DOUBLE DRAGON LEGEND

第四十七話 戦況報告


司の腕の中で、ひとしきり泣いた後、友喜は、すっくと立ち上がると、照れたように笑ってみせた。
「えへ……ごめんね、取り乱しちゃった。十二真獣って言ってみても、まだまだだよね……」
「仕方ないさ」
司も立ち上がり、周囲を油断なく見渡す。
殺気が感じられない。
襲撃してきた敵が撤退したか、撃退されたのだろう。
「君は経験不足だ。何年も戦えば、そのうち――」
「――そのうち、人間が一人もいなくなってしまいますわ」
厳しい声に割り込まれ二人が振り向くと、サリア女王が険しい表情で立っている。
「ツカサは何年も戦争を続けるおつもりなのですか?」
今の一言が女王の逆鱗に触れてしまったらしい。
「……いや、今のは失言でした。早期に片をつけてみせます」
司は、すぐに取り繕うと、友喜へ尋ねる。
「ユキ。ここを襲ってきた敵は、あとどれだけ残っている?」
「あと?えっと……」
気配を探る二人の元へ、のっそりと大きな影が現われた。
「なんだ、ツカサも戻ってきたのか」
影はミスティルだ。片手で乱暴にネオドールを引きずっている。
「その人、倒したの!?」
友喜が素っ頓狂な声をあげ、ミスティルは口の端を歪めた。
「俺を誰だと思っている。この程度の雑魚、手こずるまでもない」
地面へ放り出されたネオドールへ、真っ先にサリア女王が駆け寄った。
腕を取り脈拍を調べ、口元に手をかざす。心臓にも耳をあて、小さく呟いた。
「良かった……生きては、いるようですね」
「死んでいないのが、それほど満足か?」というミスティルの問いには、顔をあげて頷く。
「えぇ。どのような生き物でも、命は命ですから」
「雑魚って……でも、そいつ、トレイダーの新作だよ!?」
友喜は、まだ驚いている。
司もネオドールの側へしゃがみ込み、じっくりと姿を眺めた。
もはや人間の名残すら見つけられないほど、見事にバケモノと化している。
姿だけじゃない。血の色まで人間とは違った。
「確かに、今までの改造MSとは違う動きをしてきたな。スピードが圧倒的に速い」
ミスティルは腕を組み、驚愕の友喜へ偉そうに応える。
「翼で竜巻、それと真空破も生み出した。なかなか器用な奴だ」
「空も飛べるんだろ?」
司が問い、ミスティルが頷く。
「見ていないのに判るか。さすがは白き翼だ」
そんなの褒めるにも値しない。司は、そっけなく応えた。
「翼が生えているんだ。飛べて当然さ」
それよりも他の敵はと尋ねると、ミスティル曰く「敵は全て撃退した」との事。
立ち上がり、司はサリア女王を促した。
「一度、大広間へ戻りましょう。博士達にも相談しないと」
途端に友喜が「あぁっ!」と叫ぶと、三人の前で勢いよく平伏する。
いきなりの行為にサリアは勿論、司もミスティルも、きょとんと目を丸くした。
「ど、どうしたのですか?」
「そういえばサリア、貴様が何故、外にいる?中で震えて待っていたのではなかったのか」
司とミスティルの問いが重なり、二人の少女も同時に答える。
「戦いをやめさせるために、戦場へ向かったのです。説得は通じませんでしたが……」
「大変なの!ごめんなさい、あたしのせいで博士が、さらわれちゃったの!」
「って、えっ?」
四人は一斉に顔を見合わせた。
「ど、どういうこと!?サリア、もしかしてアリアや力也がいなかったのも、あなたのせい?」
叫ぶ友喜の側で、露骨な舌打ちを漏らしたのはミスティルだ。
「博士がさらわれただと……?神龍、貴様は留守番も満足に出来ないのか」
「ごっ、ごめんなさい!でも、たった十五人で全員守れるわけないじゃない!」
「貴様は十二真獣だろうが。あの程度の雑魚、すぐに葬り去れんで、どうする」
「十二真獣でも!無理なものは無理だったの!!」
言い合う友喜とミスティルを横目に、サリアと司は思案に暮れる。
「わたくしが留守にしている間に、博士が襲われていたのですか……では、急ぎませんと!」
「でも、さらわれたとして、一体どこに拉致されたというんだ?やはり蓬莱都市か」
司の呟きに、友喜と言い合っていたはずのミスティルが、すぐさま同意した。
