1.死への招待

ベッドの上の縄をラーは拾い上げ、ぽいっと部屋の隅に放り投げる。
「あんたを縛るなんてキーファも無駄なことさせるなぁ。ロープが勿体ないじゃんね」
部屋に放り込まれた時、ソロンは後ろ手にしばられていたのだが、ラーが近づいた瞬間には、ぶっちぎっていた。
羽仮面がキーファだとすれば、ラーの疑問も納得だ。
ソロンの怪力を知らぬ彼ではあるまい。
本当に、あの仮面男はキーファなんだろうか?
だが、同じ組織に与するラーが彼をキーファだと言い切っているのだ。
今は、それを信じるしかない。
「さっ、やろ?」
ベッドに座り込んでニコニコするラーを押しのけるようにソロンもベッドへあがると、上着を脱ぎ捨てた。
「それはいいがよ。せッかくの再会なンだ、ちッとは話も楽しもうぜ」
「話?話ったって、何を話すつもりなのさ」
キョトンとするラー、その肩に手をかけると彼女を素早く抱き寄せる。
猫の子みたいに小柄な彼女はソロンの腕の中にすっぽりと収まった格好で、嬉しそうに見上げてきた。
「えへへ。そういやソロンとこうやって話すのは、何ヶ月ぶりだったっけ?」
「五ヶ月、いや六ヶ月ぶりじゃねェか?お前、確か娼婦にゃなれなかッたンだよな」
「なれなかったんじゃない!ならなかったの!」
すかさずソロンの間違いを修正し、ラーはプンとそっぽを向く。
二人が所属していた闇組織『クランツハート』は、何も娼婦だけが女性の職業と決められていた訳ではない。
ボスの許可さえ下りれば、女性でも外回りの護衛や闘剣士になることが出来た。
大抵は十五歳から十六歳の間に初戦闘を迎える。
ソロンの闘剣士デビューも、十五の頃であった。
「あたしさぁ、護衛戦士になったんだよ。もうすぐ外デビューって時に、あんなことになっちゃって」
「そりゃ残念だッたな。で?ここに来たのは何でだ?拾われたのか」
ソロンの問いにラーはコックリと頷き、彼を上目遣いに見上げる。
「拾われたっていうか、最初はザイナの魔術師に捕まってゴーモンされてたんだけど」
「拷問?なんだそりゃ、ひでェな」
残党は全て死んだとワルキューレは言っていたが、ザイナロック側に騙されていたようだ。
いや、ザイナ側による情報操作がおこなわれたのだろう。
捕虜をロイスには無断で調べたいが為に。
「そこをキーファに助けられてさ。あいつ、ちゃっかり『シーフ』って組織に紛れ込んでたんだよね」
キーファほどの身のこなしなら、盗賊としてグロリーに紛れ込んでいても誰も不審に思うまい。
得意の軽口で交渉して、シーフのメンバーに収まったのだろう。
盗賊ならば情報収集もお手のもの。
ラーが魔術師団に捕まっているというのも、すぐに調べられたはずだ。
「しばらく『シーフ』に身を置いていたら、今度は『メイジ』に攻め込まれて、そこもオジャンでしょ〜?で、『メイジ』の人質と引き替えに『ファイター』に居候させてもらうことになったってわけ」
だいぶ苦労を重ねてきたようだ。
ロイスに引き取られて優遇されたソロンとは、えらい違いである。
「ソロンは?今まで何処で何してきたの?」
尋ねられたが、それには答えずラーの上着をめくりあげる。
スリムといえば聞こえはいいが見事なまでの幼児体型、凹凸も微妙な胸が現れる。
ティルの胸も小さいが、ラーはそれ以上だ。
だがまぁ一般的な十六歳なんて、こんなもんなのかもしれない。
ランスリーが歳の割にグラマーなせいで、ラーにも少し期待してしまったのは内緒である。
「ねぇってば!教えろよっ」
ラーが急かしてくるので、洗濯板よろしく真っ平らな胸を触りながらソロンは答えてやる。
「ロイスにいた。ま、一応捕虜ッて名目で捕まってたンだがよ。姫様を助けた後は冒険者に昇格さ」
「姫様?姫様ってロイスの?――ひゃんッ」
ソロンの指が胸の先端に触れるか触れないか、という瞬間。
ラーは子犬みたいな悲鳴をあげて、ぎゅっとソロンの腕にしがみつく。
