DOUBLE DRAGON LEGEND

第七十五話 言葉は時に、ちからとなりて


東練――
牛の印乱入により解き放たれた友喜は、すぐさま研究員をしばき倒し、手当たり次第に機材を破壊。
そして棚という棚を引っかき回し、ここジ・アスタロト本拠地の地図を手に入れた。
「べーっだ!たった一人で、あたしを監視しようって思う方が間違っているんだから」
気絶した研究員にアカンベーをくれてやる。その彼女の腕を取り、アモスが促した。
「行くぞ。奴らの話によれば白き翼や鬼神も、ここに囚われているそうだ」
「そうね、早く皆と合流しなきゃ」
だが廊下に出れば出たで、増援が続々と押し寄せてくる。
一体総勢で何人住んでいるんだと言いたくなるほど、廊下は黄色一色で埋め尽くされた。
「ったく、天井がもっと高ければ、あんな奴ら一吹きでやっつけられるのに……」
恨みがましい目で天井を見上げる友喜を庇うように、アモスが一歩前に出る。
「お前が無理して戦う必要などない。露払いは俺に任せておけ」
「はいはい、頼もしいですこと!でも、無茶しないでよ?あたし達、全員揃って無事に」
言いかける友喜の脳裏を、ふとよぎったのは巨大な鼠の姿。
首都で待ち受けていたジ・アスタロトの先兵に心臓を一突きされ、死んでいった哀れな少女だ。
心臓を貫通されては、いくら創造MSでも生きてはいまい。
可哀想なD・レクシィ。彼女の遺体は、どうなったんだろう。
まさか、まだサンクリストシュアに打ち棄てられているのでは?
――友喜を我に返らせたのは、前方で沸き上がる乱闘の怒号だった。
飛びかかってきた雑魚MS達を、アモスが角で引っかけ、片っ端から投げ飛ばす。
「友喜、遅れるな!一気に抜けるぞッ」
「わ、わかってる!」
先行く牛を追いかけて、友喜も走り出す。


一方、蓬莱都市へ向かった葵野と坂井は懐かしい顔ぶれと再会した。
「ウィンキー!ウィンキーじゃないか、どうして蓬莱都市に?」
「葵野やーん!坂井まで一緒に、何でサリア女王と一緒におるん?」
「そいつは、こっちの台詞だぜ」
じろっとウィンキーを睨みつけ、坂井が声を落とす。
「なんで、あのバカ女がレジスタンスのリーダーなんかに収まっちまってるんだよ?」
皆に囲まれて、一人テンションをあげまくっているタンタンを親指で示した。
その彼女が、くるりと振り返り、坂井を睨みつける。
「なによ、あたしがリーダーでご不満?」
「あぁ、不満だね。てめぇみたいな自己中に、リーダーなんざ務まるわけがねぇ」
坂井も負けじと言い返し、慌てて葵野が間に割って入る。
「ちょ、ちょっと喧嘩はヤメヤメ、ストーップ!今は二人で争っている場合じゃないだろ!?」
「力也王子の言うとおりです」とサリア女王も頷いて、皆の顔を見渡した。
「強大な敵に立ち向かう為にも私達は一致団結しなければ、なりません」
「あたしだって好きで喧嘩してんじゃないわよ、このバカ虎が喧嘩を売ってこなきゃ」
タンタンの文句を遮り、坂井がリオへ話を促した。
「で?俺達は、いつ出発するんでぇ」
「シェイミーの話によれば」
ちら、と集団へ視線をやってから、リオが話し始める。
首都で別れたっきりのシェイミー・ロスカーは、先にレジスタンスと合流していた。
人質として連れていたキャミサ・アンダンテは一緒ではない。
ジ・アスタロトの本拠地半径1M以内へ侵入した時点で襲われて、彼女に構っていられなくなった。
しつこく追いかけてくるMS兵を振り切るので精一杯だった。
ゼノの行方も判らず、さりとて首都に戻るわけにもいかず、海を渡り、蓬莱都市へ向かった。
「奴らの本拠地の位置は割れた。準備ができ次第、いつでも出発できるだろう」
「パーフェクト・ピースは?」と尋ねたのは、葵野だ。
「レジスタンスは元々、パーフェクト・ピースを倒すつもりで集まってきたんだろ」
坂井も頷き、ウィンキーを見た。
