DOUBLE DRAGON LEGEND

第二十四話 追っ手


森の都カルラタータより北へ進んだ先に、古い遺跡がある。
過去に探索されつくし誰も寄りつかない廃墟となって久しいが、今、そこへ向かう人影があった。


「――来たか」
ぼんやりと浮かび上がる大広間にて、円卓を囲むのは十一人の男達。
「遅いぞ、O伯爵」
甲高い声に罵られ、到着したばかりの男は肩を竦めた。
「申し訳ございません」
屈強な体を無理矢理燕尾服に詰め込んだ、そんな風貌である。
甲高い声をあげたほうは、伯爵と比べると年若く見えた。
神経質、そう思えるのは眉間に刻まれた皺の多さ故にか。
「では……K司教、会議を始めよう」
落ち着いた声の囁きを機に、最初に呟いた男が頷く。
灯りに照らされた顔は威厳に満ちており、濃い髭を鼻の下に蓄えていた。
「キングアームズ財団がMSに襲われたのは、皆、知っているな?」
十一人全てが、無言で頷く。
「その際、盗まれた石板は十二真獣絡みであったと聞く。伯爵、それについてはどう思う?」
話を振られ、O伯爵が答えた。
「奴らが狙うのは、十二真獣のパワーアップかと思われます。仲間を増やす、その段階には至っておらぬのではないでしょうか?」
「何故そうと判るのかね?」
先ほどの落ち着いた声に尋ねられ、伯爵はそちらを見る。
「奴らは依然としてエジカ教授の元を動いておりません。仲間を捜す予定であれば、すぐにでも行動を移すでしょう。財団の追っ手が迫る今」
「財団の動きは?」
別の声がK司教へ尋ね、司教は正面を見据えたまま答えた。
「既に追っ手は差し向けられた。奴らは、どうでるか」
「撃退するでしょうね。いざとなれば、彼らは追っ手を殺すかもしれません」と、答えたのは落ち着いた声の主。
灯りに照らされた顔こそは、炎にまかれて行方不明となっていたトレイダーではないか。
「しかし東国の王子様を、財団側はどう扱うつもりかな?下手をすれば戦争になってしまうぞ」
しわがれた声がボソリと呟き、先の神経質そうな若者が遮る。
「奴らは既に王子を拉致するという暴挙に出ているのです!今さら何を恐れる事があるのです」
「財団は東と戦争がしたいのか」
「だが、それではサリア女王が黙ってはいまい」
彼の言葉に、場がざわめく。それらを制したのは、K司教であった。
「東と西が戦争になろうと、我等の活動に支障は出まい。それよりも問題は、奴らが力をつける事だ。これ以上、奴らの手に石板を渡してはならない」
「では、財団をバックアップする方向で動くのですかな?」
しわがれた声が囁き、司教は黙ってO伯爵へ視線を流した。
伯爵が頷く。
「判っております。今しばらく様子を見て、必要とあらば」
司教も頷き、重々しく呟いた。
「そうだ。エジカ・ローランドを暗殺せよ」


