第九小隊☆交換日誌

報告その8:亜人の島に入ってみたよ!  【報告者:ナナ】

やっと亜人の島に到着した。
はぁ〜、ここに来るまでの道のりが散々だったよぉ。
あたし、何回、皆の前で脱いだんだろ。
キースのやつ、必要以上に馬鹿騒ぎして……
恥ずかしいったら、ありゃしない。
あんな変態眼鏡にサービスしてやる義務なんてないのに。
……ま、でもいっか。
ユン兄も見ていたしねっ♪
ユン兄、あたしの美肌を見て、どう思ったかなぁ。
ドキドキしちゃったりして?
エヘヘ。
ユン兄って、考えてる事が表情に出ないから
何考えてるのか、よく判んないんだよね。
もっと自分をアピールしていいんだよ?ユン兄。
あたしも、いっぱいアピールするからね☆


あ、そうそう。報告ね、報告。
船で一泊した次の日、島へ入ることになったの。
でも島の様子がおかしいから慎重にいこうって、斬さんが言い出した。
だから皆も、それに従って、銃とかロープとか必要なものだけ
小さなバッグに入れ替えて、持っていくことにしたんだけど……
出かける直前になって、シモビッチさんがワガママ言い出したんだよね。
「全員で行くのか?全員一緒に?島の様子がおかしいのだろう」
「そうですわ、だからこそ一緒に行くんじゃございませんこと」
エルニーさんの言うことは、ごもっとも。
あたしだって、未開の島で分散するのはヤバイって判るのに。
ただでさえ、斬達以外は初めての島なんだし。
でもシモビッチさんには判らなかったらしく、駄々をこね続けた。
「私は嫌だぞ!諸君等と一緒に一網打尽されるなどッ」
「ふぅ……では、二手に分かれて行動するか?」
わざとらしく溜息をついた斬さんの提案に、セツナ先生が首を振る。
「駄目よ。少人数では、何かあった時に対処しきれないわ。
 一網打尽でも何でも、ここは皆でまとまって行くべきね。
 それでも一緒にいたくないというのであれば、Mr.シモビッチ?
 貴方だけ別行動を取るといいわ。
 私達だって、あなたの道連れは御免ですからね」
うわぁ〜、ビシッと言っちゃったぁ!
たちまちシモビッチさんの眉間には、幾つもの縦皺が寄っちゃって。
「よかろうッ、フンッ!
 冒険家である私の意見を聞かないとは、貴様等後悔するぞ!」
そうは言うけど、あたし達、シモビッチさんが冒険家として
格好良く戦った場面なんて、一度も見ていないんだけど。
結局は自称・冒険家なんじゃないの?
……まぁ、いいや。
シモビッチさんに構ったせいで、無駄な時間を使っちゃった。
「では一緒に行く。これでいいな?」
「ハーイ」「了解」「判りましたわ」
斬さんを先頭に、皆でゾロゾロと海岸に降り立った。
う〜〜ん、気持ちいいっ!
空は快晴、雲一つなしっ。バックに広がるのは、綺麗な海。
これが任務じゃなくてバカンスだったら、楽しかったのにな〜。
ユン兄と一緒に泳いだり、砂浜で背中にオイルを塗ってあげたり。
ユン兄って、いつも長袖長ズボンの軍服だけど、あの下って実は――
「今、バカンスならいいのにな〜って考えてたでしょ?ナナ」
うっ。レンに突っ込まれ、あたしは我に返る。
「そ、そんなわけないでしょ!?ほ、ほら、いこっ」
「ハイハイ」
慌てて誤魔化すあたしの後ろを、レンがついてくる。
先頭の斬さん一行には、すぐ追いついた。
だって、ちょっと手前で立ち止まっていたんだもん。
目の前に広がるのは、木々の生い茂った森。
獣道はあるみたいだけど、中は薄暗く、できれば入りたくない感じ。
斬さんが、あたし達のほうを振り向いた。
「この島は、全土が森で覆われている」
「えっ、じゃあ森イコール島ってことですか?」
レンの質問に、斬さんが頷く。
「そうだ。森に入らずして、亜人の島探索は出来ぬ」
うぅ、さっきから、こっちの考えを見透かされてばっかりだよぉ。
それとも、あたしって、そんなに顔に出やすいのかな?心の声が。
「ナナ、心配するな」
ポンと後ろから肩を叩いてきたのは、ユン兄だ。
ユン兄のほうから話しかけてくれるなんて、珍しい。
「何があろうと、俺が必ずお前を守る。二度と怖い目には遭わせない」
「えっ!ホント!?」
返事の代わりに、ユン兄はコクリと力強く頷いた。
アハ、嬉し〜。まさかユン兄が、そう言ってくれるなんて!