「そう考えるのが一番妥当だろう。襲ってきたのはパーフェクト・ピースの手先だ。とすれば、奇襲に乗じて博士を拉致したのもパーフェクト・ピースで間違いあるまい」
「だが、憶測による断言は禁物だ」
司は、あくまでも慎重であった。
「大広間から研究室まで、何か手がかりがないか捜してみよう」

葵野や坂井が待機しているはずの大広間にいたのは、部屋の隅で気絶したオウムただ一人。
ミスティルの一喝で目を覚ましたオウムは、けたたましいマシンガントークで白状した。
「ごめんなさい、ごめんなさい!頑張ったんだけど勝てなくて、みすみす博士を奪われちゃいました!あぁ〜んっ」
「もういい、謝るのは後にしろ。それよりも」
「その時の状況を報告しろとおっしゃるんですね、鬼神サマ!いいですとも、この私が見た博士誘拐事件の犯人、すなわちMSの姿をはっきり証言いたしましょう!」
そして彼女は軽快に話し始めた。
ウンザリ顔のミスティルや、難しい顔で黙り込む司達の前で。
博士を拉致したのは、熊の姿をした改造MS。
だが改造MSでありながら奴は人の言葉を話し、解することもできた。
「にっくき犯人めは、確かに、こう申しておりました!」
ひときわオウムの声が甲高くなる。
「エジカ博士の名前を確認し、何者かに博士を連れてこいと命令されていると!」
「……で、その何者かというのは、誰なんだ?」
たった一言の質問に、たちまちオウムの威勢は削がれ、彼女はショボーンと項垂れる。
「そ、そこまでは……私、一撃で倒されてしまいましたので、その」
「一撃だと?」
ミスティルに睨まれ、ますますオウムは縮こまる。
てっきりボカーンと殴られるかと思いきや、だがしかし、あっさり鬼神は愛想を尽かした。
「相手が熊では、な……貴様では万に一つの勝ち目もあるまい」
もう興味も失せた、とばかりに離れた場所の椅子へ腰掛ける姿を眺めながら、しばしオウムはポカーンと呆けていたが。
「……もしかして、ときめきフラグ?弱虫な私に鬼神サマの母性本能がクラッときちゃった?」
いきなり立ち直ると、素っ頓狂な言葉と共に明後日の方を向いてハートを飛ばし始めた。
この、とんでもなく斜め上な立ち直り方には、司も呆れて思わず突っ込みをいれる。
「ないない、それはない」
「え〜」と生意気にも頬を膨らませた相手へ、諭すように司が言った。
「君がミスティルに好かれるようになるには、もう少し筋肉をつけないと」
「筋肉かぁ……」
パタパタと両腕の羽根を羽ばたかせて、オウムが宙に浮く。
「私、頑張って筋トレしてみますね!」
矢の如き早さで飛んでいくと、さっそくミスティルの隣へ陣取った。
「……あの子、名前なんていったっけ?」
呆れる司に友喜が答える。
「ミミルだよ。リラルルといいミスティルって、ああいうタイプに好かれやすいよねぇ」
「何かを呼び寄せるフェロモンでもバラまいているのかな?」
軽口でやりあっていると、表のほうが騒がしくなってくる。
「第一陣と二陣が帰ってきたみたいだね。よし、皆に大広間へ集まるよう伝えてきてくれないか」
司に命じられ、友喜の先導により皆が大広間へ集結した。

皆の顔を一通り見渡してから、白き翼は会議の始まりを告げた。
「欠ける者なく首都を防衛できた件については、皆よく頑張ってくれた。だが……こちらの防衛は失敗に終わった。エジカ博士が誘拐されてしまった」
「お爺さまが……!?」
さぁっとアリアの顔は青ざめ、狼狽した様子で司に掴みかかってくる。
「お、お兄様や他の皆様は?まさか全員さらわれてしまったのですか!」
やんわりと彼女の手から逃れると、司は答えた。
「大丈夫、誘拐されてはいません。多少怪我を負ってしまいましたけどね」
敵に乗り込まれた際、研究員及びコーティは怪我を負った。
今は奥の部屋、つまりサリア女王が寝泊まりしていた部屋に寝かされ、治療を受けている最中だった。
「最後に状況を確認した者の報告によると、エジカ博士をさらったのは改造MSだ。そして、そいつに誘拐しろと命じた黒幕がいる。恐らくはパーフェクト・ピースと予想される」
「恐らくもなにも」と、坂井が口を挟んでくる。
「そいつら以外に誰が博士をさらって得するってんだよ」
「あらぁ、お忘れになりまして?」
