蓬莱都市でレジスタンスと合流した葵野達。
サリア女王との会談により、市長は立ち上がる決心をする。
その矢先、異形のバケモノが蓬莱都市を襲い、坂井と葵野は戦いの場へ躍り出る――
時を同じくして、ジ・アスタロト本部の最下層。
「君の作りだした創造MSは、これで全てなのかね?」
K司教の私室にて、二人の男が向かい合って座っている。
「さて、どうでしょう」
K司教に尋ねられてトレイダーが穏やかに微笑むと、司教の額には細かな筋が刻まれる。
「真面目に答えたまえ」
「たとえ味方といえど、手の内は、そう簡単には明かさないものですよ」
机の上にばらまかれたのは数枚の写し画。
一枚は白く輝く衣を身につけた、髪の長い美しい女性だ。
もう一枚は異形の者。四つ足の下半身からは蛇と獅子、二本の首が生えている。
どちらもトレイダーが生み出したMSだ。女形はシーク、怪物の名はミクリーヤ。
「本来ならば、然るべき場面で使って欲しかったのですがね」
ミクリーヤの写し画を手に取り、トレイダーが呟く。
ミクリーヤは御厨から。シークはエルシークから――
かつての研究者を擬えた名をつけたのは、伊達や酔狂ではない。
かの施設に残されていたディスクを元に音声合成して、彼らに与えてある。
初代十二真獣には懐かしい声だ。聞けば、きっと思い出す。
「そうも言っていられんだろう」
戯言へは苦渋を浮かべ、K司教がモニターの電源を入れた。
モニターの向こうを走る人影は全部で六人。捕らえたはずの十二真獣が脱走した。
ただ出ていくだけならまだしも、該と美羽らは十二の騎士を打ち倒し、アモスと友喜は施設を破壊。
今なお襲い来る雑魚どもを蹴散らしながら、何処かを目指しているようにも見受けられる。
素直に出ていく気は、ないらしい。
「猿の印も一緒のようですね」
奴らに同行している黄色い服の青年。
あれは猿の印、ルックス・アーティンではないか。
牢屋の一つに放り込んでいたはずだが、いつの間に抜けだしたのか。
「印の力を使ったのか」
苦々しく呟く司教へ「恐らくは」とトレイダーも頷く。
「追っ手をかけますか?それとも、このまま好きにさせてやりますか」
トレイダーに尋ねられ、K司教は顔を曇らせモニターを睨みつける。
「このまま好きにさせて、我々に何の利がある」
「そうですね」
音もなく、トレイダーが席を立つ。
「追っ手を仕向けます。彼らは恐らく、戌の印を探しておいでなのでしょう」
「戌の印……何故、そうと判る」との問いには薄く微笑み、彼は言った。
「私ならば、全員揃ってから行動を起こします」
蓬莱都市に放たれた謎のMS。
市長の秘書がバケモノと呼ぶに相応しく、四つ足に二つの顔を持つ創造MSであった。
「こいつぁ、トレイダーの匂いがプンプンしやがるぜ」
息巻く坂井を横目に捉え、葵野は後方へ下がる。
敵は一体だが、建物の屋根を遥か越すほどに巨体だ。
大きいのは図体だけじゃない、上空で揺らめく頭もだ。
逃げまどう市民の話では白服の男達、すなわちパーフェクト・ピースが連れてきたらしい。
「一体でレジスタンスと俺達全員を一掃しようっていうんだ……きっと、強いよね」
「あぁ。葵野、お前は危ないから後ろに下がってな。ここは俺が囮になる」
「う、うん……あまり無理するなよ」
市長相手に息巻いていた葵野も、いざ目の前に構えてみれば敵は思ったよりも巨大で、出がけに燃やしてきた闘志など、あっという間に吹き消されてしまった。
ビクビクオドオドと後ろに下がる葵野には目もくれず、虎は牙を剥きだして威嚇する。
「おいデカブツ、テメェにだって名前ぐらいあるんだろ?名乗ったら、どうなんでぇ」
ギロリと蛇の目が見下ろし、しゃがれ声で応えた。
「人に名を聞く時は、まず自分から名乗るのが礼儀というもんじゃ」
すると、それを諫めるように獅子の頭が蛇を見る。