キースが言ったなら、軽くスルーしてるトコだけどね。
「絶対だよ、ユン兄♪」
調子に乗って、ぎゅっと抱きついてみたりして。
カネジョーと違って、ユン兄はじゃけんにしたりしないから大好き。
まぁ、間違ってもカネジョーなんかには抱きついたりしないけどね。
それと結構イイ体してるんだよ、ユン兄。
いつかナマで見てみたいなぁ。
浜辺でオイルを塗ったりする機会、帰りに作っちゃおうかな?
ちょっとぐらい寄り道したっていいよね、調査が終わった後になら。
「ナナたん!俺も全身全霊をかけて、君を守ってやるからなッ」
あー、うるさい。黙れ眼鏡。
人がユン兄に酔いしれているってのに、邪魔しないでよ。
「どぉっすか?叔父さん、なんかの気配は感じ取れますか」
「いや……何もいない」
森の入口では、ジロくんと斬さんが、そんな会話をしていた。
「何もいねぇ?却って不気味だな……」
首を傾げるカネジョーを、セーラさんが励ます。
「大丈夫よ!何があっても私があなたを守ってみせるわっ」
カネジョーを吹き飛ばしかねないほどの鼻息で。
でもセーラさんだと、守るっていうより襲うって感じだよねェ。
あ、こんなこと書いたら、怒られちゃう?
それはそれとして。
いつまでも怖がっていても仕方ないので、あたし達は森へ足を踏み入れた。


森の中はランプが必要なんじゃないかってぐらい、足下が薄暗い。
バキッとか小枝を踏んじゃって、そのたびビクビクしているあたしに
キースがニヤニヤしながら話しかけてきた。
「どうしたナナたん、腰が退けているぞ?」
「べ、別に?退けてなんかいないし」
強がってみせると、変態眼鏡はますます調子に乗って近づいてくる。
「じゃあ、その震えている太股は何だい?武者震いか。
 むしゃぶりつきたいほどにおいしそうな太股だがな」
何言ってんの?この男。
「キース、ふざけている場合じゃないでしょう。時と場合を考えなさい」
あたしが文句を言う前に、セツナ先生が怒ってくれた。
キースはヘーイとか何とか口の中で文句を言っていたみたいだったけど。
それに構っていられるほど、あたしは暇じゃなくなった。
だって、キースのほうを振り向いた途端。
今度は前方から、レンとセーラさんの悲鳴が聞こえてきたんだもん!
「ど、どうしたのっ!?」
慌てて、今度はそっちへ振り返ると。
目の前で木の幹が、ぶわんぶわん暴れていた。
や、マジで。夢を見ていたとか、そーゆーんじゃない事だけは確か。
木の幹が生き物みたいに、揺れまくっていたんだってば。
ありえない。こんなの、絶対フツーじゃないよ!
「散開しろ!」ってユン兄が叫ぶのと、幹がユン兄を襲ったのは同時だった。
あたしをさらったタコ足みたいに、シュルシュルッと巻き付いてきて
あっと叫ぶ間もなく、ユン兄の体が宙に浮く。
「ちょ、ちょっと!ユン兄に何すんのよっ」
あたしは慌てて銃を構えたけど、発砲する前にセーラさんに怒鳴られた。
「駄目よ、撃ったらユンに当たってしまうわ!」
血気盛んなセーラさんにしては、冷静なアドバイスね。
怒鳴られたおかげで、あたしの頭に登った血も一気に引いた。
そうよ、こんな位置から撃ったらユン兄に被弾しちゃうじゃない。
ありがとう、セーラさん。止めてくれて。
でも、どうしよう?ユン兄が、このままじゃユン兄がっ!