美羽が微笑んだ。
「ジ・アスタロトもMSの研究をしておりましてよ。彼らの可能性もありますわねぇ」
「だが」と、該も口を挟む。
「奴らは裏で全部繋がっている。ならば、どれが黒幕でも関係あるまい」
「そうですわねぇ」
該には、あっさり同意した美羽が、司を見やった。
「では、最初の標的はパーフェクト・ピース?」
「あぁ」
司が頷くのを見て、部屋に集まったMS達が思い思いに鬨の声をあげる。
首都防衛で勝利を収め、さらには次の目標が決まったことで、大いに気持ちが高ぶっているようだ。
その様子を、どこか寂しそうに見守っている人物がいた。言うまでもなく、サリア女王である。
平和主義を貫く彼女にとって、戦争は非常に納得のいかない方向へ進みつつある。
しかし今、司に異議を申し立てても無駄だろう。
誘拐も奇襲も、全ては向こうが先に仕掛けてきたのだから。
「そうだ、アリア。博士は誘拐される寸前まで誰かと通信をしていたようなんだ」
司が通信機の前まで歩いていき、録音されていた音声データを再生する。
雑音の混じる中、エジカ博士の声が聞こえてきた。
同時に聞き覚えのない青年の声、それも自ら『猿の印』を名乗る声に一同はどよめき立つ。
「……これは一体?」
全てを聞き終えた後、困惑でアリアが呟くのを横目に、葵野も頭をフル回転させる。
「猿の印……を名乗る人……が蓬莱都市にいるってこと?」
「聞いたまんまじゃねぇか」
すぐさま坂井の突っ込みが入り、ポカンと頭を殴られた葵野は涙目になる。
「も、もぉ、すぐ殴らないでよ、坂井〜」
「冗談はさておき」
ブー垂れる相棒を無視して、坂井が司を促した。
「猿の印が蓬莱都市にいるってんなら、俺達も行かなきゃならねぇだろうぜ。違うか?司」
「あぁ。もしパーフェクト・ピースが拉致したのであれば、博士もそこにいるはずだ」
頷く司を見て、美羽が立ち上がった。
「では、出発の用意を始めなくてはいけませんわねぇ」
「用意?」と首を傾げる面々へ、判りやすく説明してやる。
「このまま何も考えずに突っ込んでしまったら、無用な争いが起きてしまいますわぁ。人質をとられている場合、できるだけ無駄な争いをさけるのは、兵法の基礎でしてよ」
「あぁ」と相づちをうったのは、新顔のドミア。
友喜と共に第三陣として、奇襲を待ち構えていた面子の一人だ。あの時は豹に変身していた。
「変装なり女装をして潜り込むってわけね」
「いや、女装はしなくてもいい」
律儀に突っ込む該を横目に、美羽がほくそ笑む。
「それも面白いですわねぇ。該を女装させて見張り兵を誘惑させてみましょうかしらぁ」
「み、美羽……ッ!?」
精一杯顔を引きつらせてイヤイヤする該、それを楽しげに眺めるSな女性群。
――といった光景を止めるでもなく、司は一足先に自室へ戻っていく。
「皆も、すぐに用意をしてくれ。疲れているとは思うが、戦いが一区切りつくまでの辛抱だ」
その司をミスティルが引き留めた。
「ところで、アレはどうするんだ?」
「アレ?」
司のみならず、皆も首を傾げる。構わずミスティルは話を進めた。
「ネオドールだ」
「ネオドール?なんだそりゃ、トレイダーの好きそうな名前だな」
坂井も首を傾げ、話に混ざってくる。
そういえば、皆にはまだ話していなかった。と気づき、司は何かを言おうとしたのだが。
「アレはミスティルの好きにしちゃえばいいと思うよ。ミスティルは、ああいうのが好みのタイプなんでしょ?」
横から友喜が割り込んできて、了解を得たとばかりにミスティルの口元には笑みが浮かんだ。
ネオドールは気絶したところを何重にも縄で縛って、空き家に放り込んである。
縄をちぎって逃げ出すのではという危惧もあったが、サリアの見ている前で処刑なんて出来なかった。
「では、好きにさせてもらおう」
凄みを帯びた笑みに脅えたか、サリアが震える声で注意する。
「殺しては、なりませんよ」
彼女を一瞥し、ミスティルは鼻で笑い飛ばす。
「誰が殺すか。あれだけの筋肉を持つ者は、そうそうおらん」
さっさと部屋を出て行った。
「……なーんだ、ありゃ。姫さん、ネオドールって」
ミスティルに聞くのは無理、と諦めた坂井はサリアに狙いを絞ったのだが、今度も友喜に邪魔される。