「いくら人数が増えたといっても、同時にゃ叩けねぇぜ。どうすんだ?」
とことんリーダーを無視した話し合いに、タンタンがブチキレる。
「ちょっとォ!皆して、よってたかって、あたしを無視しなくてもいいじゃないッ」
「じゃあリーダー様。どっちを先に攻撃するんでぇ?」
ジト目の坂井に、さも疎ましそうに見つめられ、タンタンはビシッと指を突き出した。
「決まってんでしょォ?攻めるなら、まず背後を一掃せよ!パーフェクト・ピースを蓬莱から追い出すわよ!!」
彼女にしては、まともな意見だ。
「武力で?」と葵野が尋ねるのへは、ぐいっと迫って睨みつける。
「他にやり方があるんなら教えてもらおうじゃないの。あいつらは、武力行使で街の人達を虐め始めたのよ?」
それに異議を唱えたのはサリアだ。
「だからといって、わたくし達までが武力で追い払っては、彼らと同じ土俵に立ってしまいます」
「ハン、平和ボケの女王様が言い出しそうな意見ね!」
リーダーに祭り上げられた自信からか、タンタンの不遜な言い腰に葵野は驚かされる。
サリアは眉一つ動かず、じっとタンタンを見据えて言った。
「過去のわたくしならば、何が何でも話し合いで解決しようと試みたでしょう。しかし今は違います」
「あら、じゃあ武力行使に賛成するってぇの?」
すっくと立ち上がり、女王がレジスタンスの一人へ命じる。
「出かけます。市長の元へ案内して下さい」
「えっ……?し、しかし」
リーダーに気兼ねしてか、兵士がタンタンへ視線を向ける。
彼女が何か言うよりも早く、ゼノが彼を促した。
「行ってこい。女王には何か秘策があるのだろう」
「は、はいっ!では女王、私についてきて下さい。ご案内します」
颯爽と立ち上がり、どこか嬉しそうに道案内を買って出る兵士にサリアがついていく。
「リーダーの意見も聞かずにドコ行こうってーのよ!」
タンタンが、また癇癪を起こして怒鳴るのへは、坂井が防波堤代わりに立ち塞がった。
「あいつらには隠密行動させていると思えばいいじゃねぇか。俺達は俺達で、真っ向から奴らをブッ潰しに行こうぜ」
一応は彼女を立てる一言に、たちまちタンタンは機嫌を直し指揮を取る。
「よっしゃあ!んじゃあ、準備が出来たら出撃するわよ。ジ・アスタロトの本拠地目指して、レッツゴ〜♪」
意気揚々とまくしたて自分の部屋に引っ込む彼女を見送りながら、葵野が、そっとリオに話しかける。
「ね、リオ。レジスタンスと君達が攻撃するまでの時間引っ張りを、君に任せてもいい?」
「攻撃を遅らせろ、と?その間に、何をするつもりなんだ?」と尋ねてくる彼には、坂井が答えた。
「決まってんだろ?サリア女王のサポートをする。市長にかけあうってこたぁ、市民を動かそうって腹だろうぜ、あの女王様は。だったら、その案が成功するまで見守ってやる奴も必要なんじゃねぇか?」

だがレジスタンスの攻撃準備をパーフェクト・ピースが勘づかないわけもなく、伝令経由でクレイドルの耳にも入り、彼は憤慨して信者の一人を叱りとばした。
「何をやっている!サリア女王の侵入を許すとはッ。それでも貴様等、きちんと見張っていたのか!?」
「し、しかし、民が迎え入れてしまっては、我々には打つ手もなく……」
弱気になる信者を殴りとばすと、クレイドルは吐き捨てる。
「何が打つ手もなく、だ!今すぐ取り押さえろ、奴らに味方する馬鹿者も!!」
「それでは暴動が起きてしまいます!どうか、お考えなおしをッ」
別の信者が悲鳴をあげるも、クレイドルの癇癪は収まらず。
「えぇい、貴様等がやらんというのなら私が鉄槌を下してやる!ミクリーヤを檻より放て、市長の家へ向かわせろッ。奴に、女王どもを駆逐させるのだ!!」
「み、ミクリーヤをですか!?」
「しかし、あれはまだ調整中で」
おののく者達など振り返りもせず、部屋を出て行った。
困ったのは、残された信者達だ。互いに互いの顔を見合わせボソボソと囁くばかり。
