DOUBLE DRAGON LEGEND

第一話 西の傭兵・東の傭兵


道なき砂漠を歩く、人影が二つ。
ずっと遠くから歩いてきたのだろう。彼らは、ひどく疲れているように見えた。
目にも鮮やかな黄色のモヒカンを立てた、陽気な顔つきの青年が肩を落とす。
「せっかく都市まで来たってのに、収入ゼロなんてホンマついとらんなぁ?なぁ相棒」
相棒と呼ばれたのは、先を歩く女性。
真っ赤な髪の毛も目をひくが、もっと目をひくのは、その麗しい美貌だ。
加えて真っ赤なゴシックスカートが、まるで砂漠に咲いた一輪の花のようでもあった。
青年の言葉に頷くでも反論するでもなく、きゅっと口をへの字に結び黙々と歩いている。
無言で歩き続ける彼女の背中、バッグのひもを引っ張って無理矢理足を止めさせると、最初に喚いた方が、じろっと彼女を睨みつけた。
「くらッ!ミリティア、話しかけられたら、ちゃんと相手せんかいッ」
「……あのねぇ」
くるりと振り返り、ミリティアと呼ばれた女性は大きく溜息をつく。
「砂漠都市を追い出されたのは、貴方のせいでございましてよ?ウィンキー。貴方が盗みなんかやらなきゃ私達は、宿屋を追い出されることなんかなかったのだわ」
ウィンキーは口を尖らせて、即座に反論した。
「あのなぁ。ありゃ〜親切心っちゅうねん。オバハンの財布拾うただけやんか」
「親切心、ねぇ。親切でおばさんの財布から300ドル引き抜いたの?」と、ミリティア。
痛烈な一言に、だがウィンキーだって負けちゃいない。
「ありゃー手数料や。タダで人の親切受けようたぁ、図々しすぎってもんやで」
その説明でミリティアが納得するでもなく、彼女は先ほど起きた事件のことも引き合いに出す。
「博物館からGパーツを盗もうとしたのも、親切心の手数料なのかしら?」
ウィンキーは、こともあろうに博物館で展示されているパーツを盗もうとした。
勿論、手に取った途端、やかましいほどのサイレンが鳴り響いたのは、言うまでもない。
おかげで、この暑い砂漠の中を、警備員と追いかけっこするはめになったのだ。
彼には反省を知ってもらいたい。
「あ、あれは旅費や!旅費を恵んでもらおうと思たんや。いわゆる真心を頂戴――」
ウィンキーが言い訳を探すよりも早く、背後から渋いバスの響きでの一喝が轟いた。
「我が国では博物館から盗んだ物を、真心とは言わない!」
「ギャア!」
ピョンッと飛び上がり、自分の影へウィンキーが逃げ込むのをジト目で睨んでから、ミリティアは改めて背後の人物に目をやった。
「追っ手ですか?盗んだものは返したはずでしてよ。それとも、私達を投獄しなきゃ気が済まなくて?」
両手をあげて抵抗の意志はないという意思表明をしながら、相手をじっと観察する。
まず目に入ったのは屈強な胸板。腹筋なんか、くっきり割れている。
続いて、ミリティアの胴回り以上はありそうな二の腕。
樹木をへし折ることなど、この男になら簡単な造作かもしれない。
男は「我が名はアモス・デンドー」と声高に名乗り、ミリティアを真っ向から捉える。
「我等が王は寛大だ。お前達が心を入れ替えるならば、よい条件を与えると申している」
「……どういうことかしら」
首を傾げるミリティアにアモスはニヤリと口の端だけで笑い、彼女の背に隠れるウィンキーを見据えた。
「お前達がMSなのは、警備員達の報告で既に知っている」
あぁ、とミリティアにもウィンキーにも、思い当たるふしはあったようだ。
警備員に追いつかれそうになったウィンキーを助けるため、一度だけミリティアは変身したのだった。
天を焦がすが如くに燃えさかる鳳凰が、突如砂漠に現れたのだ。
軽く混乱、恐怖が警備員達を襲い、皆が怯んでいる間にウィンキーは博物館の裏口に走る。
そして、盗んだものを返してきたというわけだ。
「我等が王は、お前達の力を借りたいと望んでおられるのだ。ついてこい」
我等が王というのは、砂漠都市を治めるキュノデアイス王のことで間違いなかろう。
彼の元に、このような乱暴そうな戦士がいたとは意外だ。
キュノデアイス王は、平和主義というふれこみで有名なはずなのだが――
しかし同行を断る理由もない。
手持ちの路銀も、そろそろつきそうだ。
ミリティアは、おずおずと頷き、ウィンキーも後ろでコクコク激しく首を振り、二人はアモスの後について砂漠都市の王宮へと向かった。

