2022誕生日短編企画:沙由のお誕生日
陸地にあがったばかりは人間との衝突を避けられなかった魚人も、やがて人権ならぬ地上生活権を得て今に至る。全ては二崎 沙由、己の妻が橋渡しに尽力を注いでくれたおかげだ。
サザラは沙由と結婚して、二崎の苗字を受け継いだ。
結婚といっても身内での取り決めに過ぎないが、三児が産声をあげる頃には兄も許してくれたように思う。
今、瓦礫の町には家が立ち並ぶ。
人の家もあれば魚人の家もあり、人と魚人が共存している。
迫害されていた立場を、ここまで覆せたのも、沙由が人の身でありながら矢面に立って魚人に味方してくれたおかげだ。
本当に、彼女には何度感謝してもしたりない。
一生かけて礼を返していこう。
魚人に配慮して、空気を汚す乗り物は一切の開発が禁止された。
だから町が復興してもバスや電車は復活せず、人々は徒歩で移動している。
歩きつかれるほど、この町は広くないし、必要以上に物を欲しがらなければ不自由もない。
ねぇ、おかあさん
傍らを歩く娘の美沙が、沙由を見上げて笑う。
もうすぐ、おかあさんの誕生日だよね
プレゼントなにがいいかって、お父さんが
沙由も微笑み、娘へ答えた。
それじゃ
お父さんには、ケーキをお願いって言っといて
本音を言うと、誕生日のプレゼントなんか何だっていい。
祝ってくれる。その気持ちが一番うれしい。
でも、はっきり言わないと二人とも困ってしまうだろう。
了解、誕生日にはケーキ!伝統だよね
娘と手を繋いで歩く。
他愛ない会話で笑いあう。
改めて思う。
大地震が両親や友達を全て飲み込んで、一人だけ生き残ったのだと知った、あの時。
絶望のあまり、勢いで死んだりしなくて良かった。
生き残れて良かった。
サザラと出会えて良かった。
誕生日を何度も迎えられるほど長く生きられて、本当に良かった。