「ちょ、ちょっとやだぁ、どこ触ってんのさぁ!」
抗議の声も聞き流し、キュッキュと乳首を摘んでやると、たちまちツンと立ってくる。
「どこッて、お前がやろうぜッて誘ったンじゃねーか。ギャーギャー言うない」
「だ、だって、あたし、初めてなんだよ!?」
なおもソロンの腕にぎゅうっとしがみつきながら、ラーは喚いた。
「初めてなんだから、もっと、もっと優しく扱ってよォ!」
ソロンの手が動きを止める。
「初めてッて、お前……」
胸はマナ板、背丈もソロンの半分ぐらいしかない小柄な彼女だが、顔は案外可愛かったりする。
それにサバサバした性格の明るさもあってか、組織ではマスコットのような扱いを受けていた。
ラーを好きだと公言して憚らない男友達だって沢山いたのだ。
「グローやレイナーは?あいつらとはヤらなかッたのかよ」
親しかった友達の名前を二、三あげると、彼女はプンプン怒って反論する。
「何それ!やるわけないじゃんっ。なんでアイツらとやらなきゃいけないのさ!」
「なンだよ、気づいてなかッたのか?あいつら、お前のコトが好きだッたンだぜ」
もちろん、ソロンもラーが気に入っていた。
十歳近く離れた、この小娘は、年齢の差など関係ないかのように対等なつきあいを望んできた。
だからこそ、ソロンも友達として彼女を可愛がってきたつもりであった。
「気づいてなかッたって、そ、そりゃあ気づいてたよ?」
かぁっと赤くなりつつもラーは偉そうに腕を組み、挑戦的にソロンを睨み上げた。
「でも、あたしの好きなのはソロンだもん!ソロンじゃなきゃ、イヤだったんだもんっ!」
そんなにも、ソロンの事が好きだったのか?
なら、そうと言ってくれれば、いつだって抱いてやったのに。
しかし組織にいた頃を振り返っても、ラーがソロンへ恋いこがれていたという記憶もない。
それを突っ込むと彼女はぶぅっとふくれっ面になり、ぶちぶちと呟く。
「だぁって。ソロン、あたしがおっきくなってからは全然遊んでくれないし。そりゃー仕事が忙しいのは判るよ?判るけどさ、お風呂まで別にしなくたっていいじゃない」
「仕事の終わる時間が遅ェンだ、仕方ねェだろが」
肩を竦めるソロンをジーッとジト目で睨みつけ、なおもラーが愚痴を垂れる。
「それにさ、ソロンッてば、いつ部屋に行っても留守だったし」
「そうだッたか?」
ソロンは首を傾げるが、放っておかれた方は切実らしくて力強く頷いた。
「そうだよ!どーせ娼婦の皆と仲良くしてたんでしょ?キーファに聞いたら、そう言ってたもん」
下も脱がしてやりながら、ソロンもズボンを脱ぐ。
「バカ、キーファに聞いたッて、あいつが真面目に答えるかよ」
幼児体型の割にラーは小さなショーツを身につけており、下着だけは色っぽい。
そいつも脱がし、自分も下着を脱ぎ捨てるとベッドに横たわり「俺の上に乗れよ」と、ラーを促した。
「う、うん……ひゃあ!」
恐る恐るソロンの上に跨るラーだが、またしても悲鳴を上げる。
「何がヒャアだよ、今度は何だ?」
「だ、だって」
返事も生返事。彼女の視線はソロンの股ぐらに生えたモノに照準を合わせて、じっと見入っている。
「何だよ、男のチンポ見るのは初めてだッてか?ンなわきゃ〜ねェよな」
ティルがオチンポ連呼した時は嫌がったソロンだが、幼なじみが相手となると言葉に遠慮もない。
カラカラ笑う彼をムッと睨みつけ、ラーも精一杯の強がりを見せた。
「そ、そりゃ見たことあるよ?でも、あたしが見たことあるのは、もっとオッサンのヤツだったし!」
ソロンよりも遥かに年上の脂ぎったオッサンの裸なら組織にいた頃、何度も見た。
時折開かれた性奴隷のオークションで、ギラギラした視線を商品に注いでいた所謂お客様である。
その時のオッサン達の股間のモノは天井まで反り上がり、ビクビクと脈打っていた。
まるでソコだけが別の生き物のようで、妹のクーが「気持ち悪い」と泣いたのを覚えている。
