DOUBLE DRAGON LEGEND

第七十四話 絆


十二真獣が始めた第二次MS戦争――
彼らだけの戦いであったものが、やがて世界の人々を動かす大きな輪になった。

蓬莱都市に、続々と集まるレジスタンス……
その影に放浪の民やキャラバンといった名も無き民衆の協力があった事を、忘れてはいけない。
彼らの流した噂が反乱分子を動かし、同じ地に集結させたのだ。

時を同じくして、中央国に集結するMS。
サンクリストシュア王家最後の生き残り、サリア・クルトクルニア女王を筆頭とした集団だ。
彼女の唱える『完全平和主義』に惹かれて集まった者。
パーフェクト・ピースの唱える似非平和主義に危惧を抱いた者。
そして、先の戦いでジ・アスタロトに壊滅させられた元レヴォノース兵の姿もあった。

レヴォノースの生き残りや放浪の民の流した噂により、世界に住む者の多くがジ・アスタロトやパーフェクト・ピースの野望を知るところとなった。
一つの偏った思想は、やがて独裁主義を生み出し、その影で苦しむのは、いつも力のない庶民だ。
歪んだ思想を止める為、今、世界が大きく動き出す――


サリア来訪に続き、中央国では再び大きな動きがあった。
第一王位継承者、葵野の血を引く唯一の跡取りが凱旋したというニュースだ。
どこをどう放浪していたのか力也王子は相棒坂井の他に、巨漢の仲間も携えて戻ってくる。
婆様こと葵野美沙女帝は王子を叱ることもせず、ただ、サリアに会えと言い残して自室へ引き下がった。
「どういう風の吹き回しだ?てっきり俺はまた、死刑にでもされるんじゃねぇかと思ってたんだが」
あっさりした態度の女帝に拍子抜けしたか坂井がぼやくのへは、ゼノがボソリと断言する。
「お前に構っている暇などない、ということだろう」
宮廷内が、やけに慌ただしいのは葵野も感じ取っていた。
緊迫している――そう言い換えてもいいだろう。
例えるならば、戦へ出る前の張り詰めた空気だ。
「サリア女王が来てるって言ってたよね?でもサリアって、俺達の本拠地に居たんじゃなかったっけ」
「本拠地で何かがあった……そう考えるのが妥当だろ。まぁ、とりあえず会ってみようぜ」
颯爽と坂井に仕切られて、ゼノと葵野は大人しく後に続いた。
サリア達の泊まっている宿舎に入った途端、懐かしい顔ぶれと再会する。
「リオ!」
「葵野、それに坂井とゼノもか……久しぶりだな」
日に焼けた顔は最後に別れた頃と、さほど変わっちゃいないが、枯れ木のような腕には無数の傷跡が刻まれ、彼が激しい戦いに巻き込まれたことを物語っていた。
「リオ、どうして此処に?本拠地は、どうなったんだ」
「……壊滅した」
ボソリとリオは答え、さして驚いていないゼノと坂井の顔を見渡して、小さく息を吐く。
「ある程度、予想していたようだな」
「まぁな」と坂井が頷き、ゼノも淡々と受け返す。
「森に隠れていた面々が襲撃を受けている。なのに本拠地が無傷だとは、誰も考えぬ」
一人驚愕の表情を浮かべてしまった葵野は照れ隠しにサリアを探すと、奥から顔を出した彼女と鉢合わせた。
「やはり、その声……力也王子でいらっしゃいましたか」
「さ、サリア女王。お久しぶりです」
ぺこりと会釈する葵野を上から下まで眺め見て、サリアは微笑んだ。
「王子……ご無事で何よりです」
「女王のほうこそ、無事で良かったです!」
二人で無事を祝いあった後。改めて、本題に入る。
「レヴォノースの本拠地が墜ちた今、俺達の本拠地は此処、中央国って事になんのか?」
坂井の問いに、リオが応える。
「そうなるだろう」
それと、と続けた。
「蓬莱都市でレジスタンスが集結しつつあるという情報も掴んでいる」
「レジスタンス?」
首を傾げる葵野には、リオとサリアが交互に説明する。
「ジ・アスタロトやパーフェクト・ピースに反抗するゲリラ部隊だ」
「彼らの中には非MS、普通の人間も含まれているようです。蓬莱都市の住民がレジスタンスの主旨に共鳴して、仲間入りしたと考えるべきでしょう」
じゃあ、と坂井が意見を唱えた。
「そいつらと手を組んだ方がいいんじゃねぇか?俺達の目的も打倒ジ・アスタロトだし」
サリアが頷く。
「えぇ。今、使いの者を蓬莱都市へ行かせ、返答を待っている処です」
平和主義のお姫様にしては打つ手の早さに、葵野とゼノは顔を見合わせる。
彼らの気持ちを察したのか、サリアは少々沈んだ表情で言った。
「……悟ったのです。今は、まだ平和主義を唱える状況ではないということを。ですが」
「判っているさ」と彼女の言葉を受け継いだのは、意外にも坂井だった。
「主義は捨てちゃいねぇってんだろ?そうとも、捨ててもらっちゃ困るぜ。あんたの唱える完全平和主義ってのは、平和な世の中になってからが本番なんだからよ」
そこへ駆け込んできたのは伝令の兵士。
「使いの者が戻って参りました!」
続けてサリアの元へ跪き、使いに出ていた者が語り出す。
「レジスタンスは、早急に我等と合流したいと申しておりました」
「向こうのリーダーは、誰?なんていう名前なの?」と、これは葵野の問いに、使いの者は顔をあげ、王子の顔を真っ向から見据える。
「タンタン・ジェマインドと名乗っておりました。幼子ですが、強い意志を秘めていると――」
「うえぇぇぇええっ!!?」
「タッ……タンタン、だとぉ!?」