「ど……どうする?あのバケモノの制御なんて、俺には出来ないぞ」
「お、俺だって」
パーフェクト・ピースの面々は、自らの意志で何かを決めたことが一度もない。
これまで組織を束ねてきたのはクレイドルであり、皆はただ、彼の命令に従っていれば良かった。
次第に過激化してくる彼の命令に首をひねる者もいないではなかったのだが、異議を唱える勇気のある信者は一人もいなかった。
彼らはクレイドルの命じるまま市民に強制を繰り返し、組織に絶対の忠誠を誓わせた。
それが自分達の立場を悪化させる行為だと気づいたのは、レジスタンス集結の噂を聞きつけた時だった。
気を利かせてクレイドルへ報告する者もいた。
しかし総師は、いつも鼻先で笑い飛ばし、真面目に聞こうとしなかった。
今になって、そのツケが回ってきたのだ。
レジスタンスの中にはMSも混ざっていると聞く。
奴らに襲われたらパーフェクト・ピースなんて、ひとたまりもなく全滅するだろう。
いくら武力で市民を従わせていると言っても所詮は生身の人間、MSに勝てるはずもない。
「ど……どうすればいいんだ、俺達は」
信者の一人が頭を抱え、天を仰ぐ。
別の誰かが、ぼそりと答えた。
「……ミクリーヤを出そう」
「奴を盾にするんだ、それなら俺達は傷つかなくて済むかもしれない」
「そ、そうだな……奴が戦っているうちに」
最後まで言わなかったが、誰もが同時に頷いた。
恐らくは、ここにいる全ての者が同じ気持ちになったはずだ。
バケモノがレジスタンスと戦っているうちに、蓬莱都市から逃げだそう――

レジスタンスの案内で、サリア女王は市長の家へ向かう。
案内役と二人だけではなく、護衛と称して坂井や葵野、シェイミーも同行した。
てっきり警戒されるとばかり思っていたのだが、市長の反応は彼らの予想を裏切り、実に友好的であった。
「もう、あの偽善者どもには私達も腸の煮えくりかえる思いをしてきましたのです!」
机を激しく叩いて激高する市長には、むしろサリアのほうが退き気味で、宥め役に回っている。
「落ち着いて下さい、市長様。彼らのペースに乗せられては、いけません」
宥められた方も改めて西の女王が相手と思い出したのか、大人しく椅子に座り直した。
「す、すみません。つい興奮してしまいまして……」
「いいえ」と首を振り、サリアは穏やかに微笑んだ。
「民の命が脅かされたのです。あなたがお怒りになるお気持ち、わたくしにも判ります」
西の首都サンクリストシュアは幾度となく彼ら――B.O.Sを始めとするMS軍団に襲撃を受けてきた。
それだけに蓬莱都市の市長が激怒する気持ちは、誰よりも理解しているつもりだ。
ですが、とサリアは付け加える。怒りの感情だけに任せていては、やがて自らも自らの怒りで滅ぼされよう。
「しかし」と市長も食い下がる。
「やられっぱなしでは、暴行を受けた皆の気持ちも収まりますまい」
サリアは彼を真っ向から見据え、語りかけた。
「市長様。この街を取り仕切っているのは、あなたです。あなたにならば、民もついていきましょう。この街を守るのは、レジスタンスの武力ではありません。あなた方、市民の強い意志なのです」
彼女の言わんとする意図がわからず、市長は狼狽えた視線を女王へ送る。
「わ……我々に、どうしろと?」
サリアが答えた。
「戦うのです。ただし武力ではなく、言葉で。言葉は時として、強いちからを持ちます。彼らが武力行使してきた時は、その時は、わたくし達が、あなた方をお守りします。ですから、あなた方は、けして武器を取らず、ひたむきに言葉のみで戦い抜いて下さい」
「こ、言葉で……」
「出ていけって叫ぶだけでもいいんだよ」と、横から坂井がフォローを入れる。
「市民全員でパーフェクト・ピースを拒絶すりゃあ、奴らを都市から追い出せるかもしんねぇぜ?」
「そうだよ」と、葵野も続けた。
