第九小隊☆交換日誌

報告その13:レイザース首都へ帰還  【報告者:レン】

もー、なんで毎回私がカネジョーさんの尻ぬぐいをさせられるんですか?
前回の報告にしたって、誤字は多いし、いい加減だし……ぶつぶつ。
いっときますけど、ナナとは雑談していたんじゃありませんよ?
ちゃんと、今後の予定を立てていたんです。二人で。

あ、のっけから愚痴すいません。
報告を開始します。


モリスさんが魔法生物の可能性が高いって言い出して、
それじゃ魔術師をメインに人員を募集しようって方向に決まったんです。
ハリィさんという方が率いるチームも加わる事になりました。
彼らは傭兵なんですって。
傭兵とハンターって、何がどう違うんでしょうね?よく判りません。
ひとまず、今日は遅いので明日残りの面々と合流しようってなって
その日は宿で一泊しました。
宿ではキースさんがエロゲーをユン隊長に勧めて怒られたらしいんですが
眠かったので、あまりよく会話を覚えていません。どうでもいいですし。
次の日の朝食はパンとコーヒーでした。
パンは手でちぎれる柔らかさで、香ばしい匂いがします。
コーヒーは焦げ茶色で、少々苦いです。
私達の世界のパンやコーヒーと、非常によく似ていますね。
全部は食べず、一部を切り取ってカプセルに収納しておきました。
「何だよ、お嬢ちゃん。お持ち帰りか?主婦みてーだナ」
ってボブさんには、からかわれてしまいましたけど。
全員が食べ終えた頃合いを見計らってから、宿を出ました。
今日の行き先は、首都だそうです。
そちらで、ハリィさんと残りのメンバーが待っているんだとか。
なんとなくですが、首都へは今後も何度か足を運ぶことになりそうですし
この際、一度徹底的に街の様子を調べてみたい気もします。
時間があったら、ですけど。


私達が来た時の移動手段は徒歩でしたが、
今回は他の皆さんも一緒ですし、馬車へ乗ることにしました。
もちろん、料金は報酬からの出費です。
席はガラ空き、ほとんど私達の貸し切り状態でした。
「わーい、レン、窓際座ろっ?」と、ナナに誘われたので
そちらへ歩きかけた時、背後からキースさんに呼び止められました。
「待て、ナナたんの横に座るのは俺のみに許された特権だ」
……なんで、こんな偉そうにされなきゃいけないんでしょう?私。
むかついたので、無視です、無視。
キースさんの言い分を全面聞き流し、ナナの隣へ腰掛けてやりました。
「おい!そこは俺に許された特権、おわっ!」
「いいから、とっとと乗ってテキトーに座れよ」
あっ、乗り込んできたカネジョーさんにどつかれて転んでやんの。
ざまぁみろですね。
結局キースさんは私達の後ろ、隊長の隣の席へ座ったようです。
んでカネジョーさんの隣には、当然のようにセーラさんが着席。
カネジョーさん、むっちゃ嫌がってましたけど。
セツナ先生は斬さんの隣に腰掛けて、その横にスージくん、
ジロくん、エルニーさんと続いて、ボブさん、カズスンさん。
ジョージさんとモリスさんは最後列の席に並んで腰掛けています。
キースさんが手に例の黒い携帯機を持っているのは気になりましたが
ユン隊長なら、きっと無言でスルーしてくれるでしょう。大丈夫。
「首都までは、何時間ぐらいでつきますか?」
私の質問にはスージくんが答えてくれました。
「だいたい一時間ぐらいかな〜。正確に測ったわけじゃないけど」
すごく速く感じるのは、絶対に私の気のせいじゃないですよね。
なにしろ行きが、えらく遠距離に感じたもんだから。
徒歩で都市間を移動するのは、二度とゴメンです。ハイ。
「馬車は初めてかィ?お嬢ちゃん」とボブさんに聞かれたので
私が素直に「はい」と頷くと、彼は白い歯を見せて笑いました。
「そっか、すっげェ揺れっから酔わねェよう気をつけろヨ!」
えーっ、乗り込んだ後に言われても困るんですけど。
乗り物酔いの薬、買っておけば良かったなぁ……

