やまだくんはおれがまもる

アキラくんとわっしょい!

アキラが山田から秋祭りの話を聞かされたのは、一時間目が終わった後の休み時間だった。
「どんなことをやるんだ?」
「どんなって、まぁ、屋台が出たりパレードが出たり、屋内じゃパフォーマンスや手品なんかもやってたっけ。あとは……御輿を担いだりもするかな」
「御輿!」
御輿と聞いて、アキラの瞳が輝きを増す。
それに気づいた山田は話を促した。
「アキラくんは御神輿、好きなの?」
「あぁ!前の街じゃ、よく担いでいた。やろう!山田くんっ。一緒に御輿を担ごう!!」
だが、山田の返事たるや。
「え〜?いいよ、僕は……」
なんとも気のない返事に、アキラのテンションも、やや下がる。
「どうして?」
「どうしてって、恥ずかしいし。ここらの御輿って、あっ、商店街のお祭りなんだけど、秋も夏も御輿はハッピに褌だぜ?恥ずかしくって着られないよ」
山田の住む界隈のお祭り実行委員会は御輿大好き人間で構成されているのか、夏にも秋にも御輿が出る。
大人用と子供用の二つだ。
高校生は大人用に組み込まれる。
どちらも上はハッピで下は褌と決められているので、恰好を気にする山田が恥ずかしがるのも納得であろう。
しかし、アキラはキョトンとして聞き返す。
「ハッピに褌のどこが恥ずかしいんだ?祭りらしい恰好じゃないか」
「え〜?だって褌だよ?お尻丸出しだぞ。上は裸にハッピだし、そんな露出狂みたいな恰好で道路を練り歩くなんて恥ずかしくてやってらんないよ」
これは、二人の価値観の違いというやつかもしれない。
「そうか。じゃあ俺だけ参加する。山田くんは見ていて欲しい」
どうあっても御輿担ぎに参加する気満々のアキラを最初の頃こそ呆れた視線で眺めていた山田だが、不意に重大な事実に気づいてしまった。
引っ越してきて早々、アキラはクラスの人気者になった。
近所でも、イケメン高校生として早くも噂になっている。
学校ではカノジョを作るなよ!と釘を刺しておいたわけだが、もし、祭りに参加することでアキラの知名度が一気にあがったら?
学校外でもアキラに粉をかけてくる不届きな女が、いつ何時現れてもおかしくない。
おまけに御輿担ぎはハッピに褌と刺激的な姿だ。
まずい。
変な勘違いガチムチ系まで現れたら、アキラの貞操が危ういではないか!
「アキラくん!」
急に山田が大声をはりあげたので、アキラは驚いた顔で彼を見た。
「なんだ?山田くん」
「僕も御輿を担ぐよ!当日は一緒にワッショイしよう」
アキラが喜んだのは、言うまでもない。


秋祭りの日が来た。
アキラが山田を迎えに来て、二人は揃って商店街のある通りへ向かう。
「屋台って、どんなのがあるんだ?」と、わくわく気分のアキラが尋ねてくるので、山田も答えてやる。
「あ〜、夏と大体同じだよ。ラムネとかコーラとか、あと焼きそばと去年はケバブのお店もあったかな」
「けばぶ?ってなんだ?」
「何だって言われても……まぁ、見てみれば判るよ」
閑静な住宅街を抜けると、国道に出る。
歩道を真っ直ぐ歩いていくと、やがて何本か細道が現れる。
二本目で曲がると、商店街が見えてきた。
山田の家では滅多に此処で買い物をしないのだが、祭りは、しっかりちゃっかり毎年二回とも参加している。
今まで特に何も言われなかったので、向こうも客なら誰であろうと大歓迎なのであろう。
盆踊りは踊ったことがあるが、御輿は一度も担いだことがない。
先も言ったように、ハッピに褌は山田にはハードルが高すぎるファッションだ。
だが、今年は一緒に参加する友達がいる。多少は羞恥が和らぐかもしれない。
一度ぐらい担いでみたいという気持ちは、山田にだって、なくはなかったのだ。