「やられるだけじゃダメなんだ。誰かの助けを待っていても何も変わらない。街を守りたいなら、自分から動かなきゃ!」
半分は自身へ向けた言葉でもあった。
変わりたい、変身したいと思うのなら、坂井にばかり戦闘を頼っていたら駄目だ。
普段は平和主義を貫いているはずのシェイミーも、この時ばかりは強く頷いた。
「ボクも同感です。暴力は人を傷つけるものだけど……同時に身を守る盾にも、なり得るんだ」
育ての親プレイスに取り込まれた時。シェイミーはゼノへの愛を叫ぶ事で、彼を撃退した。
それはシェイミーを愛したプレイスにしてみれば、言葉の暴力ではなかっただろうか。
「暴力は何が何でも絶対に使っちゃ駄目とは限らないんだ。時と場合によっては、使わざるを得ない時もある。それが、きっと今なんです」
「シェイミー……」
仲間になったばかりの頃には見られなかった彼の横顔に葵野はポカンと一瞬呆けるが、サリアと坂井の立ち直りは早く、すぐに市長へ奮起を促した。
「レジスタンスはパーフェクト・ピース討伐へ赴こうとしております。このままでは、憎しみによる戦いが始まってしまいます」
「急がねぇと、あんたらの大切な街が戦火に包まれちまうぞ」
二人がかりで説得されて、ようやく市長も腰を上げる。
「よ……よし!では、奴らが仕掛けてきた時の防衛は、お頼みしますぞ!」
「えぇ、お任せ下さい」
サリアが頷き、坂井も傍らの葵野とシェイミーへ目配せする。
坂井へ頷き返した葵野が扉へ手をかけた時。間髪入れず、扉が勢いよく開かれた。
「たっ、大変です、市長!!」
息を切らせて飛び込んできたのは、まだ若い、市長の秘書をやっている男だ。
「どうしたのかね、林間君!」
ただならぬ彼の顔色には、市長も落ち着きをなくし慌てて問いただすと。
「奴らが、パーフェクト・ピースが襲撃してきました!街の皆が襲われています、得体の知れないバケモノに!!」
秘書は叫ぶだけ叫んで、クタクタと崩れ落ちる。
「だ、大丈夫ですか!?」
助け起こそうとしたシェイミーは、坂井に腕を掴まれた。
「そいつに構ってる場合かよ。敵が先に攻めてきたんだ、ここは俺達の出番だろ!」
「でも、レジスタンスは?まだ到着していないんじゃないの!?」
シェイミーの疑問へ覆い被せるようにして、葵野が力強く遮ってくる。
「言っただろ、誰かの助けを頼ってばかりじゃいけないって。ここは俺達だけで何とかしなきゃ」
「えっ、でも、それは言葉の暴力を使う時の話で……」
小さく呟くシェイミーには構いもせず、葵野は座り込む秘書へ尋ねた。
「場所は何処?暴れているのは、どんなバケモノだったんだ?」
「ちゅっ、中央広場、です。ありゃあ、きっと黄泉の国から呼び出されたバケモノだ!人間じゃない、だけど動物でもない……あんな生き物、私は今まで見たことがありませんッ」
人間でもなく動物でもない。とすると、トレイダーの作りだした創造MSかもしれない。
「あの野郎、一体何体作りだしたんだ。おい、俺は先に行くぜ!お前らは後で来いよっ」
言うが早いか坂井はポイポイ脱ぎだし、真っ赤に染まったサリアが明後日の方角へ視線を逸らす。
「ま、待ってよ!俺も今行く!!」
颯爽と飛び出す黒と黄色の縞模様を追いかけて、葵野も慌てて部屋を出た。
シェイミーは、というと、すぐには追いかけず。
秘書を助け起こして椅子へ腰掛けさせると、改めて市長と向き合った。
「多分ボク達三人では、改造MSの相手をするのは荷が重いでしょう。ボク達の中で、まともに戦えるのは坂井くんだけです」
「そ、そんな!それじゃ、さっきと話が違うではありませんかッ」
市長の悲痛な叫びを聞き流しながら、シェイミーは話を続けた。
「ですから、ボク達はレジスタンスが到着するまで時間稼ぎをしたいと思います。市長、あなたは、その間にパーフェクト・ピースの本部へ行って、直接彼らと話をしてきて下さい」
