第九小隊☆交換日誌

報告その6:船酔い治療の薬を購入  【報告者:レン】

あー、きぼちわるぃ……
一晩あけても、全然具合良くならないよ……
しかも昨日、島に着いてからの出来事
カネジョーさん、全然書いていないし。

えぇとですね。
私とナナが船酔いでダウンしている間に
船は島へ到着したはいいんですけど
どうも、亜人の島じゃなかったらしいんですよ。
斬さんの話では『メイツラグ』って島についたそうです。
で、気づいたんだけど、めっちゃ寒い!
いや、甲板でぐったりしていた時から
寒いなーとは思っていたんですけど……
ここって海の最北端なんです。って、斬さんが言っていました。
それでですね、亜人の島はメイツラグから更に
西へ向かった場所にあるんですって。
でも私もナナも真っ青だし、ゲロビッチさん……
あぁ、違った、ナナが変な呼び方していたから、つい。
シモビッチさんもジロさんも皆、船酔いで調子よくないから
この日はメイツラグで一泊しようって事に決まりました。

メイツラグの、えぇと、なんていったかな?
そうそう、『踊る子ヤギの満腹亭』っていうお店に泊まったんです。
お代は勿論、シモビッチさん持ち。
彼が冒険費用を全部預かっているんだとか。
お財布役ですね、つまり。
斬さん達は同じ部屋に泊まって、シモビッチさんは個室。
私達は四人用の部屋に全員押し込まれました。
ありえませんよねー、女の子を野郎共と一緒の部屋に入れるなんて。
でも、この時点では私もナナも文句を言えるコンディションになくて
半ば無理矢理、部屋に運び込まれました。
キースさんも、この時ばかりは体調の悪いナナを気遣っていました。
「ナナたん、しっかりしろ。ゲロを吐きたくなったら俺に言うんだぞ」
と、真剣な顔でナナに呼びかけていたっけ。
あの人、あんな真面目な顔もできたんですね。
ナナは「うー」とか「あー」とか呻くだけで、まともに返事できませんでしたが。
かくいう私も似たような有様で、セーラさんにオンブされて入室。
そこから先は、あまり覚えていません……


とにかく一夜明けて、今日こそは亜人の島へ出発!
したいところなんですけどねー。まだ気持ち悪いし。
見れば、ジロさんもスージさんも、あんま具合良くなさそう。
エルニーさんはどうしたのかって聞いたら、部屋で寝込んでいるみたいです。
斬さんが首をフリフリ、「これでは出発できぬな。どうする?ユン殿」と
話を振ってきたんですけど、ユン隊長は堂々の無視。
代わりにセツナ先生が「今日もお休みしたほうが良さそうね」って答えました。
「そうですね、そうしましょう。お財布おじさんもグロッキーのままですし!」
って元気よく賛成したのは、スージくん。
そっか、シモビッチさんもダウンしているのか〜。
冒険家って名乗っている割には、虚弱だよね。私も人のことは言えないけど。
「じゃあ、僕、お薬探してきますね。マスターは、どうします?」
スージくんの問いに対する斬さんの答えは、こう。
「俺は船を探してくる。ジロ、お前はエルニーの看病をしておけ」
「あーい」とジロさんが、いかにもかったるそうに返事するのを聞き流しながら
スージくんは走っていき、私は彼の背中に向けて、お願いしておきました。
「あ、あのー!私達の分も、お願いしますー!」
……聞こえたかな?聞こえているといいんだけど。
それよりも、うっぷ。大声を出したからか、胃液が上まで迫り上がってきた。
あぁ、もう、サイアク。

