DOUBLE DRAGON LEGEND

第三十八話 三者会談


東大陸、その中央には中央王国と呼ばれる大国がある。
西と異なり、東に国は一つしかない。中央国が東の民全てを統治している。
その東大陸に最近現われた組織、パーフェクト・ピース。
東の王妃も彼らの実態を把握しているとは言い難い。
よって探りを入れる意味でも、西の女王を呼び寄せて会談を急いだのであった。

「うぅぅ……お腹痛くなってきた……ねぇ司、俺は休んじゃ」
「駄目です」
駄目かなぁ?と聞き終える前にピシャリと司に怒られて、葵野は下を向く。
「中央国の第一王位継承者である貴方が、会談の場に出なくてどうするんですか。この会談は平和主義者だけの話し合いではありません。西と東、そしてパーフェクト・ピース。この三者の話し合いでもあるんですよ?」
力也をつれてこいと東の王妃に直接頼まれたわけではない。
しかし仲間が中央国に匿われている以上、挨拶の一つぐらいは入れるのが礼儀だろう。
それに跡継ぎが政治に身を置かずフラフラしていたんじゃ、王妃も気苦労が絶えないに違いない。
一度は故郷に顔を出して、きちんと断っておく必要がある。
第二次MS戦争へ葵野が荷担する件を、王妃に認めてもらわねばならない。
たった一人の跡継ぎだから、王妃の猛反対は懸念される。
それでも力也が龍の印である以上、彼を抜いた戦いは考えられなかった。
たとえ彼がMSの力を使いこなせていないとしても、龍の印という名称はMSに絶大な効果がある。
戦力を呼び集めるのに手段を選んでいる余裕はない。
それほどの危険な匂いを、司はパーフェクト・ピースから感じ取っていた。
もちろん会談がうまくいくなら、それに越したことはない。
だが、この話し合いは決裂するのではないかという嫌な予感がぬぐえなかった。
「うぅぅ……お腹減ったんだけど、日だまり亭でお昼に」
歩みが重たい葵野の腕をとり、サリアがグイグイと引っ張っていく。
「何を言っているんですか、王子様。宿を取る前に帰郷をご報告にあがりましょう」
しかし、それにしても。
有希が死んだ今、王妃が唯一残された彼の肉親だろうに、どうして葵野は嫌がっているのか?
彼が王宮に帰りたくない理由は、ただ一つ。婆様の小言を聞きたくないからである。
坂井に誘われるようにして、婆様にも理由を言わずに国を出た。
もっとも葵野としては、すぐ戻ってくるつもりの軽い旅行気分だったのだが……
名目は『悪人を倒す世直しの旅』だが、最初は雇われの傭兵が精一杯だった。
実際に戻ってきたのは、無断で国を飛び出してから半年も過ぎた頃。
二人は当然怒られた。坂井などは、危うく死刑になるところであった。
従って葵野は、またしても国を飛び出した。勿論、坂井を連れての二人旅だ。
再び戻ってきたのは三ヶ月後。西での傭兵募集が底をつき、東で仕事を探そうとした。
その時に該やタンタンと出会い、B.O.Sの戦いを経て、今に至る。
こうやって思い返してみると、ほとんどの季節を留守にしている事に気づく。
王子ともあろうものがこれでは、婆様も怒り頂点に達していよう。
そう考えると、会いたくない。仮病の一つも使いたくなる。
子供のように渋る葵野を、サリアと司は両脇から押さえ込む形で引きずっていったのであった。

王座の間まで連れてこられては、さすがの葵野も観念するしかない。
「遠路はるばる、ようお越しなさった。西の女王サリア殿よ」
眉間に皺を寄せた婆様こと東の女帝、葵野美沙に出迎えられた。
サリア女王も会釈し、挨拶を返す。
「ご機嫌麗しゅう、東の女王ミサ様。ご無沙汰しておりました」
「なんの、ご機嫌など宜しいものかぇ。ここんところ、儂はずっと不愉快でな」
婆様の眉間に新たな縦皺が沸き、てっきり自分が原因と思いこんだ葵野は身を竦ませる。
だが東の女帝の機嫌を悪くしているものは、力也不在だけが原因ではなかった。
「なんと言うたかの、パーフェクト・ピースと申す輩が我が国に入り込んでおる。おかげで住民達は不安で夜も眠れぬ日々を過ごしておるわ」
とげのある言葉に、サリアが首を傾げる。
「不安……ですか?しかし彼らは平和主義を唱えていると噂に聞いておりますが」