「この者は知っているだろう、坂井達吉という男だ」
鋭く尖った男の声が、蛇を窘めた。
「ふむ、坂井という名には聞き覚えがあるのぅ」と、蛇が坂井を見やれば。
獅子も相づちをうち「そうだ、マスターの求める男だ」と、物知り顔で頷いた。
訳がわからないのは坂井一人。
「なんだ?一人二役で小劇場かよ」
首を捻るが、すぐさま調子を取り戻す。
「まぁ、いい。俺の名前を知っているってんなら、なおのこと名乗りをあげるのが礼儀ってもんだろ」
「よかろう」と頷いたのは獅子頭。
「我が名はミクリーヤ。とくと心に染み入らせておけ」
「ミクリーヤ?なんたらドールってんじゃねぇのか?」
これまでのトレイダー作MSには、必ずといっていいほど名前の後ろにドールがついていた。
では、こいつのマスターはトレイダーではないのか?そんな疑問が坂井の脳裏を掠める。
「私はミクリーヤだ。ミクリーヤ以外の何でもない」
獅子は重ねて頷き、二人の雑談を遮ったのは蛇頭。
「話は、ここまでじゃ。そろそろ始まるとするかのぅ」
地響きを立てて一歩近寄るデカブツを見上げ、坂井は更なる時間稼ぎを試みたのだが。
「待てよ、お前らの目的は何――ッ」
言葉は途中で風の唸りに掻き消され、あわやというタイミングで坂井は後方へ飛びずさる。
体勢を立て直す暇もなく、襲い来る横からの轟風には地を転がって何とか避けた。
「チッ!」
見かけに反して、このデカブツ。思ったよりも身が軽い。
だがフットワークの軽さに関しては、坂井だって負けてはいない。
ミクリーヤを充分に引きつけた上で、地を蹴って反撃に出る。
再び風圧が襲ってきたが、今度は坂井も、それが何であるかを見極める余裕が出来た。
尻尾だ。丸太ほどの太い尻尾が、坂井を追いかける。
寸前まで引きつけてから、不意に虎が身を翻した。
体を低く屈めて弾丸のように走り出すと一直線、デカブツの足下に滑り込む。
わずかの間、ミクリーヤは虎の姿を見失う。
無論、その隙を見逃す坂井ではなく、次の瞬間には獅子頭が苦痛の呻きを漏らして体を大きく揺さぶった。
勢いよく転がり出てきた坂井へ「坂井!大丈夫かッ」と葵野が声をかけるのへは、後ろも見ないで虎が叫ぶ。
「大したことねぇよ、こんな奴!首都で戦った奴よりは、ずっと楽勝だッ」
ミクリーヤは二つの頭を持つ素早い巨体というだけで、これといって恐怖を感じない。
だが改造MSなら隠し技の一つや二つ、持っていよう。
「油断するなよ、坂井!」
過信か空元気なのかを判断し損ね、仕方なく葵野が叫び返した時。
後方でワッと鬨の声があがったかと思うと、怒濤の勢いでMSの群れが雪崩れ込んできた!
「敵は一体よ、恐れちゃ駄目!ゴーゴー、レジスタンス、一気にいっけぇぇぇッッ!!」
馬の背で叫んでいるのは白い兎。
あのクソやかましさは断言してもいい、タンタンで間違いない。
「ちょっ!待て、こら!!」
坂井の制止も、何のその。
広場は瞬く間に無数のMSで埋め尽くされ、坂井も葵野もモミクチャにされた。
前も後ろも見えない中でギャーとかキャーとか聞こえてくるのは、哀れ、ミクリーヤにやられた雑兵か。
「くっ、来るのが早すぎるよ……っ」
なんとか人の波を掻き分け乗り越え、葵野がハッシと手に掴んだのは馬の尾で、不機嫌に振り向いたリオと葵野の目が合い、同時に叫んだ。
「なんで大勢で突撃してきちゃったんだ!これじゃ時間稼ぎも討伐も、ままならないぞ!?」
「時間稼ぎが出来ると本気で思っていたのか?血気逸る軍団を止めることなど、誰にも出来ないッ」
「そ、そんなぁ〜」
たちまち涙目になる葵野を一応は哀れと感じたのか、リオは自分の背中へ彼を這い上がらせるとタンタンの後ろへ座らせた。
「ったく、小龍様。あんたが、そんな弱気だからレヴォノース軍もやられちゃったのよ」
