DOUBLE DRAGON LEGEND

第六十話 残党狩り


少女キャミサに連行されて、司は遺跡の奥まで入り込んでいた。
この迷宮は、まるで蟻の巣だ。
細い通路が幾重にも連なり、小さな部屋へと続いている。
つい最近まで、この地域はキングアームズ財団の支配下にあった。
そして前時代では、ストーンバイナワークが根城にしていた土地でもある。
学者の街、そういえば聞こえはよいが、カルラタータは古くから科学者、それも先頭にマッドのつく狂人が集う街として有名であった。

張り巡らされた通路の奥にある薄暗い部屋には、アリアとアモスが捕まっていた。
二人だけだ。仲間やコーティの姿が見あたらない。
時折、ポターン、ポターンと雫の滴る音が聞こえる。どこか雨漏りでもしているのだろうか。
通路と二人を阻むものは鉄格子。部屋というよりは牢屋だ。
「……兄様……」
拘束された両手を固く握りしめ、アリアがポツリと呟く。
その顔は真っ青で、今にも卒倒しそうだ。
同じく両手を拘束されたアモスが彼女を励ました。
「大丈夫だ。死を確認したわけではないのだろう?なら彼らは生きている、必ずな」
彼らが本拠地とするレヴォノースは何者かの襲撃に遭い、墜ちた。
その手際たるや卑怯卑劣極まりなく、貴重な飲み水である井戸に毒を投げ込まれたのだ。
混乱の最中、襲ってきた大量の改造MS及びMDの攻撃に為す術もなく、二人は囚われの身となる。
博士の助手達や、リオ、兄コーティの生死を確認する暇もなかった。
彼らばかりではない。サリア女王やパーカーの生死もだ。
二人を捕らえ、この遺跡に連行したのは黄色い服に身を包んだ男達で、K司教と名乗る男の前に引き出され、初めて此処がジ・アスタロトの本拠地であると知らされた。
聞けば、同時攻撃で他の十二真獣も襲われているという。
葵野や該の安否も心配だった。
幼い友喜、無事でいてくれるといいのだが……
「我々を捕らえて、どうするつもりなのであろうな」
アモスのぼやきに顔をあげ、アリアが答える。
「恐らくは、十二真獣の研究材料として私達を使うつもりでしょう」
「研究材料?」
「えぇ」
小さく頷き、鉄格子の向こうを見やる。
見張りは一人もおらず、監視カメラらしきものも一切設置されていない。
牛の印が一緒の割には設備が甘いようにアリアには思えたが、逃げ出すのは今ではないとも感じていた。
もう一度K司教なりジ・アスタロトのメンバーと接触して、全てを聞き出してからでも遅くない。
せっかく敵の懐に招かれたのだ。少しでも相手の実情を知っておかないと。
解剖されるかもしれないのに、意外やアリアは落ち着いている。
彼女を悩ませているのは、仲間の安否。それだけだった。
同時攻撃がいったということは、ミスティル率いる潜伏部隊も襲われたはずだ。
D・レクシィは無事に逃げおおせただろうか?