婆様は吐き捨てるように答えた。
「うわべはな。奴らの真の目的、それはMSの永久追放じゃ。こともあろうに龍の国でMS追放を唱えるなど、あってはならぬこと」
「では、追い出してみては如何です?」と提案したのは司だが、婆様は首を真横に振った。
「じゃが一部の者達が奴らの言葉に心を動かされているのも、また事実。判るか、白き翼よ……我が国は今、揺れておる。何百年も続いたMS信仰が、たった一組織の動き如きで崩されようとしておる。そのような時に権力を以て移住民を追い出すのは、得策とは言えぬ」
多くの人々がMSをバケモノ、或いは使い勝手の良い道具と見る中で、中央国だけは違っていた。
古き時代よりMSを神と崇め、国の象徴として奉った。
その良い例が龍の印、有希である。
葵野家の養女として迎え入れられ、長く中央国のシンボルとなった。
「全ての国民がパーフェクト・ピース側に寝返る可能性もあると?」
司の言葉に婆様は重々しく頷き、先ほどからやけに大人しい力也を一瞥する。
「有希が失われて以来、民のMS信仰は薄れ始めておる……そして龍の力がない今、国民の反乱を止められる者も王家におらぬ。お主らの行う会談が、我が国の未来をも握っておるというわけじゃ」
それで東の国を会談の場所に選んだというのか。いつでも監視の目を向けられるように。
「わたくし達は、もとよりパーフェクト・ピースと争いに来たのではありません。お互いを理解し、共に手を取り戦争をなくす方法を考える為に来たのです」
毅然とするサリア女王を眩しげに見やり、美沙女帝が溜息をつく。
「向こうも言葉を選べば、そう申しておるも同然じゃが……サリア殿、お主も平和主義者であったな。では一つ尋ねるが、力とは何だと考えておる」
やはり毅然とした態度を崩さぬまま、サリアは美沙を真っ向から捉え、答えた。
「一口に言っても色々ございますが、一番使ってはいけない力は暴力だと思います。暴力は無力な者を強制的に抗わせる悪しきものでしょう。MSもまた、力の使い方を誤れば暴力の一つになると、わたくしは考えております。力で誰かを排除するなど、もっての他です。わたくし達には、言葉があります。考える脳もあります。話し合えば、人は必ずわかり合えるものだと信じております」
再び小さく溜息をつき、頭を振る婆様を見て、葵野はそっと考える。
この時点で俺達の意見は二分化されているじゃないか。
婆様及び東の民の考える『力』とは、絶対的な物である。
善も悪もなく、絶対的な力は万人を魅了する。権力、或いはカリスマと置き換えてもいい。
有希には『力』があった。だからMS信仰などという思考が生まれ、中央国に根付いた。
ともあれ話し合いを進める側の意見が合わなくなっているのに、このうえ会談なんてうまくいくのだろうか。
考えていると、司と目があった。
司も婆様同様、眉尻下がりの悩ましい表情を浮かべていた。
それを見た瞬間、葵野の脳裏に閃くものがあった。
この会談は必ず失敗する。
相手は世界を平和にするためなら、どんな手段も厭わないパーフェクト・ピースの連中だ。
暴力的手段を頑なに否定するサリア女王とは、話が合わないに違いない。
なにしろ龍の力さえ手元にあればパーフェクト・ピースの追放に動こうとしていた東の女帝を、真っ向から切り捨てたぐらいだもの……

「パーフェクト・ピースの代表が、お越しになりました」
兵士が到着を伝え、サリアと司、それから東の女帝に伴われて葵野力也も会談の場へと移動する。
向こうの代表、クレイドルには司が一度会っている。
狂信的な目で平和という名のMS抹殺を熱く語る、危険な男であった。
クレイドルの考えは、ある意味、東の女帝と似ているかもしれない。
すなわち力こそが全て、力こそが正義である、という思考だ。
三者が各席につき、力也も婆様の隣へ腰掛ける。話題を切り出したのはクレイドル代表だ。
「このたびは会談という場を設けていただき、まことに感謝しております。東の女王様」
芝居がかった会釈をし、美沙女王と向かい合う。女帝が横柄に応えた。
「礼には及ばぬ。こたびの会談、西の女王の強い要望によって開催されたものでな」
「では、サリア女王。我々に発言の場を与えてくださったこと、感謝いたします」