花畑の中――
「……やっと見つけた」
ほうけて座り込むウィンキーへ、タンタンは話しかけた。
「みんな、探し回ってるよ?急にいなくなるんだもん」
ミスティルが恐るべき変貌を遂げて、ミリティアが消滅した、あの後。
ようやく事態を把握したウィンキーは、エジカ博士の遺跡発掘キャンプを飛び出した。
嫌だった。事実を認めたくなかった。
ミリティアが、この世から消えてしまうなんて!
それにエジカ博士の憶測が正しいのであれば、ミスティルの野郎はミリティアを――
それも認めたくない。
オレのほうが先に、彼女を好きになっていたのに。
該に奪われるならまだしも、ミスティルなんてポッと出の自称伝説野郎に奪われるなんて。
身を汚されたあげく、消えてなくなってしまうなんて!
彼女の人生って、何だったのだろう。
アテもなく彷徨い、辿り着いたのは、幻影都市の発掘現場であった。
既にロウもサラも引き上げた後だ。
彼らは今、エジカ博士と合流して共に砂漠の発掘作業を行っている。
発掘現場の側には、美しい花畑があった。
そこで呆然と座り込んでいるのを、タンタンに見つけられた――というわけである。
どこか視線は遠くを見つめながら、誰に言うともなくウィンキーが語り始めた。
「あのな、オレな、ずっと前からミリティアのこと、好きやってん」
タンタンは黙って聞いている。
「ミリティアはオレのコト、幼なじみにしか見てくれへんかったけど、それでもよかったんや。一緒にいて、同じコトしとるだけで、幸せやった」
ほとんど瞬きしない目から、すぅ……っと涙がこぼれ落ちる。
「彼女の気ィ惹きたくて、結構バカやった。わざと博物館からモノ盗んだりしてな。追いかけ回されてもオレは信じとった、彼女がオレを助けてくれるって。ホンマに助けてくれたし。オレ、あんま嫌われてないって判ってたから」
涙は足下に点々と染みを作ったが、ウィンキーは涙を拭おうともせず話し続ける。
「傭兵になろう言い出したんはミリティアよりオレのが先やった。けど、あいつ、嫌や言わんかったし。オレのコト、信用してくれてんのや思うとった」
けど、とつっかえて、泣きながらウィンキーがタンタンへ振り返る。
「こんなんなるんやったら、オレら、傭兵にならんほうが良かったんかなぁ?ずっとトレジャーハンターやっとったら、おかしな戦い巻き込まれへんで済んだんとちゃう?」
「それは……」と言いかけて、タンタンも言葉に詰まる。
ウィンキーの言い分は、所詮は結果論だ。
財団もB.O.Sも手段を選ばなかった。街を焼き払い、無差別に人を殺した。
全てはMSを誘き出す為の作戦だったように思えてならない。
もし、あの時、司や葵野が邪魔をしなければ、戦いはもっと広範囲に渡って繰り広げられただろう。
そうなれば遅かれ早かれ、何をやっていようと巻き込まれたのでは……?
タンタンが黙っているので、ウィンキーは、ぐずっと鼻をすすって告白を続けた。
「ミリティア殺したんは、オレや。オレが傭兵やろう言わんかったら早死にすることもなかったんや」
「それは違うよ!」
思わずタンタンは声をあげてから、涙目でこちらを見るウィンキーに動揺する。
普段は陽気なバカのくせに弱気になった彼ときたら、守ってあげたくなるほど母性本能を刺激する表情を、こちらに向けていた。
まさか、イケメンでもない男に胸がときめくなんて。
あってはならない、と自分で自分を戒めながら、タンタンは彼を慰める。
「た、例え二人がトレジャーハンターのままだったとしても、きっと、どこかで争いには巻き込まれていたと思うもん。だから、ウィンキーのせいじゃない」
「……そやろか……」
「そうだよ!あたしの両親だってねー、ずっと平和で暮らしてたのに、戦いに巻き込まれて死んじゃったんだから!!」
もちろん望んで、そうなったわけじゃない。
タンタンの住む村の近くで小規模な小競り合いが起き、結果とばっちりを受けただけの話だ。
飛んできた爆弾が、タンタンの家を含めた四方一帯を吹き飛ばした。
タンタンが生きていたのは両親が彼女を庇ってくれたおかげで、それでも奇跡に近かった。

しばらく、ウィンキーは無言だった。
タンタンも黙って、彼の横に座り込む。

やがて日は落ち、涼しいと言うよりは寒い風が吹いてきて、タンタンは身を震わせる。
横に座るウィンキーが、ようやく言葉を発した。
「ありがとな」
「……うん」
立ち上がる気配に顔をあげ、タンタンが尋ねる。
「皆のところへ戻るの?」
「いや、戻らへん」
きっぱりと首を横に振り、ウィンキーは地平線へ視線をやった。
「ミリティアが、あんなんなった以上、あの野郎と一緒にいるんは嫌や」
あの野郎とは、当然ミスティルの事だ。
無理もない。タンタンがウィンキーの立場でも、絶対一緒に居たくない。
自分が出ていくのもマッピラ御免である。
タンタンなら、ミスティルを逆に追い出してやる。
ウィンキーはタンタンほど勝ち気ではないらしく、自分が出ていく決心を固めたようであった。
「感情的で悪いとは思うけどな。でも、このまま一緒におったら、オレ、近いうち絶対あいつを殺す」
声に薄暗いものを感じタンタンがハッとしたのも一瞬で、ウィンキーはすぐに笑顔を見せた。
「葵野や坂井には謝っといてや。最後まで一緒に行動できんかったって」
「う、うん……で、皆と別れて、どこへ行くつもりなの?」
心配して尋ねるが、ウィンキーには軽く流されてしまった。
「そやな……風任せに旅するっちゅうのも面白そうや」
去っていく背中を見ながら、タンタンは考える。
彼を、このまま行かせてしまってもよいものか。
このままほっといたら、彼、どこかで自殺しちゃうんじゃないだろうか?
だが皆の元へ戻ろうよ、と促す勇気もなくて、結局タンタンはウィンキーの説得を諦めた。