「更衣室、あっちだって」
ユニフォームを受け取ってきた山田が、建物の影を指さす。
プレハブ急造の仮設更衣室だ。
ドアをあけて一歩入った途端、秋とは思えないほどムワッとした空気が二人を出迎える。
「う……湿度、高い……」
入り口で固まる山田の手を取って引っ張っていくとアキラは適当な籠の前で立ち止まり、脱ぎ始めた。
「山田くん、褌の締め方は判るか?」
「え?」
「褌の締め方だ。判らないなら、俺が教えるけど」
「ハ?」と二度聞きしてから、山田は我に返る。
ものすごく山田を着替えさせてやりたそうな表情で、アキラがこちらを見ているではないか。
すぐさま山田は丁寧に辞退した。
「あ、いや、アキラくんが締めるの見ていれば判ると思うよ、うん」
「そうか?」
話している最中でもアキラの手は休むことなくシャツを脱いで、颯爽と籠に放り込んでいる。
続けてズボンを降ろし、パンツを脱いで、それもまた籠へ放り込むのをボォッと眺めていた山田は、再び我に返った。
「わーっ!アキラくん、着替える時はタオルで隠そう!!」
「え?何を?」
「下に決まってるだろ!」
思わずボーッと眺めてしまったが、更衣室にいるのは山田とアキラの二人だけじゃない。
山田が素早く左右を見渡すと、アキラを見ていたらしい男が数人、不自然に視線を逸らした。
やはり来ていたか、勘違い系ガチムチ野郎。
ここらの商店街には、いかがわしいお店――いわゆる風俗店が建ち並んでいる区域もある。
それが買い物へ来ない理由にもなっているが、そうした店の中にはオトコ専門店もあると、山田は人伝えに聞いていた。
アキラは、どちらかといえば筋肉質の部類に入る。
如何にも勘違い系ガチムチ野郎のターゲットに、されそうな体格だ。
自分が相手を好きなのだから、相手も当然自分を好きだと勘違いしている、ナンパマンなガチムチ野郎に。
アキラの胸板に目をやってから、山田は強張った表情でお説教をかました。
「アキラくんがドコ育ちなのか知らないけど、都内じゃ隠すのがエチケットなんだからね?次から気をつけてよ」
「そうなのか。けど、隠していたら褌は締められないぞ」
せっかく渡してやったタオルを下に落とし、アキラは褌を股の間に通している。
山田が周囲に気を取られていた間に、かなりの形まで進行しており、お手本も何もあったもんじゃない。
しかし改めて眺めてみても、褌を下着と呼ぶのは無理があると山田は考えた。
前は一応隠せているけど、後ろは女性の紐パン同様お尻丸出し同然じゃないか。
アキラの尻は肉付きがよく、張りがあって、こう……つい、両手で触って感触を確かめたくなる……
そこまで考えて。みたび、山田は我に返る。
僕は何を考えているんだ?
これじゃ勘違いガチムチ野郎を笑えないじゃないか。
上は前全開、下は尻丸出し状態だというのに、アキラに恥ずかしがる素振りは微塵も伺えない。
きっと故郷の祭りで何度も着ているうちに、この恰好に慣れてしまったのだろう。
アキラの尻ばかり見ている自分に気づき、山田は照れ隠しに話題を振った。
「あ、アキラくんって、そういや、どっから引っ越してきたんだっけ」
「あれ?転校初日に言ったと思うんだが」
「僕は聞いてないよ」
初日に皆がアキラへ質問大会していたのは知っている。
だが山田は、輪の中にいなかった。
あの頃は、むしろ引き気味で関わり合いになりたくなかったので、輪に交わる気も起きなかった。
実際つきあってみればアキラはイイヤツで、皆が好きになるのも判る友人だ。
なにしろ、何の下心もない。
世話を焼きたがる割に、見返りを求めない。
どういう環境で育ったのか、この年頃には珍しい純朴な少年だった。
「そうか。沖縄だ」
「そっか、沖縄か……沖縄ァ!?
