DOUBLE DRAGON LEGEND

第八十話 いざ、戦陣へ


ジ・アスタロト本拠地。
入り組んだ罠の先に、K司教の私室はあった。しかし――
「誰もいないじゃないか」
部屋を見渡し、司が呟く。
数時間前までは、確かに誰かがいたのだろう。
机の上には書物が散乱し、ランプには火が灯っている。
「どういうことだ?僕達を騙したのか」
険しい表情で詰め寄られ、デキシンズは困ったように頭を掻いた。
「いやぁ、騙しちゃいないさ。騙して俺に何の得があるんだい?」
俺にだって訳がわからないよと付け足すと、扉を細く開けて外の様子を確かめる。
扉の向こうには誰もいない。雑魚兵も、ついに品切れか。
「マスターはいつも、この時間は私室にいるはずなんだ。なのに今日に限っていないなんて、おかしいなァ」
「散々ワタクシ達が引っかき回したせいで、逃げ出されてしまいましたのかしらぁ?」
美羽の嘲りには、該が溜息で応える。
「まさか。ここを出て奴に隠れられる場所など、他にあるものか」
「博士達は、どこにいるの?」とは、友喜の問いにデキシンズが首を傾げる。
「博士達って?」
「あんた達を作る際、協力した研究者ってのがいるんじゃないの?」
いくらK司教がMSの研究者といえど、たった一人で十二体ものMSを製造できるとは思えない。
エジカ博士だって大勢の助手を従えていたのだ。K司教にも協力者がいると考えるのは妥当だろう。
「そりゃあね、マスターとて人の子。万能の神じゃないさ。君が言っているのは、円卓の十二臣だね」
「円卓の十二臣?」
「そう、俺達を作り出した博士達の総称だ。本名は誰も知らない……だが皆、優秀な研究者でね。当然、博士号も持っている」
R博士はダミアン、ダミー、レイの三人を。
U将軍はアルムダとジェイファの二人を作り出し、J侯爵はネストとエンディーナを設計した。
T伯爵は凛々、老師Mは鴉のマスターである。
そしてO伯爵、L子爵、N大佐、F公爵などを併せた計十二名の博士が、K司教に仕える協力者であった。
「トレイダーは?」と、該が尋ねる。
「奴は、お前達の仲間ではないのか」
「違うね」
デキシンズは肩をすくめ、付け加えた。
「奴は元々キングアームズ財団のお貴族様だったのさ」
そいつが財団を離れ、B.O.Sという組織へ組み込まれた。
そこから先は、東大陸住民の知るところとなる。


獅子MS劣勢の様子を、遠目に見守る視線が一つ。
黄色い服に身を包み、黒髪をたなびかせる彼は十二の騎士の一人で、名を鴉といった。
老師Mに命じられ、首都サンクリストシュアの攪乱をおこなっていたが、手柄は途中でトレイダーに奪われる。
正確にはトレイダーの作り出した改造MSどもに……だ。
トレイダーが何者なのか、詳しくは聞かされていない。
しかし鴉のマスターこと老師M曰く、奴は大切な客分であるらしい。
B.O.Sの崩壊後、奴はK司教の元を訪れると、いとも簡単に副幹部の座へ収まった。
今はトレイダーの命令で動いている。獅子MSの手伝いをせよと命じられた。
だが、誰の目から見ても獅子は劣勢にあった。
遅かれ早かれMS軍団に倒されるのは予想できる範囲だ。
滅びゆく者に味方しても、いい目には出会えない。老師に命じられた仕事は充分果たした。
何より、己より下等の改造MSにこき使われるのは鴉のポリシーに反する。
自分より格上の者にしか従いたくなかった。
K司教や円卓の博士にしか。
「十二真獣の残党を相手取るには、一人では無力……か」
誰に言うでもなく、ぼそりと呟くと。鴉は音もなく黒い鳥へと姿を変え、その場を飛び去った。

無様に横倒しになった獅子MSは、今や無数のMS軍団に取り囲まれて為す術もなくなっていた。
「くっそぉ、くっそぉぉ!貴様ら、こんな真似をして、ムググッ」