「マスター、彼を助けないと!」
ってスージくんも叫んでいるけど、斬さんでも迂闊に近づけないみたい。
あたしを助けてくれた時は、軽快にタコの足の上を走った彼だけど
木の幹はタコの足ほど太くないし、激しくビヨンビヨン揺れているしで
簡単にはいかないんだろうなってのは、見ているだけのあたしにも判る。
ユン兄自身も、幹を叩いたり引っ掻いたりして逃げだそうと懸命だ。
でも木の幹じゃあ痛みも感じないだろうし、どうすれば……
「火でも放ったらいいんじゃねーか?」
カネジョーがバカ言って、即座にレンに怒られてる。
「森の中で火を放つって、正気ですか?カネジョーさんッ」
だよね、そんなことしたら火事になっちゃう。
ユン兄を助ける前に、あたし達が全滅だよ。
「何かいい案ないの?シモビッチさん!」
あたしが尋ねると、冒険家のシモビッチさんは胸を張って答える。
「ないっ!全然何も思いつかんぞぉ!!」
つ、使えない人だなぁ……
なんて、呆れている場合じゃないや。
こうなったら別の木によじ登ってでも、ユン兄に近づかないと。
走るあたしの腕をハッシと捉えたのは、何とキース。
なによ、もう。こんな時に邪魔しないで!
頭に来たあたしは、間髪入れずに蹴ってやった。
え?どこを、って?
決まっているでしょ、昔から痴漢を撃退するのに一番いい急所よ。
「うっ……ごぉぉおぉ」
蟹みたいに口から泡を吹いていたけど、そんなものに構っている暇はないし。
「ユン兄、今、助けるから!」
近くの幹にしがみついて、あたしは木登りを始める。
子供の時以来だなぁ、木登りするの。
登っている途中にも、木の枝があたし目がけて襲いかかってきたんだけど。
「オラオラオラァッ!燃えたくなかったら、引っ込みな!!」
下から援護してくれたのは、カネジョーとレン。
レンは当然としても、意外だよね。
カネジョーが、あたしを援護してくれるなんて。
飛んでくる瓶に、あたしも木の枝もビクッとなった。
瓶はスレスレで、あたしの横を飛んでいき、
木の枝が引っ込んだ瞬間を狙って、あたしも次のコブへ足をかける。
よーし、よしよし。だんだん木登りのコツを思い出してきたぞぉー。
その時「くっ」と小さな呻きが聞こえ、あたしは慌ててユン兄を見る。
――やだっ!
ユン兄のズボンの中に、木の枝が侵入しているじゃない。
あたしでさえ触ったことのないユン兄の秘密地帯を、よりにもよって木の枝が!
木の枝が動くたびに、ユン兄の口から苦しそうな声が漏れる。
どうしたの、痛むの?それとも、くすぐったいの?
あぁん、どっちにしても許せない!
木の分際で、あたしのユン兄に何してくれちゃってんのよ!
「レン、カネジョー!火炎瓶プリーズ!直接ぶつけてやるわ!!」
下へ呼びかけると「駄目でしょ、火は!」とレンが反論する。
そういうあんた達だって、さっき火炎瓶を投げていたじゃない。
そう言い返すと、今度はカネジョーが怒鳴ってきた。
「ありゃあ、ただの威嚇だ!瓶の中身は油じゃねぇ、水だよ」
何よ、それ。思わず引っかかっちゃったじゃない、あたしまで。
「……んッ」と再びユン兄が小さく喘いで、体を震わせる。
やだ、やだやだやだっ、木の枝なんかに負けないで、ユン兄!
てゆーか、増えてるし!木の枝!
もう、ズボンの中だけじゃなく、上着の中にも入ってきてるぅ!
