黒い夜

◆8◆ 朝日の輝く刹那に

 レイザース領土内――レイザース首都。

 怪獣奇襲の伝達が届くや否や、レイザース首都は街全体が緊張に包まれる。一般人は手に取る荷物もままならず着の身着のままで避難を命じられ、付近の神殿や遺跡へ逃げ込んだ。城前を、ぐるりと囲むのは武装した白騎士達。城壁の上からは備えつけられた巨大な大砲が三つほど、まだ見えぬ怪獣へ砲口を向けている。

 グラビトンガン。レイザース軍最強の兵器であり、ひとたび発射されれば前方の障害物を全て吹き飛ばす威力を秘めている。普通の軍隊戦なら敵無しだが、しかし怪獣相手では。どこまで通用するのか。誰もが口にはしなかったが、騎士達の表情にはハッキリと一つの感情が表れていた。この防衛線も、もしかしたら破られてしまうのでは――という不安が。

「隊長、全員配置につきました」
「ご苦労」

 伝達の者を下がらせ、白騎士隊長グレイグ=グレイゾンは遠方に目を凝らす。作戦では黒騎士団が途中で奇襲をかける、という手はずになっていた。だが自分が敵なら、道中での奇襲など簡単に予測できる。多少手数を分散させてでも、黒騎士団の方へも攻撃を仕掛けるだろう。

「――レーダーに反応!一つ、二つ……まだまだ近づいてきます!」
「全部で幾つだ!」
「全部で……大型は六つ!人間サイズを併せれば、計七つですッ!!」

 傍らでレーダーを操作していた騎士がグレイを仰ぎ見て、叫ぶ。モニターに映し出されているのは、城壁前から数千キロは離れた場所だ。首都へ向かう道の途中に赤い点が七つ、こちらへ向かって歩を進めてくる。

 怪獣ソルバット。テフェルゼンからの通信で判っているのは、名前と大まかな弱点だけだ。怪獣は火に弱い。彼の話だと、同行している少女が『精霊の加護』なる魔法を使って倒したそうだが、そのような魔法を使える者は白騎士団の中には居ない。

――勝てるだろうか。
――否。勝つのだ。

 絶対に勝たねばならない。後ろに控える王の為に。そして避難した国民達の為にも。深く息を吸い、静かに吐き出す。グレイは通信機を通して、全軍へ命じた。

「射程内に入り次第グラガンを発射。騎士達は奴らが近づく寸前で待機しろ」

 これから始まるのは死闘。レイザース軍の歴史が始まって以来の苦戦を強いられる事だろう。多くの死者を覚悟せねばなるまい。


 多くの死者を出した黒騎士団も、ようやく体勢を立て直し、奇襲へ向かおうとしていた。怪獣軍団はもう、首都へ向かう峠も橋も越えてしまっているだろう。これというのも、マリエッタを倒すのに時間をかけすぎたせいだ。

「……後で立派な墓を立ててやるから。今はこれで我慢してくれよ」

 仲間達の死体は簡単に埋葬され、生き残った者達は黙々と準備を急ぐ。アレンやセレナも準備に追われる中、隊長とジェーンは瓦礫の前で何事か話し合っていた。キリーが生き埋めとなり、完全に埋まる前、シェリルも飛び込んでいった場所だ。

「アドバイザーを頼むって言ったのに、なんでキリーなんかの後を追って……あのガキ、今がどういう時か判らなかったわけでもないだろうに」
「見殺しにする事は出来なかっただろう。彼女はキリーに好意を持っていた」
「だからって!」
「シェリルが消えるのは痛いが、そう悲観するばかりでもない」

 そう言って、隊長は山のように空高くそびえる影三つを一瞥する。マリエッタが連れてきた三匹の怪獣達は、今は戦意も失い、ただただ黙って突っ立っているだけだ。マリエッタがやられたからではない。彼らは、マリエッタが死ぬよりも前から、戦意を失っていた。恐らく原因は――シェリルが瓦礫の中へ飛び込んだから、だ。

