直中を走っていくではないか。あれは友喜だ!
何をやっているんだろう。戦場でMS変身を解くなんて、自殺行為じゃないか。
友喜の目指す方向を見やって、葵野は驚愕に顔色を変える。
悲鳴と怒号が飛び交い、バタバタとMSが倒れている。
皆、見えない何かに襲われている。恐らくは小さな蛇、美羽に。
友喜は美羽を捕らえるため、あえて変身を解いたのか?
しかし美羽とて伝説のMSの一人である。
生身で取り押さえられるものだろうか、それも幼い少女一人に。
葵野の思考は、再び揺れ出した衝撃のせいで瞬く間に四散した。
「ちょ、タンタン、動くなら動くと、ボェッ」
「英雄様を取り押さえるのは無理みたいだから、友喜を手伝ってやりましょ!」
行き当たりばったりな行動に振り回されるのは、葵野としては勘弁願いたい。
だが彼に選択の余地は与えられず、野獣はクルリと向きを変えて、今度は友喜のいる場所目指して走り出す。


皆が血を出し倒れるさまを、デキシンズは冷静に傍観していた。
アモスが何か叫んでいる。目をさませ、俺の目を見ろ、とでも言っているのだろう。
しかし目を見るどころか他の者を襲ってばかりで、光に操られた司はアモスに対して無関心だ。
手を出してこない相手は襲わない。そのようにも見えた。
不意にデキシンズの目の前に司が着地してきて、くるっと向きを変えた。

今だ――!

デキシンズは思うよりも先に手を伸ばして、むんずと掴んだ。
司の股間にぶらさがっている、剥き出しの竿を。
「キャゥンッ!?」と場違いに可愛い悲鳴をあげて司が飛び上がる。
良かった。操られていても、しっかりアソコは感じるようだ。
にぎにぎと司の大事な処を握りしめながら、一方では舌を伸ばして敏感な部分をくすぐってやる。
金玉、竿の先端、耳と順繰りに舐めてやると、司の様子がおかしくなってきた。
キューンと情けない鳴き声をあげて、ゴロンと地に寝転がり白いお腹を見せる。
デキシンズの姿が見えていない者から見れば、司がいきなり妙な声を出して倒れ込んだようにしか見えまい。
なおも丹念にべろべろとスジやカリを舐め回すと、次第に司の瞳がトローンとしてきた。
舌を出し、ハァハァと荒い息をついている。
完全に動きは止まり、隙だらけだ。アモスが急いで駆け寄ってくる。
戌の印に何が起きたのかは判らずとも、能力をかけるタイミングは今しかないと踏んだのだ。
司の目を覗き込み、彼は叫んだ。
「司、聞こえているか!?俺の目を見ろ、早く正気に戻ってくれ!」
とろんとしていた司の瞳へ見る見るうちに光が戻ってくると、ハッとした顔で左右を素早く見渡し、彼は勢いよく起き上がった。
「うわっとぉ!」
反動でデキシンズは振り飛ばされ、地面に尻餅をついてしまう。
打ちつけた痛みで同化も解け、日の元に姿が晒された。
「うぉっ!いたのか!?デキシンズ」と驚くアモスの側では、司がしきりに頭を振っている。
「僕は……一体?」
たちまちアモスの意識は司へ戻り、少々手荒く肩を叩く。
「おぉ、正気に戻ったか!」
かと思えば皆へも振り返り、嬉々として言った。
「皆の者、戌の印が正気を取り戻したぞ!残り三名も、この調子で治そう。引き続き力を貸してくれ!」
負傷もなんのそのでウォォーと皆が盛りあがる中、呆然としていた司は自分の体を見下ろした。
「僕が操られていた……?本当なのか、デキシンズ」
「あぁ。けど、もう心配ないぞ。アモスが治してくれたからな」
ウィンクを飛ばすカメレオンを見上げ、司は小さく鼻を鳴らす。
「そうか……とんだ失態だな、僕としたことが」
それについてデキシンズが何かフォローを入れるよりも前に、司の質問が飛んでくる。
「残り三名って、他に誰が操られているんだ?」
「美羽と該と坂井だよ。今のところは皆が囮になってくれているようだがね」
「次に治すとしたら、美羽だな。あいつの能力は厄介だ」
司は、もうショックから立ち直ったように伺えた。
ちらりとデキシンズは司の様子を盗み見て、彼には聞こえぬぐらいの小さな溜息をついた。
やれやれ。元に戻ったのはいいけれど、なんで隙をつかれたのかまでは聞かないんだな。
操られていた時の記憶がないぐらいだ。
デキシンズにニギニギされた記憶も、司には残っちゃいまい。
だが今それを言って、彼の闘志を減少させる必要もない。
「行こう、君も手伝ってくれ」
司に誘われたので、素直にデキシンズは頷いた。
司のほうから誘ってくれるとは思ってもみなかったので、場違いにも嬉しくなる気持ちを抑えながら。

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