1.闇闘技場

エイスト三二二年――
ようやく過去の大戦による傷跡も癒え、復興の兆しが見えてきたという、その時。
ロイス王国を襲った悲劇があった。
三人の姫君が、こつぜんと寝室から姿を消し、消息を絶ってしまったのである。

王国は全力を挙げて、彼女達の行方を捜した。
騎士団は勿論、幾人もの諜報員が各地に放たれ、傭兵や冒険者達の手も借りた挙げ句。
怪しい闘技場を所持する組織の存在が、捜査上に浮かび上がってきた。

闘技場は魔導帝国ザイナロックにあった。
ロイス王国とは、何かにつけて敵対している大国である。
その闘技場は、ロイスでは禁止されている賭け試合を行っているというではないか。

もしや、姫君達は賭けの賞品にされているのでは?

さっそく王の命令により、姫直属配下の特殊部隊が闇の闘技場へと派遣された。
特殊部隊の隊長ティルは部下のフィリアを伴い、闘技場本戦への参戦キップを入手する――


舞台の袖に通され、審判が再度ルールの確認を行う。
華やかなライトの下では、前座試合でも始まっているのだろう。
騒がしい音が、ここまで聞こえてくる。
「ルールはバトルロイヤルの一本勝負。メンバーが二人とも気絶した時点で負けが確定し、試合終了となります」
わかりましたか?と念を押され、ティルとフィリアは頷いた。
「殺してもいいのか?」と審判に尋ねているのは相手側、彼女達と戦うことになる闘剣士。
逆毛の男と垂れ目の男だ。質問したのは垂れ目のほう。
審判は、こともなげに「構いません。とにかく動けなくなった時点で敗北が決定しますから」と答えていた。
とんでもない闇試合だ。
金を賭けるだけでもロイス人としては納得がいかないのに、その上、殺しまで認めている。
「何をしてもいいッてルールか。ま、いつも通りの試合だな」と呟いたのは、逆毛の男。
垂れ目は黙って、女性二人に絡みつくような視線を送ってきた。
上から下まで値定めでもするように眺め回され、フィリアが身震いした。
彼女を落ち着かせようと、ティルは小声で囁く。
「大丈夫。あなたの腕なら、その辺の男じゃ太刀打ちできないでしょ」
即座に「え、えぇ。わかっています」と返事をしたものの、フィリアは浮かない顔。
ギルド非公認の闘技場で戦うのが初めてだからだろう、きっと緊張しているのだ。
かくいうティルも実を言うと緊張していたのだが、部下の手前、気丈に振る舞った。
「――では、試合の前にこれを飲んで下さい」
目前にワインの入ったグラスを差し出される。
「これは何?毒でも入ってるんじゃないでしょうね」
ティルが誰もが疑問に思う言葉を口にすると、審判は軽く笑って言った。
「入っていませんよ。それに、これを飲むのは、この闘技場の規則です」
見れば、男達は既にワインに口をつけている。
奴らも飲むというのなら、害はなさそうだ。
それでもグラスを見つめたまま軽く固まっているフィリアに、垂れ目が軽口を叩いてよこす。
「ビビッちまったのか?飲みたくねぇってんなら飲まなくてもいい。その代わり、試合を放棄して帰るんだな」
男の挑発にキッと顔をあげ、フィリアは一気にグラスの中身を飲み干した。
彼女の勢いに負けじと、ティルもワインを飲み干す。
グラスの底にワインとは違った苦さを感じたが、気のせいだろうか……

舞台の上で、ひときわ大きな歓声が上がり、袖から審判が覗いて言った。
「どうやら前座も終わったようですね。では、両者リングに上がって下さい」
言うが早いか、彼は先にリングへと上がってしまう。
またも大きなどよめきがリングを包み込む。
その時、相手側の一人が、ちらりとティルを見た。
髪を逆立てており、目つきが非常に悪い。
額に金属のプレートをつけ、片手には長剣を持っている。
戦いのスタイルは剣士、それも王道の傭兵タイプと思われた。
「何よ?」
視線に気づいたティルが問えば、逆毛はふてぶてしく笑い。
「面白い試合になるのを期待してンぜ」と一言残し、リングへ上がっていった。
なんとなく喧嘩を売られた気分になり、垂れ目に続いてリングへ上がろうとするフィリアをティルは呼び止める。
「私は逆毛を相手にするわ。だから、あなたは垂れ目を相手にしてやってちょうだい」
「わかりました。さっさとK.Oして、情報を吐かせましょう」
試合で勝つことだけが彼女達の目的ではない。
勝った上で奴らから組織に関する情報、及び姫の行方を知る情報を吐かせるのが目的だ。
ならば、こんな茶番は、さっさと終わらせるに限る。
二人とも己の腕には自信があった。
相手が剣を使おうと、飛び道具を使おうと、勝つ自信があった。

