6.救出

ロイス王国の姫君三姉妹が救出された――
嬉しい知らせは国中へ届き、その日のうちにソロンは王座へ呼び出される。
王の側にはティル、そしてワルキューレやヨセフなどの姿もある。
が、なんといっても華やかなのは、中央に座る王を囲む三人の姫。
どれも選りすぐりの美人で、これなら誘拐されるのも無理ないといった風貌であった。
「ティから聞きました。ソロン、あなたが私達を助けて下さったそうですね」
そう言って微笑んだのは、まだ幼さの残る三女ミラレッタ姫。
ソロンは緊張するでもなく、至って気楽に応えた。
「いや、直接の手柄はティだぜ?俺ァ、ただ手助けしただけさ」
礼儀を知らぬ態度に、ワルキューレが怒り出す。
「コラ!姫様に対して、なんという口の訊き方をするのだッ!」
だが、次女コリアッタ姫に「よいのです、ワルキューレ。彼は私達の恩人ですから」と諭され、むっつりと黙り込んだ。
「ティから聞いた、と申したでしょう?彼女が証言したのです、真の功績者は貴方であると」
長女マリエッタ姫にも持ち上げられ、ソロンはティルの顔を盗み見た。
……実に、嬉しそうな顔をしている。
ソロンが褒められていることを、素直に喜んでいるようだ。
「私も、そう思います。私達の命と引き替えに、あなたが見せた勇姿……きゃっ、忘れられませんわ」
再び話の主導権はミラレッタ姫に戻り、彼女は頬を赤らめて恥ずかしがってみせる。
勇姿、勇姿と言われても。
ソロンのした事は、敵の前でストリップショーを開いたぐらいだが……
牢屋は真正面にあったから、姫君三人にもソロンの裸は見えていたかもしれない。
それのことか?勇姿って。
「貴方は、この国の英雄です。是非とも褒美をとらせなくては」
見れば次女も頬を染めているし、全員に見られたのだけは間違いないと思われる。
全裸の英雄か。いまいち格好悪いが仕方ない。
「そこでじゃ。お主には騎士の称号を与えようと思う」
王が言い、座が騎士達のざわめきで包まれる。
ロイス王国の騎士といえば、ザイナ地方で生まれた人間なら誰もが憧れる高貴な職である。
つまり騎士の称号を得るとなれば、家族には勿論、国元全ての人々に自慢したくなるほどの栄誉と言える。
「し、正気ですか王!?この者は犯罪者だったのですぞ!」とワルキューレが異議を唱えるも、王は黙って頷いた。
王の言葉を受け継いだのはマリエッタ姫で、彼女は穏やかながらも有無を言わせぬ調子で言い聞かせる。
「たとえ犯罪者であろうと、私達を救ったのは彼なのです。あなたは、幼なじみ達の証言を疑うつもりですか?」
ソロンが功績者であると報告したのは、ティルだけではなかったようだ。
ティルとヨセフ。共に王国を支えてきた頼りになる部下である。
この二人が声を揃えて言うのだから王様も信用し、ソロンへ騎士の称号を与える気になったのだ。
だが肝心のソロンはというと、拍手と歓声に包まれる中、呆然と突っ立っている。
やがて、彼は困惑顔で言った。
「いやァ……俺は騎士になンか、なりたくねェぜ?ティの部下のままで結構だ」
まさか辞退されるとは思ってもみなかったのだろう。
今度は王様達が呆然とする番であった。
真っ先に我へ返ったのはティルで、彼女は血相を変えてソロンへ怒鳴る。
「なんで!?騎士になるってのはロイスじゃ名誉ある事なのよ?どうして断っちゃうの!」
と言われても、いまいちピンと来ないのか、ソロンは困ったように頭を掻きながら言い返す。
「名誉ッたッて……俺はロイスで生まれたワケじゃねェし、騎士に憧れなンざ持ってねェんだよ。それに騎士団に入ッたら、お前とは別行動になるンだろ?だッたら、今のままがいい」
途端に何故か、ワルキューレが勝ち誇った表情を浮かべて彼を指さした。
「ご覧なさい!あのような下賤の者に、騎士の誇りなど判るものですかッ!」