馬車が走り出して、しばらくの間は皆、無言だったんですけど
窓の外から風が入ってきたら、ナナがはしゃぎ出しちゃって。
「うわ〜、気っ持ちい〜い!
 ねね、見て、レン!あれ、でっかい塔があるよっ」
言われるままにナナの指す前方を見ると、あぁ、確かにありますね。
雲までそびえるぐらい高い塔が、地平線に見えています。
来る時は景色を見渡す余裕なんてなかったから、新鮮だなぁ。
「あれは宮廷魔術師の宿舎だな」とジョージさんが教えてくれたんですが
ナナは全然聞いていなくて、今度は空を見て喜んでいました。
「それにしても真っ青だよね、空。今日は一日中お天気かな?」
「たぶんね」と私も頷いておきましたが、
ナナは私の答えなど、最初から期待していなかったようで
視線は塔のほうへ向いていました。まったく、気まぐれなんだから。
会話が途切れてしまったので、何気なく後ろの座席へ耳を澄ますと
キースさんが隊長に話しかけている会話が聞こえてきました。
「なぁユン、見ろよ。例のゲームをバージョンアップしたんだが
 今度のナナたんお触りゲームは凄いぞ?なんとモザイクなしだ!」
「……だから?」
「以前は突いてもモザイクに隠されたアソコが見えるだけだったが
 今度のはタッチペンでスライドすれば、アソコが開く仕様だ」
うっわ、お下劣。
他に客がいないからいいようなものの、なんちゅう話をしてんですか。
「ゲームには興味がない。お前も任務に集中しろ」
バッサリ隊長にぶったぎられても、キースさんは全然やめません。
「もちろん任務には集中しているさ。だが、息抜きだって必要だろ。
 なんなら、お前用に女医バージョンも開発してやろうか?」
ってキースさんが言った途端、隊長が勢いよく立ち上がるもんだから
私もキースさんも、ビックリしちゃいました。
「オイオイ、馬車の中で急に立ち上がるなよ。危ないだろ」
「どうしてセツナのバージョンを俺に……?」
隊長は僅かに頬を赤らめているようです。
立ち上がったせいで、皆の注目を浴びた余波でしょうか?
キースさんは、くいっと眼鏡を指で上に押し上げると
真面目な表情で言いました。
「決まっている、ナナたんは俺のモノだからな。
 だが、セーラはカネジョーしか目に入っていないし
 レンは女としての魅力がない。
 となれば、お前に残された相手は女医しかいない消去法になる」
……って、ちょっとぉぉぉ!?
「だーれが女としての魅力皆無ですって?この近眼眼鏡ェェェ!!」
振り向いて威嚇する私に、キースさんも負けじと声を張り上げて。
「誰が近眼眼鏡だァァァッ!!
 お前、先輩に向かって眼鏡呼びは、ありえないだろ軍人的に!」
「オメーら、うるせぇゾ!遠足じゃねぇんだ、静かに乗ってろィ」
とうとうボブさんには、お叱りの言葉を頂いちゃいました。
これもそれも、キースさんが下品な会話をふってきたせいです。
ったく、もう。
苛立ちの収まらない私を、隣でナナが見つめていました。
「レン、変態眼鏡のペースに乗っちゃ駄目だよ」
「ご、ごめん。うるさかったよね」
私が謝ると、彼女は耳元でヒソヒソと続けます。
「レンは女の子としての魅力があるから、大丈夫だよ。
 あたしが保証する。それに変態眼鏡の眼鏡は元々曇っているんだし
 あんな変態に可愛いって言われたら逆にダメージ大きいでしょ?」
あらら。そんなにショックを受けているように見えたのかしら。
ナナに心配かけちゃうなんて、私もまだまだ未熟だなぁ。
「気分転換に外の景色を見ようよ」と誘われたので
あとはもう、後ろの会話をシャットアウトして
ナナと一緒に景色を見ることだけに集中していました。
だから馬車内実況中継は、これにて終了。
やがて馬車は停留所に到着し、私達は首都に降り立ちました。