眩しいライトに照らされて、ティルは目を細める。
リングを囲むのは黒い人だかり。
どの顔も期待と興奮で煽られている。
客は圧倒的に男が多く――まぁ、賭け試合などを好む女性も少なかろう――異様な熱気で包まれていた。
アナウンサーが高々と試合開始を叫ぶ。
『さぁ、いよいよメーン試合がゴング間近と迫りました!今月の挑戦者は、久しく見なかった美麗の格闘家二人組!これは期待がもてます!!』
こんな場所で美麗と褒められても、フィリアもティルも全然嬉しくない。
そもそも期待って、何を期待しているのか。
美麗の格闘家が無惨に殺されるシーン?
『美女二人と戦う闘剣士は、ソロンとキーファの二人組!今夜もアツイ戦いを見せてくれそうだッ』
どわっとあがる歓声の波。
この客の反応を見る限りでも、彼ら二人は名うての闘士だと判る。
袖で待っていた時は、どちらからも殺気など微塵も感じなかったのに。
男二人はロープに寄りかかって、こちらをニヤニヤと眺めている。
どちらがソロンでキーファなのかはサッパリだが、ナメてかかっていたら寝首を掻かれそうだ。
男達の態度が余裕たっぷりに感じられて、苛ついたのかフィリアは審判を急かした。
「試合開始は、まだなの?」
美女に険しい視線で詰め寄られても、審判は全く動じず淡々と答える。
「しばらくお待ち下さい。試合の前に、簡単な選手紹介が入りますので」
何しろ、あなた方の試合は今夜のメインですからね。
そう言って、審判は目元だけで微笑んだ。

会場の客が興奮する中、少しずつ灯りが消えていき、薄暗くなった。
やがて、ざわめきが収まってくるとフィリアの頭上がパッと点灯し、スポットライトが当てられる。
流れるような金髪がライトの光を受け、輝きを放つ。
『チャレンジャー一人目は、フィリア=セシリーズッ!彼女はなんと、ロイス王国出身の格闘家だ!しなやかな足から繰り出される蹴りに注目だぞッ』
美しいのは金髪だけではない。
彼女は目鼻の整った顔もさることながら、スタイルも抜群で。
革鎧の下には、たわわな胸とくびれた腰、足はすらりと長くて細い。
それでいて巨漢の大男も拳一発でノックダウンさせるというのだから、まさに神秘の生き物。
フィリアの全身がライトアップさせるや否や、会場の熱気が二〜三度は上昇した気がする。
蒸し暑い。
加えて、下半身に妙な感覚を感じて、ティルは、ぶるっと震えた。

なんだろう、この感じ。

下半身がゾクゾクするような、子宮の辺りが、じんわりと熱くなるような。
もしかして、尿意……?
となると、直前に飲んだワインのせい?
だが相手もフィリアも、特にそういった現象を起こしているようにはみえない。
自分だけだ。
気のせいだろう。
緊張しているせいで、錯覚を起こしただけだ。
考え直し、軽く首を振った時、今度はティルの頭上がライトで照らされた。
『続いて二人目、彼女も王国の格闘家だ!ティル=チューチカッ!!ロイス王国ナンバーワンの実力を、本日はここで大公開してくれるそうだぞッ』
美しさを形容する言葉は続かなかった。
しかし、けしてティルがブサイクというわけではない。
彼女はフィリアとは違い、パッと見てハッとするほどの美女ではないかもしれない。
どちらかといえば可愛い、そういった形容が似合う女性である。
歳の割に童顔で、それが長く伸ばした髪と似合っていて、黙って立っていれば清純派で通りそうにも見えた。

