DOUBLE DRAGON LEGEND

第三十一話 龍、東へ帰る


帰郷した葵野と坂井を待っていたのは、普段と変わらぬ中央国の様子であった。
戦いなど無かったかのように街は平穏に包まれている。
不思議に思いながらも二人は馴染みの店、ひだまり子猫亭へと足を運ぶ。
「やーッ、リッキー久しぶり!ね、ランチ食べていくよね?今なら大サービスご奉仕価格で、リッキーだけ無料にしちゃうから!!」
入るなり律子の大歓迎を受けて、やや退き気味になりながら葵野は尋ねた。
「ランチもいいんだけど……最近、こっちで変わったこと、なかったかな?」
「変わったこと?」
キョトンとする律子。
何かを思い出そうと腕を組んで懸命に悩んでみせた後、ぽつりと呟いた。
「あー……そういえばぁ」
「何?」
「最近ってわけでもないんだけど変な人達が騒いでいるのを、よく見かけるのよね」
町中でビラを配り、王家はMSの傭兵雇用を禁止せよ、世界の平和を守れと声高に叫んでいるらしい。
律子は『変な人達』をアンチ傭兵のグループではないかと予想した。
「確かに傭兵の雇用がなくなれば、戦争や小競り合いもなくなるけど……」
ちら、と律子が坂井へ流し目をくれてきたので、坂井も頷いてやる。
「……敵は人間だけじゃねぇしな。モンスター相手の雇用についても、反対してやがんのか?」
東も西も奥地へ入れば、MSではない本物の怪物が潜んでいる。
そういった輩を一掃するのも、傭兵の仕事といえた。
「全てよ、全て。あいつらはMS全てを排除しようとしているの」
肩をすくめる律子へ、葵野が聞き返す。
「排除?つまり……俺達を殺すってこと?」
ただ平和を叫ぶだけならいいが、排除とは穏やかならぬ表現である。
「はっきり殺す、とは言わなかったけど……でも、MSは街から出て行け、みたいなことを叫んでいる人もいたわ。酷いよね!同じ人間なのに」と、律子はご立腹。
MSには愛しの葵野や幼なじみの坂井も含まれているから、他人事ではないのだろう。
「同じ人間、ね……」
坂井が首をすくめ、葵野も決まり悪そうに店内を見渡す。
中央国はMSに対し友好的な人間が多いから、これまでは気にしたことがなかった。
だが世界には西の首都のように、真っ向から傭兵制度を批判している国もある。
東にサンクリストシュアや砂漠都市と同じ志を持つ団体が現われたとしても、なんら不思議ではない。
しかし中央国に、そうした思考の輩が混ざっているのかと思うと、あまり気持ちのいいものではなかった。
中央国のシンボルは、今も昔も『神龍』である。神龍、つまりMSが国の守護神として奉られている。
そうした国で声高にMS追放を叫ばれるのは、坂井や葵野でなくとも気分が悪くなろうというものだ。
「相手も、そう思ってくれていればいいんだけど」
葵野の呟きを、敏感にキャッチして律子が叫び返す。
「あたしは同じ人間だと思っているからね!リッキーも、タッチ、あんたもよ!」
「うっせぇ、俺のことをタッチって呼ぶな」
疎ましげに律子に手で追い払う仕草をしてみせた後、坂井は立ち上がる。
「そいつらがたまり場にしている店、判るか?」
彼の問いに律子は眉をひそめ、続けて時計を見上げた。
「店?店は知らないけど……よく広場で見かけるわ。昼過ぎぐらいにベンチの近くで」
「昼過ぎの広場か……」
もう一度座り直し、坂井は葵野を振り仰ぐ。
「なら、昼が過ぎるまでランチでも食っていくか。お前はいいよな、リッコのおかげでタダランチできて」
なにやら含みのある言葉に葵野は赤面し、律子は大声で喚き立てた。
「何よ〜、羨ましかったら皿洗いぐらい手伝ってよね!そうしたら、あんたもタダにしてあげるッ」