あ、ところで。今、斬さんが船を探すって言っていましたけど
私達が乗ってきた船、なんか故障しちゃったらしいんですよね。
メイツラグへ座礁した際、どこか擦ったらしくって。
意外とモロい船ですよね〜。その程度で壊れるなんて。
とにかく船長達とは岸辺で別れ、近場の宿に一泊したというわけです。
「あーもー!どうして、あたし裸だったの?ユン兄、答えてよ!!」
うわ、うっさい。頭にキンキン響くから、勘弁して。
なんだ、ナナか……
どうしたんだろ、額に青筋でも立てかねない勢いで怒っているけど。
「吐瀉物まみれだったので脱がしたまでだ」
無表情でユン隊長が答える横では、キースさんがニマニマ笑っている。
「そうだ、俺の手でナナたんを脱がしたんだ。
 ナナたんの柔らかいオッパイの感覚、柔らかなシモの毛……
 今でも、この手が覚えているぜ」
うっわ、昨日の真面目な彼は何処へ行ったんですか。
超きんもいスケベ笑い浮かべて、両手をニギニギしているんですけど。
「いやぁぁぁーー!!」
あーあ、ナナってば本気にして絶叫しているし。
んなわけないでしょ。ちょっと考えれば、すぐ判るウソでしょーが。
すぐさまセツナ先生もキースさんの後頭部を叩いて、突っ込んでいました。
「キース。気持ち悪い冗談は、やめなさい。
 ナナちゃん、安心してね。私とセーラで脱がせたから。
 でも替えの服が見つからなかったので、裸で寝かせちゃったのよ。
 毛布一枚じゃ寒かったでしょう、ごめんなさいね」
「そ、そうだったの……」
とポカンとしたのも一瞬で、すぐにナナが反論。
「ってか、なんで裸!?あたしの荷物にあったでしょ、替えの服ぐらいッ」
「なかったわよ」と答えたのは、セーラさん。
「あなたの荷物、海賊達から逃げる時に海へ転落してしまったみたいね」
「え、えぇぇーー!!?」
またまたナナが絶叫。
というかセーラさんの答えには、私も驚きです。
これから先、ナナは一張羅で活動しなきゃいけないんでしょうか?
あー、さっきスージくんが出かけた時、ついでに頼んでおけば良かった。
女の子に似合う服も買っといてって。
斬さんが、さも気の毒そうな物を見る目でナナに言いました。
「今しばらくは、エルニーの服でも借りておくとよい」
「エルニーって、あの縦巻き髪の子の?
 やーよ、あの子の服って、どれもビラビラしたレースがついてるじゃないっ」
って文句言える立場じゃないでしょ、ナナ。
あんた、自分のカッコ見直してみなさいって。
その毛布一枚の下は、全裸でしょうが。
「じゃあ今日は一日、俺と部屋でイチャイチャしようぜナナたん。
 そう、俺も脱いで二人で裸になって、オゥフッ!!」
なんかキースさんまでが調子に乗り始めたので
私はよろけるフリをして、思いっきり奴の鳩尾に肘を入れてやりました。
「て、てんめぇぇ……レンッ、何しやがる……!」
「あぁー、まだ目眩がするみたいです。薬屋って、この近くにありますか?」
まッ、調子が悪いのは本当なんだから仕方ないですよね。
私が尋ねると、斬さんは首を傾げ「この島は物資が少ないからな」と呟いた後。
何か答えようとしていたんですが、それより先にスージくんが帰ってきました。
「マスター!薬屋って、どこですかぁ?全然見あたらないんだけどー」
あれだけ意気揚々と出かけておいて、見つからなかったですと?
意外と使えないポニーテール男ですねぇ。
「フン、使えないわねスージ」
私の横合いから、すっと一歩前に出たのはエルニーさんでした。
はて、この人は具合悪くてダウンしていたはずでは?
後ろからジロさんもついてきているから、元気になったのかな。
なんでか知らないけどエルニーさんの頬、ほんのり紅潮しているし。
確か、看病していたんだよね?ジロさんが、エルニーさんを。

……ハッ!