客同様、二人を無遠慮に眺めていたソロンは傍らのキーファに囁く。
「俺が、あっちの気の強そうな女をやる。お前は向こうの気弱そうなのを頼む」
剣の先で、あっちの、とティルを指し、後方にいるフィリアを顎で指した。
「気が弱いってかァ?こんな戦いに出てくる奴が気弱とは、思えないけどな」
ブツブツ言いつつも、キーファの目はフィリアに定まり、嫌な笑いを口元に浮かべる。
女性のチャレンジャーは久しぶりだ。
ボスは彼女達をできるだけ丁寧に扱い、且つ徹底的に痛めつけろとおっしゃっていた。
難しい注文のように聞こえるが、なんてこたぁない。
肌には傷をつけずに、戦力を失わせればいいだけの話だ。
相手が女性なら、なんとでもやりようはある。
続いてキーファの頭上が照らされ、垂れ目の男は顔から笑みを消すと紹介を待った。
『続いて我等が守護神、闘剣士チーム一人目は、キーファ=ジェネスト!今日は、どんな卑劣技を見せてくれるのか!?たぁーのしみだぁッ!』
歓声に対して両手の小刀を光らせる彼を、ティルとフィリアは黙って見守った。
「あいつの武器は小刀みたいね。となると、盗賊的なフットワークが武器かしら」
囁くティルにフィリアは目線で応える。
「でも、今、卑劣技って言われませんでしたか?」
「だから、目つぶしや急所狙いの盗賊よ」
「あぁ……戦い方が卑怯な盗賊だと」
フィリアの合点に、ティルも頷く。
垂れ目男のニヤケっぷりを見るに他にも隠し技がありそうだが、フィリアなら上手く対処してくれるだろう。
彼女のフットワークは素早さ信条の盗賊が相手だとしても、ひけは取るまい。
最後の一人にライトが当たり、フィリアもティルも、そちらへ目を向けた。
『そしてパートナーは、お馴染みのッ!ソロン=ジラード!!』
アナウンサーが名前を読み上げた瞬間。
会場内はフィリアやティル、そしてキーファの時とは比べものにならないほどの歓声に包まれる。
『さぁー今日は何秒でK.Oを見せてくれるんだぃッ!?期待しようじゃないか、諸君ッ!』
歓声へ応えるかのように、逆毛男が片手を挙げる。
「秒殺キラーですか……彼もスピードが信条の剣士でしょうか?」と、フィリア。
彼が片手に持つ剣に目をやり、ティルは自信なさげに頷いた。
「たぶんね」
ソロンの武器は片手剣、大きすぎず小さすぎず。
一般の武器屋で並んでいそうな所謂ロングソードを、抜き身でぶら下げていた。
鎧なんぞは着ていない。
金属製の額あてぐらいだ、防具と呼べるのは。
キーファもソロンも実に軽装備、普段着でリングに登っていた。
しかし一応闘技場というからには、パワースタイルのチャレンジャーだって当然出場するはずだ。
それなのにスピードタイプの二人組が、こんなに人気というのも解せない話。
てっきり垂れ目がスピード派で、逆毛はパワー派だとティルは予想していたのだが……
それにアナウンスがこれだけではソロンが、どんな戦い方の戦士なのかも判らない。
「――まぁ、後は実際に戦ってみてのお楽しみってことね」
こんなイカガワシイ闘技場に正当派戦士がいるとは、ティルだって思っちゃいない。
あれこれ考えすぎて、消極的になってもマイナスだ。
ティルは強がってみせ、フィリアも軽く手首を回す。
「ゴングと同時に仕掛けます。ティル様は如何致しますか?」
「私は少し、様子を見るわ。そっちは好きに仕留めちゃって」
「判りました」
そして鋭い金属音が響き渡り、両者はリング中央に飛び出した――