 シェリルは怪獣達の出身を知っていた。亜人の島、そうハッキリと言った。そして、彼女の死が引き起こした怪獣達の異変。ここからはテフェルゼンの憶測になるが、シェリルは怪獣達と面識があったのではないだろうか。いや、もっと言うなれば、彼女も亜人の島の住民なのではないだろうか。だから、怪獣達は悲しんだ。彼女の死を。

「こいつらを味方に加えると?しかし味方につきますかねぇ」
「シェリルは彼らに話しかけていた。言葉が通じない相手ではないということだ」

 立ちつくす怪獣達の前へ、テフェルゼンは一歩踏み出す。誰かが悲鳴をあげるのにも構わず、怪獣達へ話しかけた。

「君達の仲間が、私の国を滅ぼそうとしている。悪い奴らに操られて。君達は、それを許せるだろうか?君達をも操っていた奴らが好き勝手に暴れるのを。君達の友達であったシェリルも、彼らのせいで死んだ。……もし、全てを許せないというのならば、力を貸してくれないか。彼らを倒すための、手伝いをして欲しい」

 隊長の淡々とした声が、暗い夜に吸い込まれていく。返事は期待できないか、と誰もが諦める中、低い唸り声が再び静まりかけた闇に響いた。

「やる。シェリル、仇取る。島の仲間、目を覚まさせる」
「しゃべった!?」
「話せたのかよ!」
「詛い、解き放つ。俺達の力、役立てるといい」
「……ありがとう。協力を感謝する」

 背の高さがあうなら握手したい気分で、テフェルゼンが頭を下げる。すると怪獣は口元を歪に曲げて目を細めた。人間で言うならニヤリ、と微笑んだようなものだろう。力強い協力者を得たことで、黒騎士団の士気もあがる。

「全員進軍!目指すは首都、城壁前だ!前後から奴らを挟み撃ちにするッ」

 それまで、俺達が到着するまで負けてくれるなよ。グレイゾン――!今頃は六体全ての攻撃を受けているであろう白騎士団の苦戦が脳裏をよぎり、テフェルゼンは険しい表情を浮かべる。準備は万全。鬨の声をあげる部下達を急かしながら、黒騎士団は一路王城へと急いだ。




・・・・・ここは、どこだろう・・・・・・?


 あぁ、そうか。マリエッタが放った光弾で壁が崩れて、俺は……生き埋めになってしまったんだったな。ご丁寧に、足から下は瓦礫に埋もれてやがる。ただでさえ空気が、あとどれだけ持つか判らないってのに。頭部に手が触れると、ぬめりとした生暖かい感触がする。見なくても判る、出血してるのだ。赤いものを目にするのも嫌で、キリーは近くの瓦礫に手を擦りつける。瓦礫が赤黒く汚れた。

「ねぇ」

 ここに閉じこめられてから、どれくらい経ったのだろうか。怪獣は全て倒せたんだろうか?あのレイザース一の騎士と謳われた、アレックス=グド=テフェルゼンがいるのだ。負けてしまう、などということはあるまい。しかし耳を澄ませてみても何も聞こえないとは、どれだけ自分は深く埋まってしまったというのか。

「ねぇってば」

 まぁ、隊長を心配する必要はない。心配なのは隊長以外の騎士――

「キリーッ!!」
「ぅわっ!?」

 本来なら聞こえるはずもない甲高い子供の声が背後からして、キリーは慌てて首を後ろへねじ曲げる。そこにシェリルの姿を見て、瓦礫に埋まる直前の記憶が蘇ってくる。

「そうか、確か俺を助けに飛び込んで」
「うんっ。でも無事でよかった!」
「アホか、これのどこが無事なんだよ」

 溜息をつき、己の下半身を指さす。キリーの腰から下は瓦礫の下敷きになっていた。彼の体をつたい前方に回り込んだシェリルは、じっと瓦礫を見ていたが、下に手を差し込む。なんと、素手で持ち上げるつもりらしい。たちまち彼女の顔は真っ赤に染まる。