タンタンには偉そうに説教され、ますます葵野の立場がない。
「見なさいよ、あんなのを町中に放ったってのが、あいつらの返事だわ。街の人間なんか、どうなってもいいっていう意思表示よ!」
どれだけMSの波が押し寄せても、ミクリーヤは薙ぎ倒されることなく堂と聳え立っている。
奴の尻尾がブンブン唸りをあげるたびに、何人かのMSが宙を舞うのを目視で確認できた。
「数に任せて飛びかかったって、それこそレヴォノース軍の二の舞じゃないか!?」
葵野が問えば、タンタンは涼しい顔で言い返す。
「元々質より量だもの。多少の犠牲は承知の上よ、あたしも皆も」
「そんな!多くの犠牲を払った上での平和なんて、平和って呼べないだろ!」
馬の背で二人が言い合っている間にも、どんどんレジスタンスの数は減っていく。
どんどん突っ込んでいってはミクリーヤに片っ端から払い落とされ、打ち上げられ放り投げられる。
器用に受け身を取る者もいたが、大抵は体勢を崩したまま落下して、あちこちで呻きをあげている。
いくら質より量作戦とはいえ、これは酷い。無策、無鉄砲といっても過言ではない。
これならまだ、坂井と葵野の二人で戦っていたほうがマシであった。
「チッ!ったく、余計な真似ばっかしやがって、クソババアが!!」
芋洗い状態から立ち直った坂井は、レジスタンスの頭を飛び越え踏み越えて突き進む。
ミクリーヤに手が届く範囲まで近づくと、一番背の高いMSをカタパルトに飛び上がった。
とん、とミクリーヤの背中に登った坂井の勢いは止まらず、獅子頭の首を駆け上る。
蛇頭の攻撃を寸での所で身をかわし、獅子頭の天辺まで登り切ったところで啖呵を切った。
「おい!聞こえているか、クレイドルと一味どもォ!!」
何事かと見上げる無数の視線に囲まれたまま、坂井は怒鳴り続けた。
「お前らの掲げる偽りの平和なんかに用はねェ!俺達東の民が欲しいのは、誰もが平等に暮らせる平和な世界だ!!」
「東の民だけじゃないぞ!」
足下から声が上がる。
「西の民だって、平和を求めている!」
「そうだ、俺達が欲しいのは言葉だけの平和じゃない!!」
別の誰かも叫んだ。
やがて声は広場全体に広がって、皆が口々に叫ぶ。
「MSと、普通の奴らが一緒に暮らせる街を取り戻せ!」
「一方的にMSを追放しようとするパーフェクト・ピースこそ、世界の平穏を乱す悪だ!」
もはや、ミクリーヤだけが討伐の対象ではなくなった。
MSの波は広場を抜けて、一路パーフェクト・ピースの構える館まで押し寄せる。
「ちょっとぉ、ラスボス退治はまだ早いわよ!今はバケモノ退治に集中して!」
一旦皆の心についた火は、たとえリーダーが叫んだとしても、かき消せるものではない。
タンタンを乗せたリオもまた、皆の波に押し流されるようにしてミクリーヤの元を遠ざかってゆく。
「葵野、飛び降りろ!」と叫んだ坂井は、間一髪で蛇頭の攻撃を避けて落ちかける。
危ない、危ない。下の動きにばかり気を取られていたら、やられかねない。
気を取り直し、再び獅子頭のてっぺんに登り切った坂井は反撃に出る。
思いっきりガブリと獅子頭に噛みついてやったら、獅子頭が滅茶苦茶に首を振り回す。
どんなに振り回したって無駄だ。しっかり爪を立ててしがみついているうちは。
むしろ振り回せば振り回すほど坂井の爪は皮膚に食い込み、獅子の口から悲鳴をあげさせる。
「貴様ァーッ、調子に乗るなぁ!」
直線的な攻撃を伏せてかわすと、坂井は蛇頭を挑発した。
「ハッ、大きいだけが取り柄かよ。砂漠で出会った奴のほうが、テメェの何倍も強かったぜ!」
もしミクリーヤもトレイダーの作品だったとしたら、拍子抜けもいいところだ。
見た目の大きさに惑わされてしまったが、こいつは全然強くない。攻撃も単調だし、何より頭が単純だ。
これなら俺一人でも倒せるな――坂井は、そう考えた。