ハリィさんとの待ち合わせ場所は『酔いどれ狼の昼寝亭』。
私達が一日目に宿泊した店ですね。
入ると酒気と熱気、元気の良いウェイトレスが歓迎してくれて
店の奥の席に目的の人物がいました。
「大勢で来たねぇ」と言っているのは、化粧のケバイ女性です。
あ、でも身長はカネジョーさんと同じぐらい?
この人も仲間の一人らしく、ボブさんが嬉しそうに駆け寄ります。
「よぉ、レピア!元気にしていたか?
 ハリィとは何もあっちゃいねぇだろーな」
ハリィさんと思わしき男性が顔をあげ、苦笑しました。
「幸か不幸か何も起きなかったよ、安心しろ」
「ホント、残念な事にね」と女性も口を揃えて、こちらを見ます。
「こっちの人達は?」
セツナ先生が一歩前に進み出て、会釈しました。
「はじめまして。私はセツナ、医者をやっているわ。
 この可愛い女の子二人は、レンとナナ。
 その後ろにいる背の高い青年は、ユン。私達のリーダーよ。
 こちらの金髪女性はセーラ。
 隣のちっこいのがカネジョーで眼鏡はキース」
相変わらずな紹介ですね、先生。
「誰が、ちっこいのだ!」「眼鏡で省略するのは、やめろ!」
またも二人が騒いでいますけど、皆は超スルー。
ハリィさんが立ち上がり、セツナ先生と握手をかわしました。
「ハリィ=ジョルズ=スカイヤードだ、よろしくな」
「えぇ、よろしく。ハリィ」
にっこり微笑む先生に、ハリィさんも爽やかな笑み。
ちょっと年いっているっぽいけど、なかなかのイケメン?
少なくともボブさんやカズスンさん他よりは、いい男ですね。
ま、ユン隊長の格好良さには負けるけど。
「あたしはレピア、大佐のチームの一員だよ」
ケバイ女性も軽く頭をさげて、私達全員を見渡します。
「あんた達は、どういうお仲間なんだい?」
「俺達は軍人だ」
キースさんが答えると、レピアさんは露骨に眉をひそめました。
「軍人……?
 ボブ、なんだって軍人なんかに協力しようって思ったのさ」
なんか感じ悪いですねぇ。
もしかして、レピアさんってアンチ軍人?
「俺だって今知ったよ、こいつらが軍人ってのは!」
大袈裟な身振り手振りでボブさんも喚き、ハリィさんだけが
クールな表情で私達に言いました。
いえ、私達にというよりは、仲間へ向けてでしょうか。
「軍人だろうと仲間は仲間だ。この間と同じようにね」
続けてジロさんにも確認。
「雇い主は彼らなのか?それとも、君達か」
「あー、一応叔父さん、じゃなかった、
 ギルマスが雇い主ってことになってます」
やる気なく答えたジロさんへ、頷くと。
ハリィさんは改めて、文句タラタラな二人へ言いました。
「なら問題ないな、ボブ、レピア。
 俺達が力を貸すのは国家じゃない、ハンターだ」
それに、と斬さんへも流し目をくれて尋ねました。
「困っているのはドラゴン、だったな?」
「そうだ」と頷く斬さんへ満足げな笑みを浮かべると、
ハリィさんは話を締めました。
「聞いただろ?
 助けるのも王家じゃない、可哀想なドラゴンたちだ」
他力本願なドラゴン達を、可哀想と呼んでいいものかどうか……
頼まれた以上は頑張りますけど、何となく釈然としませんよね。
でも、そんな私の胸の内などハリィさん達は知るよしもなく。
「なるほど、要するに国家の犬になるのが嫌と言いたい訳か」
険しい視線で睨みつけるキースさんに、ハリィさんが肩をすくめます。
「それが嫌で傭兵になる人間も多いからね。
 気を悪くしたのなら、すまない」
ぶっちゃけ私もナナも大いに気を悪くしたんですけど
いいですよ、許します。だって、私達は仲間になるんですものね。
「あんなことを、おっしゃっておりますけれど」
エルニーさんが囁いてきたので、私は耳を傾けました。
「ハリィさんって白騎士団長と仲良しなんですのよ」
「白騎士団長?それって、偉い人?」と、ナナ。
「もちろんですわぁ」
エルニーさんが頷き、遠い目で語り始めた処によると――