「おいおい。無理だろ、普通に考えて。お前如きに持ち上げられるはずが」

 言いかけて、キリーは唖然となる。動きそうもなかった瓦礫が少しずつ上へと持ち上がり、彼女の掛け声と共にズンッと真横に投げ出されたのだから。とても十代の子供が持ちえる腕力じゃない。いや、こんな真似は働き盛りの成人男性でも出来るかどうか。

「お前……」
「足は、折れてないみたい。よかった、キリーが無事で」
「お前、ホントにスゴイな。なんていうか、もう、言葉もねぇや」

 呆れたような驚きつくしたようなキリーの溜息に、シェリルはヘヘッと笑って見せた。だが次いで「他の瓦礫も動かしてくれると嬉しいんだが」という彼の頼みには、笑顔を曇らせる。

「何だ?できるなら、とっくにやってるってか」
「うん。あのね……元の姿に戻れれば、一発で出来るんだけど」
「また詛いの話かよ。お前、元の姿は何なんだ?」
「何、って?」
「その力といい怪獣と互角に立ち回る剣の腕といい、人間業じゃねぇ。それに、お前がたびたび口にしていた亜人の島……どこの国の奴でも、あの島の生態は詳しく知らない。たとえ流れの傭兵ですら、島の中へ入ることは竜達が許さないって言うぜ。お前、本当は」

 ―――亜人じゃないのか?キリーの問いに、しかしシェリルは曖昧に笑ってみせると、彼の側へ寄り添った。小さな声で、逆に問いかける。

「ね。キリー、助かりたい?」
「そりゃあ、まぁ」
「じゃあ、協力してくれる?キリーが協力してくれたら、あたし、必ず此処から助け出してあげる」
「協力?……詛いを解くっていう、協力か?」
「……うん」

 考えることもあるまい。空気は永遠に持つものではなく、脱出を諦めるつもりもない。詛いが嘘でも構わない。今はシェリルを納得させれば良い。理由が何であれ、シェリルは俺とやりたいのだ。だが、ただ利用されるってんじゃ、こっちもたまったものではない。

「してやってもいいぜ。ただし、こっちも条件がある」
「なに?」
「……詛いが解けたとしても、俺の側を離れるな」
「なにそれ?キリーの側から、いなくなるなってこと?だったら大丈夫。あたし、ずっとキリーの側にいるよ。だって」
「だって?」
「だってキリーのこと、大好きだもん!」

 抱きついてきたシェリルと真っ向から視線が合う。笑顔が眩しい。

「……ハハ。そんなこと俺に言った奴、お前が初めてだ」
「そうなの?」

 首を傾げるシェリルを強く抱きしめ、唇を重ねる。背中に回した手でズボンを脱がせにかかると、シェリルが軽く身動きした。

「ごめんな。ホントはもっとゆっくりやりたいトコだが、今は急ぐんだ」
「わかってる、今がどんな時かぐらい。待って、あたし自分で脱ぐから」

 自分で言い出したこととはいえ、すぐヤるのは嫌なのか?と思ったが、そうではなかったらしい。キリーの手間を省こうと、彼女は自分で服を脱ぎ始める。その手を途中で止めると、キリーは彼女のシャツの中へ手を差し入れた。

「全部脱ぐこたぁない。下だけでいいんだ」
「ん、でも……ッ」

 小さな胸の膨らみに指を這わせると、シェリルはビクッと身を震わせる。両目は堅く瞑り、キリーの軍服を握りしめて。胸の先端は生意気にも尖っていた。単に緊張の為か、夜から来る寒さの為か。それとも、或いは――?少し意地悪に問いかけると、彼女は目を瞑ったまま答えた。

「でも、なんだ?」
「でも、それなら……キ、キリーだって、胸……触ること、ないよ?」
「お互い、その気にならなきゃ起つモンも起たねぇだろ」
「た、たつって、何が立つ……やんッ!」