「早く用意しなくていいの?司はもう部屋に戻っちゃったよ。女王様もついていきたいなら、質素な服に着替えないとね。その格好じゃ目立ってしょうがないでしょ」
いかにも女王たるドレスを指摘され、顔を赤らめたサリアは友喜から視線を外す。
「わ、判っております。失礼いたしますわ」
急ぎ足で出ていくサリアを目で追いかけながら、坂井も葵野を手招きする。
「おい、俺達も行こうぜ。モタモタ用意してたら置いてかれっちまうかもしれねぇ」
そんなまさかと葵野は思ったのだが、モタモタしていたら司ではなく坂井に置いていかれそうだ。
なので素直に頷き、出ていき際、友喜を振り返った。
「あとで必ず教えてね」
無言で頷き返す友喜に満足したか、早足で出ていった坂井の後を追って葵野も出ていく。
三人の背中を見送り小さく溜息をついた友喜に、背後からボソッと話しかけてきた者がいた。
「……どうして暈かした?ネオドールというのは、名前から考えるにトレイダーの新型MSではないのか。彼らは、トレイダーと浅からぬ因縁がある。二人には知る権利があると思うが」
「ひゃあ!」と驚いた友喜が振り返ってみれば、女性群に虐められていたはずの該が立っていた。
周りを見渡してみると、すでに皆いなくなっている。
該を冷やかしていた連中も、出発の準備に取りかかったのだろう。
大広間に残っているのは今や友喜をのぞけば、該と美羽の二人しかいなかった。
「オバカさんですわねぇ、該。浅からぬ因縁があるからこそ、あえて神龍は教えなかったのですわぁ」
美羽が友喜の言いたかったことを全部言ってくれた。
「トレイダーの名前を聞かされてしまえば、坂井達吉は動揺してしまいますわぁ。葵野力也にしても、それは同じ事。余計な話を聞かせず出発させた方が、戦力になりましてよ」
そういうものなのかと該に尋ねられ、友喜は頷いた。
「力也はともかく、達吉は大切な戦力だからね。今、彼に単独行動を起こされるのは、誰にとっても良くない結果しか招かないよ」
首都防衛でも坂井は役に立っていた。
始めから一緒に連れてくれば良かったと思うほど、彼は奮戦してくれた。
途中からの参戦だというのに片っ端から連中の鎧を引っぺがし、次々トドメを刺していった。
傍らで見ていた美羽が「アナタも本気を出せば、あの程度は出来るはずですわぁ」と呟いたのも思い出す。
とんでもない。
自分には坂井や美羽、ミスティルのような戦い方なんて出来るものではない。
気持ち的に見ても、該はサリアや葵野と近い位置にいる。誰かを殺すのは、まっぴら御免だ。
坂井は美羽やミスティルと似ている。戦い方もだが、考え方もだ。
常に勝ち気で行動力に溢れ、一度こうと決めたら頑として言うことを聞かない。
即戦力で使える反面、時として感情にまかせて暴走する為、仲間を危機に陥らせる。
ネオドールの存在を坂井に教えなかった友喜の判断は、きっと正しいのだ。
ミスティルが嬉々として出ていった事も考えるに、ネオドールとやらは筋骨隆々としたMSに違いない。
友喜の目論見では、彼は必ずネオドールを配下として手なづけるのであろう。
……もしかしたら恋人、になってしまうかもしれないが。
「で、該も用意したら?女装するんでしょ、綺麗になってね」
いきなり現実に引き戻され、しかもとんでもない内容に、該は思わず咽せ込んだ。
「じょっ、女装など、し、しないっ」
「ユキ、アナタも見たいんですの?該の女装姿を」
すかさず美羽が悪乗りし、友喜も、あろうことか話に乗ってきた。
「うん。該なら綺麗になれるって、あたし絶対信じてる」
「信じなくて結構だ……!」
半分涙目で拒否る該は、美羽にズルズルと引っ張られて連れ去られる。
やっと最後の一人になったのを確認してから、友喜も大広間を後にした。


これだけの大所帯では即出発といかず、出発するのは明日の朝に決まった。
誰が行き、誰が残るかという作戦も立てなくてはならない。
全ての人選は実質上のリーダーである白き翼に任せ、疲れ切った面々は一時の休息に甘んじた。
「よぉ、ちょっといいか?じゃまするぜ」
空き家で休むD・レクシィの元に現われたのは新顔の狼。名前はギル、だったか?