ランチも終わり、さぁいこうという段階になって、葵野が待ったをかける。
「パーフェクト・ピースの処へ行く前に、墓参りしてもいいかな……?」
「墓参り?有希のか」
怪訝に聞き返す坂井へ頷いた。
「うん」
すると坂井は手を振って、「別に行かなくてもいいんじゃねぇか」などと言う。
「どうして行かなくてもいいって思うんだよ?」
言いすがる葵野へぞんざいに手を振り、坂井が答えた。
「墓場の下に眠ってねぇからだよ。有希は、お前の――」
「お前の?」
「――あー、夢に出てくるんだろ?」
明らかに途中で言うべき言葉を変更した、という歯切れの悪さで坂井は続けた。
「有希は、お前の心と一心同体なんだろ。だから墓場でナムナム祈る必要なんざねーよ」
お前の体に取り憑いている、なんて言えるわけがない。
言ったが最後、葵野には馬鹿にされるかキチガイ扱いされるのが、目に見えて判っている。
他の奴はどうであれ彼にだけは馬鹿にされたくない、という思いが坂井にはあった。
「それに、だ。有希の墓は王宮内にあるんだろ?あんなトコに行ったらお前、ババァに捕まって二度と出てこられなくなるぞ」
「そ、そうだね」と、この時ばかりは葵野も素直に頷いた。
そうして有希の墓参りを諦めた二人は、パーフェクト・ピースの真意を謀るべく広場へ向かう。


一方、葵野達の後を追ったシェイミーとゼノは、港町で足止めを食らっていた。
足となる船が一艘も出ていないのでは渡りようもない。
船乗り達に緑髪のやつが東へ渡ったかと尋ねても、こちらも情報収集は芳しくない。
しかし二人が東へ渡るとなれば、港町経由で海を横断するしか方法がないはずなのである。
「坂井本人が口止めした可能性もある」とは、ゼノの意見。
船乗り達が口を揃えて葵野を知らないと言い張るのは、シェイミーもおかしいとは感じていた。
「財団に後を追わせないため?だとしても、リッシュの元で東へ行く相談をしていた以上、敵に勘づかれるのも時間の問題だと思うんだけど」
不平タラタラに口を尖らせるシェイミーへ、ゼノが言う。
「そうだな。しかし妙だと思わないか?」
「何が?」
シェイミーが見上げ、ゼノは周囲に視線を巡らせた。
「あれだけ派手にやり合ったというのに、財団の残党が港を封鎖していない」
港町は閑散としていなければ、殺伐としてもいない。
いつもと同じ、穏やかな田舎風景だ。船乗り達の姿も、あちこちに見える。
この風景こそ港町が財団の残党に襲われていない、という何よりの証拠ではないか。
「残党は真っ直ぐ砂漠へ向かってきた……ってこと?じゃあ」
首を傾げるシェイミー。
「うむ」とゼノが頷き、東の水平線へ目をやった。
「砂漠の一戦は、パーフェクト・ピースが差し向けた一行が相手だったという予想も可能だ」
「予想っていうか」
周囲へ素早く視線を走らせて、シェイミーが構えた。
ゼノも背中の大剣を静かに引き抜きながら、シェイミーを庇う位置に立つ。
「うむ」
木箱の影から、或いは船の死角から、ぞろぞろと出てくる人影がある。
それらは何気ない足取りで、ゆっくりとゼノとシェイミーを包囲するように近づいてきた。
どの顔にも見覚えは、ない。
船乗りの格好をしているが、放ってくる殺気が尋常ではなかった。
一触即発という場面で、双方に向かって声がかけられる。
「あらあら〜、港町で喧嘩騒ぎですの!物騒な世の中になってきたのね!」
やたら甲高い声に振り向けば、目に入ったのは鮮やかな真緑のドレス。
薄くてヒラヒラしたドレスを来た少女が立っている。
桃色の髪の毛には、見覚えがあるような、ないような。
いや、彼女の隣にいる赤毛のマッチョには見覚えがあった。伝説のMS、鬼神ミスティルだ。
後方には白き翼の姿も見える。
「貴様ら、何をやっている?」
質問というよりは威圧がかった問いをミスティルが発した直後、異変は起こった。
なんと剣呑な表情でゼノ達を囲んでいた男達が、さぁっと波引くように退散したのである。
そのうちの一人が、こっそりと呟く。
「何もしてねぇよ」
だがミスティルに睨まれた途端、男は青ざめて、そそくさと立ち去った。
「ありがとう、助かりました」
ぺこんとお辞儀するシェイミーには目もくれず、ミスティルがゼノの腕を取る。
ゼノはキョトンとして、彼を見つめ返した。
「改めて見ても、貴様は良い体をしている」
ニヤッと笑い、ミスティルが妙なことを口走る。
何と返事すればいいのか判らず、ゼノは黙って頷き返した。
彼が何を言いたいのかが判らない。
リラルルだけがミスティルの狙いを、いち早く察知した。
「ダメー!駄目なのね!そこの貴方、逃げてー、逃げてー!」
必死になって叫ばれても、しかしゼノには何が駄目なのやらが、さっぱりだ。
「どうだ、やらないか?」
二度目のニヤリに、司も勘づいた。
「ミスティル!今は、そんなことをやっている場合じゃ――」
言いかける司の弁を遮り、ゼノが尋ね返す。
「やるとは、手合いか?」
「馬鹿を言え」
腕を引っ張られ、抱き寄せられる。
「やるといったら肉体関係に決まっている」
「だ、だめー!」
ダメーの声が合唱になった。リラルルに併せてシェイミーも騒いでいる。
「ゼノはボクのなんだから!ボクだけのゼノなんだから!!」
シェイミーがバシバシとミスティルの背中を叩き、リラルルは彼の首筋に抱きついた。
「ミスティルには、リラルルがいるのねー!他の人に目移りしちゃ嫌なのー!」
お子様達の攻撃なんぞ屁のカッパで、ミスティルは未だゼノに愛の言葉を囁いている。
「貴様はシーザーと似て非なる筋肉の持ち主だ。俺が愛するに相応しい」
たわけた事を言いながら、ゼノの唇に口づけようとする。
ゼノも、ようやくミスティルが何を狙っているのか察したが、ふりほどこうにもふりほどけず。
唇の正面衝突を、あわやという処で阻止したのは、司の奇襲による背後からの一撃であった。
「――さぁ、行くぞ。パーフェクト・ピースが根城としているのは、東の蓬莱都市だそうだ。リラルル、君はシェイミーを頼む。僕がゼノを運んでいこう」
颯爽と仕切る司の足下では、哀れミスティルが股間を押さえて呻いていた……