罵倒を吐きかけようにも口の中に岩やら砂やら土を放り込まれ、途中でSドールの言葉は呻きに変わる。
「おい、どうする?トドメを刺すのか、このまま放置で進むのか」
坂井の問いへは、サリアが答える。
「とどめを刺す必要は、ないでしょう。この戦いは、わたくし達の勝利です」
しかし、ゼノやリオの考えは違うようで。
「このまま放置したら、背後から狙われるぞ。とどめは刺しておくべきだと思うが」
「でも」と横倒しの獅子の上に飛び乗り、シェイミーが尋ねる。
「レクシィは、どうするの?とどめを刺したら、レクシィも死んでしまうよ」
腹の顔であるAドールには目隠しが、そして背中の顔の口にも大量の土が詰め込まれた。
背中の顔が本当にD・レクシィだとしたら、彼女の毒は驚異だ。こうして封じてしまうに限る。
リオが答える。
「本人が言っていただろう……レクシィは一度、死んだのだと」
「死んで、SドールやAドールと合体再生させられたってわけか。反吐が出るぜ」
心底嫌そうに眉をひそめて、坂井が吐き捨てる。
こんな真似の出来る人物は、一人しか心当たりがない。
「トレイダーか」
ゼノの問いに頷き、葵野も獅子MSを見た。
哀れ彼女たちは完全に横倒しになり、自力では起き上がれない。
前足も後ろ足もロープで雁字搦めにされていては、起き上がろうにも起き上がれまい。
「じゃあ、やっぱり、あの時。ボクと別れた後にD・レクシィは殺されちゃったんだね。ボクが、あの場に残っていれば……」
暗い顔で俯くシェイミーは、ウィンキーが慰めた。
「なぁに、シェイミーのせいやあらへん。それにきっと、友喜っていったか?あの子は無事や」
「なんで、それがウィンキーに判るの?」
顔をあげたシェイミーにウィンクを飛ばし、大猿は笑った。
「十二真獣だから、や!」
そして、空を見上げる。
「ホンマはサリア女王の言うとおり、ここに放置していったほうが平和主義としちゃ〜納得の結論なんやろけどなぁ。けど、このまま二度と人に戻れない姿で生き続ける事がホンマに、この三人――いや、レクシィにとっては幸せなんやろか?」
「元には、戻せないのですか?」と、サリア。
その答えを知る者は、ここには一人もいない。
もしかしたら、と思いついたのは葵野だ。
「リッシュが、何か知っているかもしれません」
「リッシュ?どなたですか」
「サンクリストシュアの路地裏に住んでいる、お医者さんです。えっと、MSを研究している」
サリアは首を傾げている。
恐らく女王は路地裏に入ったことなど、一度もないのであろう。
「あ、えっと、俺、つれてきます!」
走り出す葵野を止めたのは坂井だ。
「待て!」
「他の者に行かせよう」と、ゼノも葵野を止めて促す。
「俺達は先へ進まなければならない。該や司を救うために」
「えっ?どういうこと」
葵野の言葉へかぶせるように、続けて言った。
「該と司はジ・アスタロトに囚われた。俺と坂井が倒したシークという者が確かに、そう言った」
断末魔をあげて倒れる前、彼女が言ったのだ。
お前達が何をしようとマスターには勝てない、何故なら十二真獣の半数が彼の手の内にあるからだ――
「ほな、友喜やアリアも、そこにおるんかいな?」
「そこまでは聞いちゃいねぇ」と、坂井。
「けど半数がいるっていうんなら、きっといるんだろうぜ」
「よし、では合体MSはリッシュとやらに任せ、我々は先を急ごう」
リオが場を締め、一同は鬨の声をあげる。
タンタンが「ふふ〜ん?」と嫌な目線でリオを見上げると、背中に駆け上ってきた。
「……なんだ?」
「あんた初めて会った頃と比べて、だいぶ人前で話せるようになったじゃないの」
ふいっとリオは視線をそらし、口の中で小さく呟く。
「だとしたら、それは女王や仲間のおかげだ」
「仲間のおかげ?アリアやエジカ博士じゃなくて?」
あぁ、と頷き馬は鼻先を北へ向ける。