同時に絶叫する坂井と葵野両名を前に、使いの者は唖然とするばかり。
ゼノは冷静に、リオとサリアへ意見を求めた。
「その名ならば覚えている。元レヴォノースのMSだったな。どうする?すぐに会いに行くのか」
「何故、彼女がレジスタンスのリーダーを務めているのかは判りかねますが……」
困惑するサリアの横では、リオが即座に頷く。
「相手が誰であれ、合流の許可を向こうが出している以上は急いだ方がいい」
「判った」
ゼノも頷き返すと、まだ驚きから冷めやらぬ二人を促す。
「話は決まった。我々も同行しよう」
「う……うん」
同行に関しては、異存などない。
「あの女がリーダーねぇ……大丈夫なのかよ、そのレジスタンスって奴らは?」
ただし坂井は何度も首を捻っては、己の不安を表にぶちまけていたが。


表舞台が、ようやく回り出した頃。
ジ・アスタロト本拠地内における十二真獣の反乱もまだ、快進撃を続けていた。
地下牢を抜けて地上を目指すデキシンズの耳に、緊急放送が飛び込んでくる。
東練の守りが牛の印に突破され、龍の印が解放されたらしい。
本来ならばレイと共に、牛の印鎮圧に駆けつけるのはデキシンズの役目であった。
しかし彼は今、こうして全くの逆方向を走っている。白き翼と一緒に。
「該と美羽は下に向かったと言わなかったか?」
「あぁ。地下へ潜っていったらしいね、放送を聞いた限りじゃ」
牢の中では虚ろな目をしていた司も、しきりに周囲の気配を探っている。
英雄様の回復が嬉しくて、つい、デキシンズは余計な情報まで彼に与えてしまった。
「だが、安心するといいぜ。地下にあるのは牢屋と船倉庫ぐらいなもんさ。重要な研究室は全て東練に集結している。こっちの練にあるのは、R博士の私室ぐらいだ」
「東の練……確か友喜とアモスは、そっちにいるんだったな」
ならば、研究室の破壊は二人に任せればいい。
「K司教は、何処にいる?」
「西の練だ」
答えてから、おっと、とデキシンズは肩をすくめて戯けてみせる真似をした。
「ただし、行き方は複雑だ。俺が案内してやれるのは地上までのルートだから、そっちへ君をお連れすることは出来ないよ」
その彼に掴みかかり、司が凄んでくる。
「案内しろ。もう、こんな無駄な戦いは終わりにするんだ」
童顔の司に凄まれたところで、全然怖くない。
余裕風を吹かし「無駄?」とオウム返しに尋ねるデキシンズへ、司は頷いた。
「あぁ。MS同士が争うなんて、無駄にも程がある。こんな戦いを始めて、彼は、K司教は一体何を企んでいるんだ?」
「こんな無駄な戦いを始めたのは君達じゃないか」
そらっとぼけるデキシンズへ、司が激昂を叩きつける。
「違う!僕らが始めたのは、MSを人間として認めて貰う為の戦いだ!そして、それはけして無駄な戦いなんかじゃないッ」
「なら」
負けじとデキシンズも言い返す。
「マスターの戦いだって、無駄な戦いなんかじゃないぜ」
ジロリと睨みつけ、司は再度尋ねた。
「……なら、もう一度問おう。K司教の求める未来とは、どんな形なんだ。彼の求める未来の中に、僕達MSの幸せは含まれているのか?」
牢屋の中で呆けていた英雄は、もはや何処にもいない。
地上へ出る前に、司の意識は完全回復したようだ。
放送を通して聞こえてくる仲間の反乱が、しょげていた彼に強い影響を及ぼしたのは言うまでもない。
――これが仲間の絆、か。
そこまで司に信頼されている該や美羽が、多少羨ましくなってくる。
ともあれ真面目に問いかけられた以上は、真面目に答えてやるのが礼儀というものだろう。
おちゃらけるのをやめたデキシンズは、真面目な表情で答えた。
「クリム・キリンガーの目指す未来は、新人類の誕生だ」
「新人類?」と今度は司がオウム返しに尋ね返し、デキシンズが重々しく頷く。
「そうだ。十二真獣や、俺達十二の騎士を越えた次の時代の創造MS……新しい人類の創造を求めていらっしゃるのさ」
馬鹿な。奴は神になったつもりか?
だが剣持博士の研究を元にしている限り、新人類など作れようもない。