レイザース王国には、王宮を守る騎士団があって
さらに騎士団内部は黒騎士と白騎士の二つの組織に分かれていて
白騎士が表仕事なら、黒騎士は裏方仕事を任されているんだとか。
なお、先ほど見えた塔に住んでいる宮廷魔術師達も
騎士団のメンバーに含まれていて、所属は白騎士団扱い。
レイザース騎士団全てをまとめているのが、白騎士団の団長にして
総団長のグレイグ=グレイゾンって人。
それが、ハリィさんの幼なじみにして親友なんですって。
ソースは全てエルニーさんなので、どこまでホントかは判りませんが。

「あ、じゃあ、その宮廷魔術師に協力を求めればいいんじゃない?」
ナナの提案に斬さんが反応して、ハリィさんへ話をふりました。
「レン殿に連絡を取ることは出来ないか?」
えっ?私がどうかしましたか?
思わず声に出して聞きそうになりましたが、寸前で言葉を飲む込むと
斬さんが先手を打って、私へ向けたフォローを入れてきました。
「あぁ、お主ではない。レン=フェイダ=アッソラージだ」
「ハァァ?あの、けたたましいガキに連絡だって!?
 斬、あんた何考えてんのさッ」
けたたましい奇声で怒鳴りだしたのはレピアさん。
「オォォイ、ハリィ!冗談じゃないぜ、これ以上軍人を増やすなよ」
真横でボブさんも大声を張り上げ、またしてもキースさんや
カネジョーさんの こめかみには青筋が刻まれたんですけど
その前にハリィさんが首を真横に、否定の姿勢。
「いや、無理だろう。
 騎士団は王の命令じゃなければ身動きが取れまい」
「じゃあ、どうするんですか?魔術師」と聞いたのは、スージくん。
斬さんは腕を組み、ハリィさんも顎に手をあて考えていましたが
ややあって先に答えたのは、ハリィさんでした。
「全くアテがないわけじゃない」
「へぇ、大佐にも魔術師に知りあいがいたんスか」
全く気のないジロさんの合いの手に頷くと、ハリィさんは言いました。
「少し遠いが、ジャネスへ行こう。そこに魔術師の知りあいがいる」
うへぇ、また移動ですか。
うんざりした私の表情を見て、ハリィさんが苦笑。
「君達は、ここで待っていてくれても構わない」
「あ、じゃあ、そうさせてもらうわ」と答えたのはセーラさんで
見ればキースさんやカネジョーさん、ユン隊長までもが頷いているし。
えー、いいんですかねぇ。肝心の私達が会いに行かなくて……
「俺も一緒に行くか?」とボブさんが尋ねていましたけど
ハリィさんは、これにも「俺一人のほうがいいだろう」って答えていました。
気むずかしい人なのかな、その魔術師さん。
どうも知りあいなのはハリィさんだけ、みたいだし。


そんなわけで、ハリィさんが魔術師さんを連れてくるまでの間。
私達は自由行動を取っていいと、斬さんから許可を貰いました。
ハリィさん曰く、ジャネスから首都への往復は丸二日かかるそうで
私はセツナ先生と宿で大人しくしていることに決めました。
首都探索も、してみたいんですけどね。長旅の連続で、疲れちゃった。
では、まだ日は高いですけど、お休みなさ〜い!

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