初めて入る宮廷は広かった。
きょろきょろするウィンキーをミリティアが窘めていると、王が姿を現わす。
「はじめまして、MSの戦士よ。砂漠都市を治めている、キュノデアイス・ロペス・タフガンと申します」
そういって、ぺこりと頭を下げたのは、平和主義で穏和な人柄が国民に愛されている、僅か十七歳の少年王だ。
「なんや王っていうからもっとオッサンかと思うたら、オレらと変わらんガキやん」
さっそくウィンキーが軽口を叩き、傍らのアモスに殴られる。
「あいだぁ!」
「無礼者!キュノデアイス王とお呼びしろっ」
慌てて止めに入ったのは、ミリティアではない。
彼女は、さりげに他人のフリをして明後日の方向を眺めていた。
「いいんだ、アモス」
乱暴を止めたのは、当のキュノデアイス王であった。
ウィンキーとミリティアに微笑みかける。
「えぇと……あなた方の、お名前は?」
無礼を叱られたばかりだというのに、ずずいっと距離をつめるウィンキー。
頭の中身が猿なのか、或いは懲りるということを知らない性分なのか。
彼は陽気に挨拶をかます。
「オレはウィンキー、ウィンキー・ドードー。グリーンサウスパークは知っとるか?こっから西に進んだ所にある街やで。あそこでトレジャーハンターをやっとったんや」
ミリティアも振り返り、軽くスカートの端を摘んで軽く会釈した。
「はじめまして、王よ。私の名はミリティア・ハピネル。そちらの猿頭と共にトレジャーハンターを営んでおりました」
「おいっ!猿頭たぁ、誰のことやねんっ!」
即座にウィンキーが反論してくるが、それは無視して王に尋ねる。
「それで、私達をこの場にお呼びした理由をお聞かせ願えますかしら」
「そう、二人に頼みがあるんだ。実は……近い内に僕達の国を巻き込んだ戦争が起こりそうなんだ。でもこの国はずっと平和主義で通してきたから、MSがいないに等しい」
どうだろう、と王は二人を見比べ、言葉を締めた。
「砂漠都市の傭兵として、君達を雇いたい。……駄目かな?」
「いやや、なんて言うと思うとんのかいな。オケや、もちろんオッケィにきまっとる」
な?と目で合図され、ミリティアも頷く。
途端に、ぱあぁっと王の顔が歓喜で輝いた。十七歳らしい笑顔で。
「ありがとう!ウィンキー、そしてミリティアも」