「ま、いいから早く座れよ」
渋々ソロンの上に跨り直したラーの腰を持ち上げ、正しい位置に座り直させてやる。
すなわち、ラーのお尻がソロンの股間に当たるような位置に……だ。
途端に退け腰になり「やだぁ!どうして、ここなの?この位置なの!?」と立ち上がろうとするラーの腕を掴むと。
無理矢理引き寄せ、怯える彼女に口づけた。


真夜中の来訪はソロンだけではなく、ティルとランスリーの元にも訪れていた。
「なんですか、こんな時間に来るなんて。失礼ではありませんか!?」
声を荒げるランスリーを一瞥し、入ってきたのは男と女の二人組。
女の方にティルは見覚えがあった。
仮面で顔を隠しているが、忘れようもない乳のサイズ。
いや、女の発した第一声に記憶が蘇る。
「まさか、あなたが直々に乗り込んでくるとは思わなかったわ。ティル=チューチカ」
「その声、まさかフィリア?フィリアなのッ!?」
質問には応えず、女はフッと鼻で笑ったのみ。
男のほうも仮面で顔を隠しており、はちきれんばかりの太鼓腹を揺すってランスリーに一歩近づく。
思わずたじろぎ「ち、近寄らないで!」と身構える彼女にニヤァッと笑いかけると、男は言った。
「ランスリー=グロムワット、聖王教会のプリースト……か。あんたの姉が全部吐いたよ。メイジの資質を持つのは、あんたなんだってなァ」
えっとなってティルがランスリーを振り返ると、彼女はぐっと唇を噛みしめ強張った顔で男を睨んでいる。
否定するでもなし、では本当にランスリーが12の審判である『メイジ』の資質を持つ者だというのか。
「メイスローは他人に秘密を話すような方ではありません……言いなさい、姉様に何をしたのです!」
女が頷き、ちらりと横目で彼女を見る。
「えぇ、あなたの姉は確かに強情で手を焼かされたわ」
男も傍らで、グェッヘッヘッと嫌な笑みを浮かべた。
「前と後ろ、それから口にも突っ込んでやったら、あのアマすっかり大人しくなりやがってよ。お前がメイジだってのは、ベッドの上でたっぷり聞かせてもらったってわけだ」
真っ青になって震えるランスリーの肩を支えてやりながら、ティルが吐き捨てる。
「最低ね」
蔑みにも男が乗ってくる事はなく、女のほうも肩を竦めて挑戦的に見つめ返してきた。
「あら、人質がどのような扱いを受けるかなんて、あなたならよく知っているはずじゃない?」
この言い分。やはり彼女はフィリアに違いない。
ティルが囚われの身になったのを知っている人間なんて、数えるほどしかいないのだから。
まっすぐ睨み返し、ティルも話に乗ってやる。
「そして、あなたもね。奴隷として売られていったあなたが、どうして闇組織に荷担しているの?」
「どうして、ですって?面白い事を聞くのね。闇組織に恨みを持つから彼らには荷担しないだろうと?フフッ。正義心あふれるロイス王国の人間らしい意見だわ、ティル隊長」
言いながら、女が仮面をゆっくりと外す。
彼女の素顔は、ティルが思った通りの人物であった。
艶やかな金髪に整った顔つき。切れ長の瞳が、こちらを見据えている。
「やっぱり……フィリア」
きゅっとくびれた腰に、両手で掴んでも尚こぼれるほどの大きな胸。
張りのあるヒップは小さな布で隠された程度で露出度が異常に高く、それでいて彼女に似合っている。
「一度闇に堕ちたものは、二度と光の世界へは戻ってこられないものよ。覚えておきなさい、隊長さん」
そうかもしれない――だが。
「そんなことないわ」
するりとティルの口からは、そんな言葉が出た。
「ソロンは闇の世界で生まれたけれど、冒険者として立派に更生したわ!だから、あなただって」
「更生?冒険者として?」
だが、フィリアはティルの熱弁を鼻で笑い飛ばす。
「ザイナで起きた殺傷事件、あなたはご存じないみたいね。隊長さん」
貴族某の腕を切り落とした事?