騎士団長としては、元犯罪者で無礼の塊みたいな奴を部下には持ちたくないだろうから、必死になるのも当然だ。
罵倒されたというのに、それを追い風にソロン自身も言い添える。
「騎士団長サマも、ああ言ッてることだし、王様よ。俺の待遇はティの部下ッて事でヨロシクな」
「むぅ……」
王様は苦難の色を見せ、三人の姫様は「まぁ……」と驚きや興奮入り交じる溜息を漏らした。
「でも、よいのですか?ティの部隊は女性ばかりなのですよ」
マリエッタ姫が尋ねる横では、末女のミラレッタ姫が頬を染め何事か呟いている。
「そうですか、ソロンは常に私達を守りたいと……共に寝食をしたいと、そう願っておいでなのですね」
もちろんティルだって黙っちゃいない。
今度は憤怒も交えて怒鳴ってきた。
「駄目よ!ソロンッ。特殊部隊はね、姫様の御身を守るだけが仕事じゃないの!姫様の退屈を紛らわせる為、お風呂も食事も一緒じゃないといけないんだから!!」
ティル率いる特殊部隊は、護衛と同時に姫様専属の召使いも兼ねている。
食事の支度から着替えの手伝い、ベッドメイキングや体を洗ったりなど、仕事範囲は広く多彩であった。
ただ強いだけの人間には出来ない細やかさも要求されたし、ましてや男性を入れるわけにはいかない。
だが、ソロンときたらケロリとしたもんで。彼は気楽な調子で言いのけた。
「別に、一緒に風呂入ったっていいンじゃねェか?組織じゃ男も女も一緒に入ってたぜ」
「嫁入り前の女性が一緒に入れるわけないでしょ!」
「馬鹿者ォ!貴様の下品な闇組織と一緒にするな!!」
即座にワルキューレとティルの双方から怒鳴り返され、納得いかないといった風に口を尖らせた。
「けどよ……姫様は、結構喜ンでるみてェだぜ?」
ソロンが指さす方向を、つられて二人が見てみれば。
三人の姫様は三人とも、ポッと赤くなっている。
「ソロン様が特殊部隊へ入隊なさるのですか……あの逞しい体が、私の体と密着して……あぁっ、いやんっ駄目ですわ、そんな、そんなものをすり寄せられたら、私……どうにかなってしまいそうっ」
聞いている方が恥ずかしくなるような独り言を呟いているのは、コリアッタ姫。
マリエッタ姫は瞳を輝かせ、王を説き伏せている最中。
「では、お父様。騎士ではなく次期王の資格を与えるというのは如何でしょう」
話が、とんでもなく大きくなっている。
そして末女のミラレッタ姫も、当然のように妄想の虜となっていた。
「彼が毎晩、私に添い寝して下さるのですね……あぁ、考えただけで私、眠れなくなりますわぁ」
「もう、姫様ったら!はしたない妄想は、おやめください!」
半分は嫉妬、もう半分は真剣に心配しつつティルが三人を諫めると、ミラレッタ姫からは妙な目で見られた。
「ティは彼を独り占めする気ですのね?ずるいですわ」
「なっ――!?」
いきなり矛先を向けられティルが動揺している間に、次女も続く。
「ヨセフの話ですと、あなたはもうソロンに添い寝してもらったと聞きました。今度は私達に譲るべきだと思いませんこと?」
「へ?あ、あの、姫様……譲るって、添い寝って、えぇっ!?」
「英雄の独り占めは、感心しませんことですのよ」
両側から姫様二人に攻められて、普段は強気なティルもタジタジだ。
そこへ助け船を出したのは、ワルキューレ。
「それぐらいになさいませ。あまりからかうと、ティに英雄を何処かへ隠されてしまいますぞ」
くすくす笑う二人を見て、ようやくティルも気がついた。
二人は本気で言っていた訳ではないのだと。
普段から彼氏が欲しいと嘆くティルを見てきたもんだから、ちょっと意地悪してみただけなのだ。
「ティ、よかったですね。あなたの願い、神様は見放したりしませんでしたよ」
マリエッタ姫にも彼氏成就を祝福され、改めてティルは真っ赤になり、勢いよく頭を下げた。
「は、はいッ。あの、すみません。一人だけ幸せになっちゃって……」