不意にチクリとした痛みを首筋に感じ、そっと手をあてる。
ここへ入る前、飛行船の中で奴らに打たれたものだ。
注射針で何かの薬を投与された。
恐らくはMS変化を抑える薬か何かだろう。アモスも同じものを打たれた。
鉄格子の向こう側に影が落ち、冷たい声が乱暴に話しかけてくる。
「出ろ」
見れば、黄色い服の男が四人。ジ・アスタロトの人員だ。
「面会の時間か?」
似合わぬ軽口を叩き、アモスが立ち上がる。
アリアも立ち上がり、男二人に挟まれるようにして歩き出した。


白き翼を待っていたのは、R博士と名乗る白衣の老人であった。
見事なまでに禿げ上がった頭を光らせて、揉み手をしながら近づいてくると、彼は上から下まで無遠慮に司を眺め回してから、さも嬉しそうに喉を鳴らした。
「もう注射は済んだのかね?」
部下らしき男が答える。
「いえ、まだです」
途端にR博士は額に青筋を立てて怒鳴り立てた。
「なんだって!デキシンズには渡しといただろうがッ」
「それが……いらないと、おっしゃったようで」
男は傍らの同僚と顔を見合わせる。
他人の不手際を自分達に怒鳴られても困るといった感情が、ありありと受け取れた。
代わりに司本人が割って入る。
「注射しなくても僕は変身しない。今はまだ、君達を倒す時期ではないからな」
アリア同様、司としてもジ・アスタロトの事情は気になるところだ。
K司教の目論見、或いは組織が最終的に目指すものが何なのかを、是非とも知っておかねばなるまい。
彼らは存在そのものが謎に包まれていた。
「ほぅ?以前も抑える薬を投与されたことがあるのかね」
R博士の問いは無視し、司は質問で返す。
「僕を連れてこいと命じたのは君か?目的は十二真獣の解剖か」
「いきなり解剖なんかせんよ。まずは脳波を調べ、肉体を調べ、能力を測る」
「脳波を?」
脳まで調べるとなると、洗脳しようという腹か。
オウム返しに尋ねる司へ、涼しい顔でR博士が頷く。
「さよう。造られた存在と転生した存在、及び普通の人間と比べて、どのように違うのかを調べるのじゃ」
ぱちんと博士が指を鳴らすと、床から十字に組まれた棒が迫り上がってくる。
「おい。お前達、白き翼を固定しなさい」
助手達が自分の両手を棒に固定するのを、司は大人しく見守った。
張り付けのような格好で立たされた彼を再びウットリ見つめながら、R博士は次から次へと部下へ命じる。
「では、まずは脳波チェックから始めるぞ。続いて身体能力チェック!果たして伝説のMSは、儂らの造ったMSと、どう違うのか、結果が楽しみじゃ」
儂らの造った、ということはデキシンズの他にも創造MSがいるのか。
先ほど会ったネスト少年や黒眼鏡の男、キャミサという少女も、そうだったのかもしれない。
軽く両手を動かして、生半可な力では引きちぎれない拘束を確認してから、司はR博士に話しかけた。
「デキシンズはK司教の命令で坂井と僕を捕まえろと言われていたらしいが……研究材料として十二真獣を捕らえ、その後はどうするつもりだったんだ?君達の目的は、何なんだ」
R博士は答える代わりに、懐から一枚の石板を取り出した。
「なぁに。我々が求めるのは次世代の命じゃよ。剣持博士の研究が真実であるかどうかを見極める為にな」
「な……ッ!?」
予期せぬ名前を持ち出され、司の顔に驚愕が走る。
「驚いておるな?英雄様。見つけたんじゃよ、儂は。剣持穣治の残した石板を、な」
「……その名を……」
司は唇の震えを抑え、なんとか声を絞り出す。
「その名を、軽々しく呼ぶんじゃないッ!」
彼にしては荒々しい剣幕にR博士も少したじろいだが、すぐに調子を取り戻す。
「ほ。やはり創造MS、千年生きても親への愛は残っておるのか」
歩き去ろうとする背中へ向けて、無駄だと判っていても司は叫ばずにいられなかった。
「返せ!彼の石板は、お前らが持っていていいものじゃないッ!!」
「では、自分が所有者だと言いたいのかね?戌の印。だがの、持ち主のいない落とし物は、拾った人間に所有権があるもんじゃ」
勝ち誇った顔で振り向き言い捨てると、R博士は今度こそ部屋を出て行き、天井から降りてきた装置が司の頭を締め付ける。
装置から放たれる電流の痛みも、今の司を苦しめる手段には也得なかった。
先ほど聞いた衝撃発言が、司の心を苦しめていた。
剣持穣治。
初代十二真獣を造りあげた総責任者にして、司が認める最愛のマスター。
彼の書いた石板が、よりによってジ・アスタロトの手に渡っていようとは……!