飛び出したウィンキーの行方を戻ってきたタンタンが知らせる頃には、一同の記憶からミリティアの存在は消えつつあった。
ぼんやりと、そのような人がいたような気がしないでもない。
だが、はっきり思い出そうとすると頭が痛くなったり、考えるのをやめたくなるのである。
これが消滅、というものなのだ。
恐らく、今頃はウィンキーも彼女を忘れてしまっているであろう。
何故自分が皆の元を飛び出したのか、それすらも忘れてしまったはずだ。
そうして一日が過ぎ、一週間が過ぎ、一ヶ月が過ぎる頃には火山も樹海も石板捜索は空振りに終わり、一同は、すっかり消沈していた。
「で、猿野郎の行方は、まだ判らないのか?」
苛々した調子で坂井が問うも、エジカ博士が答えるより先にコーティが苛々した調子で割り込んでくる。
「猿野郎など、どうでもいい。石板センサーはまだ完成しないのですか?お爺様」
うぅむとか、それはじゃなと博士が返答に困るのを遠目に見ながら、部屋の隅では葵野や美羽が、だらけた調子で座り込んでいた。
「追っ手が差し向けられたと思っておりましたのに、全然戦いにならなくて面白くありませんこと」
あくびを噛み殺し美羽が言うのへは、該が顰めっ面で答える。
「戦いなど、ないほうがいい。そう思わないか?」
話を振られ、半分夢の中にいた葵野は慌てて飛び起きた。
「あ?え?う、うん、そうだね!」
エジカ博士の石板センサー開発は、難航していた。
資金巡りの問題もあるが、なんといっても技術が不足している。
すぐ差し向けられると予想していた財団の追っ手も全く現れないのでは、彼らがだらけるのも致し方ない。
「あぁ、それにしても暑いですわぁ」
パタパタと手で煽ぐ美羽に、坂井が辛辣な目を向ける。
「なら全部脱いじまえよ。砂漠で黒い服なんざ着込んでいるから暑いんだろうが」
季節は夏に差し掛かっている。
砂漠でなくても、アムタジアの気候は蒸し暑くなる一方だ。
「こんな暑いんじゃ、レクシィも死んじゃうんじゃない?」
坂井のセクハラ発言を、まるっとスルーして、タンタンが不吉なことを呟く。
即座にアリアから窘められた。
「いくら痩せているといっても、この程度の暑さで人は死にません。リオを見て下さい?彼も痩せていますが、ピンピンしていますよ」
そのリオは、外で発掘作業を手伝っている。
博士達は石板が砂漠にあると踏んでいるようだが、こちらの作業も進行が芳しくはない。
「あぁ、暑いですわぁ。該、何とかして下さいませ」
無茶な注文が飛んできたからというわけではないが、該は不意に立ち上がる。
「見回りをしてくる。美羽は此処で休んでいてくれ」
声をかけるまでもなく、美羽が立ち上がる気配など一ミリもない。
代わりに立ち上がったのはミスティルだ。
ニヤリと野性的な笑みを浮かべて、彼も言った。
「俺も一緒に行こう。美羽は来るなよ」
なんでアナタに指図されなくてはいけないのと美羽が言い返すよりも先に、二人連れだって出ていくのを横目に眺めて坂井が呟く。
「筋肉達磨が二匹出てったおかげで、多少は涼しくなったな」
「ついでに、あんたも出ていけば、かなり涼しくなって助かるんだけどォ」
間髪入れず突っ込んだタンタンは、坂井と美羽の両方にジロリと睨まれた。
……気に入らない。
こいつらの嫌味はともかく、何故ミスティルは美羽に来るなと念を押したのか。
該と二人きりになって、何をするつもりだ?
何かするつもりなら、たとえ鬼神といえども許さない。
美羽は憤然と立ち上がる。
「お、嫉妬のストーカーがご出陣だ」といった坂井の嫌味を聞き流し、外へ出た。