シェイミーの話によれば森の都カルラタータ、その北方を抜けた先にジ・アスタロトの本拠地がある。
正確には、古びた遺跡の中だ。地下を掘り、モグラのような穴ぐら生活をしているらしい。
そうシェイミーに教えてくれたのは、キャミサだ。
ジ・アスタロトの先兵で森での襲撃の際、彼女を捕虜にしたのだが、シェイミー曰く、途中で襲われ逃がしてしまった。
今頃は仲間と合流しているかもしれない。
レヴォノースの本拠地が襲われた時、皆は散り散りになって逃げ出した。
その時にリオもアリアとはぐれてしまった。
坂井は彼女がジ・アスタロトに囚われているのではないかと言う。
きっと、そうだ。アリアが死ぬはずない。
そして彼女を助け出すのは、自分の役目だとリオは考える。
「女王が希望を与えてくれて、そして仲間が俺の背中を押してくれた。だから俺は希望を失わず、ここにいられる」
「へぇー。でも、アリアがジ・アスタロトにいるかどうかは判らないじゃん」
タンタンが不吉な事をほざいてきたが、サリアは首を真横にふり、皆の顔を見渡した。
「アリアが十二真獣の生まれ変わりであるならば、ジ・アスタロトは彼女を殺さないでしょう。彼らは既に、白き翼と騎士の二人を捕らえています。なら、同じ十二真獣であるアリアも同様に捕らえるはず。ジ・アスタロトの目的は十二真獣全てを手中に収める事と考えていいでしょう。だからこそ、何度も彼らに戦いを挑んできたのです」
「じゃあサンクリストシュアが過去何度も襲われたのは、司が絡んでいたからなの?」
タンタンの質問に坂井が頷く。
「だろうな。まッ、中央国が襲われたのは俺や葵野以外に有希の存在もあったんだろうが」
「ともあれ」
サリアの話はまだ終わっていなかったようで、皆の意識もそちらへ戻る。
「十二真獣とて、わたくし達と同じ人間であることに代わりはありません。彼らの人権を無視し、武力で無理矢理捕らえたジ・アスタロトを許すわけには参りません。わたくし達も行きましょう、彼らの本拠地へ!」
再びあがる鬨の声。
足音も勇ましく進軍を始めた軍団に混ざり、坂井やリオも北を目指す。
北にある、ジ・アスタロトの本拠地を……


司達の探す、K司教はどこへ行ったのか。
彼は迷宮の地下、格納庫よりも更に奥深くにある部屋の一角にいた。
「新人類を生み出し、新たな人類による世界の繁栄を求める。私の、この考えは間違っていたのだろうか」
誰に尋ねるでもなく、小さく口の中で呟くと、彼は試験管を見上げた。
巨大な試験管だ。中で眠るのは、これまた巨大な鳥。
体の半分は炎がめらめらと勢いよく燃えており、もう半身は凍りつき、水晶の如き透明な煌めきを見せている。
意識がないのか目を閉じているが、心臓の辺りは波打っていた。
「合成に次ぐ、合成か。フン、これでは新たな命とは呼べん。所詮つぎはぎだ、つぎはぎの命でしかない!」
十二の騎士を作り出した時までは調子が良かったのだ。
誰もが新たな生命の誕生を喜び、次の段階を期待した。
だが――結局、彼らには、それ以上のモノを生み出すことは不可能だった。
何度実験を繰り返しても、初代十二真獣を越える生物など創り出せなかったのである。
「教えてくれ、剣持博士」
壁に立てかけてあった石版を掴み上げ、K司教は自問自答する。
「私とお前の研究は、何が違った?私は何を間違えてしまったのだ?どうして私は、お前を越えられなかったのだ……!」
「越えるのでは、ないのですよ」
不意に背後から声をかけられ、K司教が我に返る。
振り向くと、そこにいたのはトレイダーであった。
トレイダー・ジス・アルカイド。
元キングアームズ財団の一員で、財団の作り出したB.O.Sの幹部に収まった。
部下に調べさせた履歴だ。
「越えるのではない、だと?」
「そうです。彼の研究を模倣するのではなく、あなたは、あなたの研究を最後まで突き進めるべきだった。このような過去の遺物に頼ったりなどしないで」