西の国で二人のトレジャーハンターが商談をまとめた頃――


東の国。小さな村の広場では、サーカス団のメンバーがチラシを配っていた。
「さぁさ、見ていってちょうだい!どうぶつ旅芸座、本日開演ですよお!」
声を張り上げているのは、このサーカスの看板娘トァロウ。
色気はないが愛嬌はある。そんな娘だ。
「ほら、該。あなたもチラシ配りを手伝って?そんな怖い顔して立っていないで」
真横に立ち仏頂面で考え事をしている青年にチラシの山を手渡そうとしたが、怖い目つきで見つめ返され、トァロウは慌てて視線を逸らす。
昔から該は、こんな調子だ。
けして顔つきは悪くない、いや、イケメンだとトァロウの見立てでは思うのだが……
何故か彼は笑わない。
いつも眉間に皺を寄せ、難しい顔で黙り込んでいる。
サーカス団の中で唯一、誰にも心を開いていない男であった。
「あ、そこのおにいさーん!ちょっと寄っていかなぁい?」
あぶない店のポン引きみたいな呼び込み文句に、声をかけられた者が振り返る。
真緑の髪の毛が目に鮮やかで、善人そうな、だが少し気の弱そうな顔をしていた。
「俺ですか?」
「そうよ。どうぶつ旅芸座、本日開演!夜からの公演だから、見に来てね」
トァロウから、なすがままにチラシを受け取った彼は困ったように立ちつくす。
チラシを渡された如きで戸惑う者など、今時珍しい。
ぽつんと佇む彼の背を、背後からやってきた男が激しく叩く。
目つきの悪さといい、口元のゆがみ具合といい、チンピラヤクザのような風貌だ。
さわやか緑髪青年とは、正反対な印象を受けた。
「おい、何やってんだよ葵野?また俺に探されたいのか――って、何だそりゃ?」
馴れ馴れしい口調からして、男はどうやら緑髪、名は葵野という青年の知りあいらしい。
葵野の手からチラシを横取りすると、一気にビリビリッと引き裂いた。
「あ……っ」
これには葵野だけではなくトァロウも驚き、該もピクリと反応した。
「何するんだよ、坂井!」
葵野が破れたチラシをかき集めようとする。
坂井と呼ばれた男は、イライラしたように葵野の腕を強引に掴んだ。
「あのな、俺達は今日中に首都行かなきゃいけねぇんだっての。こんなつまんねーガキ向けの催し物に構ってる場合か?違うだろ。さ、行くぞ」
「だからって、何も破くことなんかなかっただろ」
引きずられながらも葵野は反論するが、坂井には一蹴される。
「チラシ持ってったってゴミになるだけだろが!なら今捨てとくのが吉ってもんだ」
しょんぼりと項垂れ、坂井に引きずられるようにして葵野も公園を去ってゆく。
その後ろ姿を見送りながらトァロウが、ふんっと鼻息と共に罵倒も吐き出した。
「なーに、あれ?感じ悪ぅい」
「変わった二人組だな」
ぽつりと該が漏らし、慌ててトァロウは振り返る。
該が、誰かについて何かの感想を言うなど、滅多に見られない光景だった。
「奴らもMSか」
「えっ、何それ?見ただけで判るもんなの!?」
あぁ、と頷き、彼らの立ち去った方角を一瞥する。
この方角の先には、首都がある。東大陸最大の国家、中央王国が。
ここ最近、東の国々では不穏な噂が流れていた。
近々、戦争が勃発するのではないかという噂だ。
彼らは中央王国へ自分を売り込みに行く傭兵なのかもな、と該はアタリをつけてみる。
まぁ、だから何だと言われると返答に困るのだが……


数日後――該は中央王国へ足を踏み入れていた。
無論、戦争の噂を聞きつけての傭兵志願が目的である。
一人ではない。一人で行こうとしていたところ、運悪く彼を見つけた者が同行した。
タンタン・ジェマインド。
どうぶつ旅芸座の仲間であり、MSでもある少女……いや、女性だ。
あどけなさを残した顔に、ぺったんこの胸。
背丈も該の半分ほどしかないというのに、これでも当年とって二十歳は越えているらしい。
「でも良かったの?トァロウに何も言わなくて」
盛んに流し目を送ってくる彼女を無視して、該は中央王国の入口を見やった。
人の出入りは激しい。
商人、旅人、傭兵と、色々な輩が集まってきている。
噂は本当なのかもしれない。戦争が始まる、という噂は。
「心配ない。置き手紙は用意しておいた」
一、二行にまとめた簡素なものだが、彼女の枕元に置いておいたから大丈夫だ。
「ふぅん……やっぱりガイってトァロウとデキてんの?いつも一緒にいるもんねぇ〜」
ジト目で嫉妬の炎をぶつけてこられたが、それも軽く無視して該が歩き出す。
「あ!ちょっと、おいてかないでよぉ」
トテテと可愛らしく追いかけてくる彼女にも構わず、不意に足を止めた。
「きゃう!」
突然止まった彼にぶつかり、些かわざとらしいほど可愛い悲鳴が後ろから聞こえたが、該の耳には入らなかった。
彼の意識は、前方で展開されているもめ事に集中していたので。