先に飛び出したのはキーファとフィリア。
何の迷いもなく振りかざされるキーファの小刀を、フィリアは無駄のないフットワークで避ける。
しなやかな足から放たれた鞭のような蹴りを、キーファもギリギリでかわす。
素早さではフィリアが、やや勝っているようだ。
しかし、彼女の戦いを観戦している暇はない。
ティルの目の前にはソロンがいた。
「どうやら初めッから、お互いの相手が決まッていたみたいだな」
不敵に笑うソロンへ、ティルもニヤリと笑ってみせる。
「そうみたいね」
多分、実力はキーファよりソロンのほうが上だろう。
こうやってリング上で向き合ってみると、彼らの放つ闘気は全くタイプが違うことに気づく。
キーファからは悪党の匂いを感じた。
そしてソロンの持つ闘気は殺気と置き換えてもよい。
肌に突き刺さるほどの殺気を、彼はティルへ向けて放ってきた。
それでいて、ゴングが鳴った時から全く動いていない。
殺気だけで押し流されそうだ。
気迫負けしてなるものか、とティルも負けじと睨み返す。
すると、ソロンが再びくちを開いた。
「お前……男はいるのか?」
「……はぁ?」
およそ、この場にふさわしくない質問に目が点になっていると、もう一度同じ事を聞かれた。
「いや、だから、男は知ってるのかッて聞いてンだよ」
「しっ、知らないわよ!悪かったわね!!」
ティルとて妙齢の女性、突いて貰いたくない重箱の一つや二つだってある。
彼女は年齢イコール彼氏居ない歴であり、この歳になってまだ恋人の一人もいない。
いや、勿論王国ナンバーワンであり可愛いティルがモテないわけではないのだが。
言い寄る男という男が軒並み弱い優男ブサイクデブばかりと来ては、彼女だって興味を持てないというものだ。
――確かフィリアには恋人がいると、聞いたことがある。
その時は彼女もモテるし、そういうこともあるわよねと軽く流したが、心の中は敗北感で一杯だった。
フィリアだってティルに勝るとも劣らない格闘馬鹿の、もっと言ってしまえば乱暴な女の子なのに……
だから二十四歳つきあい歴なしのティルが、ソロンの無遠慮な質問に怒鳴り返してしまったとしても仕方がない。
「ふゥん」とニヤニヤするソロンに、またもティルの怒りが爆発する。
「それが今の試合と、どう関係あるっていうの!?彼氏がいようといまいと、強さには関係ないでしょ!!」
自分でも言っていて悲しくなる台詞だ。
この試合が終わったら、こいつ、メッタメタのギタギタにしてやるんだから!
だがソロンは、ティルの彼氏居ない歴には、それ以上触れずに別の話を振ってよこした。
「さっき、試合前に飲んだワインだが」
「……?」
話の方向が見えず、ひとまず怒鳴るのをやめてティルは耳を傾ける。
「あれには媚薬が含まれていた。俺達のグラスにも、お前らの分にもな。……知ッてるか?媚薬」
尋ねられ、しかしながらティルは眉をひそめる。
媚薬?
ここで、こうしてあかすからには、きっとスゴイ効果のある薬なんだろうけど……
残念ながら彼女の脳内辞典には、そのような名前の薬は載っていなかった。
「何よ、それ。毒なの?」
なので素直に首を振り尋ね返すと、ソロンは声を出して笑った。
人に聞いておいて、いざ素直に答えたら笑うなんて、なんて失礼な奴だろうか。
ムッとふくれるティルへ、彼はご丁寧にも説明してくれた。
「毒ッちゃあ、毒かもしんねェな。飲んだ直後は効き目も薄いが、徐々に体中に回ってくる。体の何処かに火照りを感じねェか?こいつは、ヤッた事がない奴でも気持ちよくさせる効力があるらしいぜ」
火照りというか下腹部、もっと言うなれば股間の辺りが試合前からムズ痒く感じてはいた。
トイレに行きたくなるような尿意っぽいのだが、実際トイレに行ったとしても小便の一滴も出ないような。
そんな不思議な感覚が、ずっとティルの股間を襲っている。
「あなたは、どうなの?あなたこそ、彼女はいるの?女の子と、その……したこと、あるの?」
さっきの仕返しとばかりにティルが尋ねると、愚問だと言いたげにソロンは肩を竦めた。
「ここは闇闘技場だ。ンで、俺は年中ここで戦っている。挑戦者には、あンたみたいな女も時々現れる。……あとは、言わなくても判るな?」
即座にティルが答える。
「わかんないわよ」
ぷぅッとふくれた顔は、まるで子供みたいだ。
「ま、わかンなくてもいいさ。いつまでも話してッと客も退屈するだろうから、そろそろ始めようぜ」
話を誤魔化されかけ、突っ込もうとしたティルだが。
隣からフィリアの甲高い悲鳴が迸り、彼女はハッとそちらを見やる。
なんと、反射速度ではティルにだって負けないフィリアが、キーファなんぞに押さえ込まれているではないか。
試合前には彼をスピードタイプと称したが、そこまで素早いとは思ってもみなかった。
まさか正攻法で床に押さえ込まれたのか?
だとしたら、この闇試合。恐ろしく強敵揃いの――
ティルの思考をぶった切るように、フィリアの口から、またも甲高い悲鳴が漏れる。
それは悲鳴というよりも、喘いでいる。
そう表現して差し支えなく、声の端々に色気を感じさせた。
「あッ、あァッ、あぁんっ、あっ、はぁっ、んあぁッッ!」
断続的に息を切らせ、キーファの体にしがみついたまま、ぶるぶると震えている。
一体なにをされているのかと目を凝らして、ティルは、かぁっと己の頭に血がのぼるのを感じた。
キーファの指はフィリアのズボン、さらには下着の中にまで潜り込み、彼女の膣内を掻き回している。
指が水音を立てるたびフィリアの体はビクリッと仰け反り、口からは悲鳴とも喘ぎともつかぬ声が飛び出た。
「なッ――!何してるのッ、あいつ!?」
その問いには答えず、ソロンはぼそりと呟いた。
「始めるぞ」
ティルはハッとなり背後を振り返るが、彼の姿はとうになく。
見失った、そう考えるよりも先に体が動いていた。
その場を離れ、コーナーポストを背に構える。だが――
「敵が後ろだけを狙うとは限ンねェぜ?」
真っ正面に影が落ち、それがソロンだと判った時には唇を唇で塞がれていた。
「んッ」
間髪入れず腕を掴まれ、口の中には舌が侵入してくる。
奥まで入れさせまいと、ティルは舌で応戦した。
すると、舌を舌で舐められる。ぬるぬるして変な感じ。
口の中を舐められながら、これって初キス?なんて考えがティルの脳裏を横切り、彼女は途端に悲しくなった。
なにが悲しゅーて、大勢の目に見られながら好きでもない男にキスされなきゃいかんのか。
だが、それを言ったらフィリアのほうが悲惨だ。
恋人もいる身だというのに、好きでもない男に恥辱プレイの真っ最中。
口の中で攻防を続ける間にも、ぐいっと体を抱き寄せられ、ソロンの体とティルの体が密着する。
下腹部に熱を発する物体を感じ、彼女は滅茶苦茶に暴れた。
暴れるといっても抱きしめられている以上、ティルの出来た行動といえば頭を左右に振るぐらいだったが。
口を塞がれっぱなしで息が苦しくなってきた。
このままでは呼吸が出来ない!ヘルプ、ヘルプミー!
――という脳内の救難信号がソロンにも届いたのか、彼は不意に口を離す。
「キスすンのも初めてだったか?苦しかったら、鼻で息しろよ」
そういえばそうである。
人間には鼻という呼吸用の穴もあったのだ。
だが、問題はそこではなく。
「う、うるさい!そんなことどうだっていいから、この手を放しなさいよッ」
初めてを台無しにされたことよりも、彼女を支配している恐怖があった。
密着している謎の高熱物体が、今のティルにとって最大の恐怖だ。
会場内を、アナウンサーの叫びがガンガンと木霊する。
『フィリア、ロープにしがみついたまま、なすがままにされているッ!キーファの動きが速くなってきたァ!だがフィリア、全く反撃できない!このまま落ちるのかーッ!?』
キーファとフィリアの戦いも、一方的な流れとなっているようだ。
さっきまで寝技で押さえ込まれていた彼女は今や全裸で、身につけているのは黒のパンツだけ。
それも足首に頼りなくすがりついているといった有様だ。
革鎧やズボンは哀れズタズタに切り裂かれ、リングの上で残骸を晒している。
フィリアはロープにしがみつき、背後からキーファにのしかかられていた。
両手で力強く揉まれ、柔らかな胸がキーファの手の中で、ぐにぐにと形を変えている。
フィリアが喘ぐたび、キーファも獣のような雄叫びをあげ激しく腰を振る。
動きの激しさ故にか、それとも別の感情が体を支配しているのか。
次第にフィリアの体勢は崩れていき、ロープにしがみついたまま彼女は膝をついた。
既に息も絶え絶えで、それでもキーファが腰を振るたびに艶っぽい声をあげるのをフィリアは忘れなかった。