棚にあった石版を手に取り、トレイダーが微笑む。
「だが、貴様は石版で知識を得たのだろう?そして、ドールシリーズを生み出した」
K司教に指摘され、トレイダーは薄く笑った。
「そうです。ですが、あれは所詮、十二真獣を牽制するためだけに作ったような命です。それに――私の最終目的は、新たな命の作成ではありませんのでね」
「新たな命の作成では、ない?」
K司教の片眉が跳ね上がる。
「だが、貴様は私の目的に賛同して、ここへ来たと抜かしていたではないか」
「そうです」
再び微笑み、石版をコトリと棚へ置き直すと。トレイダーはK司教を見た。
「あなたのお考えが、実に興味深かったものでね。MSを越えるMSの創造……MSを治療しようとする者ばかりの中で、あなたの研究は違っていた。剣持穣治を越える人間が出るというのなら、間近で見ておきたかった。しかし……あなたは私の期待に添えられる人物ではなかったようです」
――ぞくり、とK司教の背中を悪寒が走る。
貴族風情、キングアームズ財団という滅びゆく組織から逃げてきた落ちぶれ者だと侮っていたが、この男。
彼の目指す最終目的とは何であろう?
MS研究に熱心で、命の創造に執着していたから、てっきり自分と同じなのだとばかり思っていた。
しかし今の遣り取りを信じるならば、そうではない、と彼は言う。
「貴様は、何だ?何が理想だ」
「理想?」
クスリと笑い、トレイダーが視線をそらす。
「そうですね……剣持博士の作り出したMS、十二真獣の最終進化を見届けること、でしょうか。その為には、K司教。いいえ、クリム・キリンガー。あなたにも協力して頂きます」
ゆっくりと近づいてくるトレイダーを前に、K司教は一歩も動けず立ちつくす。
完全に、目の前の相手に気圧されていた。


「見えてきたぞ!あれが遺跡かッ」
誰かが叫ぶ。と同時に肉眼でもはっきりと判る、遺跡の前を埋め尽くすほどの獣の群れが見えてきた。
「へっ。奴ら、総出でお出迎えってわけか」
坂井が毒づき、先頭を走るリオも短く鼻を鳴らす。
「あの数、総決戦のつもりと考えて間違いない」
リオの言うとおり、その数五千は下るまい。
いくら雑魚MSばかりとはいえ、恐ろしい人数だ。
「でも、司達を捕まえているんだろ?内部の見張りまで回しちゃって大丈夫なのかな」
敵を心配する葵野を、タンタンが威勢良く怒鳴りつける。
「バカね!今は敵の心配より、あれの突破をどうやるか考えなきゃ」
そこへ「どうやるも、こうやるも、ないやろ?」と真上から声が降ってくる。
「正面突破や!オレらは、いつだって正面から正々堂々戦ってきたやないか」
ウィンキーは、そう言ってウィンクした。
「その通り」と坂井も同意し、前方を睨みつける。
「短期決戦で仕掛けるぞ。あいつらが雑談をしかけてきても一切無視だ、全員で入り口目指して突っ込むぜ!」
傍らで「あぁ」と頷いた黒い馬が小さく歌を口ずさみ、おかげで仲間の士気も高まって、新反乱軍は怒濤の勢いで遺跡目指して走り出す。
一度ついた勢いは、もはや誰にも止められない。
「進め、進めー!」とタンタンもウィンキーの肩によじ登って号令をかけ、黒い軍団同士がぶつかり合う。
そこから先は、怒号、悲鳴、打撃の鳴り合う音が響き渡り。大規模な乱戦が始まった。

廊下を早足に歩いていく二人の耳にも、外の喧噪が聞こえてくる。
「――始まったな」
「もう、あんたが、あんなトコで倒れているからッ。あたし達、すっかり出遅れちゃったじゃないッ!」
黄色い服に身を包み、一方は腹を押さえて、よろよろと歩き、もう一方は、それに肩を貸す格好で歩いていく。
銀髪で小柄な方はキャミサ。支えられているのは、レイだ。
廊下で気絶するレイをキャミサが見つけ、助け起こした。