「そうだ。沖縄だ」
こともなげに言ってくれたが、沖縄と東京じゃ、かなりの距離がある。
「昔は東京に住んでいたらしいんだが、父が党での仕事を終えた後、沖縄に引っ越したんだそうだ」
「そ……そうなんだ。どうして東京に残らなかったのかな」
「物価が高かったから、と聞いている」
「へぇ……」
あまり裕福な家庭でもなさそうなのに、えらい遠距離引っ越しをさせてしまったものだ。
罪悪感に嘖まされる山田の肩をポンポンと叩き、アキラが輝く笑みを向けてきた。
「山田くん、早く着替えないと御輿が始まってしまうぞ。締め方が判らないんだったら、俺が締めてやる」
見ればとっくにアキラの着替えは完了しており、山田は自分がまだシャツすら脱いでいない事に気がついた。
「え!?い、いいよ!!」
二度も丁寧に辞退したというのに、アキラの手は止まらない。
さっさと山田のズボンを脱がしにかかり、パンツまで下にずり降ろされて「ぎゃあ!」と叫ぶ山田にも、お構いなく。
ぴったり背後に密着してきて、てきぱきと褌を山田の体に回し始めた。
「ちょ、ちょっと、アキラくん……っ!?」
背後でモゾモゾ動かれるたびに、アキラのモッコリが山田の尻に押しつけられる。
パンツを脱がされたので今の山田は生尻である。
そこにアキラの生暖かくも柔らかい何かが、ぎゅっと押しつけられてくるのだから、ヤバイ。こりゃヤバイ。
山田は慌てたのだが、至近距離で背後から抱きかかえられている状態じゃ逃げようにも逃げられない。
「山田くん、動かないでくれ」
おまけにアキラには怒られて、しゅーんとなっている間に、山田の御輿スタイルも完成した。
「うわぁ、こ、これっ、恥ずかしいよ!思った以上に恥ずかしい!!」
股間を両手で押えてしゃがみ込む山田を見て、アキラはクスリと笑う。
「そんなことはない。もっと胸を張るといい、山田くん。とても似合っているし、格好いいぞ。見違えたぐらいだ」
「や、格好良くない!絶対恥ずかしい!!」と喚く山田の手を取って、アキラは颯爽と更衣室を飛び出した。

更衣室を出て御輿の前に集合して、周りの視線が一斉にアキラへ注がれるのを山田は不機嫌に見守った。
今回初参加の新顔というだけじゃない。
アキラが高校一年生にしては背が高くガッシリした体格のせいで、無駄に目立つのだ。
男も女もアキラに注目している。
だが今、特に注意しなければいけないのは、勘違い系ガチムチどもだろう。
奴らとは、一緒に御輿を担ぐのだ。
もし奴らがアキラの背後に来るような事態になれば、危険度オールレッドだ。
奴らを背後に回らせない為には、山田が体を張ってアキラの後ろにつくしかない。
アキラの腕を取り、そっと山田は囁いた。
「アキラくん。僕から離れちゃ駄目だぞ」
アキラは一瞬、え?という顔をしたが、すぐに「うん」と頷いた。
そして、付け足してくる。
「山田くんも俺から離れちゃ駄目だ。一緒に御輿を楽しむんだからな」
もう既に頭の中が御輿で一色だ。
背後ガードしといてよかったと思わざるを得ない。
目の前では、お祭り実行委員会の人が説明をしている。
「えー、御輿を担ぎ上げたら先導係がワッショイとかけ声をかけますので、皆さんもワッショイと、かけ声に併せて御輿を上に持ち上げて下さい。ワッショイ、持ち上げ、前進。このリズムで進みます。いいですね?」
新規へ向けた説明で毎年同じ事を言っているので、毎年見ているだけの山田もルールを暗記してしまっている。
今年は実際に参加するのだ。
ワッショイ、持ち上げ、前進。リズムを外さないよう気をつけないと。
強張った顔でブツブツ呟いていると、アキラがそっと山田の肩に手を置いた。
