CAT
Topへ

怪盗キャットファイター

第九話 逃走、逃走、大逃走

「あ〜〜っ!」
落ちていく人影には、皆も唖然。
だが、しかし。
腐っても、そこはキャットファイターのボスである。
ボヨンと屋根に激突し、弾みでボヨンと地上まで落ちていくとスタッと華麗に着地した。
「ヘッ、この悠平様をナメるんじゃねぇぜ。坊主!」
ビッと中指立てて格好つける悠平なんかにゃ目もくれず、ギリサムは全部下へ指令を飛ばす。
「デブ狸は墜落した。お前らは残りの奴らを追い立てろ。捕まえる必要はねぇ、追い払うだけで充分だ」
たちまち、わらわらと建物からは警官達が飛び出してきて、打った腰を撫でていた悠平も逃走態勢に入った。
「いくら腰を痛めていても、この俺が捕まると思ったら大間違いだッ。ここは、さっさとトンズラさせてもらうぜ、あ〜ばよっ!」
Uターンで走り出す悠平の背中を、眩しいライトが照らし出す。
「いたぞ!あそこだ!!」
その後を、警官も追いかける。
ただし悠平を追いかけていったのは、出てきたうちの半分ほど。
残りは油断なくライトでアチコチを照らし、内一人が何かを見つけて大声で叫ぶ。
「いたぞ、あそこにも一人!」
「げぇっ!」
見つかったのは下半身を露出した男。
キャットファイターの一人、勇次だ。
慌てて身を翻す彼を「待て、待てぇ!」と二、三人の警官が追い立てる。
出入り口付近は最早、近づくことも出来ないぐらいの大騒ぎだ。
「こりゃあ、今日の作戦は失敗……かな?」
ぼそりと呟く龍輔に、樽斗も頷く。
「じゃ、帰ろっか」
「待てよ、飛行船は?ボスを助ける素振りも見せなかったようだが」
闇夜に目を凝らしてみるが、目立つはずの飛行船は何処にもいない。
同じく樽斗も目を凝らし、夜空を見渡した。
「そういや、そうだね。誉ちゃん達、どこを……あっ!」
いた。
ゆるゆると高度を落として着地――
いや、墜落しようとしている寸前であった。
「まさか、狙撃でもされちまったのか?」
心配する龍輔とは裏腹に、樽斗は呆れ顔で肩をすくめる。
「というよりは、中で何かあったと考える方が自然だね」
「何かって、何だよ?」
「そうね、例えば風花が誉ちゃんに襲いかかったとか」
「逆じゃねぇのか?」
龍輔が怪訝に眉を潜めた時、大地を揺るがす大墜落音が、こちらまで聞こえてきた。
「誉ちゃんが風花を襲う理由ないだろ!」
「言ってる場合か、行くぞ!」
警察も、そしてキャットファイター達も急いで現場へ向かう。
飛行船が墜落したのは間違いない。
誉と風花の安否は?
「畜生、あいつらだけでも先に逃げれば良かったんだッ」
ぼやく龍輔の横を、誰かが駆けてくる。
「龍輔、どうしたんだ?血相を変えて」
「どうもこうもあるか――って、えっ!?」
あまりにも驚いたので、龍輔はつい横を振り返る。
声をかけてきたのは、なんと誉本人だった。
そして「龍輔、危ない!」と言われた直後、思いっきり前方の樹木に激突し、目の中には星が飛び交う。
「なぁーにやってんのよ、龍輔!バカねぇ〜」
「うはっ、ドジ。走りながら横向くとか、ありえないよ」
風花と樽斗にバカ笑いされながら、龍輔は回らぬ頭で考える。
何でここに、墜落した飛行船のパイロットが二人ともいるんだ!?