なんでもレイ曰く、何者かに背後から隙をつかれて殴られて、そのまま昏倒してしまったそうだ。
どこへ向かうつもりだったのかと問えば、脱走したデキシンズと白き翼を追うつもりだと彼女は答えた。
デキシンズが脱獄し、白き翼を連れ去ってしまったのだ。
意識を取り戻したレイは、まずR博士の許可を求め、その時に他の印捕獲失敗の結末を聞かされる。
改めてR博士に命じられて二人を捜していたのだが、不意をつかれて昏倒した。
あとはキャミサに見つかるまで、廊下で意識を失っていたという体たらくだ。
キャミサが本拠地を留守にしている間に、戦局は様変わりしていた。
捕らえたはずの十二真獣は全て脱走してしまった。
デミールとダミアンが同士討ちで倒れ、ジェイファも亥の印らに倒されたという。
「うそよ!そんな、デミール兄さんがやられるなんて……」
狼狽えるキャミサに対し、あくまでもレイは冷静だった。
「嘘ではない。デミールもダミアンもU将軍が治療に当たった。ダミアンにやられたと証言したのはデミール自身だったと、将軍からは聞かされたぞ」
「嘘よ!!兄さんが、あんたんトコのヘボ兄貴にやられるもんですかッ。もし百歩譲って本当だったとしても、きっと卑怯な手を使ったに違いないわ!」
かんしゃくを起こすキャミサを黙って見下ろし、レイがポツリと囁く。
「それよりも何故、二人が同士討ちをするに至ったのか。それは気にならないのか?」
だが混乱のキャミサに聞いたところで、答えが出るものではない。
「そんなの、知るもんですかッ。ダミアンが兄さんに嫉妬して、トチ狂ったんじゃないの!?」
案の定、金切り声で叫ばれて、レイは仕方なく話題を変えた。
「デミールもダミアンも地上討伐の隊に加わったそうだ。十二真獣の残りが軍を率いて攻めてくるらしい」
すぐさまキャミサも混乱が解け、ハッとした表情でレイを見上げる。
「そう!それよ、あたしがマスターにお伝えしたかったのも、それなのよッ」
森の襲撃戦で午の印に囚われた屈辱――卯の印に引きずり回され、ここを案内してしまった。
十二真獣の残党がレジスタンスと連合を組んだ件などを伝えると、レイは顔を曇らせた。
「この場所を教えてしまったのは、お前なのか?キャミサ。それは……まずいな」
「何よ、だってしょうがないじゃない!言わなきゃ殺すって脅されたんだもんっ」
実際には脅されてなどいなかったのだが、言い訳のつもりで、ついつい話を大きくしてしまう。
「T伯爵やN大佐に知られたら厳重処罰、あるいは処分されるかもしれんぞ」
「じょっ、冗談じゃないわよ!処分って、この程度で!?」
事の重大さを理解していない同僚には、レイも頭が痛くなってくる。
ジ・アスタロトは、長らく極秘裏に動いてきた。
キングアームズ財団やパーフェクト・ピースを隠れ蓑にして、英雄の目をも欺いた。
キャミサが情報を漏らしたりしなければ、こうも早く残党の対処に追われる羽目にもならなかったはずだ。
病み上がりのデミールやダミアンを死地に追いやる原因を、お前が作ったのだぞとレイが言うと、さすがのキャミサも真っ青になり、震え声で言い返してきた。
「し、死んだりしないよね……?死なないわよね、デミール兄さんも、ダミアンも!」
レイは素っ気なく答える。
「戦いの結果など、誰が予想できるものか」
たとえ神でも、この戦いで誰が生き残るか、どういう結果に終わるかを完璧には予測できまい。
「我々に出来るのは一刻も早く白き翼を捕らえ直し、奴らの目の前に掲げてやるのみだ」
十二真獣さえ捕らえてしまえば、人質さえいれば、あとはどうとでもなる。
奴らの仲間にはサリア女王も含まれている。
平和主義を名乗る彼女ならば、けして人質を見殺しにすまい。

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