「幸せになれるかどうかは、これから先にかかっています。頑張るのですよ、ティ」
お母さんのように優しく言われ、ティルの両目が潤むのをソロンは遠目に眺めた。
幸せに、ねぇ。
そいつは俺にも言ってるつもりなのか?なぁ、姫サン。
「なにはともあれ、今夜はパーティーじゃ!」
しんみりしていたところへ、いきなり王様が騒ぎ出す。
興奮で顔を赤くしながら、王は言った。
「祝賀会じゃ!姫が三人とも無事で戻った、こんなに嬉しいことはない。ソロンの待遇はパーティーの後で決めるとしよう。まずは宴の準備を!」
再び座は拍手と歓声に包まれて、夜、国をあげての大宴会が開かれる事となった。


廊下をプンスカしながらティルが歩いている。
「ヨセフったら、一体どこまで姫様達に話したのかしら。嫌だわ」
彼女の後を歩きながら、ソロンは冷やかし気味に茶々を入れた。
「いいじゃねーか、姫様公認カップルだぜ?俺達。これもヨセフのおかげでな」
「あなたが私の彼氏だっていうのは、別に構わないのよ。何も寝たことまで言わなくても……」
口調は怒っているが、ティルの表情はノロケそのもの。
照れくさそうでもあり、喜んでいるようにも見えた。
不意に足を止め、彼女が振り返る。
「あ、あの、それで……ね?それでっていうんじゃないんだけど、でも」
「何だ?」
ティルはキョロキョロと辺りを見回してから、そっとソロンの耳元で囁く。
「……私、頑張ったよね?ご褒美が、貰えるぐらいに」
ご褒美なんて姫様専属の部隊長なら王に直接言えば、何でも貰えそうな気がするのだが。
彼女が何を言いたいのか判らず、とりあえずソロンは頷いた。
「あァ」
もじもじと指を絡ませながら、ティルが上目遣いに見つめてくる。
「うん。でね……私、あ、あなたから、ご褒美が欲しいの」
「ンあ?」
なんで俺が?ポカンとするソロンの腕に自分の腕を絡ませ、ティルは小さく呟いた。
「……して欲しいの。してくれって言ったら抱くって言ったの、嘘じゃないよね……?」
赤くなって俯くティルをジッと眺めた後、ソロンの顔にも少々意地悪な笑みが浮かぶ。
ようやく、その気になったのか。焦らした甲斐があった。
いや――ティルはロイスへ戻ってきた時から、ずっとその気だった。
ただ、ちょっと二人のタイミングが合わなかったというだけで。
「いいぜ。ンじゃァ、まずは部屋に戻るか」
ソロンは快く承諾すると、ティルの肩を抱いて彼女の部屋へと戻った。

部屋の中央に、でんと置かれた『ラブラブカップル専用・天蓋付ダブルベッド』がある。
ティルの自称お手伝い・ライムによる命名だが、名前はともかく寝心地は、なかなかのものであった。
ベッドに腰掛けたティルが「あら?」と枕元でゴソゴソやっている。
何か置いてあったのか。
「……これ、何かしら」と彼女が差し出してきたものを見て、すぐさまソロンは、それを取り上げた。
「あ!ちょっと」
いきなりの横暴に怒るティルを制し、窓からポイッと投げ捨てる。
「こンなモンは必要ねェ」
枕元に置いてあったのは、小さな瓶に入った液体だった。
見ただけでもソロンには判る、あれは媚薬だ。
どうせ、ライムが気をきかせたつもりで置いたのだろう。
どのみちティルには薬の耐性がついているから、飲んだって効くわけもないのだが……
そのティルは天井裏を覗き込んでいたようであったが、すぐに座り直すと、ソロンを真っ向から見つめてきた。
「ライムもいないし、これでやっと二人っきりになれたね」
そう言って、身をすり寄せる。
それには構わず、ソロンは話を進めた。
「で、だ。上がいい?それとも下がお好みか」
「上?」
きょとんとする彼女に重ねて問う。
「俺が上に乗るか、それとも俺の上に乗るかッて聞いてンだ」
あまりにも直接的な物言いに、最初はポカンとしていたティルも次第に怒り出した。
「なによ、それ……もう、ムードってのが全然ないんだから!」