だが、あれはウォーケン曰く『妖精を助けるため』の善意だったはず。
「酒場で人の腕を切り落としたあげく、警備団を数人斬り殺したそうよ。恐ろしいわね、冒険者って」
それに声をあげたのは、ランスリー。
「先に襲いかかったのは警備団ではありませんか。ならば、それは正当防衛です!それに警備団だって彼を殺したではありませんか!お互い様ですッ」
「そうよ、そうよ!って、えっ!?」
同意しかけていたティルが慌てて振り返る。
ソロンが、殺された?
彼は生きているではないか。
現に再会した時だって彼はピンピンしていて、怪我一つなかった。
ランスリーの顔は大真面目だ。
とても冗談を言っているようには見受けられない。
混乱するティルとは違って、フィリアは飲み込みが早いらしく「えぇ、そうね」と小さく呟く。
「彼はランスリー、あなたの魔法で生き返った。そして明日は闘技場で戦うことになる。戦えば、また彼は罪を犯すわ。殺傷という大罪を。どう?これでも彼は更生したと言えるのかしら」
闘技場で戦えば罪を犯すというのなら、闘技場で戦わせなければいい。
といった簡単な問題ではない。
冒険者という道が、本当に更生の手段なのかをフィリアは問いているのだ。
依頼の内容によっては手を血で染めることもあるだろう。
それは本当に正しい行為と呼べるのか?
やっぱりソロンは冒険者ではなく、騎士にしておくべきだった。
常に受け身で戦うことの多い騎士ならば、こんな屁理屈で正義の合否を突っ込まれたりしないのに。
内心の敗北を打ち消すべく、ティルは無理矢理話題を変える。
強引な話題変更は彼女の十八番であった。
「ソ、ソロンの将来はソロンが決めることであって、そんなことより!あなたよ、あなたはどうして闇の世界から這い上がろうとしないの?負け犬のまま一生を終える気!?」
必死なティルを横目で見つめ、フィリアが応えた。
「女一人で、どうやって這い上がれというの?私はあなたと違って、助けに来てくれる騎士もいないのよ」
女がたった一人で、身も知らぬ土地に売りたたかれて。
彼女を買い取った男を叩き殺して、その場を逃げだしたまでは良かったけれど。
後ろ盾も権力も地位も何も持たぬフィリアは、自分を証明するものすら持ちえなかった。
おかげで、何度も牢獄に閉じこめられた。
投獄中は卑猥な男達による陵辱を、いやというほど受け続けた。
フィリアが味わってきた屈辱の日々など、王の保護下で育った脳天気な脳筋娘には絶対に理解できまい。
言い返せなくなって黙り込むティルを満足そうに見やると、彼女は先を続けた。
わざわざ夜中に元上司の部屋を訪れたのには理由がある。
なにも、愚痴を言いに来たわけではないのだ。
「あなたと一緒にソロンまで来るとは思わなかったわ。正直、意外……彼が生きていたなんて、ね」
それを言うなら、あの羽仮面。あれはキーファではないのか?