 彼女のズボンに手を突っ込みパンツの中まで一気に侵入すると、シェリルは可愛い悲鳴をあげ、しっかり抱きついてくる。もぞもぞ蠢いていた指が動きを止めた、かと思うと人差し指と中指で肉びらを挟み込む。シェリルのしがみつく力が強まった。

「やだッ……やだっ、キリー、やるなら早くして!」
「まぁ、待てよ。今突っ込んだら痛い目見るのは、お前の方だぞ?」

 何をされているのか、これから何をされるのか判らない恐怖が彼女を怯えさせている。その気持ちは判らなくもないが、彼女の体はまだ受け入れられる体勢になっていない。そして、キリーの体も突っ込める状態ではない。やはり子供の体じゃ、全然気分が高揚しない。元々幼女趣味などないのだから、仕方ない。

「くすぐったいかもしれんが、ちょっと我慢しろよ」
「な……なに?えっ……ちょ、ちょっと駄目だよ、キリー!そんなとこ、顔近づけちゃ汚い……ッ」

 キリーだって、普段ならガキの股間に顔を突っ込もうとは考えもしないだろう。だが、今は四の五の言っている場合ではない。詛いが嘘でも本当でもいいから、シェリルの怪力を引き出させ、ここから脱出しなくてはいけないのだ。

 毛もろくに生えていない、少女の恥部へ舌を這わせる。最初は外側だけを舐めていたが、徐々に肉の奥へと舌の先を差し込んでゆく。と同時に、己の肉棒をズボンから引っ張り出し、片手で上下に扱き始めた。シェリルに勃起の手伝いを求めるのは、さすがに酷だろう。年端もいかぬ子供に咥えさせるのは、嗜虐趣味のある奴だけで充分だ。

「き、キリー、何してる……の?手……で、それ」
「……ん?あぁ、気にすんな。お前は俺の事だけを考えてろ」
「キリーのこと、だけ?なら、大丈夫。あたし、いつも考えてるよ」

 可愛いことを言ってくれる。これでシェリルが妙齢の女性だったら、その言葉だけでも充電完了となるのだが―― 瓦礫に埋まっているという異常な環境の中、会話は途切れて荒い息だけが残る。己のモノを起たせようと、キリーは瞼を閉じた。


 妄想するんだ。ここにいるのは、ちっちゃな少女のシェリルじゃない。詛いが解けて、同世代の美少女となったシェリルだ。美少女に戻っても彼女は俺が好きで、放漫な胸を俺の体にすり寄せて……


 この程度で興奮してしまう自分の体に呆れるやら感心するやら。すっかりいきり起った自分のイチモツを片手に、キリーはシェリルの感触を指で確かめた。丹念に舐めたせいもあるが、すっかりフニャフニャのヤワヤワになっている。ふと顔を上げると、彼女と目があった。今にも泣きそうな顔のシェリルを見た途端、何か言わなきゃ悪いような気がして、キリーは彼女に声をかけた。

「まぁ、まだ痛いかもしれんが勘弁してくれ。これ以上は無理だ」
「……うん。早く、してね。痛いの、あんまり好きじゃないから」
「あぁ。安心しろ、痛いのは入った直前と、その後ぐらいだ」

 つまり抜くまではずっと痛いわけであり、あまり慰めにもなっていない。よく判らないことを呟きながら、キリーはシェリルの恥部へ己のモノを押し当てると一気に腰を突き入れる。先端が入った瞬間、シェリルの体が大きく跳ね上がり、同時に目映い光がキリーの目を焼いて、何も見えなくなった。

 目だけじゃない。彼女と繋がった部分から、何か熱いものがキリーの体へ流れ込んでくる!体を焼かれるような苦しさと、周囲の眩しさでキリーは気を失う直前、シェリルが何かを叫んだような気がした。

 レイザース領土内――陸軍本部・看護室。

「……お、気づいたか。キリー、これが何本か判るか?」
「………二本」
「よし、どうやら記憶の混乱もないようだな」

 目覚めた場所には見覚えがあった。レイザース首都にある陸軍本部。怪我人が運び込まれる看護室のベッドに、キリーは寝かせられていた。ベッドの側にいたのはアレンでも隊長でもなく、白騎士団の騎士だった。