クレイドルはサリアにも恭しく会釈をし、彼女の顔をじっと見つめた。
けして友好な視線ではない。挑戦的、見ようによっては威圧的とも受け取れる目線だ。
強い視線に怯むことなくサリアも彼を見つめ返し、悠然と言い返す。
「いいえ。あなた方の唱える平和主義には、わたくしも興味がありました。本日は、あなた方の考える平和について色々とお話を聞かせて頂きたいと思っております」
「宜しいでしょう。では両大陸の女王陛下。我々の思想を、とくとお聞きになって下さい」
クレイドルが立ち上がる。
仰々しいとも思える身振り手振りで、話し始めた。
「まず、第一に。平和とは、なんであるか?人間が生命の死に脅かされることなく暮らしていける世界。それが平和です」
そんなのは彼に説明されずとも、ここにいる誰もが判っている。
「だが、この世界には大昔より平和を乱す生物が存在しています。未開拓の地に潜む、凶暴な原生生物。そして街の中にも、それに近い種族がいる。そう!人でありながら人ではない、人を超える力を持つ輩がッ」
バンッ!と勢いよく壁を叩いたクレイドルに、すかさずサリアが横から口を挟む。
「それはMSを指しているのですか?」
「その通りです」
クレイドルは頷き、意味ありげに司を見た。
司は反論するでもなく、無言で彼を睨み返しただけだ。
「昔の科学者は彼らを奇病と判断し、隔離することで伝染を防ぎました。しかし後世になって、彼らの判断は間違いであることが判明しております。MSは、奇病などではなかった!彼らの力は親から子へ受け継がれ、或いは何代も後になって遺伝する能力だったのです」
再びサリアが横やりを入れる。
「エジカ・ローランド博士の研究論文では、確かにそのような発表がなされておりましたね。ですが、それは一部のMSだけとも書かれておりませんでしたか?全てのMSを、そうだと断言するのは危険な思考であると、わたくしは思います」
するとクレイドルは女王の御前だというのに、チッチッチッと指を振り否定する。
「たとえ遺伝するのが一部だったとしても、MSが危険なことに代わりありませんよ女王。強すぎる力は、他人を滅ぼします。女王も学舎で過去の大戦を学んでおりましょう」
えぇ、と頷きサリアは司のほうを見もせずに答える。
「あの戦いで、多くの人々が亡くなったそうですね」
クレイドルは満足げに頷き、朗々と続けた。
「前大戦が終結した後に、あなたのサンクリストシュアが建国されたのです。同じ過ちを繰り返してはならぬ、真の平和を求める国として」
ですが、と一つ咳払いして、クレイドルの声が鋭くなる。
「前大戦の最中に、人類は過ちを犯してしまいました。それは兵器の開発です。これにより、我々の先祖は自ら平和を手放してしまいました。我々が平和な世界を掴むには兵器開発の永久廃止。そしてMSを何とかせねばなりますまい」
サリアが頷く。
「同感です。我がサンクリストシュアの唱える平和主義も、兵器の危険性を訴えております。兵器など、この世界にあってはならぬものだと。兵器さえなくせば、人々は幸せになれましょう」
力強く断言する彼女に、クレイドルは大きく溜息をついた。
「だが一度手に入れた力を、手放そうとする人間が少ないのも現実です。人は強い力に憧れる……憧れが象徴となり、MSを崇める国も出てくるぐらいですからな」
女帝がジロリと睨んできたので「失礼」と形程度に謝ってから、クレイドルは司を見た。
「MS代表としてご参加の、白き翼殿にお尋ねします。人類が平和になるには兵器撲滅の他に何をすればよいと、お考えになりますか?」
彼の導き出そうとしている答えは決まっている。
MSを街から追放すればいい、という考え方だ。
追放は乱暴だというなら、MSの能力を押さえ込む。それでもいい。
しかし、それを司が認めてしまっては、MSの生きる場所が失われる。
総葦司こそが、前大戦と呼ばれるMS戦争の首謀者だ。
MSではない人間から同種族扱いされたい。MSとして生まれてしまった者の悲願だった。
住み慣れた街を離れ、養子縁組された家族とも別れて。
大儀のために小事を切り捨てる――それが原因で、有希を手元から失った。