ぷぅっと頬を膨らませる彼女に肩を竦めると、ソロンは言い訳する。
「ムードなンか気にしてやってられッかよ。お互い気持ちよくなりゃ〜それで充分じゃねェか」
「本能だけで生きてるのね」
ティルはまだオカンムリであったが、軽く頬にキスしてやると、いくらか機嫌を直してくれた。
「まぁ、いいわ。ソロンの好きなようにやってちょうだい。あ!でも……」
「でも?」
「……優しくしてね?」
ちろっと見上げられ、ソロンは上機嫌で頷く。
「当たり前だ、俺ァ好きな奴には優しいンだぜ?」
ホントかしらとティルは疑ってもみたが、再び今度は唇にキスされ、うっとりと目を閉じた。
キスしている間もソロンの手は忙しなく、シャツの中に侵入してきて小さな膨らみを揉みしだく。
揉むというほど大きくもないので、撫で回したといった方が的確か。
「……ぁ、あのね」
唇が離れ、ほぅっと溜息をついたティルが言う。
「胸って好きな人に揉んで貰うと大きくなるんだって、前に誰かが言ってたの」
その話なら地下育ちのソロンでも聞いたことはある。
しかし、実際に揉んで大きくなった胸など見たことがない。
要は、よくある都市伝説の一つだろう。
だが彼は、あえて「へェ?」と知らないフリで先を促した。
「だ、だから……ソロンは、いっぱい触ってね。やっぱり大きい方が色々と、男の人だって嬉しいだろうし」
純情に見えて、ティルも結構お年頃。年相応にスケベなようだ。
だが男で一括りにされるのは、たまらない。
世の中には貧乳が好きという人だっている。
「俺は別に、大きさなンか気にしねェぜ?」
ソロンも、また然り。
彼は大きさ自体よりも、胸を触った時に女が示す反応を見るのが好きな男である。
しかしながら乙女心までは把握しきれず、ティルには「私が気にするのっ」と怒られてしまった。
「そンなに大きい方がいいかねェ?」
大きいと肩が凝るというし、服のサイズだって限定される。
いいことばかりとは思えないのだが。
首を傾げるソロンに対し、ティルはブツブツと口の中で呟いた。
「……だって。即売会の時だって、みんな言ってたもん。フィリアのこと、見事なおっぱいだって」
「あ?即売会って、奴隷として売り出された時の話か?」
「そうよッ。あの時だって皆、私のほう見るたびに溜息ついちゃって、ホントに悔しかったんだから!」
日頃からナイムネを気にしている彼女からしてみれば、屈辱以外の何物でもなかったのだろう。
今も叫んでいるそばから、ティルは涙ぐんでいる。思い出しての悔し泣きだ。
「男の人って大きな胸が好きなんでしょ?ソロンだって小さいよりは大きい方がいいんじゃないの」
スネた顔で尋ねてくるティルに、もう一度キスしてやると、ソロンは彼女をゆっくり押し倒した。
「いや、大きいよりは小さいほうが好きだな。大きすぎる胸ッてのは、ただの肉だかンな」
「……何言ってるの?胸が肉なのは、当たり前じゃない」
戸惑うティルの胸元から腹、そして下腹部を軽く撫で、下着の奥へ指を潜り込ませた。
「そうじゃねェよ、俺が言いたいのは。小さいほうが形も整ッててキレイだッつってんだ」
「き……綺麗?あッ!」
肉襞を割って指を突っ込んだだけで、ティルはビクッと身を震わせる。
「だ、ダメッ!中に、中に突っ込んだりしちゃイヤッ!」
咄嗟なのか、彼女はソロンの腕を掴んで引き抜こうとする。
構わずグチュグチュと掻き回してやる。
たちまち下着はグッショリ濡れ、ティルの呼吸も荒くなってきた。
「や……ん、駄目って、言ってるのにぃ……っ」
ソロンの腕を掴む手にも、力が込められる。
「痛いのはイヤなンだろ?それに優しくしてねッつったのは、そっちじゃねェか」
指の動きはそのままにティルの胸へ顔を埋めると、ツンと立った乳首を唇に含む。
舌で舐め回し、軽く吸う。
「あぁッ!だ、だめぇ、ソロン、くすぐったいッ」
途端にティルは激しく身じろぎし、逃れようと暴れる。