彼女が後ろから犯されているのだということは、彼氏居ない歴二十四年のティルにも何となく判った。
フィリアの声を聞いているだけで、何故か体がカァッと熱くなる。
なんでだろう。さっき、ソロンが言っていた媚薬とかいう薬の影響?
同時に自分が今、男に拘束されているのも思いだし、ティルの背筋に寒気が走った。
まさか、いや、まさかじゃなくて確実にティルもソロンに犯される。
違いない。
フィリアが襲われてティルが襲われない可能性なんて、限りなく低いではないか。
「ねぇ、やめてよ!こんなの卑怯だわ、真面目に試合しなさいよ!!」
言っても無駄だとは自分でも思ったが、一応騒いでみる。
案の定、ソロンには失笑された。
「ルールは何でもアリ。気絶したほうが負けだ――最初に、そう説明されただろ?」
「でも、だからって!闘技場なのよ?あんただって剣持ってるじゃないの、格闘技で戦いなさいよ!」
ソロンは肩を竦め、茶化してみせる。
「格闘技で戦うなんて、最初から一言も言ってねェぜ?」
確かに一言も言ってなかったような気はする。審判も。
舞台が闘技場だから格闘技なり剣技で戦う、と決めつけていたのはティル側だけだったようだ。
「まァ、剣で戦っても良かッたンだがな。ボスに言われたンだよ、お前らの肌は傷つけるなッて」
耳元で囁かれ、くすぐったさにティルは身をよじる。
だが、そうすると謎の高熱物体も体に密着して、彼女は再び悲鳴をあげるはめに。
「どッ、どッ、どうしてよォ!それと、これ!気持ち悪いから、早くしまって!!」
「気持ち悪い?しまえって、何をだよ」
「何って、これ!さっきから当たってるの、なんか熱もってて堅くて、もう、とにかく気持ち悪いのッ!」
ギャースカ騒ぐティルに、初めの頃こそ疑問顔で首を捻っていたソロンであるが。
彼女が何に怯えているのかがやっと判り、体を退くどころか逆に強くティルを抱き寄せた。
革鎧に長いズボンを履いていたフィリアとは違い、ティルは元々が軽装である。
上は短めのシャツに肩当てぐらいしか防具を着けておらず、シャツの裾からは、ちらりとお腹も見えている。
下は半ズボンで、柔らかな太股を剥き出しにしていた。
脱がそうと思えば簡単に脱がせる格好と言えなくもないが、脱がすのは後でじっくりやればいい。
ティル曰く『熱をもってて堅くて気持ち悪いもの』を彼女の腹に、ぐいっと押し当てる。
「これが何なのか判ンねェッて、まさかだろ?いくら男とヤッたことがねェ女だッて、これが何なのかぐらい知ってンだろーが」
「ギャー!生暖かいッ、ギャー!!」と絶叫しているティルは、しっかり両目を瞑っていた。
パニックに陥って、まともな思考が出来なくなっている。
子供でも、もうちょっと落ち着いてるだろと突っ込みたくなる様子のティルを軽く揺さぶり、ソロンが促す。
「おい、目をあけろ。ンで、これが何なのか調べてみろッて。別に、怖がるよーなモンじゃねェよ」
意外と強情なのか、彼女は目を開けようとしない。
チッと舌打ちすると、ソロンは別の手を試みた。
すなわち、ティルを脱がすという行為に移ったのである。