その頃、遥か上空を飛ぶ飛行船にて。
「包囲網?」
誰かがオウム返しに驚くのへ「そうだ」と鴉が頷く。
「既にダミアンとジェイファが民を扇動している。奴らを街へ追い込み、一気に片付ける」
「そう簡単に行くのか?」と尋ねたのはレイ。
腕組みしたまま、窓の側を動かない。飛行船へ乗り込んだ時から、そこは彼女の定位置だった。
ジ・アスタロト。
表舞台には、けして姿を現わさず、裏で暗躍する者達。
B.O.Sもキングアームズ財団もパーフェクト・ピースも、彼らの手駒に過ぎない。
そして、これらの組織には一貫して共通の目的があった。
MSの研究である。
B.O.Sは改造を求め、キングアームズ財団は知識を求め、パーフェクト・ピースは撲滅を求めた。
大元がジ・アスタロトだとすれば、彼らもMSの改造と知識と撲滅を求めているということになる。
だが改造と知識はよいとして、撲滅は相容れぬ考えだ。
下手をすれば、部下の命も奪うことになりかねない。
パーフェクト・ピースは、ジ・アスタロトの思うとおりの道を進めているのだろうか?
今から飛行船が向かう先に、その答えがあった。
「奴らの中には空を飛ぶやつも多いって言うじゃねぇか」
厳しい目でネストに睨まれ、しかし鴉は臆せず言い返す。
「空、海、大地。我々を三つの部隊に分ければいい」
「空ってぇと鴉、お前とアムルダ、エディの三人か」
ダミーが確認する。そうだ、と頷き鴉は次の名を呼び上げる。
「海はダミアンとデミールの二人で充分だ。残る大地は、後のメンバー全員で攻めればよかろう」
「都市は?」と尋ねたのはキャミサだ。それには鴉ではなくエディが答える。
「既にジェイファが潜伏していると言ったでしょう?彼女ともう一人ぐらいいれば、充分ね」
「凛々は?彼女は今どこにいるんだ」
デキシンズも尋ねるが、その問いは無視された。
冷たい声が、彼らの会話を遮ったからだ。
「デキシンズ」
「なんだい?」
振り向けば、レイがじっとデキシンズを見つめている。
「お前は私と同行しろ。皆とは別行動を取る」
意外な言葉に驚いたのは、デキシンズばかりではない。
「どこへ行こうってんだよ!」と、ネストが真っ先に噛みついてきた。
レイは彼にも冷ややかな視線を向けて、短く答えたのみだった。
「K司教直々の命令だ。お前達にも行き先を教えるなと言われている」
「直々?そんなの、あたしも聞かされてないわ!どういうことよ、レイ!」
デキシンズのパートナーであるキャミサも騒ぎだし、船内が騒然となりかけるも、「黙れ」と制したのは最年長のデミールで、皆は一斉に黙り込む。
「K司教の命令は絶対のものだ。デキシンズはレイに任せ、我々は予定通り残党狩りを進める」
立ち上がりかけたダミーも座り直し、ちらとレイの横顔を伺った。
「……ま、いいがよ。レイ、お前はそれで納得したのか?」
「納得も何もない」
彼女の表情に変化はない。全くの無表情、鉄仮面である。
「上からの命令では聞く他なかろう」
涼しい顔で応えた後、視線に気づいたかダミーを見て、ほんの少しだけ微笑んだ。
「心配するな、兄上。私なら、たとえデキシンズが一緒でもミスなどしない」
「なら、いいんだが」
妹を見ていた時は優しげだったダミーの目元も、デキシンズを振り返る頃には厳しくなる。
「オイ、ダメシンズ!」
口調までもが刺々しくなり、デキシンズの体に突き刺さってきた。
「くれぐれも、レイの足を引っ張るんじゃないぞ?」
デキシンズは「判っているよ」と弱々しく頷き、レイをちらと一瞥する。
窓の外を眺める彼女は先ほどと同様、鉄仮面に戻っており、何の感情も伺えない。
この件に関して、K司教は何も言っていない。
直属の部下であり彼の手によって生み出された自分にも、同じく兄妹MSであるはずのデミールやキャミサにも知らされていなかった。
いや、レイ以外の全員が初耳だったのだろう。
感情の乏しい鴉までもが顔色を変えたぐらいなのだから。
皆と離れ、二人だけでの別行動。一体、マスターは自分とレイに何をやらせるつもりだ?