もしかして、ジロさんとエルニーさんはラブラブカップルなのでは!?
愛だ!愛の力でエルニーさんは船酔いを克服したんですね!
わ、私も欲しいです、そのパワー……ユン隊長ぉぉっ。
ってユン隊長、こっち全然見ていないし。
キースさんと器材を挟んで、なんか調べ物しているし。
私達のことも、たまには思い出してやって下さい。隊長……!
「なんだよぉー。じゃあエルニーは、どこに薬屋さんがあるか、知ってるの?」
スージさんの質問を鼻先でフッと笑い飛ばし、エルニーさんが答えました。
「薬屋がなければ道具屋で探せば宜しいのではなくて?」
ビシッと彼女が指さした先には、いかにも雑貨屋っぽい店が。
あー、なるほど。
専門店がない代わり、日用品は一纏めで売られているっつーわけですか。
田舎にありがちなパターンですね。
「薬の問題は解決だな。では船を探してくる」
斬さんは、そう言い残して行っちゃいました。
その後、私達は揃ってシモビッチさんを叩き起こし、お財布をブン取ると
雑貨屋さんで船酔い治しの薬草を購入。船酔いした全員が、飲みました。
めっさ苦くてゲロマズだったけど、良薬は苦いって相場が決まっているし。
「この薬を飲まなきゃ、私は死ぬんだ……」
暗示をかけながら薬を飲む私を、カネジョーさんがモロドン引きした顔で
「バカじゃねぇ?」とか嘲ってきましたが、どうとでも思っていればいいんです。
薬の苦手な人間の気持ちが、そう簡単に判ってたまるもんですか。


半日で気持ちの悪さも収まり、私達は元気回復。全快しました。
この世界の薬草って、すごいなぁ。
これは是非とも私達の世界へ持ち帰って、研究しなければいけませんね。
あ、船は斬さんが調達してくれました。
来る時に乗った船よりも大型で、魔砲が三つもついているんだそうです。
「ずっと気になっていたんですけど、魔砲って何ですか?」
私が斬さんへ尋ねると、シモビッチさんが教えてくれました。
「フン、魔砲も知らないとは、とんだ田舎者だな!
 魔法の弾を発射する大砲だ。レイザースが生み出した海の守り神だよ」
斬さんに尋ねたのに、なんでアンタが答えるんですか。しかも偉そうに。
……ま、いいや。
つまり、魔法の威力を秘めた大砲ってわけですね。
面白いなぁ、どうやって作るんだろ?
工場があるんなら、是非とも見学しておきたいものです。
「魔砲の種類は何かね?」
偉そうなシモビッチさんの質問に、斬さんが答えました。
「一通り、雷撃、炎、氷の三種類は揃えてある。弾は三十発だ」
「フム、まぁいいだろう。ここから亜人の島までは、そう遠くないからね」
「あのー、それで……」
おずおずとスージさんが切り出してきたので、皆で彼を見ると。
お財布を逆さまに降って、スージさんはヘラヘラと笑いました。
「全部、使い切っちゃったんですよね。費用。すいませーん」
あら、本当。糸くずしか落ちてこないわ、財布の中身。
「なっ……なんだってェェー!?」
シモビッチさんの絶叫を横目に、キースさんが斬さんへ言いました。
「辿り着きさえすれば、いいんだろう?
 なら、その魔砲とやらにつぎ込んだのは正解だな。
 次に海賊と出会っても、互角に戦えるってわけだ」
「だが、今度は船乗りがいない。無駄弾を撃つわけにはいかぬぞ」
斬さんの言葉に、セーラさんが力強く頷いて答えました。
「大丈夫、私達は一通り海での戦いを学んできたわ。
 キース、ユン、あなた達は得意よね?砲撃」
二人とも「あぁ」と頷いて、あ、隊長は無言でしたけど。
斬さんも「なら、お任せしよう」と満足そうに頷いていました。
シモビッチさんは、まだブツブツなにか不満を呟いていたようですけど。
私達は気にせず荷物や道具を船室に運び入れると、鍵をかけました。
出発は明日です。
船番の順番を決めた後は『踊る子ヤギの満腹亭』に、また泊まりました。
今度もマグロ部屋でしたが、ナナは私とユン隊長で交代に守りましたから
さすがのキースさんも手が出せなかったようです。やれやれ。


――とまぁ、こんな感じで、いいでしょうか?
昨日と今日の出来事まとめ。
次は……セツナ先生ですね、日誌。お願いしま〜す。

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