部屋でゴロゴロしているよりは、体を動かした方が有意義だ。
そう考えての見回りだったのだが、それにミスティルが食いついてくるとは意外であった。
「気がついたか?」
外へ出た途端、眩しい太陽に眼を細めていると、背後から声をかけられる。
「何に?」
尋ね返しつつ、周囲の気配を探った該もまた、ミスティルが何に気づいたのかを把握する。
「大群の移動だ。東からやってくる――恐らくは、ここを目指しているな」
やっと財団の仕向けた追っ手の登場か。
一ヶ月も音沙汰なしとは、随分ゆっくりとした刺客だ。
しかし何故、東から現れる?東に財団の支部などあっただろうか。
該はミスティルを見た。嬉しそうに笑っている。
こいつも美羽と一緒で、殺戮が楽しくて仕方ないタイプの人間だ。
財団に勝るとも劣らない、恥ずべき人間のクズである。
「皆に知らせるか?」
嫌悪感を隠そうともせず該が尋ねると、ミスティルはニヤリと笑い、首を振る。
「まだだ。はっきり来たと判った時でいい」
はっきり来たと判るほど接近してから教えても、遅すぎるのでは?
せめて美羽にだけでも知らせておかなくては。
踵を返してキャンプへ戻ろうとする該を、ミスティルが引き留めた。
いや、いきなり背後から抱きしめたあげく乳首を摘んできたものだから、該は全身総毛だってしまった。
「何をする!?」
振り解こうと暴れるも力を込められては振り解けず、背後で笑う気配が伝わってきた。
「最近、性欲が余りに余っている。貴様を性処理に使わせてもらおうと思ってな」
冗談ではない。美羽以外の者と肌を寄せ合うなんて、該は御免だ。
「リラルルがいるだろう!あの子を使えばいいッ」
「馬鹿を言うな。あの子は俺の娘だ。妻ではない。それに」
ゴツゴツとした指が、ズボンの上から該の膨らみをなぞってくる。
思わず出そうになった声を、該は咄嗟に両手で押さえ込んだ。
「俺の半身が、貴様を犯せと囁いてくるのでな。やらせてもらう」
ミスティルの半身。
名前は思い出せないが、確かに存在していた。
彼だったか、彼女だったか、それすらも覚えていないけれど、そいつが何故俺の事を?
大体、ミスティルもミスティルだ。
こいつは虎の印が好きだったのでは、なかったのか?
彼の愛したシーザーは、いない。
だが代わりに坂井がいるのだから、そっちを襲えばよいではないか。
「……ぁっ、や、やめろ、ミスティル……ッ」
しつこく膨らみを揉みほぐされている。
ゾクゾクと背中をかけまわるのは快感なのか、それとも悪寒なのか。
悪寒であって欲しいと該は思った。美羽以外の者に、感じさせられたくない。
片手は膨らみを弄びながら、ミスティルの力強い腕が該のズボンと下着を降ろしてゆく。
「後ろは、もう使ったのか?」
後ろ?
何を言われているのか判らず沈黙する該の、尻の穴に太い指が差し込まれた。
「ひぅッ!」
瞬間的に悲鳴を発し、ビクゥッと仰け反った該を見て、太い声が嘲笑う。
「尻は未開発か。美羽め、貴様の"男"に遠慮していたと見える」
指は遠慮無く該の中を、内側の肉を突き回す。
「や、やめ……ミスティル、やめてくれッ」
涙ぐみながらも該は抵抗した。
だが、彼よりはミスティルのほうが力も体格も勝っている。
逆にそうした該の様子が、ミスティルの嗜虐心を煽ったのだろう。
上着も脱がされ全裸になった該の上に覆い被さると、無理矢理唇を啜った。
ミスティルの舌が口の中で逃げ回る該の舌を捕まえ、絡み取られる。
抱きしめる腕の力は強くなり、該の両目に溜まっていた涙が、こぼれ落ちた。
力の前に屈した、悔し泣きであった。