内面の不安が増す一方で、デキシンズは何故かウキウキしている自分にも気がついた。
もう一度、レイの横顔を盗み見る。
何を考えているのか判らない女だが、一つだけデキシンズにも判っている事がある。
それは彼女が仲間うちで、一番美しいという点だ……
「もうすぐ蓬莱都市の上空に差し掛かる」
鴉の一言で我に返り、デキシンズも皆と同じように空の下を眺めた。
「森より離れた場所で一旦降りる。そこで俺とエディ以外は降りてくれ」
そこで一旦切り、鴉がレイに視線を向けると、彼女は頷いた。
「私とデキシンズも、そこで降りよう」
デキシンズも一応右にならえで頷いてみる。
彼を見もしないで、鴉は話を進めていく。
「ダミアンの情報によれば、残党は森に潜んでいるとの事。森を、二方向から攻め立てる形で都市へ追い込め」
「都市に?危険じゃないかしら」と反論を唱えたのは、キャミサだ。
どうして?と聞き返すダミーへ脅えた目を向け、彼女は身を震わせた。
「だって都市の奴らはダミアン達に洗脳されているんでしょ?」
ダミアンとジェイファはR博士の作戦により、パーフェクト・ピースの援護に当たっている。
さしあたり二人に任された仕事とは、彼らの都合良いように民を扇動する策であった。
MSが徒党を組んで狙っている。
奴らは森で様子を伺い、いつかは都市を攻め滅ぼそうとしている。
そういった噂を、あちこちで流して、都市の住民の不安を煽り立てていた。
従って、今の蓬莱都市へ変身した状態のMSが入り込むのは大変危険といえよう。
入ったら最後、毛皮を剥がれて絨毯にされてしまうかもしれない。
「大地メンバーがやるのは、都市へ追い立てるまででしょう?後は都市の住民が戦ってくれる。大義名分を掲げている奴らは、普通の人間とは戦えない。それを利用するのよ」
エディが横から取りなし、キャミサも安心したのか、顔から怯えが消えていく。
「そ……そうよね。あたし達が鬼神や死神と直接やり合わなくてもいいのよね?」
「なんだキャミサ、お前が怖がってたのって、そっちかよ」
ネストにからかわれる頃には、すっかり、いつもの彼女に戻っていた。
「ち、違うわよ!間違って住民に殺されたら洒落になんないなって思っただけ!」
「そうだな」とデミールも会話に入り、キャミサを見た。
「けして深追いせず、しかし追い立てるのは真剣にやれ。相手は伝説のMS二人なのだからな」
黒眼鏡の奥に優しい光を見たような気がして、デキシンズは、ふいっと窓へ視線を逃がした。
面白くない。どうして兄さんはキャミサには、いつも優しいんだ。
自分に、ああいう視線を送ってくれた事なんか一度だってないのに。
背中越しには、張り切って見得を切るキャミサの甲高い声が聞こえてくる。
「任せておいてよ、兄さん!ダメシンズが一緒じゃなけりゃ、あたしだってやれるんだから」
せいぜい死なない程度に、皮膚を鬼神の炎でコンガリ焼かれてしまえ。
心の中で呪いの言葉を吐き出すと、デキシンズは一人、デッキのほうへ歩いていった。


真っ先に気配の異変に勘づいたのは、D・レクシィただ一人だった。
「異臭……!」
彼女は小さく呟くと、瞬く間に巨大鼠へと変身する。
「どうした、レクシィ」
「皆、気をつけて!」
尋ねてくる仲間へも短く答え、油断なく辺りを見渡した。
嗅ぎ慣れぬ臭いをつけた何かが、こちらへやってくる。それも、一人二人ではない。大勢だ。
レクシィの剣幕に、ただ事ではないと感じたか、他の面子も次々とMS化する中で、リラルルだけは明後日の方向を向きながら一人でくるくると回って……いや、踊っていた。