ソロンとタッグを組んでいた、ニヤケ顔だ。
彼と話したのは悪夢の試合だけだが、それだけに忘れることなどできやしない。
それにしてもソロンといいキーファといい、あの組織の人間で生き延びた者は意外と多いようである。
ソロンの敬愛するボスとやらも、案外どこかに逃げおおせたのではなかろうか。
羽仮面の男について尋ねても、フィリアは首を竦めただけであった。
「さぁ?あなたのご想像にお任せするわ。それより明日は景品席で私達の戦いを、たっぷり楽しんでちょうだいね」
「景品席?私達を景品にするってのは本気だったの?」
奴隷市でも売れ残ったティルを、キーファが景品にしようとしているのは意外に感じた。
彼だって、あの組織で粗悪品の噂ぐらいは聞き及んでいただろうに。
「あなたじゃないわ」
知ってか知らずかフィリアは憤るティルをフフンと鼻であしらい、ランスリーへ視線を移す。
「ランスリー。『ファイター』の連中は、あなたを景品に定めた。明日は、ソロンが優勝することを期待するのね」
「『ファイター』のメンバーが?私を……景品に」
ランスリーにとっては意外な話だったらしく、彼女の肩はワナワナと震えた。
もう休ませてあげないと逃げる時に支障が出そうなぐらい、顔も真っ青で足下がふらついている。
「話はそれだけ?」
キッと元部下を睨みつけると、フィリアは、くすりと微笑む。
「相変わらず、せっかちなのね」
味方の時は頼もしく思えた余裕ありげな微笑みは、こうして敵に回ってみると実に印象が悪い。
神経にイラッとくるものを感じた。
昔は仲間でもあった相手に、こんな嫌な感情を抱くなんて。
「明日の試合、あなたも試合に出て貰うわ。ソロンとタッグを組んで……ね」
「えっ……?わ、私も?」
戦わせてくれるというのならば、もちろん願ってもないチャンスだ。
景品席とやらで指をくわえて眺めているよりは、ずっといい。
だが、所詮ここは裏組織の闇試合である。
舞台での試合といっても、油断はできない。
また何か変なものを飲まされた上でのデスマッチでも、やらされるんじゃなかろうか。
ティルの心配を見透かしたかのようにフィリアは微笑み、戸口へと歩き出す。
「安心して。薬は使わないわ」
それでもティルは念を押した。
「じゃあ、正々堂々と戦うってのね?」
フィリアは振り返り「さぁ……それもどうかしらね?」と口元に薄く笑みを浮かべると、音もなく出ていく。
その後を追いかけて、巨漢の男も大きな足音と共に出ていった。
騒がしい来客が去ったところで、ティルはランスリーを労るようにベッドへ導いてやる。
「もう寝ましょ。大丈夫、私とソロンがタッグを組むんだもの!あなたを絶対誰かにくれてやったりしないわ」
ランスリーは弱々しく微笑むと、ベッドに腰かけてポツリと呟く。
「……それは心配していません。私が心配なのは……メイスローです。彼女の容態が……」
「もう、心配しないの。あなたのお姉さんも何とかしてみせるから」
根拠のない励ましを受けて、それでも幾らか気は和らいだのか。
ランスリーは大人しく身を横たえる。
「明日は……大変な一日になりそうですね」
彼女が眠りにつくのを見ながら、ティルも天井を仰いだ。
明日は大変な一日になる……か。
確かに、ね。
フィリアの強さは、けして馬鹿にできない。
そして恐らく彼女とタッグを組むのは仮面の男、キーファだろう。
キーファと直接対決したわけではないが、彼はフィリアを凌ぐスピードの持ち主である。これも侮れない。
正攻法では来ないような言い方も気になった。一体何を仕掛けてくるのやら。
しかし、それでも明日は絶対に負けられない。
一人の少女、ランスリーの運命がかかっているのだ。
「……よしっ。明日は頑張るぞ!」
小さく呟き、奮起すると。ティルも床にゴロリと横になった。