先ほどとは違う、熱を持つもの――ソロンの手に股間を撫でられ、ティルはビクリと体を震わせる。
ぱっちり目を開け、ヒステリックに彼女は喚いた。
「ちょっ、ちょっと、やだ!へんなとこ、触んないでよ!!」
押しのけようにも背に腕を回され、抱きかかえられているのだ。
どうにも如何しがたく。
片腕だというのに、押しても引いてもビクともしない。すごい腕力である。
一時的に見失ったスピードといい、この男、ティルよりも肉体能力は格段に優れているようだ。
「さッきの話だがな。ボスはお前らを娼婦にしたいらしい」
「はぁッ?娼婦?そんなの、なるわけないでしょ!?私達は誇りあるロイスの戦士だもの!」
ぷんすか怒るも、また股間を撫でられて、ティルは可愛い悲鳴をあげた。
「ひゥんッ!」
自分でもビックリするほどの甲高い声だった。
腕の中でビクンッと震える彼女を見て、ソロンは二度目の舌打ちをする。
最初のとは異なり、苛ついてというよりも自分の中に生まれた感情を消そうとするかのように。
「……クソッ。可愛いじゃねェかよ」
彼の呟きは、必死になってもがいているティルの耳には幸か不幸か届かなかったようだけれど。

今度の挑戦者は、ロイス王国からきたスパイだと聞かされていた。
誘拐された姫君を追って、ザイナロックまで来たらしい。
誘拐された姫の話ならボスが前に、何か言っていたような気もする。
もっともソロンは、あまり興味がなかったので、さらっと聞き逃してしまった。

顔も知らぬ姫君よりは、こっちの女の方がイイな、と彼は思った。
歳は二十四だと聞かされていたが、年上とは思えないほど純情で、そこがまた可愛い。
ちょっとオバカな感じもあるが、そこは格闘家なんぞをやっているせいだろう。
脳筋には馬鹿が多いものだ。
ちらりとキーファの方を見ると、フィリアは床に顔をつけて失神しており勝負は早々とついていた。
案外早く堕ちたものだ。
向こうの女には恋人あり、と情報には書かれていたはずだが……
アナウンサーが朗々とキーファの勝利を告げ、続いてソロン達のほうへ目を向ける。
『おっと、ソロンの方も、ようやく仕掛けたか?ティル、金縛りにあったように動けない!』
金縛りとは言い過ぎだが、振り解けないのは事実。
必死になって振り解こうと頑張っているが、所詮は女の細腕だ。
そんなもんで簡単に振り解かれるような、軟弱な訓練をした覚えがない。
「お前がなりたくないッつっても、もう決まッてる事なンだ。ここに出場した瞬間からな」
つん、つん、と優しく股間を突いただけで、ティルはモジモジと太股を擦り合わせ拒絶する。
「やッ、だ、駄目ッ!」
しかし激しい拒否とは裏腹に、じんわりと、ズボンの股間に染みが広がる。
失禁してしまったのだ。
あまりの気持ちよさに、体のほうが先に反応してしまったらしい。
感情が追いついていない。
「や、なにこれっ、どうしてッ!?」
自分でも訳のわからない生理現象で涙ぐむティルに、ソロンが応じた。
「言っただろ?媚薬だ、薬が効いてるンだよ」
今度は胸を攻めてみる。
ティルの胸はフィリアのよりは、ずっと小ぶりだ。
だが両手で掴んでも尚余る巨大サイズよりは、こっちのほうが掴みやすそうではある。
邪魔な肩パッドを片手で引きちぎり、シャツの上から片方だけ掴んでみると――
「いやぁッ!やだやだやだッ、ダメダメ!駄目だったらぁっ!!」
半狂乱のティルにバタバタされた。
構わず、ふにふに、と力を入れず揉んでみると、意外や掌には弾力を感じる。
やはり小さくても胸は胸のようだ。当たり前だが。
手触りを楽しみながら、「結構柔らかいな?小さいけど」などと囁いてやれば。
すかさず「なによ、小さくて悪かったわね!」と、ティルからは即返事。
つくづく反応の楽しい女だ。
だが彼女だって、いつまでもやられっぱなしではない。
バタバタさせていた足を不意に反動をつけて振り上げると、ソロンの股間を狙ってきたではないか。
「――ッ、と!危ねェ」
直前で身を離し、手で止めていなかったら、今頃は股間をグシャッとやられて、のたうち回っていた事だろう。
さすがは王宮戦士、戦う意志は最後まで捨てていない。
ティルはというと、この期を逃さず間合いを大きく開け、コーナーで身構えている。
アナウンサーが彼の失態を声高々に叫んだ。
『ソロン、遊びすぎたか?せっかく捕まえたのに逃がしてしまったぞ!』
勝利したキーファも、ソロンの元へやってくる。
「おい相棒、俺も手を貸そうか?」
「いや、いい」
せっかくの申し出も断り、振り向かずに背中で答えた。
「俺一人で充分だ」
「そうか?手こずってるように見えたんだがなァ」
恐らくは背後でニヤニヤしているであろうキーファに、もう一度キッパリと答える。
「俺が今までに、獲物を勝たせてやったことがあッたか?一人で充分なンだよ、あの程度の相手は」
見ろよ、と顎で彼女を示した。
やっと逃げ出したものの、ティルの足はガクガクと震え、まともに立っているのも至難の業。
媚薬が全身まで行き渡ってしまったのだ。
最早、ちょっと突いただけでも彼女はダウン間違いなしのはず。
「けどよ、あの薬を飲ませて、ここまで保った奴も珍しいと思わねぇか?」
キーファの言い分も尤もで、その辺だけはティルを褒めて然るべきかもしれない。
足腰ガクガクのくせに反撃までしてきたのは、これまでにティル一人だけなのだから。
「それに、お前も、そろそろヤベェんじゃね?無理しないで、いけるところまでいったら――」
ソロンにギロリと睨まれ、キーファは後の言葉を飲み込んだ。
「平気だ。何度も同じ事を言わすンじゃねェ」
媚薬はフィリアとティルのグラスだけに入っていたわけではない。
キーファとソロンのグラスにも、ばっちり薬は含まれていた。
これもボスの指示で、それを聞いた時、キーファは首を傾げたものだった。
剣士側が媚薬を飲んだことなど、今までに一度もなかったからである。
だがフィリアと戦った時のキーファが獣の如く精力的だったのも、ある意味、薬のおかげだと言える。
最近の彼は闘技場での戦いに、マンネリズムを感じていた。
それが今日の試合では立て続けにフィリアの中で放ち、あわや先に力尽きるかというほど奮戦した。
フィリアがキーファよりも先にオルガニズムへ達したから良いものの、危ない試合展開になった。
それでも、興奮はした――彼自身も、客も。
特に客の興奮はキーファよりも上だったらしく、勝利が決まった瞬間の歓声は今までで一番凄かったと思う。
闘技場は客商売である以上、客にウケるということを第一に考えねばならない。
そういうつもりで俺達にも薬を飲めと指示したんだなぁ、とキーファはボスに改めて敬意を表したのであった。
それはそうと早々試合を決めたキーファとは異なり、ソロンは、だいぶ時間がかかっている。
ティルもボロボロだろうが、条件は同じ。
ソロンだって薬が全身に行き渡っているのだ。
興奮だけでは済まないかもしれない。
下手すれば暴走による自爆、或いは反撃を受けて敗北するかもしれない。
それでも、心配すればソロンは怒るだろう。
闘剣士ナンバーワンとしてのプライドが、彼にはあるから。
なので小さな声でボソッと「頑張れよ」とソロンの背中へ声を掛けると、キーファはリングを離れた。