「山田くん、大丈夫だ。やっているうちにリズムは体に刻まれる」
ちくしょう、格好いい事言いやがって。
だが、アキラは御輿担ぎの達人なのだ。素人は黙って従っておくのが得策か。
「おおお、オーケー。大丈夫、一緒に御輿を楽しもう」
最大に緊張しながらも山田がアキラへ笑顔を向けたところで、出発の号令がかかった。
途端に周りの男達が「オォー!」と鬨の声をあげるものだから、文系の山田はビビりまくりだ。
御輿が、ぐいんっ!と力強く上にあがる。
肩ごと腕を持っていかれるんじゃないかと思った側から、今度は後ろの奴にどつかれて前によろめいた。
「わっ!ご、ごめんアキラくん」
アキラにぶつかり謝るも、アキラから返ってきたのは「ワッショイ!」のかけ声で、先頭を見れば先導係が勢いよく大きな団扇を振り回しながら、ワッショイのかけ声をかけていた。
一発目から、いきなりリズムを外してしまった。
これもそれも、後ろの奴がぶつかってきたせいだ。
結構勢いよくぶつかったけど、アキラは痛くなかったのだろうか。
振り向きもせずワッショイ言っていて、きゅっと引き締まったお尻が目の前でぷりぷり振られていて……
「ワ、ワッショイ、わっ!」
アキラの尻に見とれていたら、また後ろの奴にドンと押されて、山田は咄嗟に前方へ手を出した。
だが前方の背中につく予定だった手は目測を外れ、アキラに思いっきり飛びつく恰好となった。
これには、さすがにアキラも驚いて「やっ、山田くんっ!?」と動揺しまくった目を向けてくる。
さっきから山田一人だけがリズムを外しっぱなしで、恥ずかしいったら、ありゃしない。
えぇい、こうなったらヤケだ、ヤケ。
アキラに抱きついたまま、山田は大声で「ワッショイ!」と叫んだ。
「山田くん、ちょ、ちょっと」
「ワッショイ!」
「あ、あの、その、何か、尻に、当たって……」
「そ〜れ、ワッショイ!」
「山田くん!」
「ワッショイ、ワッショイ!」
アキラに何を尋ねられようと、山田は壊れたレコーダーの如くワッショイを繰り返す。
ぐいぐいと自分の股間がアキラの尻に当たっているのは気づいていた。
だって後ろの奴には押されるわ、前方にはアキラがいるわで、押しくらまんじゅう状態なのだから仕方ないではないか。
御輿担ぎが、こんな汗臭い、暑苦しいものだとは知らなかった。
次回は絶対に参加しない。
おまけにアキラの尻は意外や柔らかくて、否が応にも山田の股間が熱く反応する。
満員電車状態で暑苦しいから熱いのか、それとも尻に欲情したから股間が熱いのか、もう山田本人にも判らなくなってきた。
判るのは、アキラがはっきり山田のモッコリを意識して、慌てている現状だけである。
目元を潤ませて、でも嫌がっているようには見えない。
いくら相手が山田と言えど、本気で嫌だったら肘鉄ぐらいは、かましてくるはずだ。
アキラの性格を考えると。
なおもワッショイワッショイとモッコリをこすりつけていたら、「山田、くん……」と小さく呟き、アキラが抵抗を止めた。
そればかりか、山田の動きに併せて尻を振ってきた。
こすれあう尻とモッコリ。褌ってのも案外悪くない。
いや、前にいるのがアキラだからだ。
これが別の奴との密着だったら、気持ち悪くてギブアップしていたかもしれない。
前にいたのがアキラで良かった。
そしてアキラの後ろが自分なのも、良かった。
前にまわした山田の手が、堅い何かに当たる。
「アキラくん……乳首、立っているね」
耳元で囁いてやると、アキラは視線を明後日に逃がして、押し黙る。
頬が赤いのは、暑さのせいだけではなかろう。
普通にしていればアキラは格好いい部類に入る少年だが、今は、やたら可愛く見える。
全然抵抗しないから?