闇の中、ソロンが囚われた部屋では――ベッドの上で絡み合う二つの影がある。
「ンッ、んっ、んあッ、はぁッ、あぅっ、そ、ソロン、もっと優しく突いてよォ〜」
ソロンの上に跨り、両腕を掴まれた格好でラーが呻く。
アソコは、あっという間に濡らされて、今はソロンのモノが根元まで突っ込まれている。
挿入の瞬間こそ激痛が走ったものの、しっかり咥えこんだ今となっては痛みも快感へと変わりつつあった。
「へッ、何が初めてだから優しくしてネ、だよ。ちょッと弄った程度でグッチョグチョに濡らしやがッて」
わざと水音を響かせてやると、幼なじみはブルブルと体を震わせながらも恥ずかしげに目線を逸らして呟いた。
「あぁぅ、そんなイジワル言わないで……そ、ソロンだからだよ?ソロンだから、こんなんなっちゃったのォ」
「よく言うぜ。そンなに俺とヤりたかッたンなら、娼婦になりゃァよかッたンだ」
意地悪く囁くと、すぐさま反発が来る。
「やだ、そんなの!」
まぁ、ソロンの目から見てもラーは娼婦に向いていないと思われた。
なにしろ体が小さいし、体格もスレンダーすぎる。
性格も勝ち気だし、どちらかといえば闘剣士向きだろう。
淫乱ならば誰でもオッケーという職ではないのだ。娼婦というのは。
優しく男を包み込む包容力を要求される。
要するに体にも心にも、ある程度のボリュームが必要ということだ。
「はぅ……ソロン、ソロンッ、もう大好き、大好きだよぅ」
天井へ向けて、ラーがソロンの名前を叫んでいる。
初回から何度も激しく突き入れられたせいか、彼女の意識は、かなり朦朧としているようだ。
よく見りゃ視点も定まっておらず、口元には涎が垂れている。
それでも突き上げるたびに、彼女はソロンの名を呼んだ。
「あッ、あッ、イクッ、イク!いっちゃう、駄目だよォ、ソロン、イッちゃうよォ!」
かと思えば急に力を抜いてハァハァと息を切らせながらも、ぺたりとソロンに身をすり寄せる。
ラーが自分から口づけてきたので、ソロンも応えてやる。
半開きの唇に舌をねじ込んで、彼女の舌を絡め取った。
唇が離れ、互いに一息入れた後。ソロンは何気なく彼女に話しかける。
「……なァ」
「なに?」
トロンとした目で見つめ返される。
意識朦朧の彼女に何を尋ねても、まともな返事など期待できないとは思ったが、それでもソロンは尋ねた。
「お前、明日の試合にも出るのか?」
「あたし?あたしは……でないよ。闘剣士じゃないもん。ただ……」
思っていたよりもクリアな返事をし、彼女はジッとソロンを見つめる。
「ただ?」
「……明日の試合、気をつけてね。キーファは、あんたを本気で狙ってるから」
なるほど。明日の試合にはキーファが出るのか、闘技場側の選手として。
ならば、今日無理に会う必要もない。
明日の試合中に、直接彼と話をすればいいだけだ。
大体、今から会うにしたって時間も遅いし――
そういえば、今は何時ぐらいなんだろう?
窓がないから、さっぱり時間も判らない。
とにかくラーと遊んでいる場合じゃない、明日に備えて早く寝なければ。
……といった言葉がソロンの脳裏を駆けめぐったりもしたのだが、彼は頭を振ってソイツを打ち消した。
たかが一日二日寝なかったぐらいで負けるほど、自分はヤワじゃない。
ましてや、相手はキーファのバカだ。片手でだって余裕で勝てる。
「そろそろ一発イッとくか?」
ぐいっと身を起こして尋ねてみれば、ラーは不意の快楽に言葉もなくし、答えの代わりにブルブルと体を震わせる。
「そ、そろん……動く時は動くって先に言ってよォ」
彼女が言葉を取り戻した時には、ソロンの動きも活発になり。
再び「あッ、あぅぅっ」とラーの口からは、断続的な喘ぎばかりが漏れ続けた。
やがて二度目の脱力と共にラーが最後に感じたのは、己の内に放たれた熱い何かの感触であった……

Topへ