十二真獣や十二の騎士より強いMSを作れたとしても所詮は亜流であり、新しい種族とは言えないのだ。
「K司教の考えが君の言うとおりだとすると、君達は研究素材、或いは実験体になるのか?」
デキシンズは肩をすくめ、「その通り」と頷いてみせた。
「俺達は新人類を生み出す為に試作された存在だ。まぁ、要は君の言う実験体と同じ意味になる。同時にプロトタイプの十二真獣、君達を捉える為の手駒でもあったんだがね」
「それじゃ、君達は使い捨ての手駒じゃないか!君達の幸せな未来は何処にあるんだ?」
激怒する司を眺め、デキシンズは小さく溜息をついた。
「……君はプロトタイプの創造MSなのに、おかしなことを言うんだね」
「おかしなことだって!?」
「だって、そうじゃないか。俺達創造MSの喜びはマスターの役に立つこと。それ以外に何があるんだい?」
ずいっと一歩近寄って、司は語気を強めた。
「創造MSは実験体なんかじゃない。たとえ作られた命だとしても、僕達は人間だ。人間なら、恋人と暮らしたり家族を持つ権利ぐらいあるだろう。君は望まないのか?そういった幸せを!」
熱く語る司に対し、デキシンズは飄々と受け流す。
「幸せなんて人それぞれだろ?ツカサ。俺にとっての幸せは、マスターの意志に従う事さ」
「なら、どうして僕を逃がそうとする?」
一瞬だが、デキシンズの瞳が怯むのを司は見た。痛い箇所を突かれた、とでもいうように。
そこを逃さず、さらに司は畳みかける。
「君だって、本当は別の幸せを望んでいるんじゃないのか?マスターの為に死ぬ未来ではなく、愛する誰かと添い遂げる未来を夢見ているんじゃないのか!」
どこまでも強気の司に対し、デキシンズは「なら」と震える声で言い返すのが精一杯だ。
「ツカサ、そう言う君こそ、どうなんだ?君の思い描いた未来は、見つかったのかい?添い遂げたい誰かなんか千年間に一人もいなかった、なんて言うつもりじゃないだろうね」
不意に熱気が止んだ気がした。
おや、と思ってデキシンズが司を見やると、彼は俯きがちにポツリと答えた。
「……いたよ。葵野有希が、いた。だけど僕は僕自身の夢を叶える段階で、彼女を失ったんだ……!」
その頬を一筋の涙が伝い、流れ落ちる。
触れてはならない心の傷に触れてしまったのだと気づいてデキシンズは慌てたが、彼が慰めるまでもなく自力で立ち直った司が、いきなりデキシンズを抱き寄せる。
「ツ、ツカサ、何を?」「シッ!」
物陰へ強引に連れ込まれたかと思うと、間髪入れずに廊下を黄色い軍団が走り抜けていった。
口々に「ギルギスの片割れを探せ!」だの、「まだ、そう遠くへは行っていないはずだ!」と騒ぎながら。
完全に彼らの背中が見えなくなってから、司が小さく囁く。
「どうやら君の謀反は、もう皆へ伝わってしまったみたいだな……どうするんだ?これから」
じっと司を見つめていたデキシンズは、やがて口の端を歪めて不敵な笑みを浮かべた。
「どうするも、こうするもない。俺は君に従うとしよう」
「僕に?」
「そうさ」
密着したのを幸いとばかりに司を抱き寄せ、耳元で囁いてやる。
「君は、俺のマスターに会いたいんだろ?いいとも、会わせてやる。俺についてきてくれ」
勢いよくデキシンズを突き飛ばして露わな嫌悪を浮かべた司は、それでも一応頷いてくれた。
「……それは、助かる。じゃあ、案内してくれ」
「い、いいとも」
もはや牢屋の中で落ち込んでいた司は、どこにもおらず、目の前にいるのは捕まった時と同じ燃える目をした伝説のMSであった。
さすがは大戦の英雄と讃えておくべきか。
突き飛ばされた弾みで嫌というほど壁に打ちつけた腰をさすりながら、立ち上がったデキシンズが踵を返す。
「こっちだ。俺は姿を隠して行くから、君も見つからんよう気をつけてくれよ」
「判っているさ。君に注意されるほど僕は間抜けじゃないぞ」
背中に英雄の減らず口を聞きながら、カメレオンは、すぅっと風景に紛れ込む。
司なら注意を促さずとも見つかるようなヘマをすまい。伊達に千年もの戦を生き抜いちゃいないはずだ。