ガラにもなく泡くって恥ずかしがっているから?
きっと両方だ。
「可愛いよ……アキラくん。食べちゃいたいぐらいだ」
日常では絶対に言えない台詞である。
周りがワッショイワッショイうるさい今だからこそ、言える。
騒音に紛れた告白でも、アキラには、ちゃんと聞こえていたらしく。
「か、可愛い……?」
困ったような、泣きそうな顔で俯いたまま、彼は山田の振動に身を委ねた。

ゴール地点で御輿が降ろされるや否や、山田はアキラの手を取って走り出す。
いつまでも此処にいたら、汗臭さで興奮したガチムチ野郎がアキラに襲いかかってくる危険があった。
なにより、皆と一緒にいたのではアキラの本音を聞けない。
建物の影に転がり込むと、すぐに山田はアキラを問い質す。
「単刀直入に聞くけど。アキラくんは、僕のチンチンに興味があるの?」
驚愕の眼差しが、こちらを凝視している。
単刀直入すぎたか。
ややあって、汗ばんだ前髪をかき上げながら、アキラは目線を逸らす。
「山田くんこそ、あんな密着してきて、俺の体に興味が」
「先に僕の質問に答えてよ」
ちょっと強く遮っただけで、アキラはショボンとなって素直に答える。
「それは……少し」
「少し?少しだけ?にしては、乳首コリコリだったよね?あれって僕に欲情してたんじゃないの!?」
「よっ、欲情なんて言わないでくれ!人を、ケモノみたいにっ」
勢いよく反応した後、アキラは照れた顔で付け足した。
「俺は、言ったはずだ。山田くん、君が好きだと。好きな人の体に興味を持って、なにがおかしい?」
山田もジト目で言い返す。
「僕を好きなら、欲情であってるじゃん。格好つけたって今更だよ」
「そっ、それを言うなら山田くんだって……!」
言いかけてアキラが言葉に詰まるのを見て、山田は首を傾げる。
何故、そこで言葉に詰まるんだ?
『山田くんだって俺を好きだろ、だってチンチンすり寄せてきたんだから!』とか言って、壁ドンなり押し倒すなりすればいい。
好きだ好きだという割に消極的なのが、アキラへの不満点だ。
そんなんだから、見知らぬ女子にラブレターをもらったりガチムチどもに目をつけられたりするのだ。
好きな奴には速攻アタック、そして恋人になって毎日ラブリングだろ!
山田は、やたら積極的な思考の持ち主であった。
ただ、誰かと実際に交際したことは一度もないのだが。
アキラは言うか言うまいか迷っていたようだが、じっと山田を見つめて、ぽそりと呟いた。
「……山田くんは……俺を、好きなのか?」
何故、疑問形?
先ほど『可愛いよ』だなんてクソ恥ずかしい台詞を吐いたのは、どこの誰だと思っているのか。
目の前の男、僕じゃないか。
この期に及んで、あれが告白に聞こえなかったんだとしたら、アキラは相当の朴念仁だ。
「そーだよ、好きだよ」
山田は愛想悪く答えると、アキラが何か反論してくる前に叩きつけた。
「僕も君が好きで、君も僕が好きなら、もう恋人になるしかないよね。アキラくん、僕の親友兼恋人になりなよ」
些か強引で強制ともとれる愛の言葉を。
「こっ、こいっ、びとっ……!!」
アキラは額に汗をびっしりかいて、目をまん丸く見開いている。
なので、山田が「嫌なの?」と念を押すと、すぐさま首をブンブンと真横に振ってきた。
「なるっ!なります!!ならせて下さい!!!
何故敬語?同い年なのに。
やけに下腰に出たかと思えば、不意にアキラは真顔になる。
急な変わり様には山田も驚いて、「な、なに?」と問いかけるのを無視して、アキラが一歩前に出た。
「山田くん。俺は君を絶対に守る。生涯何があっても絶対に、だ」
ぎゅっと抱きついてきた彼の腕の中で、山田は思った。

ここは、キスだろ!!

――と。
↑Top