悪しき研究で人類とMSの生活を脅かしていたストーンバイナワークの施設を壊滅させ、戦争は終結した。
現在のMSが傭兵としての地位を得たのは、司達が反乱を起こしたおかげといえよう。
それでも、MSが人間として扱われているかというと疑問を感じる。
クレイドルのようにMSの能力を『すぎた暴力』と捉えているのが、一般の見方だ。
MSは使い勝手の良い道具。それが世間の出した模範的回答だ。
自ら能力を封じたMSなど、傭兵としての価値もなくなるだろう。
ややあってから司は短く答えた。
「人が互いに他人を差別しなければ、よいのではないでしょうか」
「無難なお答えですな」
クレイドルが苦笑し、さらに司を追い詰める。
「それを世間に広めるには、どうすれば宜しいでしょうか?具体的な策をご披露願いたい」
仏頂面で司は答えた。
「地道に伝える他は、ないでしょう。革命は一日で成せませんから」
「はたして達成には何年、いや何百年かかるのでしょうな!人類が生きているうちに成せねば、策を労する意味もありません」
芝居がかった口調と身振り手振りでクレイドルは叫び、サリアと美沙を交互に見やる。
「我々は、もっと思い切った行動に出るべきです。かつての白き翼殿が、MSの将来を考え、戦争という思い切った手段に出たように!」
「あなたは、戦争を起こしたいのですか?」と尋ねたサリア女王の眉間に細かい皺が寄る。
クレイドルは首を振り、別の回答を出した。
「違います、西の女王。私達が望むのは強すぎる力を持つ、人を超えた種……MS、彼らの能力を封じ込めて人としての生活を歩んでもらいたい。ただ、それだけです」
「ですが……」
ちら、と司を一瞥してサリアが悩ましげに受け答える。
「現在、MS達に与えられた役目は傭兵が大半です。彼らの能力を封じるのであれば、まずは彼らの身の振り方を徹底して変えてあげなくては」
今まで黙っていた女帝も口を開いた。
「それに、未開の奥地におる凶暴な原生生物。あれの問題もあろう」
未開の奥地とはいえ住んでいる人間がいる以上、原生生物を野放しにしておくわけにはいかない。
現状では住民が武器を持って戦うか、MSの傭兵を雇うことで何とか撃退している。
武器とMS。どちらを失っても、奥地の人間には厳しい結果となろう。
「一国の政治で、どうにかなるものではないぞ。お主らは、その辺をどう捉えておる?」
女帝の問いに、クレイドルは待っていましたとばかりに両手を広げて意見を述べる。
「共同作戦を取れば宜しいのです。まずは奥地の原生生物を一掃するべく、全てのMSを奥地へ向かわせましょうぞ」
「全ての?」
葵野がキョトンとし、サリアも聞き返す。
「この世に生きるMSを、全て奥地へ強制連行しろというのですか?」
クレイドルは頷いた。
「その通りです。強制というと少々言葉は悪いですが……しかし社会のために役立てるのです。嫌だと申すMSなど、おりますまい。彼らは己の持つ能力に、絶大な自信と誇りを持っておいでですからな!」
なるほど、これが彼らの企む『追放』方法だったのか。
以前会った時は、てっきり暴力でMSを排除するのかと訝しんだが、そうではなかった。
原生生物を退治するために、MSを街から未開の地へと移動させる。
これなら人類を守る平和主義の口実は通るし、MSではない人間を納得させるにも充分である。
一度追い出してしまえば、後はどうとでもなる。
あそこにまだいる、向こうにもと、あちこち指示を出して、永久に街へは戻らせないつもりだろう。
サリアと美沙、両女王の様子を司は伺った。
女帝は渋い表情でクレイドルを睨んでいたが、サリアときたら納得しかかっているではないか。
サリアがクレイドルに言いくるめられてしまっては、MSの未来は暗黒だ。司の予定にも支障が出る。
うまい切り返しを司が考えていると、意外な方向から手が挙がった。
「待って下さい」
「何じゃ、力也」
おずおずと手を挙げたのは、なんと葵野で。
クレイドル、それからサリアの顔を順に見て、彼は言った。
「皆さん、原生生物を倒すという方向で話が進んでいるみたいだけど……共存するという案は、ないんですか?」
「共存?」
クレイドルの眉毛は跳ね上がり、次の瞬間には失笑する。