それぞれが東を目指す中、美羽と該もまた、港町を目指して砂漠を横断していた。
ただし、トラックではない。エジカ博士とは別行動を取った。
団体で行動していては却って目立つという美羽の意見により、少数グループに分かれたのだ。
美羽と該は数人の研究員、及びローランド兄妹を伴い、キャラバンに扮した。
レクシィはエジカ博士のグループに混ざって、別ルートで港町を目指している。
途中でオアシスに寄り、タンタンを拾っていくのだと博士は話していた。
アリア達を乗せた馬車を引いているのは、MS化した該だ。
まさか美羽に引かせるわけにもいかず、かといってアリアにしても同じ事。
美羽がキャラバンの話を持ち出した時から、該は嫌な予感がしてならなかった。
貧乏くじを引くのは自分ではないかと予想していたが、まさしく、その通りになった。
「該、疲れたら言って下さいませね?いつでも休憩を取って差し上げますわぁ」
さすがに悪いと思ったのか、真横を歩く美羽が、いやに優しい言葉をかけてくる。
彼女の白くて細い指が該の背中を撫でまわす。
指は背中からお腹へ回り、股間のほうへも伸びてきた。
平気だ、と答えようとした該は、股間を揉みほぐされて足がもつれる。
「あらぁ。足がもつれるほど、お疲れでしたのねぇ。早くお休みしましょう?」
涼しい顔でとぼける美羽を見上げて、該は切ない声をあげた。
「み……美羽。俺はまだ、疲れていない。だから……」
「だから?」
視線を外し、猪の目は砂漠の砂を見つめる。
「……周辺の気配に集中して欲しい」
「でしたら、アナタも馬車を引くのに集中なさぁい?」
集中できないのは誰のせいだ。
美羽の指は、今もまだ該の股間を弄んでいる。
やわやわと玉袋を揉まれるたびに、痺れた感覚が該の脳裏を突き抜ける。
「あらぁ、こんな処につっかえ棒がありますわぁ。これじゃ歩行にも影響が出るのではなくて?」
美羽の忍び笑いが頭上に降り注ぐ。怒張した股間のものを握られた。
再び該の足はもつれたが、何とか踏ん張って耐えきった。
しかし、美羽には笑われる。
忍び笑いが耳に痛い。該の目には涙がにじんだ。
彼女は何故、こんな時に、こんな仕打ちを?
自分を虐めて楽しむにしても、時と場合を考えて欲しい。
「美羽、やめて……くれ」
該は小さく呟き、いやいやと首を振ってみせる。
だが、美羽の悪戯は止まるところを知らず。
「該、アナタご自分では疲れていないと思っていらっしゃるようですけれどぉ。体のほうは、お疲れのご様子ですわぁ」
上下に扱かれ、突っ張ったものの張りが増す。
息が乱れるのは、炎天下と馬車の重みだけではない。
耳元で美羽が囁く。
「アナタのお尻……疲労で震えていらっしゃいますわよぉ」
ひくつく尻の穴に指を突っ込まれ、今度こそ該はヨタヨタとふらついた挙げ句に転倒した。
急停止の衝撃に馬車の中からコーティが顔を覗かせ、さっそく怒鳴りつける。
「おい!ウマ、じゃなかったイノシシ!自らやると言い出した仕事は最後まで貫徹してもらおうか!」
「兄様!該さんは一人で馬車を引いて下さっているんですよ!?」
妹の止める声、そして兄の言い争う声も聞こえたが、やがて言い合いも終結したのかアリアが顔を出した。
「すみません、該さん。お疲れのようですし、少し休息していきましょう」
違う、と言いかける該の返事は、美羽の愛撫で揉み消される。
一行は、ひとときの休息を取ることにした。

