夜な夜な街を荒らす怪盗団、キャットファイター。
今までは、一味の全てが謎だった。
だが、それも今日までだ。
賞金首のポスターを街中に貼り終え、ギリサム警部は、うーんっと背伸びした。
「誉だか揉まれだか知らねぇが……ネオンダクト警察をナメんなよ、クックックッ」
机の上には、見本として刷った一枚のポスターが置かれている。
賞金首の名前は『ホマレ』。
怪盗キャットファイターの一味で、捕まえた者には五千クレシール払うと書いてある。
肖像画は、ギリサム渾身の似顔絵だ。
我ながら惚れ惚れするほど、よく描けたと思う。
「本当に、こんな可愛い子だったんですか?」
配る前、部下が口々に声を揃えて言っていた。
あぁ、本当だ。
ギリサム自身、目を疑ってしまったぐらいだ。
あんな子供が窃盗団に加わっていたなんて。
捕まえたら、お尻ペンペンぐらいは、してやらねぇと。
全く、親の顔が見てみたいもんだ。
ブティックに出かけたはずの風花が息を乱して戻ってきたのは、出かけて数十分後だった。
「――皆、見てッ!これ、街中に貼られていたの!」
手にしているのは、ポスター。
それも何処かから引きちぎってきた、賞金首のポスターだ。
「怪盗キャットファイター……これ、誉ちゃんじゃ!?」
「ホントだ、誉じゃん!可愛い〜っ」
「これ、俺の部屋に貼りたい!」
「なぁ風花、もう一枚盗んできてくんない?俺も欲しい」
口々に騒ぐ仲間を風花が一喝する。
「馬鹿ね、あんた達!肝心なのはポスターの出来じゃなくて、誉ちゃんの顔が警察に割れているって部分でしょーが!!」
そういや、そうだ。
多少フィルターはかかっているものの、似顔絵の完成度は高い。
実際に誉にあった奴じゃないと、ここまでの似顔絵は描けまい。
「俺達を目撃して、顔を覚えているとは……」
龍輔が思案する。
「冷静な相手だな、そいつは」
「普通は下半身に目がいくもんねー」とは、別の仲間の発言で。
いや、下半身に目もいったろうが、顔を覚えているとなると、相当長い時間、誉と向かい合っていた結論になりは、すまいか?
「誉!誉ェ!おい龍輔、誉の野郎を呼んでこい!」
ボスの悠平が騒ぎ出し、龍輔は誉の部屋へ向かった。
「こいつぁ、おめぇの手配書だ」
机に放り出されたポスターを見据え、誉が頷く。
「おめぇ、誰に顔を覚えられた?民間人か、それとも」
悠平の問いに、誉がポツリと答える。
「警察官だ」
「やっぱりな」と悠平は頷き、全員の顔を見た。
「手配書の有効期限が切れるまでの、半年間。誉を自宅謹慎とする。休日の外出は禁止だ」
え〜っ!?と、あちこちであがる悲鳴を制し、尚も続ける。
「誉を遊びに連れ出せねぇのは寂しいが、こいつが捕まるよかぁ、マシだろう。あぁ、仕事の時はつれていくぞ、勿論。ここがカラッポになるってんじゃ、却って危ねェからな」
今度は「良かったぁ」といった歓声があがる。
「誉ちゃんのいない仕事なんて、考えただけでも憂鬱だよー」
マスコットというだけじゃない。
盗賊家業においても、誉の身体能力は中心的存在だった。
「休日の外出も何も、誉ちゃん、遊びに行かないもんね」
仲間に顔を覗き込まれ、誉は照れて俯くも。
「そうそう、休日は俺と部屋にいればいいんだよ。な?」
龍輔に促された彼は、コクンと素直に頷いた。
「あぁ」
不満顔なのは風花で「……ぶーっ。半年も誉ちゃんを連れ出せないの?」などと、一人でブツブツぼやいていたのだが。
「じゃあ、俺と一緒に……ほぐぁッ!」
間髪入れず図々しいお誘いをかけてきた龍輔には、すかさず金的をお見舞いしてやったのだった……