「……ふん、女のようにメソメソしやがって。だから俺は貴様が嫌いなのだ」
散々襲っておいて、今さら、そのようなことを言われても。
だったら、最初から放っておいてくれればいいのに。
ジロッと無言で睨みつける該を鼻で笑うと、ミスティルはもう一度彼を押し倒した。
「だが、肉付きは良くなった。シーザーほどではないが、男としての魅力は増したな。亥の印よ」
ガッチリしていりゃ誰でもいいのなら、それこそ坂井を襲ってほしい。該ではなく。
半ば諦め気分で、なすがままにされていると、割合近くから天の声が響いてきた。
「――そこまで、ですわぁ」
天の声にしては、殺気が籠もっている。殺気しかないと言ってもいい。
声のするほうへ該が視線を向けてみると、枯れ木のような足が見えた。
続いて細い胴体が見え、最後に見えたのは瞳ばかりが大きな少女の顔と、彼女の頭上に鎮座する蛇。
美羽を頭に乗せた、Dレクシィが立っていた。
「ディ……レクシィ?」
意外な顔に、該は唖然とする。その彼を、蛇が叱咤した。
「ミスティル如きに、アナタは何をやっているのかしらぁ?さっさと振り解いておしまいなさいッ」
それが出来れば、最初から押し倒されたりなどしない。
先にミスティルが起き上がり、不敵な笑みを浮かべて美羽と少女を睨みつけた。
「随分と早いご到着だったな」
「外へ出たら、この子と出くわしまして。この子の勘を頼りに、アナタ方を見つけましてよ」
「ついてくるなと言ったはずだが?」
「おかしいと思いましたのよ。アナタが該と二人で行動するなんて。それが案の定」
キッと鋭い眼差しを向けて蛇が睨み返す。
「該に手を出すようであれば、例え鬼神、アナタといえどもタダでは済ませませんわぁ」
彼女を頭に乗せたレクシィも加勢した。
「ガ……ガイ、ミワ、悲しませる、ダメ……ダメな人、には、レクシィ、も、力、使う……!」
辿々しい言葉遣いだが、決意のほどはカッと見開かれた大きな瞳を見れば、よく判る。
彼女も、美羽に負けないほど怒っていた。
握りしめられた拳が、ブルブルと怒りで震えている。
レクシィが話す処を、該は初めて見た。
話せたのかという驚きと同時に、美羽の味方をしている少女に好感を持った。
該を見つける為にレクシィの勘を頼ったという話だから、探す行程で二人は仲良くなったのだろう。
美羽が少女に優しくしたというのは、アリアの件を考えると少し意外な気もしたが……
「……なるほど」
ニヤリと口元を歪ませ、ミスティルがレクシィを見た。
「十二真獣は、意外と早く集まるかもしれんな」
意味不明な事を言い出した挙げ句、独りごちる彼に苛ついたのか、美羽はシャーッと威嚇の音を発した。
「それよりも。二度と該に手を出さないと、誓っていただけますかしらぁ?」
「……いいだろう」
責められている立場だというのに、偉そうにミスティルが頷く。
「どうせ、暇を持てあましての遊びに過ぎん。該、美羽に先ほどの話を伝えてやれ」
さっさと歩き出す。
去りゆく背中を睨みつけ「本当に判っているのかしらぁ」と不満そうに呟く美羽だが、すぐに該を振り返ると愛おしそうにすり寄った。
「該。これに懲りたらワタクシと別行動を取ってはなりません。判りましたわねぇ?」
ひんやりとした鱗が気持ちよい。
嫌な感じに火照ってしまった体を冷ましてくれる。
「あぁ、すまない二人とも。心配をかけた」
該は即行で頷くと、先ほどの話を二人に告げる。
すなわち、財団の追っ手が大群となって、こちらに迫りつつあるということを。

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