「なんだとこのガキ!もういっぺん言ってみやがれ!!」
怒鳴っているのは、銃を携えている中年の男。恐らくは生身の傭兵だろうか。
怒鳴られて、それでも平然と相手を睨みつけているのは、まだ歳の若そうな青年だ。
青年の顔には見覚えがあった。
確かチラシ配りをしていた時に見かけた、坂井という男ではなかったか。
「何度でも言ってやる。テメェのようなクズは東軍にいらねぇ。荷物をまとめて故郷へ帰んな!」
やたら威勢の良い啖呵に、絡んでいた男も激昂する。
「てめぇ、何様のつもりでいやがる!MSだからってナメてんじゃねぇぞ!!」
「あ〜あ、何やってるんだか。東の国の人同士で争っちゃ駄目だよ、おにーさん」
背後の気配が消えたと思えば、いつの間にか追い越したタンタンが彼らの間に割り込んでいた。
突然の、しかも幼女の仲裁に二人の男も戸惑うが、すぐに両者とも我に返る。
「なんだテメェは!? 人の争いに口突っ込むんじゃねェよ!」
仕方なく、該も口を挟む。
タンタン一人に任せていては、状況が悪化すると思ったのだ。
「喧嘩を止める気はない。だが彼女の言うとおり、今は同じ国の人間同士で争っている場合でもない」
「一人前に説教たれるッてのか!? ムカツクガキ共だぜ!!」
該の鼻っ柱を殴ろうと襲いかかってきた瞬間、男は「ひぎゃあああ!」っと情けない悲鳴を上げた。
尻を押さえて、はね回っている。
尻はズボンの上からズタズタに切り裂かれ、幾つもの赤い筋からは血が流れ出していた。
「……やりすぎだぞ、タンタン」
該のツッコミに「あたし、何もしてないよぉ」とタンタンは鼻の穴を膨らませる。
よくよく見てみれば、変身したのは彼女ではなかった。
彼女の背後には、虎が一匹控えていた。
坂井がいなくなっていることからも、この虎が誰であるかは、お察しだ。
「やはりMSか」
呟く該の前で、虎が青年の姿に戻る。
「そういうテメェらもMSか?」
その間に尻を裂かれた男は「覚えてろォ」と、お約束の言葉を吐いて一路脱兎。
坂井は該へ向かって、きっぱりと言う。
「弱い奴ほど、できもしないことを平気で口にする。そんな奴に、この国を守る兵士になる資格などないと思わねぇか?」
強い視線を真っ向から受け止め、該も尋ね返した。
「……奴は何をくちにしたんだ?」
「悪の根を断ち切るのは俺達だ。あんなクズに出来るわけがねぇ」
「悪の根?」と今度はタンタンも尋ねるが、坂井は肩を竦めてみせただけだ。
目つきから鋭さを消し、やや柔和な表情で彼が聞く。
「そういや、名前を聞いてなかったな。あんたらの名は?」
「タンタンだよ♪」
ちっちゃな手を伸ばしてタンタンが握手を求め、該も一礼した。
「景見該。……お前は?」
「俺は坂井。坂井達吉っつーんだ。まぁ、立ち話もなんだ、その辺の茶屋に入ろうぜ」
タンタンの握手をさりげにスルーした彼の先導で、大通りの茶屋に入った。

茶屋に入るや否や、坂井を呼ぶ大声がした。
「坂井ーっ、こっちだ、こっち!」
見ると、目にも鮮やかな緑の髪をした青年が笑顔で手を振っている。
彼の顔にも見覚えがあった。確か葵野と呼ばれていたはずだ。
「おぅ。葵野、買い物はちゃんと済ませといただろうな?」
椅子やテーブルを器用に避け葵野の席まで近寄ると、坂井は乱暴に腰掛けた。
「ああ、バッチリだ。下着に非常食……って、こちらの二人は?」
ちらっと葵野に視線を向けられ、タンタンは、にっぱぁぁ〜っと微笑みかける。
「タンタンだよ♪よろしくねっ、おにーさんっ」
「ど、どうも。えっと、そちらの人は……?」
ドン引きしつつ引きつった笑顔でタンタンに応えると、葵野が該を見た。
無言で会釈する該を坂井も横目に捉えながら、彼の代わりに紹介する。
「景見該っていうんだとよ。こいつらもMSらしいぜ?変身するトコ見たわけじゃねぇが」
「景見……東国の人か。よろしく、葵野力也って言います」
にっこり微笑まれ、手を差し出された。
該は少し戸惑った後、握手に応えようと手を伸ばしかけるが――
横合いから、タンタンが葵野の手をがっちりと両手で握りしめるもんだから、伸ばした手を引っ込めた。
「うん、よろしくぅ♪」
「う……うん」
該と握手したかったのであろう。葵野は明らかに迷惑そうであった。
それでも振り払わないのは彼の優しさか。
いや、初見で気弱に見えた原因はコレであろう、と該は思った。
「ところで……ガイはともかく、タンタン。あんたは、どう見ても西の人間だよな?どうして東につこうって思ったんだ?」
坂井にツッコミを受け、タンタンは迷った目で該をチラ見した後、しどろもどろに答えた。
「えーと、まぁ、該が、ここへ来るって言うから?」
「なんだそりゃ。金魚の糞かよ」
即座に吐き捨てる坂井へ、改めて該が答える。
「俺達に故郷はない。どちらでも良かったんだ。それに……」
「それに?」
葵野が促す。
「戦争で泣くのは、いつも幼い子供や女達だ。俺達は悲劇を長引かせたくない」
「故郷はないって、お前は東でこいつは西の人間だろ?」と坂井が言うのへは、タンタンが答えた。
「うぅん。あたし達、戦災孤児なの。サーカス団に拾われて、今は巡業中なんだよ」
「へぇ……じゃあ、サーカスでは何をやってるんだ?」
何故か目を子供のようにキラキラさせた葵野に勢い込んで尋ねられ。
やや引きながらも、該は教えてやった。
「俺はナイフ投げと火の輪くぐり、タンタンは綱渡りと曲芸を披露している」
じろじろと該を品定めする視線で眺め回し、坂井はボソッと呟いた。
「へぇ、お前が火の輪くぐりねぇ。火の輪くぐりって、どう考えても動物扱いだよな……」
坂井の言うとおり、サーカス団ではMSも動物と同じ扱いを受けている。
だが、あえてそこまで説明してやることもない。該は無言で締めくくった。
「ところで……一つ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
葵野が切り出し、該もタンタンもコクリと頷く。
「いいよ〜何でも聞いちゃって!」
「二人とも、『死神』MSは知ってるか?西の砂漠都市に、やつが現れたという噂を耳にしたんだけど……何か知らないか」