「これは中央国の王子ともあろう御方が、面白いことをおっしゃいますな!意志の通じない下等生物、人間を襲う凶悪なバケモノと共存しろ、などとは」
圧倒的に追い詰められつつも、葵野は食い下がる。
「でも……皆さんは平和主義なんですよね?暴力を振るうのは野蛮だっていう。だったら、生物相手に暴力を振るうのもアウトなんじゃないかなぁ。それとも相手が人間じゃなければ、殺してもいいんですか?」
葵野の言葉にサリアがハッとなり、恥ずかしげに下を向く。
クレイドルはというと、彼は全く動じず、そればかりか力也を見下す視線で見据えてきた。
「相手は野生の獣ですよ?人間の生活を脅かす悪しきケダモノです。奥地の人間は、今までも奴らを殺すことで生活してきた。今更、何を遠慮する必要があるのです」
「遠慮とか、そういうんじゃなくて……」
もどかしげに力也は呟き、サリアへ救いの目を向けた。
「どんな生き物だって命は命、ですよ。有希ねぇが昔、俺に言ってました。もし人間だけが平和になれる世界を作ったとしても、人は幸せになれないんだって」
「それで出した答えが共存ですか?ハッ、馬鹿馬鹿しい」
クレイドルは鼻で一笑したが、不意に顔をあげたサリアが彼をキッと睨みつけた。
「いいえ、力也王子の言い分は間違っておりません。迂闊ながら、わたくしは忘れておりましたが……生前、わたくしの父上もおっしゃっておりました。他生物との共存なくして、人類に未来はないと。ですが他の生物との共存の前に、わたくし達には課せられた問題がございます」
司を見て僅かながらに微笑み、彼女は続けた。
「MSも人間です。使い勝手の良い道具では、ありません。社会に貢献できるという口実で彼らを未開の奥地へ隔離するなど、やってはいけない行為です。わたくし達は他の生物と共存するために、一つになるべきです。MSだ、そうではない人間だと、同じ種族同士で差別し、争っている場合ではないのです」
立ち直った彼女を見、次いで力也を一瞥したクレイドルが小さく舌打ちするのを司は目撃した。
せっかくサリアを言いくるめられそうだったのに、力也に邪魔されたのでムカついたのだろう。
感情を表に出すようでは代表といっても大したことがないなと司は思ったのだが、表向きは冷静に女帝へ結論を求めた。
「――では美沙女王。会談の決議をお願いします」
「うむ」
大仰に頷いた女帝が、全員の顔を見渡す。
「我らが求める平和主義はMS及び原生生物との共存。それで間違いはないか?お二人方」
サリアが頷いた。
「間違いございません」
クレイドルは黙って立っていたが、いきなり声を荒げる。
「理想論だ!MSと共存?原生生物を手なずける!?ハッ、夢物語もいいところ、まるっきりの茶番だ!つきあっていられんなッ」
いきなりの暴言に目を丸くするサリアや女帝を軽蔑しきった表情で見下しながら、彼は告げた。
「どうやら会談は決裂したようですな。我々の求める平和と、あなた方の求める平和は、まるっきり別物だったようだ」
「それはMSに対する宣戦布告と取って良いのじゃな?」
女帝の問いに、そうだとも違うとも答えず、クレイドルは部屋を出て行き、しばらく経ってから、呆れた様子でサリアが呟いた。
「あれが代表……組織を代表する者が、あのような振る舞いをなさるのですか」
女帝も苦々しい表情で、クレイドルの去った扉を睨みつける。
「信じられんが、あれが答えというわけじゃ」
一人、満足した様子で座っているのは司だ。
クレイドルは感情の起伏が激しかった。
上手く誘導してやれば、彼の本音をサリアの前で暴けるかもしれない。
どうにかして導火線に火をつけてやろうと狙っていたのだが、まさかそれを力也がやってくれるとは。
「パーフェクトピースの偽りの仮面を、上手く剥いで下さいましたね。さすがは中央国の王子です」
司の褒め言葉に不快も幾分和らいだか、眉間の皺が減った女帝は上機嫌で応えた。
「そうよ、力也は自慢の孫じゃからの。さて、長旅の上に長会談でお疲れになっただろう。サリア女王、そして白き翼殿。今宵は我が宮殿に泊まってゆかれるがよい」

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