だがイヤよイヤよと言っていても、本音では続けて欲しい複雑な乙女心。
「じゃあ、やめるか?」
あっさり言って身を離そうとするソロンの腕をしっかと掴み、ティルは小さくイヤイヤをした。
「……ダメ。やめないで」
下着を濡らした液は、太股を伝ってシーツにも染みを残している。
顔は上気し、涙で潤んでいる。額も背中も、汗でぐっしょりだ。
濡れた服を着ているのは体にも悪かろう。
邪魔なシャツを捲り上げ、下も脱がせると、ソロンは自分も裸になった。
既に勃起していた。
手で握り彼女にも見えるように突き出すと、ソロンは尋ねる。
「ティル、これがナンだか判るか?」
前に見せた時は、ナニソレ?とか聞かれたような。
二十四にもなって、それはないだろうと突っ込みたくなったのだが。
ティルは少しモジモジした後、小さな声で答える。
「……しってる」
「なんだ?」
重ねて問うと、頬を赤らめ、ぽつりと彼女は呟いた。
「おチンポっていうんでしょ。知ってるわ、教えてもらったもん」
教えてもらったって――誰に?
ヨセフかワルキューレ辺りだろうか。
いやいや、お貴族サマな騎士団長が教えるとは思えない。
ヨセフだけなら考えられない事もないが、彼なら『おチンポ』ではなく『ペニス』と教えそうな気がする。
一体誰だ、彼女に下品な名称で教えた犯人は。
ソロンが憤っていると、ティルは真相を語り出した。
「奴隷の展覧会で売られる時にね、スケベそうな顔したオジサンが教えてくれたの。自分で、そうやって持って『お嬢ちゃん、これ何か判るかな?オチンポって言うんだよ〜』って」
その光景が目に浮かび、ソロンはくらりと目眩を覚えた。
エロオヤジめ。何も知らない脳筋娘に、余計な知識を与えやがって。
「それがまた、すっごく臭くて。なんで、あんなものを見せたのかしら」
鼻の頭に皺を寄せ、思い出したくないものを思い出したとでもいうようにティルは肩を竦める。
だが黙ってしまったソロンを見て、何を勘違いしたのか彼女は慌てて付け足した。
「あ!でも、そのオジサンのよりソロンのオチンポのほうが立派だと思うわ!だって、そのオジサンのオチンポって、すごく小さかったんですもの」
「いや……あのな?」
オチンポチンポと連呼され、頭痛が酷くなってきた頭を押さえながら、ソロンはマッタをかける。
「何?」
「別にオチンポでも間違っちゃいねェんだが……普通、女は、そーゆー風には呼ばねェんだ」
いい歳した若い女がチンポ連呼というのは、いくら下々の世界で生きてきたソロンにだって抵抗がある。
せっかくの性欲も萎えてしまいそうな勢いだ。
女の子には恥じらいを持って貰った方が、こっちだって萌えるというもの。
「じゃあ何て呼べばいいのよ?」
ムッとするティルへ、教えてやる事にした。
「そうだな、まァ、可愛らしく、おチンチンとでも呼んでもらえれば」
「おちんちん?判ったわ、これからはそう呼ぶ。でも……」
くっつきそうなほど顔を近づけて、ソロンのナニをしげしげと見つめて彼女は言う。
「おちんちんっていう名前にしては可愛くない形よね。血管が浮き出てて、グロいし」
「へッ、何言ッてやがる。お前だってグロイもん下につけてるじゃねェかよ」
ソロンも負けじと言い返し、今や剥き出しとなったティルの恥丘を乱暴に揉んでやる。
「あ、やだ!そこは触ったらダメって言ってるのにッ」
内股で抵抗するも、無理矢理足を広げられると、ティルは揉まれるままに身を任せた。
ソロンに触られるたび、舌で舐められるたびに体中を駆けめぐる、この感覚。
なんと例えたらいいのか判らないけど、でも、嫌な感じではない。
むしろ、ずっと続けて欲しい。
譫言のように彼の名を呼ぶ。
「ソロン……」
すると、すぐに返事が返ってきた。
「なンだ?」
「ソロン、もっとして。ずっとして、お願い」
ぎゅっとソロンの首に腕を回し、ティルは囁いた。