――廊下を覆い尽くした紫の霧が、徐々に晴れていく。
巳の印、亥の印、未の印捕獲に駆り出されたダミアンとデミール、そしてジェイファの三人は下っ端軍団と共に乱戦となった末、デミールの吐き出した毒霧に包まれる。
奴の吐く毒は、ひとたび吸い込めば全身が痺れて動けなくなる。
ルックスも該も、この毒で捕獲されたのだ。
左右を挟まれた袋小路、今度も逃げ道はない――はずだった。
天井から飛び降り、人の姿に戻った瞬間、鋭い殺気を感じたデミールは間一髪、横合いから放たれた蹴りを本能で避けきった。
「なかなか素早い……」
蹴ったのは該だ。八方ふさがりの中、どうやって毒霧から身を守ったというのか。
奴の足下に倒れているのは、無能な下っ端ばかりではない。
なんと、ジェイファの姿もあった。既に息絶えているのか、ぴくりとも動かない。
「どうやって、俺の毒から逃れた?」
デミールの問いに答えたのは、美羽だった。
「簡単ですわぁ。該と、こうして」
彼の唇に自分の唇を重ね合わせ、すぐに身を離した。
「キスして、難を逃れましたのですわぁ」
「無論、鼻での呼吸も止めていたが……な」
表情一つ変えずに続ける該を一瞥し、デミールの眉間には無数の縦皺が刻まれる。
「……ふざけた方法だ」
やはり一度くらっている者を、二度同じ手で捕まえるのは難しい。
不意にドサッと音がして、そちらをデミールが横目で見やれば、気絶した下っ端をどかして立ち上がったアリアと目があった。
「あなたの仲間は一人、美羽さん達が倒しました。他の人達は、あなたの毒にやられて、このざまです。もう止めましょう。こんな戦いは無意味です」
生意気にも指図してくる小娘を「ふん」と鼻で嘲笑い、デミールは応えた。
「貴様等も十二真獣だというのならば、どちらかが死ぬまで戦い抜いてみせろ。お互い、どちらが優れているのかを見極めようではないか」
デミールの挑発に乗ることなく、美羽が言い返す。
「それが無意味だと言っているのですわぁ」
該も隣へ並び、言い添える。
「俺達は優劣などに興味がない。ただ、MSを人間として扱って欲しいだけだ」
二人の主張はデミールの嘲笑で途切れさせられた。
「フン、人間だと!貴様等は、自分が人間だとでも思いこんでいるのか。哀れだな!」
「では、あなたは創造MSが人間じゃないと言いたいんですか!?」
若いアリアが挑発に乗り、デミールはここぞとばかりに言い放つ。
「当然だ!我々は所詮、人の手で作られた生命体に過ぎんッ。人間とは、マスターのように人の腹から生まれ落ちた者を指すのだ」
「いいえ、違います」
美羽と該を庇うように立ち塞がったアリアは、かぶりを振る。
ピクリとデミールの片眉が跳ね上がった。
「何が違うというのだ」