熱い。
体全体が火照るように、熱い。
それに内から来る衝動は、精神的に未発育のティルを悩ませた。
二十四にもなってと皆からは驚かれてしまうかもしれないが、セックスはおろか自慰も未経験。
見事なまでに格闘一筋の脳筋人生を歩んできたが故に、そうした行為とは無縁を貫いてきた。
それが、今、この時になって徒になろうとは。
神様だって見抜けない運命の罠である。
――とか言っている場合ではなく、やばい、股間のムズムズが激しくなってきた。
ソロンに触られてから、ムズムズが酷くなってきている。
今すぐにでもトイレに駆け込んで、ムズムズする部分を掻きむしりたい衝動に駆られる。
試合中だというのに、全く試合に集中できない。相手は前代未聞の強敵なのに!
「どうした?息が乱れてンぜ」
コーナーの向こうで奴が笑う。
その態度は余裕綽々……いや、よく見ると、彼も肩で息をしている。
金的しか狙っていないはずなのに、何故ソロンまでもが疲労しているのか。
少し考え、すぐにティルは答えがわかった。というか、思い出した。
只今彼女を大変悩ませている媚薬、そいつを彼も飲んでいたんだと。
同時に飲んだのだから、薬の効果が出るとすれば当然同じ時期に出るはずである。
ということは、彼も股間ムズムズ病に悩まされているのか?
なら、勝てるかもしれない。この勝負。
動きの乱れたほうが負ける。
ガクガクする足を二度、三度叩いてから、ティルは一気に飛び出した――

――つもりだった。

ガクンッと前のめりに倒れ込み、彼女は転倒する直前でソロンに抱き留められる。
「おいおい、足ガクガクじゃねェかよ。それでよく飛び出そうと思ッたモンだな?」
嘲笑われてカァッと頭に血が上るが、ティルはもう立っているのも面倒くさくなっていた。
体だけじゃない、口の中もカラカラだ。
砂漠の中、水もなしに放置された気分。
ぼうっとする頭で、ティルはソロンを見上げた。
彼女的には睨みつけているつもりなのだろうが、薬効果のおかげで全然怖くない。
ゆっくりと床にティルを横たわらせた。
しかし何も、ソロンは彼女を介抱するわけではない。
ここは砂漠ではなく、闘技場のリングなのだから。
シャツをめくりあげると、ツンと立った乳首がお目見えする。
軽く咥え、舌で先端を刺激してやる。
するとティルが激しく身震いして、ソロンの首へ両手を回してきた。
「はぁッ、やだ、やだぁッ、いやぁッ、怖い、怖いぃぃっ」
嫌だ怖いと叫びつつ、ぎゅっとしがみついてくる。
一見は不可解な行動だが、彼氏居ない歴が年齢数なら、これもありかなとソロンは思い直した。
自分の身に起きている生理現象の数々が、彼女には理解できないでいるのだ。
理解できないせいでパニックを起こしながらも、体は刺激を求めて反応してしまう。
つまり、しがみついているのは彼女の意志ではない。無意識の行動だろう。
よく見りゃティルはスンスン泣いているし、なんだか、だんだん可哀想になってきた。