「美羽、なんのつもりだ」
日陰を探して馬車の後ろに回り込む。
人の姿に戻り、一息ついてから該は美羽に尋ねたのだが、有無を言わさず彼女に押し倒された。
「……ん……っ」
口移しに流れてきたのは、冷たい水。
飲みきらぬうちに熱い舌が絡みついてきて、同時に股間も弄られる。
「ふぁ……ッ、み、美羽、やめッ」
彼氏の制止も聞く耳持たず、舌を該の唇から股間に移した美羽は、執拗に該の逸物を舐り続ける。
該もまた「美羽、美羽ぁっ」と彼女の名を呼びながら、砂を握りしめる。
喘ぐ該の脳裏に、しばらく別れて行動していたのだという意識が不意に浮かんできた。
アリア達の手前、寂しいという素振りこそ見せないよう努めてきた。
内心では寂しさを感じなかった事もない。
いや、正直に言うと寂しかった。
彼女と別れて行動するのが、非常に心細く感じられた。
美羽も寂しかったに違いない。だから今、こんな風に甘えてきているのだ。
ぽろりと、該の口から言葉が漏れる。
「美羽……愛している」
すると美羽も顔をあげ、該を見て微笑んだ。彼女らしく、妖艶な笑みで。
「なら、沢山出して頂けるかしらぁ。当分しないで済むぐらいには、スッキリなさいませ」
「しない……?」
これが最後みたいな言い方に、該の瞳は潤んだ。
「当分して、くれないのか?」
泣きそうな顔に、美羽は思わずプッと吹き出す。
声を潜め、視線で馬車を示した。
「アリア達が、しばらく一緒ですわよぉ?東へ渡るまでは、お預けですわぁ」
では、東に渡ってからは解禁というわけか。
安心した該は美羽の愛撫に身を任せ、彼女の口の中へ強かに放ったのであった……