パーフェクト・ピースの本拠地へ向かった市長率いる市民団体は、てっきり入口付近で下っ端連中と揉めるかと思いきや、すんなりクレイドルのいる部屋まで通される。
たった数日で何が起きたのかと疑うほど、屋敷にいる人影は少ない。
クレイドルへ市長の来訪を告げた白服も、クレイドルが視線を向ける前に立ち去っていった。
「親愛なる信者の皆さんにも、とうとう愛想をつかされてしまったようだね」
市長の嫌味にクレイドルが顔をあげ、フンと鼻でせせら笑う。
「市長殿こそ、あの騒ぎは何事ですか?広場で暴動が起きているではありませんか」
騒ぎの音は、ここまで聞こえる。言うまでもなく、MS軍団とミクリーヤの戦闘である。
「あれば暴動ではないよ、クレイドルくん」
余裕綽々の市長と比べて、クレイドルには落ち着きがない。
今や手下の半数以下を失い、何度通信を飛ばしても頼みの綱であるジ・アスタロトからは何の返答もない。
見捨てられたという思いは屈辱となり、クレイドルから平静を失わせていた。
「君達の唱える偽りの平和に対する蓬莱都市全市民の怒りだ」
「何が市民だ!」
勢いよく机を叩き、クレイドルが立ち上がる。
血走った眼で真っ向から市長一派を睨みつけると、憎々しげに吐き捨てた。
「広場で騒いでいるのはMSではないですか!市長、あなたは、あの暴力でしか解決策を知らない野蛮な輩を市民として迎え入れるおつもりですか!?」
「暴力でしか解決できないのは」
震える声が、市長の背後から漏れてくる。
「あなた達だって同じでしょう。ルックスは一体、何処へ行っちゃったんです?彼を返して下さい!」
「ルックスだと?なんだ、そいつは。私は知らんぞ!」
張り上げるクレイドルの声に負けじと、エルトも声を張り上げる。
「あなた達に会いに行くと言って出ていったんだ!ここへ入っていくのを見た人だっているんだ!」
「知らんと言ったら、知らん!!」
エキサイトするクレイドルや少年エルトにつられたか、今度は別の男が騒ぎ出した。
「知らないと言えば、それで全てが済むと思ってんのか、この野郎!」
「何だと、貴様!? 誰に向かって口を訊いているつもりだ、慎め下衆が!」
つい、いつもの調子で怒鳴るクレイドル。
彼の襟首を掴みあげ、男もこめかみに青筋を立てて怒鳴り返す。
「女房を返してもらおうか!そうだ、貴様等が広場でリンチのあげくに殺した、俺の女房だよ!」
もう、こうなってくると抗議の声は止まらない。
市長もそれは判っているのか、あえて彼らを止めようとせず、叫ぶがままに任せてやった。
「返してよ!息子を返してッ」
「仲間を返せ!」
「貴様等は野蛮だ!MSより、ずっとずっと野蛮だ!!」
次から次へ恨みの声が唸りとなって、一斉にクレイドルへと襲いかかる。
「ぐっ……うっ、うぉぉぉぉおおおおおっっ!!黙れ、黙れ黙れ黙れェッッ!!!」
パーフェクト・ピースの総帥は口から泡を吹き出し、こめかみを引きつらせ、無様に両手をばたつかせる。
「黙らねぇよ!」
「黙るのはテメェだ、クレイドルッ!!」
「出ていけ!この街から出ていけ!!」
ヒートアップした市民の言葉は留まりを知らず、終いにはクレイドルを窓際にまで追い詰めた。
「ぐっ、ぐあぁぁぁッッ!」
ついにキャパシティの限界を越えたか、或いは言葉の暴力に耐えきれなくなったのか。
不意にクレイドルが身を翻したかと思うと、次の瞬間には窓ガラスが割れて、彼の姿が消えてなくなる。
違う、飛び降りたのだと気づいた者達が窓の下を眺めてみれば、表で騒ぎがあがっていた。
「クレイドルだ!」
熊の格好をした奴が叫ぶ。
鹿の格好をした奴が、クレイドルの首根っこを咥えあげた。
「ぐ、ぐおぉっ、放せ、放さんか、この畜生どもがぁっ」
クレイドルは身動き取れぬ状態だというのに、口調だけは勇ましい。