――なンで、こんなのが乗り込んできたかなァ……

闘剣士やって長いソロンだが、対戦相手を不憫に思ったことなぞ今日が初めてである。
アナウンサーは無情にも、ソロンの行動を逐一アナウンスしている。
『さぁソロン、ズボンを脱がしにかかったァ!おぉっと、ズボンと一緒にパンツもずるっといって、可愛いお尻がお出ましだ!白くてスベスベしたお尻をソロンの手が撫でてゆくゥーッ!その指が、割れ目に侵入したぞ!対してティル、泣き叫ぶだけで反撃なしか!?』
スベスベしているかどうかなんて触っている本人しか分かり得ない情報だが、アナウンスは、さすが熟年。
長年やっているだけあって、触っているソロン以上の興奮を会場へ伝えている。
いや、今回ばかりはソロンも興奮していた。
今までのマンネリズムな試合と違い、今回は彼も媚薬を飲用している。薬の作用だ。
割れ目の中は熱く、指を少しでも動かすたびにティルが体をすり寄せてくる。
やはり「怖い」と「嫌」を連発したが、丹念に揉みほぐしているうちに違う言葉も混ざってきた。
「や、やぅっ、はぁっ、あぁっ、んんぅ、い、いい、そこ、もっと、くぅっ」
「そこ?いい?もっと触ッて欲しいのか?」
との問いには頭を振り、なおも彼女は譫言のように呟いた。
「もっと、おく、あぁッ!」
かと思えば糸の切れた人形のように、ぐったりとなり、ソロンの首に回していた腕を解く。
何をするのかと様子を伺えば、自分の指で前を擦り始めた。
今度は、しきりに「いい」を連発している。
刺激すると気持ちいい、というのを初めて知ったらしい。たった今。
どれだけ純情だったンだよ、この女は――半ば呆れながら、ソロンもズボンを降ろす。
ズボンを通してパンツまで濡れているのに気づき、彼は苦笑した。
濡れた原因はティルの小便や愛液だけではない。
彼も興奮のあまり先走りを出していたのだ。
パンツも脱ぎ、自分の汗とティルの汗で湿ったシャツもついでに脱ぎ捨てて、全裸になった。
余分な肉など一箇所もない、引き締まった体が現れる。
股間に生えた逸物も、ぎんぎんに勃起して凶悪な様を晒していた。
「はぁう……」
気がつけば、ティルもぼんやりした視線をソロンの股間に向けている。
だが、続く言葉には思わずソロンもガクッとコケそうになった。
「それ、なぁに?」
全身汗だくになりながらも、子供のように無垢な瞳でティルが尋ねてよこしたのだ。
どうやら、本気で判っていなかったらしい。熱くて堅い以下略が何なのかを。
本当に二十四歳なのかを疑ってしまいたくなる。
二十四年間、何を見聞きして生きてきたのだ、この女は。
「コレが何なのかなンて、名前を知る必要はねェよ。お前が知る必要あンのは……」
ティルの体を軽く押して床に寝転がさせると、彼女の上にまたがった。
「こいつが体ン中へ入った時の快感だッ」
ぐちゅぐちゅの陰部に堅くなったモノを押し当てる。
すると難なく、ぬるりと中へ入り込んだ。
ティルが処女だというのは想像に難くなかったのだが、これなら痛みで泣き叫ばれる心配もなさそうだ。
まぁ、相手が泣き叫けぼうとヤることはやるのに変わりないのだが……
ボスからは、ティルが娼婦として使い物になるよう、徹底的に仕込めと命じられている。

娼婦として仕込む前に、常識でも仕込んだ方がいいんじゃねェか?

そんなこともチラリと考えたが、それはソロンの仕事じゃない。
根本まで挿したが、ティルは痛いと泣き叫ぶどころか、ぎゅうっとソロンにしがみついてきた。
薬の効き目か、或いは元々淫乱になる要素があったのか?
なら、娼婦になるのも悪くない。
少なくとも、ザイナロックの要人に引き渡され、スパイ容疑を受けて殺されるよりはマシだろう。
腰を動かしているうちに、色々な思惑もソロンの頭からは消えていった。
彼は二回ほどティルの中で精を放ち、ティルもまた、絶頂の中で意識を失った――

Topへ