それでいて服は脱がされていないから、なんか余計にエッチっていうか。
どうせなら、全部脱がしてくれれば……ハッ!何考えてんのよ、あたし。
キースじゃあるまいし、こんな時にエッチな妄想して、どーすんのよォ。
「ハッ!」
と、今度は誰?
キラリと光る何かが下から飛んできて、グサグサと木の幹に突き刺さる。
うぅん、突き刺さっただけじゃない。
突き刺さった直後、木の枝が、まるで熱い物にでも触れたみたいに
ビクッてなって、一斉にユン兄の体から離れていく。
「え?えっ?な、何?」
刺さったのはセツナ先生が、いつも持ち歩いているメスだけど。
でも、なんで?なんで急に木の枝が反応したの?
ワケ分かんない。セツナ先生が、何かしたのかな。
放り出されたユン兄は、落下途中の枝へ華麗に着地。
そこから、するすると地上まで降りて、キースに手渡された銃を構えた。
「火は使うな……だが、やむを得なくなった時は許可する!」
「了解」と頷いたのは、セツナ先生とセーラさん、それからレン。
カネジョーは小声で何かぼやき、キースは手元の機材を見つめている。
皆と木が睨み合ったのは、ほんの数分ぐらいだったかな?
木の枝達は見る見るうちに元の幹へ巻き戻っていって、静かになった。
ホント、何もなかったってぐらい、すっかり大人しくなっちゃった。
夢でも見ているみたい……でもユン兄が捕まったのは、夢じゃない。
だって耳に残っているもの、ユン兄の喘ぎ声。
なんか、すごく色っぽいっていうか、エッチくさいっていうか……
ユン兄のああいう声、初めて聞いたから、今も胸がドキドキしてる。
「なんなの、ああいう木のモンスターが生息しているなら先に」
セーラさんの愚痴を遮り、ジロくんが言う。
「前に来た時は、いなかったッスよ、こんな植物」
「じゃあ、新種?」
セツナ先生の質問には、斬さんも首を傾げる。
「判らぬ。だが何かが起きて、その結果、生まれた種とも考えられる」
そんな進化って、ありえるのかしら。
なんか、しょっぱなから怖くなっちゃったなぁ……
するすると木を降りてきたあたしに、ユン兄が話しかけてきた。
「……守るつもりが守られてしまったな」
シュンとしょげるユン兄へ、あたしは明るく答える。
「ユン兄、ドンマイ。知らない地だもん、こういう事もあるって」
それに、実際に助けたのはセツナ先生だし。
先生にお礼を言うと、「仲間だもの、当然でしょ」って明るく微笑まれた。
だよね〜。お互い助け合っていくのが、仲間ってもんだよね。
「ナナたんみたく、素っ裸にされなくて良かったじゃないか」
計器と睨めっこしたまま、キースが変なことを言い出した。
なによ、好きで裸にされたんじゃないもん、失礼しちゃうわね。
「お前のサービスなんて、誰も期待していないんだからな」
変態眼鏡の変態コメントにも、ユン兄は生真面目に頷いてるし。
そこは無視してもいいんだからね、ユン兄?
「また襲いかかってくるのではあるまいな?」
ビクビクしながらシモビッチさんが言うのへは、斬さんが答えた。
「充分に警戒していれば大丈夫だろう。
 皆、一固まりになって銃を構えたまま進もう」
「えぇ、そのほうが良さそうね」
セツナ先生も頷いて、あたし達は斬さんの後ろをくっついて進んだ。

そのおかげでなのか、その日はもう、襲われることなく日が暮れる。
今日はもう遅いから、森の中でテントを張って一泊するんだって。
もちろん、見張りは立てるけどね。
一時間ごとに交代で、順番はセーラさんがトップバッター。
で、次があたし、カネジョー、セツナ先生、キース、ユン兄、レン。
それから斬さん、エルニーさんとスージくんとジロくんは三人一緒。
シモビッチさんが最後の見張りなんだけど……大丈夫かな?
この人を一人で見張りに立たせるの。
まぁ、シモビッチさんだって大人だし、大丈夫だよね。
自称冒険家でもあるし。
さ、そうと決まったら、寝よ寝よっと。
おやすみなさ〜い。

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