「彼らとは?」と、これはサリアの質問に、シェイミーが頷く。
「戦いの場にいない信者の人達やクレイドル総師です。MSを前面に出している今、彼らは本部で様子見をしているはずですから」
「わ……判りました」と頷いたのは意外にも市長ではなく、入ってきたばかりの秘書だった。
椅子を杖に立ち上がると、なけなしの勇気を振り絞って気合を入れてみせる。
「わ、私達にだって市民としての意地があります。このまま移住民の思うがままにさせて、たまるもんですか。やってみせます、ですから、あなた達は急いで襲われている皆を助けてあげて下さい!」
「判りました」
コクリと頷き、シェイミーはMS化する。
小さな桃色のウサギは、ぴょこんと窓から飛び出していき、血気盛んな秘書に背中を押されるようにして市長も勇気を振り絞る。
「や……やるしかない。やるしかないんだ……!林間君、全議員に召集を!それと、戦場を大きく迂回して、それとなく市民にも呼びかけるんだ」
「了解です!」
俄に慌ただしくなった状況を見渡し、サリアも頷く。
「わたくしも協力を惜しみません。なんなりと、お申し付け下さいませ」
市長へ協力を申し出て、さっそく一仕事頼まれる。
「おぉ、さすがは女王、ありがたい!では、林間君と共に招集をお願いしても宜しいでしょうか」
判りましたと頷き出ていく彼女の背中を目で見送ると、市長も自分の机に腰掛け、猛烈な勢いで手紙を書き始めた。
どこへ出すのか?そんなのは、決まっている。
あの憎きパーフェクト・ピースの総師を気取っている、クレイドルとかいう男へ向けた最後の警告だ。
「言葉は力になる、か……」
自分より遥かに年下の若造達に教えられるとは。ふっと苦笑し、市長は再びペンを走らせる。


東へ向かった美羽達と西へ向かった友喜達は、途中地点で合流した。
「まったく……はぁ、はぁ、な、何人住みついているのよ、ここには!」
悪態をつく友喜には、さらりと美羽が答えてやる。
「地下へ潜れば潜るほど、おかしな部屋が見つかりましてよ。そこで大量生産しているのかもしれませんわねぇ」
「地下といえば――」
地図を眺めていたアモスが呟いた。
「地下牢は、お約束だな。ここへ来るまでに見つけなかったのか?」
「いや」と首を振り、逆に該も尋ねる。
「お前達こそ、地下は探さなかったのか?」
「あたし達のいた練に、地下なんてなかったわよ」
ぷぅっとふくれて、友喜が言い返す。
「となると、この中央地帯での、どれかが牢屋になるわけか」
「どの部屋が牢屋とは、書いていないんですか?」
呟くアモスを肩越しに覗き込み、アリアは小さく溜息を漏らした。
「書いて、いないんですね……」
中途半端な地図だ。本当にこれで全部を把握しているのか?ここの連中は。
と、文句を言っていても仕方がない。
アモスの勘に従って地下を探すか、或いは別の部屋を軒並み探してみるか。
「可能性は一つずつ、確実に潰していこう」
該が結論づけ皆は地下を目指して走り出すが、廊下を走ってきた誰かと曲がり角で衝突した。
「いったぁ〜。ちょっと、あんたドコ見て走って――」
「それは、こっちの台詞です!って……」
真っ先に友喜の目に飛び込んできたのは、黄色い服。
「また敵なの!?しつっこいわねぇッ」
すぐにも飛びかからんとする友喜やアモスを止めたのは、なんと該であった。
「待て、その男は敵じゃない」
見ればアリアや美羽も悠然と構えている。
状況を読めていないのは、友喜とアモスだけだったようだ。
「どうして?どうして敵じゃないって言えるのよ、黄色い服を着てるのに!」
憤然と言いつのる友喜を、やんわり押しのけると。該は、ぶつかった相手へ手を差し伸べる。
「お前も無事だったか……心配したぞ、ルックス・アーティン」

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