「隣の部屋で、ずっとオゥッオゥッてな鳴き声だか呻き声が聞こえててよ、寝らんねーんだ」
ギルに割り当てられた空き家には、確かミスティルの個室もあったはずだ。
ネオドールとやらを連れ込んで、今頃はお楽しみ中なのだろう。
ネオドールの名を聞いた瞬間、レクシィには判ってしまった。
トレイダーは未だ、新型MSの開発に夢中なのだと。
「どうして……ココに、来たの?アリアの部屋に行けば、優しくしてくれる……」
ぽつぽつ尋ねると、ギルは顔を真っ赤にして叫び返してきた。
「ばっ、バカヤロウ!こんな夜中に、女の部屋になんか行けるかッ!」
とはいうが、レクシィだって一応女の子なのである。
皆と一緒にいるのが苦痛なので、一人だけ別の棟を選んだ。
いや――苦痛というのは少し違う。女子特有の賑やかさに、ついていけないだけだ。
アリアは静かな少女だが、彼女の部屋にはタンタンもいる。
新顔のロゼッタやミミルも一緒で、あのやかましさに包まれたらと考えるだけで、頭痛と吐き気に襲われた。
「なぁ、お前は新型MSってやつなんだろ?」
いきなりの質問、それもぶしつけな質問に、ピクリとレクシィの体が震える。
「あ、悪い。死神から聞いたんだ。お前のこと」
ギルは気づいているのか、いないのか、一応謝ってから話を続けた。
「トレイダーの作った新しい十二真獣だって聞いたんだけどよ、つまりは改造MSって事だろ?どうして俺達と同じように人の言葉を話したり感情を持ったりできるんだ?他の改造とは違うのか?」
誰もが質問を躊躇った禁忌を平然と突っ込んでくる新顔に、レクシィは若干戸惑いを覚える。
しかし率直すぎる彼へ逆に興味がわいたのか、案外素直に答えた。
「違う。初期ドールと改造MSは、根本的なコンセプトから……違うの」
「コンセプト?」
「トレイダーは……十二真獣を越える新しい十二真獣が作りたかった。だから、レクシィ達を造った」
最初に生み出されたのは、Sドール。
そしてAドールと造られ、Dドール――レクシィが生まれた。
人の姿で造られながら、人とは違う姿にも変身でき、人の姿のままでMSの能力を使いこなせる生物。
それがレクシィ達ドールシリーズと、通常改造MSとの大きな違いだ。
そもそも改造MSがMSを改造した生物であるのに対し、ドールは無から生み出される存在である。
改造で思考を失わせられ、人の心が欠如してしまった改造MSと同列に並べるほうが、おかしいというもの。
ミミルの見た熊MSは言葉を話していたそうだから、奴は改造ではない。
「じゃあ、お前は自分が強いと思ってんのかよ。白き翼や、死神、鬼神よりも強いってのか?」
ギルの問いに、レクシィは首を傾げる。
「……判らない。ちゃんと戦っていないから」
「戦ってどうするんだよ。今は仲間だろ?」
適切な突っ込みに思わずレクシィの顔も、ほんの僅かばかり綻ぶ。
それを見て、ギルは驚いたようだった。
「うぉ!お前、笑うことできるんじゃん!」
いつも自分が笑わないことを知っているので、レクシィは何も言い返さなかった。
代わりにギルへ尋ね返す。
「ギルは……自信があるから、美羽の誘いに乗ったの?」
「そうだ」
自信たっぷりに頷く彼へ、こうも尋ねた。
「新型と戦っても……勝つ自信、」
「あるに決まってんだろ」
勝つ自信も何も、首都で新型と戦ってきたのだ。
一対一の戦いではないにしろ、撃退した事実がギルの中に更なる自信を根付かせたのだろう。
「お前はないのかよ?造られたにせよ、十二真獣なんだろ?一応」
逆に問いただされ、レクシィは俯いた。
「……あるっていえば……嘘になる、かも」
「おいおい、情けねーなぁ!しっかりしてくれよ、十二真獣っ」
バシバシ激しく背中を叩かれても、レクシィには自信が全くわいてこなかった。
普通の改造MSよりも強い位置にいるはずの彼女が恐怖するものとは、新しい改造MSの存在なんかではなくトレイダーとの再会だった。
トレイダーはD・レクシィの創造主であり、絶対の存在である。
彼に直接対面した時、自分は上手く戦えるだろうか?
優しい言葉をかけられても、耳を貸さずにいられるだろうか――?
「まっ、ビビッちまった時は、いつでも俺を呼べよ?お前の代わりに戦ってやるから!」
新顔に慰められ、レクシィは眠れぬ夜を過ごしたのであった……

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