ソロンが「あァ」と頷いた時――
突然、天井板が外れたかと思うと、召使いのライムがピョコンッと飛び出してくる。
「ティル様、宴の準備がもうすぐ終わるそうですよぉ〜。あっ!お楽しみ中でしたか、これは失礼っ」
如何にもわざとらしいタイミングで飛び出しておいて、これは失礼も何もあったもんじゃない。
しかも謝っておきながらグフフといやらしい笑みを浮かべているあたり、間違いなく確信犯だ。
「なっ……!なんでライム、あなた、いつの間に!?」
慌てて布団を体に巻きつけるティルとは対照的に、ソロンは裸を隠そうともせずライムへ尋ねた。
「よォ、宴ッてな何処でやるンだ?王の間か?」
「はい、そォで〜す。皆さんオシャレしていらっしゃいますから、お嬢様もソロン様も、めいっぱい、おめかししちゃって下さいねぇ〜♪」
では、御用の時はお申し付け下さい。
そう言い残し、ライムは天井裏へと消えた。
呼び鈴を鳴らされなくても勝手に出てくるのでは、わざわざ呼び鈴を鳴らす意味もないのでは?
ふぅ、と溜息をついたのはソロンの方が先だった。
「……すッかりやる気を削がれちまッたな」
ティルも溜息をつき「そうね……でも」と続ける。
求めるような視線を向けられ、ソロンは頷いた。
「宴が終わったら再開するか。まァ、その前に、おめかしなりオシャレなりしねェとな」
宴ともなれば、ティルのドレス姿が見られるかもしれない。
そちらの方も楽しみだった。

場所は変わり、宮廷内にある衣装室へ二人はやってきた。
ティル曰く、普段着の持ち合わせが少ない戦士に貸し出す衣装を置いてある場所なんだとか。
「……ね、どう?あ、ソロンには、こっちのほうが似合うんじゃないかなぁ?」
などと言っては、嬉々として衣装タンスから服を引っ張り出してくる。
先ほどからオシャレさせられているのは、ソロンばかりだ。
軽く水浴びして汗を落とした後、ティルは、あっさり普段着に着替えると、こう言ったのだ。
「ドレス?そんなの着ないわよ、似合わないし。それよりソロン、あなたこそオシャレしなくちゃ!」
そして、いいよ結構だと渋る彼を無理矢理、ここへ連れ込んだのである。
「どれ着たって一緒だ、これでいい」
ここへ来てからというもの何十着と着替えさせられ、ソロンも投げやり気味だ。
だがティルのお眼鏡には不合格ラインだったらしく、すぐさま怒鳴られ却下される。
「そんなテキトーに決めたらダメよ!せっかく元が格好いいんだから、もっと似合う格好しなくっちゃ」
かと思えばソロンのおでこに目をやり「その額あて……ちょっと外してもいい?」と尋ねてよこした。
そういえばベッドで戯れている間も額当てだけはつけていたと不意に思い出し、ティルは彼に重ねて問う。
「その額あて、いつもつけてるけど何なの?お気に入り?どうして外さないの?」
「これか?これを外すと……俺にもどうなッちまうか判ンねーのさ」
ソロンはニヤリと笑い答えるが、あまり答えになっていない。
意味が判らずティルは、ぷぅと頬を膨らませる。
「何よ、それ。外してもいいんでしょ?」と手を伸ばすが、ソロンには軽く払われてしまった。
「ダメだ。それ以外なら何をしてもいいが、額あてを外すことだけは許さねェ」
さらにジロリと睨まれては、いくらティルでも諦めるしかない。
嫌がることを無理にやって、彼に嫌われては元も子もない。
渋々諦めると、衣装ダンスから引っ張り出してきたタキシードを押しつける。
「じゃあ、今度はこれ着て。これが似合ったら、これに決めましょ」
どうせ何を着ても、首を傾げるくせに。
こうして着替えている間に、宴も終わってしまいそうだ。
飽くなき乙女のオシャレ心に呆れながら、ソロンは言われるままに次の服へと着替えるのであった……

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