「散々俺達を迫害しやがって!」
バリッと猫のMSに顔を引っ掻かれ、文句は途中で悲鳴に変わった。
「なんと、MSの諸君じゃないか。広場で戦っているかと思っていたのに、いつの間に此処へ?」
市長も呆れて、騒ぎを見下ろす。
「怪物は、まだ広場にいるようですし、二手に分かれたのでは」とは、秘書の意見だ。
白く輝く一つの点は、あっという間にMSの群れに飲み込まれ、市長の手でも、どうにもならない。
虐げられて、怒りさめやらぬのは市民だけじゃない。
一番の被害者はMSだろう。
「……クレイドルへの制裁は、彼らにお任せしますか?」
秘書に尋ねられ、市長も市民も頷いた。
「本当はもっと言ってやりたかったけど、あぁなっちゃったんじゃ仕方ねぇな」
「そうね、MSだって怒りをぶつける相手は必要でしょう」
広場のほうも、いずれ片がつく。
レジスタンスとMSの生き残りが総掛かりで戦っているのだ。
彼らが負けるようでは、市民には到底太刀打ちできまい。
果たして市長の読み通りか、数時間後にはミクリーヤも無事に退治される。
ほとんど坂井一人の活躍で倒したようなものだが、市長室でふんぞり返ったのはタンタンであった。
「最初っから、あたし達に任せておけば良かったのよ!あんた達の出る幕は始めから、なかったってわけ」
馬鹿笑いする彼女の横では、ヒソヒソとサリア女王がフォローに回る。
「クレイドルを追い詰めることが出来たのは、あなた方が勇気を出して立ち上がって下さったおかげです」
「例の屋敷からは、ほとんどの信者が逃げ出していました」と、笑顔で市長も受けとめる。
「我々の抗議だけでは、ここまで上手く事が運ばなかったでしょう。助力を感謝しますぞ、女王様!」
「いいえ……」と答える彼女の顔色は冴えなかったが、市長は全く気づかず周囲を促した。
「今日はめでたい記念日だ!我々の街を取り戻した日として、末永く語り継ごうじゃないか」
拳を固めて皆が思い思いの感情を示す中、葵野の元へ近づいてきたウィンキーが囁いてきた。
「ほんで、これから葵野は、どないすんねんな?」
「決まってんだろ」と答えたのは、坂井だ。
「ジ・アスタロトを潰しに行く」
「そやろな、なら俺も同行してエェよな?」
嬉々として尋ねるウィンキーに、坂井も不遜な笑みを浮かべる。
「当ッたり前だ。たとえ途中で怖じ気づいたとしても、首に縄をかけて引っ張っていってやるよ」
「お、怖じ気づいたりせぇへんわ!」
「どうかなァ。一度戦線離脱しているしよ、テメェは」
アワアワするウィンキーに対し、どこまでも意地悪な坂井を諫めようと、葵野が口を開きかける。
だが、それよりも先に横やりが入った。
「次はジ・アスタロトが相手か」
「なら、トーゼンあたし達も同行するわよ。いいわね?」
リオとタンタンだ。見れば背後のMS達も、熱い視線を向けている。
「も、もちろんだよ」と葵野が笑顔で答える横では、坂井が、さも嫌そうにつけたした。
「タンタンは来なくていいぞ。どーせ足手まといになるだけだしよ」
「ちょ、ちょっと、坂井!」
「足手まといって何よ!あたしの華麗なリーダーっぷりを見ていなかったのォ!?」
すぐさま横合いからキャンキャン怒鳴られる坂井を尻目に、リオはサリアを促した。
「女王、最後の戦いだ。歴戦の英雄達を救い出し、全ての戦いに終止符を打とう」
「えぇ……」と、まだ幾分落ち込んでいるようではあったものの、サリアは気丈にも微笑んでみせた。
「参りましょう。彼らの本拠地へ」
時を得たりとばかりに、シェイミーが前に出る。
「では、ボクが案内いたします」
「おぅ、今すぐ行くのか?」
様子に気づいて坂井が声をかけ、その横ではタンタンがまだ何か騒いでいたが、一行は、ようやく目指す。
全ての戦いの元凶ともいえる、ジ・アスタロトの本拠地へ――