――こうしたわけで。
真っ先に東へ渡ったのは坂井と葵野のコンビだが、蓬莱都市に一番乗りしたのは司達であった。
一行は都市へ直接着陸せず、少し離れた場所にある森の中に降り立った。
人の姿に戻る司へ、同じく人の姿に戻りながらミスティルが尋ねる。
「貴様は何故、パーフェクト・ピースとやらの本拠地を知っていた?」
司は、さらりと答え返す。
「パーフェクト・ピースの連中に、砂漠都市で襲われたからさ」
「砂漠都市で、何があったの?」と尋ねたのは、シェイミーだ。
その問いにも司は答えた。
「僕が到着した時点で、既にあの国は壊滅していた――」

司が到着した時点で既に、砂漠都市はゴーストタウンと化していた。
人を探して話を聞こうにも、誰もいないのでは何もできない。
途方に暮れる司は、周囲を囲む殺気に気づく。
殺気は一つだけではない。無数に取り囲む、この気配には覚えがあった。殺戮MSだ!
だが――実際に司の前へ姿を現したのは、MSであってMSではない存在の者達だった。
この世に存在しない生物の姿をしていた。
合成生物、とでもいうのだろうか。人間と動物が混ざり合った、おぞましい姿のMS。
上半身は人間で、下半身は動物。その逆もいる。
驚いたことに上半身を司る人間は全て、砂漠都市の住民であった。
いや、正確に言うなら、砂漠都市の住民としての意識を持ったまま合成させられている。
彼らの助けて、という呻きが今でも司の耳に、こびりついている。
助けてと呟きながら襲いかかってくる相手を、片っ端から殴り倒して気絶させた。
だが、数にキリがない。多勢に無勢、終いには滅多打ちをくらい、司は砂の上に沈み込む。
薄れゆく意識の中で誰かが、蓬莱都市に戻るぞ、MSを全て消滅させるぞ、と騒ぐのを聞いた。
パーフェクト・ピースの名を聞いたのも、その時だったように思う。

「だから僕は、悪夢の改造をなした張本人がパーフェクト・ピースであると仮定して、ここにやってきた。勿論、いきなり襲いかかるつもりなどない。まずは話を聞くつもりだ」
司の宣言に、フン、とミスティルが鼻で笑う。
「生ぬるいやり方だな。砂漠都市では突然襲われたのだろう?蓬莱で同じ目に遭うことも予想される」
「でも」と、シェイミーが口を挟む。
「もし違ったら、ボク達は殺戮MSと同類になっちゃうよ?」
ゼノも無言で頷き、リラルルは一人くるくると踊っていて、話すら聞いちゃいなかった。
「人と動物の合体したMSなら……」
シェイミーが呟く。
「ねぇ、ゼノ。砂漠で見た覚えがあるよね?」
「何!?」と驚く司へ、ゼノよりも早くミスティルが応える。
「奴らはトレイダーの創作物だった。Zドールと名乗っていたぞ」
ドールの話は初耳だったのか、司は呆然とした表情で黙り込む。
「トレイダーが……?」
小さく呟いたかと思うと、リラルルを呼びつけた。
「リラルル!」
「はーい?」
暢気に近づいてきた彼女へ命じる。
「一足先に偵察してきてくれないか?街の様子を見てきてほしい」
彼女が文句を言う前に、司は付け足した。
「敵の様子を探るのは皆の安全の為だ。延いてはミスティルの為にもなることだよ」
「ミスティルの!?」
途端にリラルルは素っ頓狂な声を張り上げ、頷いた。
「やるのねー!頑張るのね!いってきまーす!!」
バサバサと激しい羽音を残し、一羽の大鷲は空へ飛び立っていった。
その様子を心配そうに眺めていたシェイミーが、ポツリと呟く。
「……彼女一人に任せて、大丈夫なの?」
ゼノもミスティルも、今更ながらに不安が押し寄せてきた。
「さぁ……な」
呟き返すミスティルの横で、司はさわやかな笑顔で応えたものだった。
「大丈夫。彼女はミスティルの愛を勝ち取るためなら、何でもできる勇気のある子だ。途中で忘れさえしなければ、必ず、僕達に情報を持ち帰ってくれるはずだよ」
おかげでシェイミーとゼノが余計不安になったのは、言うまでもない。

←Back Next→
▲Top