「遅いのねー。ミスティル、まだなのかしら〜?」
その動きが不意に止まったかと思うと、彼女は一瞬にして空へ舞い上がる。
何事か?そう尋ねる暇もなく、空いっぱいにリラルルの甲高い声が響き渡った。
「誰!? やるなら容赦しないのねー!」
彼女の牽制を皮切りに、茂みという茂みから一斉に何かが飛び出してくる。
それが自分達と同じMSであると認識するまで、皆は多少の時間を要した。
「くゥッ!」
小さく悲鳴をあげ、豹は後ろへ飛びずさるが一瞬遅く、生暖かい血が首筋を垂れて、背中を伝う。
ドミアを襲ったのは、巨大な獣。
後ろ足で立ち上がった毛むくじゃらの大きな狒々は、にぃっと口の端を歪ませた。
「なかなか素早いな。だが、所詮は小者かな?」
やられた箇所が熱い。
引っかかれたのではない。
狒々の手を見れば一目瞭然だろう。
奴は一握りの塊を掴んでいた。
ドミアの首筋から毟り取った肉の一部で、皮膚もついている。
痛いというよりは熱い。
意識が霞んでくる。
たったの一撃で、決着はついたも同然だった。
前触れもなく豹の体が、どうと横倒しになる。
首筋から生々しい赤い肉や白い骨を覗かせて、ドミアの体が血だまりに沈み込む。
それを見届けるでもなく、狒々は次の標的に移った。
目の前の惨劇に怯えて硬直していたオウムを片手で引っつかむと、ぐしゃりと握りつぶす。
体中の骨が砕ける嫌な音。
そして「ピギィッ!」という断末魔を残して、手の内の生き物が動きを止める。
そいつを乱暴に投げ捨てると、お次は逃げる黒猫を追いかけて、ダミーは茂みへ飛び込んだ。
「小さい奴らはダミーに任せておけばいい!キャミサ、俺達は大きな奴らを追い立てようぜ!!」
疾走するパンサーの上に乗っかって、キャミサは尖った顔を左右に傾ける。
大きな奴なんて、目の前を逃げていく馬ぐらいしかいないじゃないか。
風を切って走る中、キャミサの目が茂みで動く大きな影を捉えた。
「あ、いた!あっちよ、ネスト!あっちに大きな熊がいたッ」
オオトカゲの声に従って、パンサーが地を蹴り横手に飛び込む。
飛び込んだ先で、突如振り下ろされてきた鋭い爪を間一髪で避けきった。
避けた拍子で背中の荷物は乱暴に振り落とされ、キャミサがぎゃんぎゃん騒ぎ立てる。
「もぉ!いきなり止まらないでよ、落ちちゃったじゃないッ」
「うるせぇ!次からは自分の足で走りゃ〜いいだろ!!」
ネストも間髪入れずやり返し、キッと喧嘩の原因を作った相手を睨みつけた。
大きな熊だ。図体だけならネストやキャミサを遥かに凌ぐ。
だが、MSの怖さは図体じゃない。総合的な能力だ。
例え腕力では劣っても、ネストやキャミサには、それを凌ぐ能力がある。
「やろうってのか、上等だ!」
牙を剥くネストに対し、大熊ドーンも怯まない。
「毎回毎回、奇襲かけてきよって、こんの卑怯モンがァッ!」
「ネスト、こいつは十二真獣じゃない!あたしにも、やらせてよっ」
騒ぐオオトカゲを冷たい目で睨みつけると、ネストは血気盛んな彼女へピシャリと言い放つ。
「ここは俺に任せて、お前はさっきの馬を追いかけろ!下手に他の奴と合流させっと後が面倒だ」
「なによ!だったら、あんたも一緒に、きゃあ!」
文句は途中で悲鳴に代わり、キャミサはパンサーに首根っこを咥えられ、寸での所で難を逃れる。
彼女を襲ったのは真っ赤な炎。
「俺達のいない間に奇襲とは、やってくれたものだ。貴様等、生きて帰れると思うなよ」
炎に包まれた鳳凰こと、伝説のMS――鬼神ミスティルであった。

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