死神MS――
この世には、英雄と呼ばれる偉大なるMSが五人存在しているという。
幾つかの伝承にも登場し、強力な能力を持ち、幾多の戦乱を終わらせてきた功績者だ。
彼らは、その強さを称えられ、それぞれに称号をつけられた。

真っ白な翼を背に持ち、雄々しく空を駆ける『白き翼』
黒の衣に身を纏い、向かう者全てを手に持つ鎌で地獄送りにした『死神』
天に昇る龍の化身で、慈愛と癒しの力で皆を助けたという『神龍』
全身から放たれる炎は、草木一本も残さず焼き尽くした『鬼神』
いつの世でも誇り高く、正々堂々と戦いを挑んだ『騎士』


「他にも、白き翼が西につくという情報も聞いてるしな。んで、俺達は東について奴らを倒すことに決めたってわけよ」と、坂井。
「白き翼に死神ねぇ……太古の化石が今さら戦争に参加?なんかピンと来ないなぁ」
タンタンが呟く中、該が不意に戸口へ向かう。
「あ、どこへ?おトイレなら店の奥だよ」と止める葵野へ振り返ると、彼は言った。
「噂を確かめに行く」
えっとなるタンタン、葵野の横で、坂井が目を光らせる。
「いい考えだな!よっしゃ、葵野。俺達もいこうぜ!気になる噂は自分で確かめるべきだ。そうだろ?」
「え?」
「おいガイ、俺達とお前らで分散して、それぞれの噂を突き止めてこようぜ。俺らは砂漠都市へ行ってくっから、お前らは首都な!」
「え、ちょっと、坂井??」
「よかろう。では」
ぺこりと該は頭をさげ、店を出て行く。
「ちょ、ま、あたしを置いてくな、コラ!」
慌てて、ちょろちょろとタンタンも出ていく。
未だ状況を把握できていない葵野は、坂井に腕を取られて立ち上がらせられた。
「え、え、え?」
「さ、行くぞ。目指せ、砂漠都市!」
「砂漠都市って?西の国じゃないか、俺達は中央国の傭兵になるんじゃなかったのか?」
それには答えず、坂井は手を挙げて店長に気安く叫ぶ。
「あ、オッサン、勘定はつけといてくれや。もちろん、こいつの実家にな!」
「アイヨ!ったく、小龍様にツケさせるなんて馬鹿は、お前ぐらいなもんだよ。坂井」
店長の嫌味も、調子に乗っている坂井には届かなかった。
「ハハハ、褒めんなオッサン!じゃあなッ」
威勢良く椅子を蹴倒し、片手で葵野を引っ張って、坂井は意気揚々と店を出る。
向かうは、西の大陸にある砂漠都市!

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