「君は黒騎士団宿舎の近くで倒れていたんだよ。瓦礫と一緒に吹き飛んだような形でね。でも不思議な事に怪我は」
「そんなことよりッ!」

 暢気に林檎を剥く相手に、キリーは鼻息荒く詰め寄った。

「怪獣軍団は、どうなったんだ!? 黒騎士団は、隊長は!」
「僕がここで暢気に君の看病をしている。大体察しがつかないか?そう、怪獣軍団は倒したよ」

 あっさり言われ、キリーはベッドの上に腰を下ろした。どこか呆けた調子で白騎士へ尋ねる。戦闘に参加し損ねた寂しさと、レイザースが助かったという安堵で、ごちゃまぜな気分だった。

「白騎士団が?それとも、テフェルゼンが……?」
「いや」

 林檎を剥く手を止め、白騎士は真っ向からキリーを見つめる。

「君は信じないかもしれないけど、怪獣を倒したのは騎士団の誰でもない。突如飛来した巨大なドラゴンが、炎のブレスで瞬く間に倒していったのさ」

 巨大なドラゴン。炎のブレス。何故、亜人の島にしか住まないドラゴンがレイザースを助ける?シェリルは怪獣の名前を知っていた。亜人の島も知っていた。誰も知らないはずの、亜人の島に住むモンスターを知っていた。その亜人の島を守っているものは、なんだ?そう、ドラゴン――何者にも負けぬ、強大な力と雄々しき誇りを持つ生き物。と、伝承には記されている。ドラゴンなら瓦礫を一発で粉砕するのも、怪獣達を倒すのも簡単だろう……

「ここに……」
「うん?」
「ここに、小さな子供が来なかったか?灰色の髪で、見た目八、九歳ぐらいの小さな女の子だ。名前はシェリル」
「……いや、僕は見ていないな。その子がどうかしたのか?」

 キリーの問いに、白騎士は怪訝な顔を見せただけだった。

「おい、まだ立ち上がっちゃ駄目だよ。君は絶対安静なんだから!」
「怪我一つなかったんだろ、俺は!ベッドは他の怪我人に使わせてやれよッ」
「一つもなかったとは言っていない!君は頭に怪我を負ってるんだ!!」
「放せ!」
「そうはいかない、僕は君の看護を黒騎士団の隊長に任されてるんだ!」

 ドッタンバッタン暴れたあげく、結局元気な腕力には勝てずキリーはベッドにねじ込まれた。さらには縄でぐるぐる巻きに固定され、絶対安静一ヶ月を余儀なくされる。看護室監禁が一ヶ月を過ぎ、ようやくキリーが開放された頃には、各騎士団もだいぶ復興してきたという吉報を聞かされた。

 ジェーンは武者修行へ旅立ち、セレナとアレンは放浪の旅に出た。放浪の原因は首都へ攻めてきた怪獣軍団と関わりがあるようであったが、テフェルゼン隊長は何も教えてくれなかった。

 この騒ぎの首謀者、カウパーはドラゴンの一撃で即死。謎の黒騎士もグレイゾンとテフェルゼン、二者との戦いで負傷し、逃亡。今なおもって消息不明のようだ。そしてレイザースの窮地を救ってくれたドラゴンは戦いが終わった後、上空を一度だけ旋回してから朝焼けの中を飛び去っていったらしい。


――ずっと側にいろって言ったのに。約束を破りやがって。


「隊長。少し暇を貰いたいんだが、いいかな」
「駄目と言っても勝手に休むだろう、お前は。……何をするつもりだ?」
「旅に出る。……亜人の島へ」

 テフェルゼンは返事をしなかった。だが、目が言っている。好きなだけ試して、納得したら帰ってこいと。キリーは黙って頷くと、黒騎士宿舎を後にした。


End.
Topへ