「私もあなたも、そして該さん達も人間です。たとえ産まれる行程は異なったとしても、人としての心を持つ以上、私達は皆同じ人間です!」
「屁理屈だ!」
癇癪を起こしたデミールが彼女に殴りかかるも、寸前で該に受け止められる。
続いて放たれた上段の蹴りをも払いのけ、該はアリアを守る形で一歩前に出た。
「アリアの言うとおりだ。俺達のマスター剣持穣治は、俺達を人間として世に送り出した」
「彼の志を受け継ぐワタクシ達も立派な人間。ということですわねぇ」
美羽が締めくくり、改めて三人と一人は対峙する。
「あなたもMSなら、この戦いが如何に無意味か判るでしょう?MS同士が戦っても、意味がないんです。悪いのはMSを人間扱いしようとしない社会――」
「黙れッ!!」
アリアの必死な説得は、デミールの怒号で掻き消された。
「黙れ、黙れ、黙れッ!!我等はマスターの名の元に、新たな世界を創り出す礎となる!輝かしい未来の為ならば、この命とて惜しくはないッ!」
ヒステリックにわめく彼を呆れた視線で眺め、美羽が肩をすくめる真似をする。
「……アナタにとっては、そうなのかもしれませんけどぉ」
ですが、と後方を見据えて小さく口の中で呟いた。
「他の方は、そう思ってはいらっしゃらなかったようですわねぇ」
「黙れェェェッ!!!」
瞬く間に蛙へと変身したデミールが後方へ飛び退き、思い切り息を吸い込む。
その体が不意に激しく震えたかと思うと、蛙は無様に落下した。
「……黙るのは、貴様だ……!」
蛙の背後から現われたのは、黄色い服に身を包んだ紫髪の男、ダミアンだ。
毒を目一杯吸い込んだせいなのか顔は真っ青、足下もおぼつかない。
突き出された手は血で濡れていた。
自分の血ではない。先ほど手刀で貫いた蛙MS、デミールの血だ。
デミールへの攻撃が最後の一撃だったのか、がくりと膝をついたダミアンに、美羽の声が降ってくる。
「アナタも、無駄な抵抗をやめて下さるかしらぁ?」
「……引き際は心得ているつもりだ」
毒が全身に回ったのでは、いくらダミアンとて抵抗する気力もあるまい。
「行け……地上へ出る道は、東練の階段が一番の近道だ」
それだけ言うと、力尽きたとでもいうように床へ身を横たえた。
「あの、治療しなくても大丈夫なのですか?」
今更のようにダミアンの容態を気遣うアリアの手を、該が引っ張る。
「彼らの治療は、彼らのマスターが何とかするはずだ。俺達は一刻も早く友喜やアモスと合流するべきだろう」
美羽はというとアリアに構うことなく、さっさと歩き出していた。
「放送によれば、東練にはアモスと友喜がいるのでしたわねぇ。全く、探す手間が省けますこと」
まだしばらくダミアン、そして彼にやられたデミールが気になっているようでは、あったものの、美羽、該に遅れるようにしてアリアも乱闘の場を立ち去った。

←Back Next→
▲Top